第6話 手っ取り早く金を稼ぎましょう(ギリギリアウト)
ギリギリアウト……はい、アウトです。
ども、私です。毎日投稿は苦じゃない、と言っておきましょう。
今回は主人公がちょっと汚れます。
やぁ、俺だ。子供から金をせがまれた男、ケイだ。
今俺はツカサと合流し、ツカサが泊まっている宿屋に戻ってきたところだ。もちろん、金が安定として稼げいるようになれば宿代は返すさ。
今はそんなことよりも、効率よく、尚且つ命を賭けない、技術もいらない、これらを満たした神みたいな金稼ぎ方法についてが先決だ。
「それを話す前に、ツカサに言わなければならないことがある」
俺はツカサに、『想像魔法』について話した。フローリアと頼まれた仕事について以外のことだけだが、俺がこんな魔法使えるんだぜ、という内容で洗いざらい話した。
何故話したかは、俺が考案した『手っ取り早く金を稼ぐ方法』に想像魔法を使うからだ。いきなりツカサの目の前で使ってしまっては、驚かれるかもしれない。それを未然に防ぐには話すしかなかった。
「へぇ、ケイはそんな魔法が使えるんだ。でも、ボクに話してしまってよかったのかい? 相手に知られなければ、何かと有利そうだけど」
「有利って、俺は別にこの力を戦いだけには使わないし、出来れば戦いは避けたい。それに、ツカサは命の恩人だ。話しても何も問題はないよ」
さて、話を終えたところで相談だ。
「この世界では、宝石ってある?」
「あるよ。ルビー、サファイア、エメラルド。他にも色々とね」
「良かった。じゃあ、俺の考えた絶対金が稼げる方法をお教えしよう」
内容は簡単だ。
ステップ1:想像魔法で売れる(宝石など)を創り出す。
ステップ2:創った物を店で売る。
ステップ3:お金が手に入る。
みんな幸せ。
なんと素晴らしい方法だろうか。ここまで完璧かつ、誰も損をしない方法があるか? いや、ないね。
俺の話を聞き終えたツカサは、どこか憂いを帯びた顔をしていた。どうかしたのかと聞くと、ツカサは一言、俺にこう言った。
その言葉は俺の胸に重くのしかかったが、すぐに忘れることにした。何故ならそれは、俺自身も思っていた言葉だったからだ。考えないようにしていたからだ。
「それってさ……犯罪じゃない?」
気分がガクンと落ち込んだ。俺も分かっていたんだよ。これが、犯罪紛いの行為だと。偽札作っているのと同じことだとね。
でも、これは魔法。不可能を可能にできる力だと思っている。だから、俺が今から作るのは偽物であって偽物じゃない。ある意味、本物と言っていいものなんだ。
「ツカサ、犯罪じゃないさ。確かに心痛む行為ではあるけど、必要なことだし、何より誰も損をしない。いや、するかもしれないけど、それはやり過ぎなければいいことだ」
「いや、でもね……」
「じゃあ、こうしよう。今だけ、一回だけだ。これで金を稼ぎ終わったら、もう二度としない。これで、どう?」
「それなら、いいのか?」
何だか心が黒く染まっていく感覚がするが、気のせいだろう。うん、まったく俺は悪いことはしていない。今からやるのは、魔法でモノを生み出すだけ。それを売るのは、間違ってはいないはずだ。
ツカサの了承を得られたということで、俺はさっそく魔法を使い宝石を創り出そうとした。イメージしたのはルビーだ。
しかし、一向にルビーが手元に来る気配がない。あの白い世界で魔法が発動する感覚がまったくないのだ。
「おかしいな。あの時は出来たのに」
この世界でも、ツカサにアダマンタイトを隠す……言い方は悪いが、そのために袋を出した。出せたんだ。
つまりは、この世界でも使えるはず。だが、今使えていないのを見ると、おそらく条件があるのだろう。
MPが足りないってことも考えられるが、それだとどうしようもないので他に条件があるのだと仮定してみることにした。
「イメージが足りない? ルビーってあんまり見たことないし、可能性はある」
ということで、頭の中で自分なりのルビーを形から重さ、色まで思い描いてみた。
すると、右の手の平に違和感が! 見てみると、そこには小さいけれどイメージ通りのルビーがあった。
「おぉ! できた、できたぞ!!」
「うわぁ……本当に出て来たよ。ちょっと危ない魔法だなぁ」
ツカサはドン引きと言った感じだが、俺は感動していた。俺でも魔法が使えるのだと、魔法が使えたと。
その後、ルビー以外にもサファイア、エメラルドとイメージを膨らませ、合計15個の宝石たちを創り出した。
我ながら、やり過ぎたと思っている。で、でも、小さいし? そんなに高額にはならないと、思う。多分ね。
と、いう事でツカサに案内してもらって来てしまいました。
え? どこって、そりゃあ決まってるでしょう。
「宝石店……」
店の中には、色とりどりの宝石たちが一定の間隔で並べられていた。宝石店というくらいなので、内装も豪華でいかにも高貴な方が来ますよオーラを醸し出してた。
店に入るとすぐさま店主らしき人が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。お探しの物はございますか?」
話しかけて来たのは中年のおじさん。髭を生やして強面だが、声が外見に似合わず優しい。なんだか違和感を感じる。
店主らしき、と言ったのはこの店には彼一人だけだったからだ。間違っているかもだが、おそらく店主。そんなオーラが出ている。
「いえ、今日は売りに来たんですが、大丈夫ですかね?」
「そうでしたか。丁度他にお客様もいらっしゃいませんし、大丈夫ですよ」
「良かった。じゃあ、これなんですけど」
俺は店主の元まで行き、先ほど創り出した宝石を取り出した。その瞬間、店主の目の色が変わる。これは、ビジネスマンの目……この世界で言う、商人の目だ。
「これは、一体どこで?」
ぐ、嫌な質問をしてくる。だが、俺は元ビジネスマン。ここで表情を崩してしまうような軟な人生は送ってきていない。
「以前他の宝石店で購入したんですが、お恥ずかしながらプレゼントする相手もいなくてですね? それで、いっそのこと売ってしまおうと思ったんです」
「お相手がいない? では、そちらの女性は……」
急に話題に上がり困惑ツカサは吹けていない口笛を吹きながら視線を明後日の方向へと移した。
ここまで見事に動揺されると笑うしかない。
ポーカーフェイスなんて簡単だろう。そう思いながらフォローを入れる。
「あぁ、彼女は私の友人ですよ。この辺りの地理には疎くて、彼女に案内してもらったんですよ」
「なるほど。おっと、いらぬ詮索でした。申し訳ございません」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
何とかボロを出さずに回避できたかな。店主の俺を見る目に疑いはなさそうだし、というか宝石に夢中だ。
これは、結構な値段が期待できそうだ。
それからしばらくして、宝石をマジマジと見つめていた店主がおもむろに紙を取り出した。そして、そこに何か文字を書き連ねていく。
「お客様、これでどうでしょう」
バッと紙を俺の前に突き出してくる店主。そこには、2,000,000コル、と書かれていた。
その紙を横から覗き込んだツカサが「ヘェア!?」とおかしな声を上げたが、どういうことだろう。相当高額なのだろうか。っていうか、コルって何?
「に、200万コル!?」
「ツカサ、凄いのか?」
「す、凄いっていうか。大金だよ!」
大金……200万コルが大金か。『コル』が日本で言う『円』だったら分かりやすいのだが、そう簡単ではないんだろうなぁ。
駄菓子菓子、ツカサのお墨付きをもらえたんだ。問題はないだろう。十分な額だと信じる。
「じゃあ、それで大丈夫です。それでお願いします」
「ありがとうございます。それでは少々お待ちください」
そう言って店主は奥の方へと言ってしまった。きっと金を持ってくるのだろう。宝石を置いて行ったのは、盗みませんよの証明かな。
俺は店主が奥で作業をしている間、店内に置いてる宝石を見て回った。どれもこれも美しく、地球では手に入らなさそうな宝石も数多くあった。
その中でも特に目を惹いたのが一つあった。それは大きなケースの中央に一つだけ置いてあり、まるでその宝石のためだけにこのケースが用意されているようだった。
「ツカサ、これは?」
「ん? わぁ、珍しい物が置いてあるね」
「珍しい?」
「これはこの世界で未だ数個しか見つかってない石なんだ。名前は確か……『ラリサー』」
ラリサー? なんだが不思議な名前だな。しかし、どうしてここまで視線がこれに吸い込まれてしまうのだろう。ついつい目が行ってしまう。
「なぁ、ツカサ。この宝石って何か特別な力とかあるのか?」
「んー、聞いたことはないなぁ。とても美しく、人を惑わせ惹きつける石。とは、言われてるけどね」
「確かに、目が離せないよ」
間違っていない評価だ。これは確かに人を惑わせる。こんな石が地中に眠っていると考えると、少しロマンを感じるな。
もしかして、俺でも創り出せてしまうのではないか? ここに見本はあるし、やってみる価値はあるな。
そう思い、俺は右手を握りしめながら「右手の中にはラリサーがある」とイメージしてみた。
すると、まさかの右手に違和感が……恐る恐る右手を開き中を確認すると、そこにはケースの中に入っているラリサーとまったく同じ形の石があった。
面白半分でやった手前、世界に数個しかない超希少な石を簡単に創り出してしまったことに恐怖した。
けれど、やってしまったことに変わりはない。大人しく自白しよう。
「ツカサ……これ」
「ん? はうぇ!? こ、これ! まさかケイ、やったの!?」
「はい。試したら、できちゃった……」
「できちゃったって、これはマズイよ! こんなの誰かに見られたら――」
「お待たせしました、お客様」
ツカサが言い終わる前に店主が帰ってきてしまった。しかも、俺がツカサにサラリーを見せている最中にだ。
何ともタイミングの悪いとこで戻ってきたんだ店主よ。あぁあぁ、その驚いた目は分かりやすいねぇ。その視線の先には、当然俺の右手にあるサラリーですよねぇ。
「お、お客様? そ、それは一体……?」
「あー、偶々持ってたんですよねぇ。ハハハ」
乾いた笑みしか出てこない。営業スマイルすら作れないなんて、俺はどんだけ動揺しているんだ。
なんて思っていると、いきなり店主が近付いて来て、俺の右手をサラリーごと掴みこう言った。
「売ってくれ!!!」
この時俺は心に誓った。
――もう二度と、魔法で創った物は売らない――
駄菓子菓子、久しぶりに使いました。
念のためルビ振りましたが、いらなかったですかね。