第3話 異世界での村人第一号は勇者でした
初めまして勇者=サン、な回です。
何の面白みもないですが、暇つぶしをしていってください。
夢を見た。
夢と呼んでいいかは分からないが、そんな感じの何かを見た。
少なくとも、それが現実ではないということは分かる。
その夢では、俺は見知らぬ場所にいて、そこで知らない人に話しかけられている。
『やぁ、初めて異世界はどうだった?』
どうもなにも、死にかけたよ。剣なんか使ったことなかったし、あまり良かったとは言えないかな。
『ははは、だろうね。でも、君は運が悪かっただけだ。これから、もっと楽しい生活が待っているよ』
だと良いんだけどな。
それより、お前は誰だ? 俺を知っているのか?
『知っている。けど、君は俺を知らない。いや、知ってはいるけど、分からないだろうね』
それってどういう−−
『おっと、もう時間だ。それじゃ、おやすみ』
俺が言い終わる前に、目の前が真っ暗になって……俺は意識を失った。
「ん……あ、あれ?」
目が覚めた。
さっきまで不思議な夢を見ていた気がするが、もう覚えていないな。
というより、ここ、どこ。
目覚めた場所は、どうやらベットの上だ。誰のものかは知らないが……って、あ!
そうだ。俺は、あの獣に襲われて、そこで黄色い閃光が見えて、それで……なんだっけ。
俺が記憶をたどりながら体を起こそうとすると、右肩に強烈な痛みが走った。
思わず唸ってしまうほどだ。
「あまり動かない方がいいよ。怪我しているから」
と、そこへ突然何者かの声が聞こえてきた。
声のした方へと目を向けると、そこには金髪の女性が立っていた。
「痛っ、あなたは?」
「ボクはツカサ、君は?」
「私は直m……いえ、ケイです。ツカサさんですか」
ツカサか。この世界にも日本人らしい名前の人がいるんだな。
なんとなく、安心した気がする。
「ツカサって名前、ボク的には珍しいと思っていましたが、君の名前もボクに負けず劣らずだね」
あれ、この世界だと日本風の名前が一般的ではないのか?
俺が首を傾げていると、ツカサが「ははっ」と笑った。
「君、何も知らないの? もしかして、この世界の人間じゃない、とか?」
ドキッと、心臓が高鳴った気がした。
決して、恋をしたとかそういうことではなく、何か、図星を突かれたような。心臓がぎゅっとなる感覚だ。
「その顔は、図星ですね」
「……」
「別に隠さなくてもいいですよ。ボクも、この世界とは別の世界から来ましたから」
衝撃的だった。まさか、異世界に転生者して初めて出会う人が、自分と同じ境遇だとは。
しかし、どうして俺を助けたのだろう。
こういう世界の場合、弱肉強食な世界の場合は、自分の命が第一、他人は二の次という人が多いのではないのか?
俺だって、他人のために危険を冒すことはしないだろう。
けれど、彼女は俺を助けてくれてあ。しかも、この傷口……。
俺は傷口に目を移す。
右肩には包帯が巻かれており、痛みはあるが血は出ていない。
何かしらの処置が施されているのは明確だ。
治療までしてくれている。
あまりにも献身的というか、世のため人のためすぎるんじゃないのか。
そう思った俺は聞いて見ることにした。
「なんで、私を助けたんですか?」
その問いにツカサは驚いたような表情をし、その後、窓の外を見ながらこう呟いた。
「ある人が、そういう性格だったからね。移っちゃったのかもね」
「ある人?」
「あ、なんでもないよ。ただ、ボクがそうしたいと思ったからだよ。別に何かを求めてやったわけじゃない」
疑っていた、ということではないが、やはり信じられない。
こういった人間が本当に存在するということが、信じられなかったんだ。
実際、俺も地球で暮らしていた時、苦しんでいる俺を助けてくれた人はいなかった。
そんなことは関係ないのだろうが、まぁ、今は気にしなくてもいいだろう。
「ケイさん?」
「あ、はい?」
「いや、何か遠くを見ていた気がして……どうしたのかなと」
ツカサに言われて初めて気が付いた。
どうやら俺は、過去を懐かしみ過ぎて目が遠くを見ていたようだ。
「すいません。ちょっと昔を、前世を思い出してました」
「その言い方だと、やっぱり転生者なんだね」
「はい。ですが、詳しいことは聞かないでください」
「何故?」
言いたくない、わけではない。どうしても隠したい、わけでもない。
ならば何故か。
俺は思い出したんだ。昔読んだ本にこう書いてあった。
『力も知恵も相手に劣っているならば、君が一番相手に勝っているもの。それはおそらく、情報だ』……とね。
自分から情報をペラペラとしゃべっていては、この世界で生きてはいけない。いや、人間社会では生き残れないだろう。
俺には気の許せる友人も、背中を預けられる仲間もいない。
だからこそ、一人でも戦えるように備えておく。
備えあれば憂いなし。
「……分かった。君が言うならそうしよう。初対面の相手に全てを話せってのもおかしな話だしね」
「分かってくれたようで助かりました。そこで、アレなんですが、お聞きしたいことがあるのですが」
「その前に、固い口調はやめにしょう。ボクに敬語はいらないよ。ボクから口調を軽くしても、君は中々揺るがないのは凄いと思ったけど」
「そうか。なら、お言葉に甘えて。ツカサ、聞きたいことがある」
「何だい?」
少し神妙な面持ちになったかと思ったら、口調を軽くしろ、なんてことだったとはな。身構えてしまったぞ。
「ツカサ、君は一体何者なんだ。あの俺を獣から助けてくれた閃光。本当に君がそれならば、あの戦いは、あまりにも人間離れしているだろう?」
「あー、なるほど。ボクね、勇者なんだ」
勇者……異世界に転生し、餓死しかけ、獣に殺されかけ、初めて出会ったのは勇者と。
何というか、これからが不安になるこの流れだが、俺の進む道には何が待っているんだろう。
俺はゆっくりとベットから立ち上がり、ふらふらと窓辺へ向かった。そして、そのまま窓の外を見た。
日差しが眩しく、視界が一瞬白くなった後、外の景色が見え始める。
どうやらこの部屋は町の大通りに面しているらしく、馬車は人が行き来しているのが見えた。
行き来している人々は全てが見たことのない服を着ているうえ、頭髪の色がカラフル過ぎて眩しい。自分のは……黒だな。変わらない。
「ねぇ、ケイ?」
それに、馬車と言ったが、荷車を引いているのが必ずしも馬ではない。
まさかあれは、ドラゴンか? 竜車ってヤツなのかな。
「ケイくーん」
全体的に非武装の人が歩いているが、たまに剣や槍を持ち歩いている人が見える。ファンタジーあるあるで言えば、冒険者、あるいは兵士といったところか。
人数が少ないのを見ると、戦力を蓄える必要がないのかもしれない。つまりは、争いのない平和な町、ということだ。
「ケイさーん。ケイさん、聞いてますかー?」
さてと、まず目前の目標としては金稼ぎだ。
何か手ごろな仕事で金を稼ぎ、安定した生活を確立させなければな。
人探し以前の問題になってしまう。
「勇者アタック!」
「イタッ!? ちょ、何?」
窓の外を見ていると、急にうなじに痛みが走った。
振り向くと、膨れっ面なツカサがチョップの構えをしているのが見えた。
「えっと、え?」
「え? じゃないよ! ボクの話を無視して何外の景色を楽しんでるのさ!!」
「いや、別に楽しんでたわけでは」
「関係ないね! 無視したことに変わりはないし。ボクは勇者なんだよ? 勇者、そんなボクを放置ってどういうこと!?」
oh……勇者とかいきなり言われて現実逃避していたけど、どうやらツカサを怒らせてしまったようだ。
「大体君は助けてボクに対して礼の一つもないの――」
それから、ツカサの鬱憤が爆発したのを抑えるので時間を費やした。
はぁ、これからは現実逃避も程々にしないとな。
こうなっては本末転倒というか、結局はマイナスだ。
この後、ツカサが正気を戻すのに一時間かかったとか……かからなかったとか。
名前:ツカサ
年齢:21
種族:人族
職業:勇者
所属:なし
これがツカサの大まかな情報です。
21歳、お姉さんですねぇ。
前作では何歳だったかな……?