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異世界奇行 ~ダーメニンゲンの詩~  作者: DIVER_RYU
第一集『暗黒組織ブラックバアル』
17/61

第八篇『魔女集会で遭いましょう』上

この物語には『魔女集会で会いましょう』的要素が含まれています。御容赦下さいませ

 その日の朝は、すでに日常ではなかった。ペンタブルクにある魔女ラァワの館にて、その準備は始まっていた。


「その瓶は何なんですか?」


 コモドが持っている小さな瓶を見て、ケンは尋ねた。


月夜酒つくよざけだ。ガワの実とザントの果汁を使って造った、儀式用の酒さ。魔女集会の夜には皆にタダで振舞われるが、ケンちゃんアンタは呑んじゃダメだぞ」

「ですよね、お酒は二十からですもんね」

「ん? 酒は二五からだぞ?」

「え……?」

「あら、この国ではそうなのよ。そっちでは二十歳からなのね」


 驚いたケンの表情を見て、後ろで正装や化粧品を用意していたラァワが付け足した。


「そ、そうだったのですか。でもお祭りの晩に出るモノが、何で今ここに?」

「それは儀式のためよ。舞手の準備はその日の朝から始まるの」

「舞手は体を清めなきゃいかんのさ。水浴びを済ませ、この酒を呑むことで体の内部も清められる。というワケで、ちょっと行って来るぜ。ケンちゃんもちょっと着いてきてくれんか、いつものような蒸し風呂ではダメでな」


 そう言ってコモドは、ケンを連れて森の街道に出た。この道はただ一カ所、分岐する場所がある。その先に進むと、森の開けた箇所に澄んだ水面が広がり、木々の青をよく映していた。


「この先にある、インディゴの滝で身を清めるのが習わしとなっているんだ。スミナ河の源流の一つでね、神聖な場所だとされているんだよ」

「滝で水浴びするんですか……何か物語の中の世界みたい」

「そうかもしれんな。ところでケンちゃんには貴重品の見張りをお願いしたい、特にその瓶と財布とゴーレムサモナーな」

 

 そう言って服を脱ぎ始めるコモド。その背中はあまりにも傷だらけであった。


「すっごい傷……」

「そうかい。まぁ特にでっけぇヤツはアレだ、小っせぇ時に邪竜に、な」


 体にいくつもある傷の一つをポリポリ掻きながら、コモドが答える。


「ラァワさんから聞きました。こんなにズタズタにされて、今生きてるなんて最早奇跡では……」

「そうだ、奇跡だ。母さんと、ウラルさん達がいなけりゃ死んでたろうよ。特に右目のコイツがね、もうね」


 眼帯も外すと、顔に付いたキズがくっきりとケンにも見えた。その最後に見た光景、新月の暗闇から迫る恐怖を刻み込まれたまま、閉ざされた右目はもう二度と開くことはないのだ。それを想像させただけでも、日本の平和な海岸端から来たこの少年に恐怖を抱かせるには十分であった。


「まぁでもアレだ、ある意味では君が今生きているのも奇跡だ。俺が思うに、そもそも命ってのは奇跡の積み重ねで出来てるもんだと思うのよ。大体だ、普段が平穏無事であるなんて、それこそ奇跡じゃねぇかな」


 このコモドの一言は、ケンにも重く響いた。生きている、それが既に奇跡なのだ。特にこのオークやンザムビといった存在が跋扈する世界において、右も左も分からぬケンのような少年が生きているなど。そう話す間にも、コモドは腰に巻き付けたふんどしだけになっていた。サイドテールを解いた銀髪が、既に水面に届いている。


「頼むぜ」

「はい」


 一通りの荷物をマントに包み、ケンに託すとコモドは滝に向かって歩く。その足には古代ギリシャのカリガを思わせる、サンダル状の靴を履いている。しかしふと、コモドは歩みを止めた。真っ直ぐ見つめるその先に、白い何かが跳ねている。コモドが戻って来て、ケンに見えるように指で示しながら言った。


「見ろ、アイツは滅多に見られるモンじゃねぇぜ!」

「何なんですか、あの生き物は?」

泉竜せんりゅうだ。水源に近いようなキレイな川にしかいない希少種でな」


 泉竜と呼ばれたそれが滝を伝い、スルスルと降りてくる。白い鱗に覆われ、輝くような水色のタテガミを生やした大蛇を思わせる姿をしている。金色の眼とこれまた金色の角がいかにも、幻想生物のような趣を醸し出していた。


「ハァ……やっぱいつ見てもキレイだな……」

「すごい……いきなりこんなのが見られるなんて、今日は良いことが起きますよ、きっと!」


 泉竜はコモドとケンを意に介することもなく、そのまま下流へと降りて行った。


「よし、今夜の舞はきっと上手くいくぜ。改めて、浴びてくる。荷物の番と火起こし、よろしくな!」

「はいッ!」


 コモドはケンに爆燃符を渡すと、そのまま滝に向かって歩いて行った。ケンは早速コモド自身のマントに脱いだモノや小物などを包もうとしたその時、服の襟から何かがこぼれ落ちた。すぐに拾い上げたそれは、平たくした金属製のフォークを更に二つに折り畳んだような見た目をしている。しかし一般的なフォークと比べて明らかに大きく、その上歯が長く数も大変に多い。


「何だコレ……?」




「ハァァァ……んん……んはァ……良い……実に良い……」


 所変わって、魔女狩りの森にある隠れ家の内部にて。白い手袋に覆われた右手が腰に回り、素手となった左手がドレスの下をまさぐり、愛撫する。しかしこのドレスの主は嬌声を発することはない。手足すらも動くことはなく、ただ時折痙攣するのみであった。それでもこの女を抱く男――ゼーブルの手と胸元にうずめる顔は止まることはない。


「エスカ……嗚呼愛しいエスカ……」


 生きながら人形とされた女の名を囁くような声で連呼しながら、柔肌に指を這わせ続けている。彼女の顔に表情はなく、その目を開いたまま虚ろの瞳はただ宙を見つめ、眉毛も含めて動かすことはない。否、全く以て動かすことは叶わなかった。その閉ざされた唇を自らの舌でこじ開け、ゼーブルは熱い接吻を味わい始める。やがて、エスカの目から光る何かが零れ落ちた。それに気付いたゼーブルの金色の目がギラリと光ると、素早く顔を近付けて舌を伸ばす。舐め取った一滴の涙を口の中に広げながら、舌なめずりと共にゼーブルは言った。


「涙すらも美しく、そして甘美な味がする。やはりお前は最高の花嫁だ、同じ墓に入っても構わない、嗚呼もっと抱き合っていたい……ところなのだが……」


 着ている服を少し直しつつ、エスカの体を抱き上げ、タオルであちこちを拭くと硝子で出来た蓋を閉ざした。まるでショーケースの中に飾られた宝石を思わせる光景が、生きた人間であることを忘れさせる。


「入って来いガブルド」

「かしこまりましたゼーブル様」


 先程まで女で遊んでいたとは思えぬ表情で、ゼーブルは扉を開けた。そこには膝を突いて待機しているガブルドと、同じポーズでズラリと並ぶゴブリン達の姿があった。その奥に更にもう一人、いや一体。黒い機体の大柄なオートメイトが膝を突いていた。頭部に透明なカバーが付いており、緑色の眼が奥で光っている。


「ほう、そいつまで用意が出来たか」

「はい、ゼーブル様。いかがなされますか?」

「ふむ、吾輩の近くに侍らせるとしよう。他のゴブリンは、早速だが準備にかからせよ」

「ハッ!」

「では、吾輩も『仕込み』に入るとする。ガブルド、例のモノを」


 ガブルドが合図をすると、大柄のオートメイト――イリーヴが大きな布袋を持って現れた。ゼーブルは部屋に彼を誘導すると外で待たせ、袋の中を改めた。中に入っているのは実に細かい、鉄クズであった。中身を確認すると、今度は白い壺ともう一つ陶器で出来た鉢を用意し始める。金属で出来た三本脚の台座にその鉢を置き、袋から鉄クズを取り出し敷き詰める。そして鉢の下に火を起こし、その間に薬研を取り出し毒手作りの準備を進めるのであった。


 一通り毒の材料の調合を終えると白い壺に流し入れ、アフリマニウムの砂を混ぜ合わせる。そして鉢の様子を確認した。敷き詰められた細かい鉄は夕日を思わせる赤い色に染まっている。手袋を外した左手をその上にかざすと、笑みを浮かべて静かにうなずいた。


「良い熱だ。ようし……」


 左手を手袋に収めると、同時に右手の手袋を抜き出した。限りなく黒に近い赤紫に染まった、死人を思わせる細く鋭い手で貫手の姿勢を作り、灼熱の鉄砂を見据えるゼーブル。


「フンッ!!」


 右手が差し込まれた。ジュウという音が響き、手を焼きつける。ゼーブルの額から脂汗が垂れ始めた。


「これはこれは……確かな効き目がありそうだ」


 手に感じる確かな熱を確かめるや否や、続けて二度、三度とゼーブルはその赤く焼け付く熱砂の中に右手を打ち込んだ。十数回と打ち込むと、今度は白い壺の前に立ち毒砂を打ち始めた。痛覚の消えたゼーブルの右手ではあるが、温覚ならば確かに残っており、常人であれば悲鳴を上げるであろう赤く熱した鉄から彼はむしろ心地良い暖かさすらも感じていた。よく焼けた皮膚から染み入る毒素が今、ゼーブルの毒手を進化させようとしている。一通りの突き入れを終え、よく冷やした洗薬により手を静めるとゼーブルはその右手を見つめていた。赤みが増し、指の先端が鋭く尖った毒手からは煙が少し上がっている。


「楽しみにするが良い、人食いウラル。そして、死神コモドよ」




 水浴びを終えたコモドが戻って来る。火を起こして待っていたケンは、コモドにタオルを渡しながら尋ねた。彼の荷物から出て来た、フォークのような物体のことを。


「嗚呼、コイツか。櫛だよ櫛、こうやって使うの」


 ケンか大きなフォーク、ならぬ櫛を受け取ると、折り畳まれた柄を開いて髪を解かして見せた。


「この髪型やるなら要るよ、こういうの。興味あるならいつでも貸すぜ」

「いや、良いです」

「まぁそれはともかく。コイツはいざという時には武器にもなるんだぜ。こんな風にな」


 コモドは乾いた葉を一枚拾い上げると、素早く右手を前方に突き出した。歯を外に向け、拳の指の間に柄を挟んだ櫛には深々と先程の葉が刺さっている。


「鋼鉄製でな、元々は俺の実の御袋が使っていたモノでね」

「え、ちょっと、お母さんの形見で何やってんすかコモドさん」

「ん? 御袋の私物兼護身用の暗器でしかねぇぞ? だったら形見として有効活用しねぇとな?」

「いやコモドさん、櫛は武器じゃありませんって……」


 木の葉に刺さった櫛を抜くと、くっきりと開いた穴がズラリと並んでいるのが確認出来る。これで刺されたらさぞ痛かろうな、とケンは感じていた。しかしそんな彼を気にすることはなく、コモドはしれっと焚き火にあたりながら長い髪を乾かしていた。先程突貫力を見せつけた鋼鉄の櫛で、その髪を整えながら。


「もう、何処からツッコめば良いのこの人……てかこの世界……」

「乾かすのも櫛かけるのも大変だけどね、やめらんねぇんだよこの髪型。ところで、いつまでそこで覗き見してんだい?」

「え、誰かいるんです!?」


 コモドが声をかけた場所から、一つの人影が現れた。黒いローブ状の衣装、しかし背中から脇にかけてをバックリと露出している。その間から見える皮膜に、ケンは見覚えがあった。


「ラビア、さん?」

「フフッ、よく覚えてたわね。コモド、せっかくだからアイサツに来たわよ」

「だからって水浴びを覗くヤツがいるか。しかしラビアが儀式に顔出すなんて珍しいじゃねぇか、それもガッツリとおめかししちゃってよう。俺が舞手だから、かい?」


 そう聞いて、ラビアは少し照れたような表情を浮かべていた。


「あんたの手はあたしのお気に入りって言ったでしょ? そんな手の持ち主が踊るって聞いたらそりゃ見てみたいわよ」

「え、手?」

「嗚呼、ケンちゃんは気にしなくて良いぞ」

「舞ってのは手が大事なのよ。指先が、手首の動きが表現の要になるの。ケンちゃんって言ったわよね、性の魅力ってのは手に出るのよ、手!」

「いやそんなに熱弁されましても……」


 するとラビアは、たじたじになっているケンの手首を急に掴み、凝視し始めた。


「何するんですかラビアさん!?」

「んー……中々柔らかいお手々……」

「おいラビア、そろそろ好い加減にしたらどうだ、引いてるぞケンちゃんが」

「あらごめんなさい、ついクセで」


 ラビアの奇行にケンは怯え、コモドは呆れている。


「ケンちゃん、この人は『手』が好きでな。あちこち旅をして戦っている理由こそ『良い手』に巡り合うためなんだよ」

「そう、そして戦ってみてこそ手の真価は分かるのよ。その魅力の前じゃ、性別なんて些細なモノなの。ところでケンちゃんの手なんだけどねぇ……」


 まるで獲物を見定めるような目付きが、ケンの手を直撃する。思わずサッと後ろに隠したケンに対し、目を合わせて舌なめずりをするや否やラビアはこう続けた。


「フフフッ、思った通り。良い素質を持ってるわね、このまま健やかに育て続ければきっとあたしの目にも叶う、イイ男の手になるわよ。あぁー、楽しみになってきたわぁ……脇腹辺りの、こういう隙間から、スルリと入れてもらったりしたらもう」

「ラビア、欲望がダダ漏れだぞ。そういうのは家の中にしなさい」

「コモドさんこのひとこわい」

「大丈夫、そのうち慣れる」


 ケンから見て、コモドのラビアに対する態度は驚く程淡々としており、かつ冷静過ぎた。この後見せた、ラビアのまさかの行動に対してもなおである。


「ちょっと我慢出来なくなってきた。コモド、指出して、指!」

「はいよ」


 コモドが左手を差し出した、その直後であった。


「じゅるるるるるるッ!! れろォ……」

「へ、変態だァァァアアアア!?」


 一心不乱に、ラビアは何とコモドの指を口に含むと、まるでアイスキャンディーでも味わうかのように舐めしゃぶり始めたのである。


「ケンちゃん、この人はこれで落ち着くから。だからあまり怖がらなくて良いよ」

「いや怖い! コワイ!! 失礼かもしれないけど怖すぎるッ!!」


 ケンの声は果たして彼女に聞こえてるのだろうか。まるで気にする様子もなく、コモドの指に舌を絡めて頬張り続ける姿は最早激しく性的とも言える程であった。


「ありがと、コモド。じゃ、楽しみにしてるわね」


 悠々とその場を後にするラビアを見送るケンとコモド。ケンはコモドに思い切って尋ねてみた。


「体、持つんですか……?」

「心配すんな、せいぜい手がふやけるだけよ。しかし罪作りな手だぜ、そうは思わねぇかい?」


 手を流水で洗うコモドに、ケンは更に質問することにした。


「お二人の関係って恋人なんですよね?」

「ブファッ!? 何を言ってるのかねケンちゃん、彼女は誰の恋人でもねぇよ。ただ旅先に何人かお気に入りがいるだけさ」

「え……え……? もう良いです……」


 自分のいた世界とは明らかに違う貞操観念を耳にして、ケンは最早閉口するしかないのであった。


「さ、帰るぞ。初めて着るここの一張羅だ、母さんがカメラ磨いて待ってるぞォ!!」


 コモドが述べた通り、扉をくぐった先にいたラァワはまさにカメラをふきんで拭きながら待機していた。ラァワの服はいつも着ているそれに加えてフェイスベールを思わせる布を口元に垂らしており、腕や額には金のアクセサリを飾っている。壁にかかった礼服は、窓から差し込む陽の光に照らされ、今か今かと着用される時を待っているようにも見える。黒をベースとしたこの衣装は所々に金や青のラインが入っており、喪服に似つつも何処か陽性の趣きを放つモノであった。


 流れるような連携でコモドとラァワはケンの着ているモノをひん剥くと、まるで魔法のような手際の良さで祭りの伝統衣装を着付けした。そして鏡の前にケンを連れて行く。その目に映ったのは、異文化をまとった自分にして、自分には見えぬ一人の少年であった。


「すごい……まるでコスプレみたいだぁ……」

「コスプレって何だい?」

「コスチューム・プレイのことらしいわ、意味は分からないけど。それよりコモド、あとは貴方だけよ」

「その心配なら要らんぜ、もう着替えたから」

「早いなコモドさん!?」


 ほんの少し目を離した間に、半裸だったコモドは既に衣装に包まれていた。黒いローブに赤い帯を巻き、袖や襟には金や赤の模様が入っている。頭にはターバンを巻かず、しかし眼帯とピアスは相変わらずであった。


「じゃあ、撮るわよ。」


 ラァワはカメラを机に置くと、そこにコモドがカードを差し込んだ。


「良い笑顔をちょうだい。じゃ、三、二、一!」


 三人ともカメラの前に立つと、ラァワが軽く弾指を鳴らす。するとどうだろう、カメラは光を放ち、先程差し込まれたカードに三人の姿が焼き付けられて出て来たのであった。


「見た目は一眼なのに実質はチ〇キなんですかこれ……」

「それが何なのかは知らないけど、結構良いでしょう」

「魔動機の発動に使うカードを、無駄にしない良い発明なんだぜ。ところで写真見せてくれよ」


 写真となったカード、その中の三人が徐々に色付いてゆく。黒い衣装に鮮やかに彩られた赤や金、そして青が誇らしげに映っている。早速この一枚を額に入れ、ラァワは机に飾った。三人が笑う、記念の一枚を。


 ペンタブルクの通りは、既に賑わいを見せていた。旅芸人達はあちこちで音楽を奏で、中には以前にコモドの自転車をどかした、剣を呑み込んで見せる奇術を披露する者もいる。いつもよりも倍の人数が訪れたこの町に今、コモドとケンそしてラァワの三人が足を踏み入れる。すると一斉に歓声が上がるのであった。


「ラァワ様! おめでとうございます!!」

「コモドさん、楽しみにしてますよ!!」

「今夜の主役が来たぞー!!」


 一斉に集まってもなお、三人の前の道は開けたまま。その異様さにケンは驚き、尋ねた。


「何これマスコミみたいなごちゃごちゃ……それにしても何か、皆集まり方がおかしくないですか……?」

「うん? 何がだい?」

「何で、こうぐりっと周りを取り囲もうとはしないんですか?」

「それはね、ケンちゃん。踊り手の進む前を塞いではいけないという、決まりがあるからよ」

「仮にもし塞いでしまっていたらすぐに開けないとひんしゅく買うぞ。踊り手が過激なヤツだと、この杖でしばき上げることすらあるらしいぜ」

「えぇ……」

「その程度のお仕置きじゃあ生温いわよね、そんな不届き者」

「ラァワさん!?」

「それより何よりケンちゃん、あんまキョロキョロすんな。もっと堂々と歩くんだ。君は今日が魔女集会のデビュー、そして母さんの二人目の愛弟子なんだからな」


 ローブやスカートに風を孕ませ、時折群衆に手を振りながらコモドとラァワは湖へと向かう。その後ろを、ケンは少しだけ遅れながら何とか付いていく。そんな三人にふと、声はかけられた。


「ラァワ様、そしてコモドちゃんにケンちゃん。こちらですわよ」 

「その声は、カタック先生!!」


 コモドに舞を教えたカタック、彼もまた祭りの衣装に身を包んでいた。黒をベースに明るい黄色と緑が絡み合う個性的なモノでありつつも気品を漂わせている。その一方でハデな化粧は相変わらずであった。


「お待ちしておりましたわ。会場まで直行する舟が用意出来ておりましてよ、さぁ御乗りになって」


 カタック自ら舵をとり、舟はセピア湖に向かう。川岸から手を振る人々に笑顔で応えるコモドとラァワ、ケンは後頭部をポリポリと掻くばかりであった。


「コモドちゃん、踊りはきちんと頭に入ってるわね」

「はい、御心配なく」

「まぁ昨日見た感じじゃいつでも大丈夫だと思いますわね。アテクシの目に狂いがなければ」

「コモドなら大丈夫よ。きっとね」


 コモドのサイドテールが風になびき、まるで彼の自信を表すかのようにその銀色が輝きを放つ。雲一つなく晴れた空が、文字通り彼の晴れ舞台を保障している。最早コモド達を祝福せぬ者はいない、そう考えても良い程の雰囲気が魔女集会の会場を覆っていた。しかし光が強い時程に、紛れる邪悪の陰が濃くなることを彼らはまだ知らずにいたのであった。


あいましょう、の字に少々注意してみて下さいね

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