わたくしは、猫! 名前は(まだ)ないも同然。2
「吾輩吾輩、ご飯だよー。」
ごはんの時はしょうがないから
そん時だけは大目にみてやるわ。
なんかこのままズルズルと
この女主人の罠にハメられていくようで怖い話。
このくそ女の名前?
どうでもいいじゃないそんなこと
どうせ私の名前に比べたら
どんな名前も
女の子らしくて素敵な名前に決まってるんだ。
そんなこんなで、3年が流れた。
あのバカ女は、いまだに
バカ私のことを吾輩と呼び続ける。
私は食事の時だけ
それににゃーに、と答えてやっている。
(バカでしょ?)
今までも、自由気ままに外出していたし、
今回もちょっと長いかなと思いながらも
普通の外出のつもりだった。
だから、家に帰った時は驚いた。
部屋には1人の小さな女の子がいたから。
よく見ると、それは私の御主人様だった。
何があったのか、放心状態で、
私が帰ってきたのに気づかずに、
部屋の壁を見上げて
口をぽかんと開けて
まるで小さな女の子にしかできないような表情で
両足だけ放り出して
壁にもたれて
息だけはしている.
みたいな弱々しさだった。
もちろん、この女のこんな姿、
それこそ生まれて初めて見る。
にゃー?
がばっと飛び起きて、
そのねぐらの部屋中をキョロキョロ探す。
まるで一心不乱に、眼をぎょろぎょろさせて、
怖いほどの勢いで首をフリフリしながら
何かを懸命に探そうとしている。
血走っていたんじゃないのかなあ?
ギョロッと剥かれた大きな瞳が、
私のつぶらな瞳を捉え、ピタリと止まる。
ち、ちょっと待ってよ。こ、こえーよー。
すごい勢いで近寄ってくるから、
思わず逃げてしまう。
頭、大丈夫?
バカにしてんのか、こいつは?
あたまって?
あたしがおかしいっていいたいのか?
彼女が、ほとんど泣きながら
つっかえつっかえ
しゃべってくれたことによると
ちょっととんでもない体験を私はして、
それをきれいさっぱり忘れてしまっているらしい。




