第7話 マイホーム・イズ・ジャスティス
どうも、只今私、深夜に執筆中です。
今回の話はハウスについてです。
家買うって話なだけです。
宝石店で見事に汚れてしまってから翌日だよと、ケイだ。
機能のことは……虚しくなるから思い出さないようにしてます。
今俺は一人である場所に来ている。そろそろというか、なるべく早くツカサから独り立ちしないといけないと思っていたのだ。
だから、今日俺は、家を買います!
そう、俺が来ているのは不動産屋に来ている。
「どういった物件をお探しですか?」
「えーっと、二階建ての庭付き、出来れば地下も欲しいですね」
「ご予算は?」
「1000万コルです」
「……え?」
不動産屋の店員さんに素で返されてしまった。
その様子に胸が痛くなる。
いや、分かっている。分かっているよ。言いたいことは分かっているんだ。
実はあの宝石店でサラリーを売ることになった時、店主が「億でも出す!」と言ってきて大変だったんだ。なんとか二千万まで落としたけど、それでも店主は納得していなかった。
『価値ある物に金は惜しまぬ』
って、頻りに言ってたなあ。少し恐怖を覚えたね。
「し、失礼しました。それでは、こちらの物件などどうでしょうか」
「これは?」
「こちらは元々貴族の屋敷でしたが、今はもう使われなくなった廃墟なんです。ですが、改築すれば十分住むことができますよ」
店員さんが見せて来た本のページには、大きな部屋がいくつも並ぶ物件の図面が記されていた。
本当にこんな所があるのだと、関心しつつも廃墟という言葉で気分を落とした。
改築かぁ。やってもいいけど、費用によるかな。改築でスッカラカンだと、笑い話にもならないからね。
「改築……ちなみに、購入と改築でいくら位かかりますかね?」
「そうですねぇ。大よそ、600万から700万コルくらいでしょうかねぇ」
予算内ではある。払ってもしばらくは生活できる蓄えも……十分すぎる程ある。それに、屋敷に住むなんて人生で一度あればスゴイこと。住みたい気持ちもある。
迷う余地なし。即決即断だ。
「じゃあ、ここにします。手続きはどうすれば?」
「ありがとうございます。では、こちらの契約書にサインをしてください」
渡された紙に名前を書き契約を交わし、金は持ってきていたので余分に800万コル払った。これで良い大工を雇って早めに改築してほしい。俺一人が住む訳じゃないからな。
「ただいま……って、そうじゃないよな」
「おかえり。別にここが君の家でもいいんだよ? まぁ、宿なんだけど」
不動産屋から戻ってきた。ただいま、なんておかしいかと思ったが、ツカサがそう言うなら問題はないだろう。直ぐに出て行ってしまう身ではあるが、もうしばらくお世話になろう。
「家は決まったのかい?」
「あぁ、決まったよ。家、というより屋敷だけどな」
「屋敷? 凄いなぁ」
「まぁな。それで、改築に時間が掛かるとかで、もうしばらく厄介になる」
「そう。もう、行っちゃうんだね」
ツカサがしょんぼりとした表情でそう言った。悲しそうな、寂しそうな目だ。なんだが、このままじゃダメな気がしてきた。
そんな目で見るんじゃない。俺は、独り立ちしようと思っただけで……あぁもう、何だが俺が悪いことしているみたいじゃないか!
確かに、金稼ぎでは悪いことしたけれども!!
「そ、それでな! 屋敷って広いだろ? だから、部屋とか余ってて、というか余るんだけど。あの、その、何というかまぁ……宿に泊まる金がもったいないし、俺の家に住まないか」
「へ?」
「あぁ、いやいや、変な意味じゃないぞ!? ただ、この町にいる間だけは俺の家に居候すれば、浮いた金で遊べるだろ? うん、とっても合理的だ。素晴らしい」
何だ、この空気。俺もしかして変なこと言った? あれ、でもおかしいな。結構良い案だと思ったけど……。
あ、でも自宅に女性を誘っているような気がしなくもない。うん、俺、間違えてる。
「ふ、ふふふ……あははは」
「ん?」
「ケイ、君は自分が何を言っているのか分かってる?」
ツカサがニヤニヤとした顔で聞いて来る。
コイツ、絶対分かって聞いているな。だが、こっちが悪いのだから怒る気にもなれない。
「分かっている。けど、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。俺はただ、恩を返したいと思っただけで――」
「分かった分かった。分かったから、落ち着いて」
「そうか? なら、いいだけど」
何故か俺が勝手に暴走したみたいになっているが、ツカサが茶化したのが原因だし俺は悪いくないはずだ。あ、原因は俺の発現か。
まぁ、どっちにしろ変な誤解をされるよりはいいかな。
「それで、お答えは?」
「……そうだね。君と二人きり、という訳でもないから間違いは起こりえない。から、居候させてもらおうかな」
「間違いなんて二人きりでも起こらないから!」
まったく、この勇者はどうしてこうも俺を揶揄うんだ。今だってほら、こんなにニコニコ顔で俺を見てくる。困った女性だよ、まったく。
「そういえば、あの子……ジュハ君、だっけ」
「あぁ、ジュハなら今は家だよ。お母さんを看病しているんだと思う」
「そっか。にしても、ケイがあんな依頼を受けていたなんてね~。ケイが無償で人を助けられる善の心の持ち主で、ボクはとっても嬉しいよ」
そう、ジュハからのお願いは宝石店で悪行を終えた帰りに済ませたのだ。必要額が100コルで、余った2199万9900コルを持ち帰った。
それから800万コルを不動産屋で払ったから、今手元にあるのは1399万9900コルってことか。
そう考えると、結構あるな。働く意欲が削がれていくのを感じる。このままだとニートな人生になってしまいそうだ。
早いところ次の仕事を見つけなければ。
ちなみにだが、折角病気を治してやったのにまたあんな不衛生な場所で暮らしてもらっては、同じ病気に罹ってしまう。そこで、家を買うから一緒に住めと言ってやった。
ジュハは意外にも10歳、母親は21歳と若かったため、体力が戻ったら使用人として雇うつもりだ。屋敷に住むことにもなったし、あの全てを掃除するとなると大変だ。なんだか結果オーライになったな。
「そうだ。ケイ、仕事探してるんだよね」
「宝石売るのは流石にもうやりたくないしな。次の依頼者を探すことになると思うが、それがどうした?」
「丁度今さっき、ある噂を耳にしたんだよね。なんでも、ある冒険者が傷だらけでギルドに戻ってきたらしいんだ。それでね? 話を聞いてみると、並大抵な強さじゃない魔物が現れたと言っていたそうだよ。それで、その魔物に討伐依頼が公に発表される予定らしいんだ。それも、冒険者以外でも、討伐した者に報奨金が送られるんだってさ」
ツカサが噂話をとても詳しく話してくれた。
けど、けどな? 長すぎて何言っているか分かんないんだ。本当にすまないとは思うけど、長すぎると何が重要か分からなくなるんだよな。メモするための紙もないし、前世では会議ではなくデスクワークだったから。
「長い! 簡潔に述べて」
「危険な魔物現れた。倒せばお金、手に入る。皆幸せ」
カタコトな言葉ではあったが、三行に纏めてくれた。これでやっと内容が理解できたよ。
しかし、問題が発生した。
「なるほど。けどなぁ、俺魔物相手だと戦えないんだよなぁ」
「それなら大丈夫だよ。ボクも一緒に行くから」
「いや、それは悪いよ」
「何言ってるの。ボクとケイの仲じゃないか!」
どんな仲だよとツッコミたいところだが、何とか抑える。
ツカサに手伝ってほしくない訳ではない。というか、どちらかと言えば付いて来てほしい。
けど、もし同じ状況になったら? それも、断れない状況だったらどうなる。その場にツカサがいなかったら、俺は何もできないのか?
それは絶対に嫌だ。だから、俺は一人で行かなきゃならない。
「すまない、ツカサ。今回ばかりは俺一人で行くよ。そうしないと、きっといざって時に後悔しそうだから」
「そっか……うん、分かった。頑張ってね」
「ありがとう」
ツカサのエールを受け、俺は明日に供えて準備を始めた。
大丈夫、大丈夫さ。俺の魔法がこの世界でも使えることは実証済みだし、危なくなったら逃げればいい。
命を賭けて金を稼ぐのは嫌だが、目の前で失われていく命を救うためには必要なことだ。その修行にうってつけな上、ついでに金も手に入る。
一石二鳥だと思えば気が楽……には、ならないな。
「死にたくはないし、逃げる道具はしっかり創っておこう」
次回、命は賭けない系主人公