白と黒の猫の想い出《改》
猫が消えた。
むかしの映像を観ながら
戻って来てくれと願う。
もう、無理かもしれない、
と、諦めかけて
だから、私は、もう祈るしかない。
皿を舐める舌のほうへ
画面は流れ 生活を映す。
テーブルクロスを敷いて
その上には 皿を並べる。
白は蹲り にゃんにゃんと啼き
黒は伸びをして にゃ〜と啼く
ご飯を待つしせいのはなしだ、
慌てふためいたり、しない。
斜め上へ吹き上がる啼き声が消え
風呂場で紋白蝶の翅が蟻に運ばれている
光苔の洞窟へいざなう海辺の町に
かすかな西日が射す、黒猫が啼く。
光は輝きを増し星となり
嘘を飲み込み 毒を飲み込み
地を這う港町の物語の真実を
照らしてくれる月、白猫が啼く。
部屋に残された空気に笑い声の欠片があり、
流れつづける川に夢のカクテルのあぶくがある。
すり抜けた青ガラスのコップが廊下に落ちたとき
落とされたガラスコップの傷が緩やかに割れて
染み渡っていくコップの水を
白と黒の猫たちは眺めつづけている。
瞬きは停止し
白と黒の猫たちの思い出が風に吹かれる。
白と黒の写真の猫は
イチゴケーキの夢を見ているだろうか?
どこへ、消えた、猫よ?
森の海に迷い込んだ私は猫を探して
黒髪振り乱して道無き道を駆ける。
愛の園に置き去りにされた私は猫を追って
波のまにまに視える人魚をほおけた顔で
むかしの猫の写真と見比べている。
ただ、それだけのはなしだ、
あてどなき。
あてなど ないしさ。
歌を詠む。
傷ついた
こころが流す血 ぬぐえても
なぐさめられない あすなき疾風
慰められない 明日なきしっぷう




