わたくしは、猫! 名前は(いまだ)、ないも同然。3
彼女が、ほとんど泣きながら
つっかえつっかえ
しゃべってくれたことによると
ちょっととんでもない体験を私はして、
それをきれいさっぱり忘れてしまっているらしい。
近所の野良猫にボス猫のような女がいて
その女は、私のことが大嫌いで、
ことあるたびにつっかかってきたんだけど、
私はどちらかというと無視を決め込んでた。
ある日、その猫太夫が、
私の女主人の悪口を言ったらしい。
私、今でも、彼女のことをそんなに
好きの自覚はないんだけど、
なぜかその時怒り狂って、
女というのを捨てなきゃいけない
啖呵を切ってしまったらしい。
やい、猫太郎、今の言葉取り消せ!
とかなんとか。
この猫太郎と言うのが、実は猫太夫の本名で
前の主人に名付けられたらしい。
猫太郎も、でかくて、いけずで、
空威張りしてはいるが、
実は線の細いところのある女であったりする。
その名前が嫌で嫌で、家を飛び出したらしい。
(ここはちょっと身につまされる?)
で、腕力というよりずる賢さで
ここいら一帯のボスになり、
子分たちには猫太夫と呼ばせているらしい。
私はほとんど接点がなかったから
別にそいつのこと嫌いでさえなかったけれど
あちらさんは自分に従わないというものを
許すわけにはいかない立場なので、
私のことを嫌っていたのは当然だっただろう。
そして大喧嘩になり大立ち回りをし、
最後の最後に、猫太郎に参ったと言わせた。
まではよかったんだが、
そのあと仲直りの乾杯とか言って
2匹で酒飲んで
騙されて酒樽の中に放り込まれてしまった。
「本家の吾輩猫」は
そんなところで死んじゃったわけだが、
吾輩はそんな訳にはいかない、
この屈辱的な名前をつけてくれた彼女に
改名を迫るまでは死ぬわけにはいかない。
で、
暴れ回って、酒樽ころがして、酒から抜け出せて
何とか助かったんだけど、
その時、高いところから落ちた衝撃で
頭を打って傷付けたのかな?
受け身を取れなかったのは、
急性アルコール中毒気味で、
体の神経が麻痺していたからだろうなぁ
一片の記憶もないので、想像ですが。
そんな中、考える。




