第4話 冒険者には興味ありません
今日で五日目、一週間毎日投稿ももう直ぐですね。
さて、今回はファンタジー小説あるあるの「冒険者」という職業をスルーする話です。
王道を書きたいけど、逸れたい時もあるのです。
「ケイ、傷は大丈夫?」
「ん? あぁ、問題ないよ。痛みはまだあるけど、耐えられない程じゃない。ありがとう」
「別にいいけど、無理はダメだよ?」
「おいおい、あんまり優しくするな。惚れるから」
「惚れ……あんまりボクを揶揄わないでくれ」
何とも恥ずかしい会話だが、今俺達はあの部屋から出て町を歩いている。俺がツカサに世界のことを知りたいと言ったことが発端だ。
ちなみに、あの部屋はツカサが止まっていた宿の一室だったらしい。なんでも、偶々この町に来ていただけで、本来は王都に住んでいるという。
王都か、ファンタジーでは王道だよな。一度は行ってみたいが、今は無理だ。
「それで、ケイ。まずはどこへ行きたい?」
「そうだな。行きたい所ではないが、金を稼ぎたい」
「あ、ケイは転生者だったよね。剣も使えてたみたいだし、あそこに行ってみようか」
なんてツカサが言うので、俺は詳しい場所の名を聞かずに付いて行った。だが、それは間違いだと、その場に着いて気が付いた。
俺が連れてこられたのは仕事斡旋所、それも命を賭けた仕事を紹介してくれる場所だ。
行ってしまえば、冒険者ギルド、というヤツだな。
ツカサは「どうよっ」て顔して俺を見て来るが、俺としてはあまり好ましくない場所である。
まず、命を賭けた仕事に興味が湧かない。金稼ぐのに命磨り減らしてたら、いつか本当に死んでしまう。それでは、溜めたお金がもったいないじゃないか。
次に、冒険者同士の交流が面倒だ。どうせ常識を持たない荒くれものがなる職業。まともな奴がいなさそうだ。怖くて近寄れないね。
最後に、俺は武芸の才がまったくない。そして、何かを殺すのに躊躇いがあり、それは戦いの場において命取りだと知っている。
結論を言えば、俺は冒険者に興味はない!
「他を当たろう」
「えぇ!?」
俺の言葉に本気で驚くツカサ。目を見開き俺を見て来る。
その視線が地味に痛い。
お前、どんだけ自信あったんだよ……。
「な、何で? だって、冒険者だよ? 男のロマンだよ??」
「お前が男のロマンを語るなよ。女だろ」
「そうだけど、君は男のロマンが分かってない! 冒険者に魅力を感じない男は男じゃないね」
「なんだその極論は。というか、命賭けるのがロマンだというのなら、俺はロマン何てもの犬に食わせるよ」
命を賭ける=ロマン
こんな式が成り立っては、世の中死人だらけだ。命は尊いのだから、ロマンなど二の次さ。
何故それが分からないのか。ロマンで飯が食えるのかバカたれめ。
「君は、本当に何も分かってない!」
「分かってないのはお前だろ!?」
「いーや、君だね。ロマンの素晴らしさを理解できていない。まったくね」
「ロマンで命落としてちゃ世話ないって言ってるんだ。あまりにも馬鹿げた話だよ」
そこから始まった口論。
一方はロマンを、もう一方は理論を支持する。
ワーギャーという効果音が付きそうな程にヒートアップしたそれは、とうとうお互いのことにまで発展していった。
止める者がいないと、ここまで人間は進めるのだと、終わってから気が付いた俺であった。
しかし、口論はまだ収まらない。
その途中、道行く子供が一言「夫婦喧嘩」と言った。
そこから波紋のようにしてその「夫婦喧嘩」という言葉は広がって行き、終いには道行く人全員に茶化される羽目になってしまった。
だが、退くに引けぬ俺は無言でその場を後にした。
一度も振り返らず、ツカサの顔を見ないようにして。
その時微かに「あ、ケイ」と聞こえたのは幻聴だと、自分に言い聞かせた。
あの場から撤退した俺は今、緊急を要する案件に悩まされている。
道に、迷った……/(^o^)\ナンテコッタイ
これは緊急事態だ。見知らぬ町でただ一人、彷徨う男30っとそうだった。俺、転生したから今は20歳だった。
そんなことより、かなりマズイな。怒りで我を忘れてたから、来た道を戻るということもできないし、一体どうすればいいんだ?
なんて考えながらトボトボと道を歩いていると、突然声を掛けられた。
「そこのお兄さん。困りごとかい?」
声の主は真っ赤なローブで身を包み、フードで頭を隠した男。口元しか見えないから容姿は分からないが、声からして若い男性だ。
その男性は続けてこう言った。
「冒険者にならずとも、金を稼ぐ方法はある」
心臓を握りつぶされたかのような感覚に襲われた後、頭の中を整理しつつ男を睨みつけた。
どうしてそんなことを言うのか。まさかさっきの会話を聞いていた? いや、あの場にこんな目立つヤツは居なかった。
だったら何故? 偶然か? いや、それにしてはピンポイント過ぎる。
「深く考えるな。今は、俺の話を聞いてくれ」
今度もまた、俺の考えを見透かしたような発言。
ここまで来ると、驚きよりも恐怖が勝る。怖くて怖くて堪らない。
「君は仕事で命を賭けるのは間違っていると思っている。それは、お金と命は同等の価値を持たないと信じているからだ」
確かにそうだ。
俺が冒険者に興味がないのは、命を賭けたくなかったから。しかし、その根本にあったのは、命と金は同価値ではないと思っていたからだった。
命は一つ、いくら働いても手に入らない。けれど、金は違う。働けば働いた分だけ手に入る。
これがイコールで結べるはずがないだろう。
冒険者って職業は、そういった部分が欠落している。
命賭ければ金が手に入るなんて、馬鹿げているさ。
「そう、君の考えは正しい。命は金では買えない。その反対もあってたまるかって話だ。でもね、この世界には命を金でやり取りする場所がある。だから、その考えが絶対ってことはない。この世界ではね」
この男の言いぐさはまるで「この世界以外の場所ならそれは通じる」と言っているようだった。
この男、どこまで知っているのか。
「だったら、どうすればいい。俺は物作りも、肉体労働も向いていない。元はデスクワークしか出来ない人間だ。でも、この世界にはパソコンも、スマホだってないんだぞ? それで、俺にどうしろというんだ」
「簡単さ。依頼を受けるんだ」
「依頼? 冒険者にはならないと言ったはずだが?」
「いやいや、違う。俺が言いたいのは、冒険者に依頼するまでもない些細な問題。それを、自ら率先して解決していく。そのお礼として、金銭を要求すればいい」
なるほど、要するに気持ちはボランティアだけど対価ありってことか。
けど、そんな依頼を受けたところでお小遣い程度しか堪らないだろうに。
「それは問題ないさ。何せ、公には出来ない依頼だって世の中にはたくさんあるのだからね」
「え……それって、闇の世界に入れってことじゃ?」
「はははっ、そう思うのも無理はない。でもハズレ、全然違う。俺が言いたいのは、恥かしくて依頼が出来ない人もいるってことさ」
そんな人もやっぱりいるのか。
人見知り、恥かしがり屋、あがり症。この三つを持ってしまっている人は、依頼や頼みごとがしたくても無理そうだ。
第一に、ギルドの受付でダウンする図が見える。
「なるほどなぁ。勉強になったよ。ありがとう。そういえば自己紹介してなかったな。俺は――」
「いや、知っている。ケイ君、だろ?」
何で知ってるんだよ。ストーカーですか? それとも、何。占い師とか、予知とかできちゃう人?
「俺も名を名乗りたいが……今は諸事情により無理なんだ。だから、俺のことは、そうだな、ハイムとでも呼んでくれ」
「ハイム? 分かった。よろしく、ハイム」
「おう、よろしくな。ケイ」
ハイムか。変わった名前だな。この世界だと当たり前なのかもしれないが、聞きなれない。
義眼なんて、地球だったらあまり良くない名前だな。まぁ、カタカナだったら別に気にならないか。
そんなことを思っていると、ハイムがおもむろに後ろを振り返った。
「おやおや、来てしまったか。予想より早かったな」
「ん? 誰か来たのか?」
「あぁ、君の迎え人だよ」
そう言われ、ハイムの後ろを覗き込むと、そこにはツカサがキョロキョロと周りを見渡しながらこちらに歩いてきているのが見えた。
不安そうな顔をしているし、何かを探している様子。
「君を探しに来たんだ。あいつも罪悪感を感じているんだよ。君に自分の考えを押し付けた、ってね」
「そうなのか……」
ってあれ、何か言い方がおかしかったような。
どこか懐かしむような、含んだ言い方だ。
「さて、俺は退散しよう。彼女に見つかっては面倒だ。その前に、ケイ。君にプレゼントをあげよう」
そう言いながらハイムが取り出したのは、四角く長方形の形をした鋼色の何か。見た目から察するに金属のようだ。
「これは君も一度は耳にしたことのある伝説の鉱石、アダマンタイトの延べ棒だよ」
「あ、アダマンタイトって、あのアダマンタイト!?」
RPGなんかで聞く名前だけど、まさかこの世界では実在したなんて……。
言われてみれば確かに見たこともない光沢を放つ金属だ。キレイというよりも、硬そうという印象を受ける。
これで剣なんか作ったらさぞかし名剣になるんだろうなぁ。
「君にあげよう。きっと役に立つ」
「えぇ?! そ、そんなの受け取れませんよ!」
「受け取らないならここに捨てていく。拾わなくてもいいから。それじゃ、またな」
「ええぇぇぇ」
ハイムは本当に地面にアダマンタイトを置いて、その場を走り去って行った。
残されたのは俺と、アダマンタイトの延べ棒だけ。
仕方なく俺は延べ棒を拾い上げ、ポケットに入れ……られない。大きすぎてポケットの要領を超えてしまっている。
どうしようもないので、俺は左腕で抱え込むようにして持ち、ツカサのいる場所へと向かった。
謎の男現る。
重要そうな雰囲気を醸し出してますね。
まぁ、実際にどうなるかは分かりませんが。