第1話 圧倒的説明不足
どうも、毎日投稿している、私だ(二日目)
ここで転生しますが、他作品とは違って適当です。
ご了承ください。
「フローリア、か。別に隠すような名前でもないだろう」
「そうですね。ですが、私達には無暗に名を言えぬ理由があるのです」
「理由?」
「そうです。私達、神にはあるのです。暗黙の了解というものが」
神? 今、神と言ったか? 俺の聞き違いでなければ、自分が神と言ったのか。
おいおい、俺が女神と呼んでいたのがフラグになったのか。口は災いの元ということだな。
いや、決して口には出してないけれど。
「それで、フローリアさんは俺に人探しを頼みたいそうですが、何故ご自分で探さないのですか? 神ならある程度はできるはずではないんですか?」
「そう思われても仕方ありません。ですが、私では……いえ、私達ではかにょ出来ない世界というものが存在するのです。神が手を出してはいけない、そのようなルールが存在するのです」
ルールねぇ。
神様も意外と肩身が狭い生活をしているのかもしれない。
俺も会社でルールだなんだと面倒なことを押し付けられたり……いや、思い出すな。思い出したら無駄に疲れる。
「私の話せることは全て話しました。さぁ、行きましょう!」
「ちょ、ちょっと待って。行くって、どこへ? っていうか、まだあなたが神様だと信じたわけじゃない。半信半疑なんだ」
「なるほど。でしたら、これでどうでしょう」
フローリアはそう言いながら指をパチンッと鳴らした。
「どうって――」
何を馬鹿なことを、と思ったが、急に視界が歪んだ。そうかと思えば、視界は全面真っ白。
光っているのか分からないが、俺が今いる場所は自宅の玄関ではなく、白い世界だ。
あまりの出来事に言葉が出ない。
「ふふっ、どうです? これで信じていただけましたか?」
ドヤッとしているフローリアを見て、イラッとしたのは言うまでもない。
しかし、これで反論の余地がなくなった。こんなの、完全に神様の所業ですわ。
ついでに逃げ道も失ったよ……。
「あぁ、信じたよ。信じるしかないだろう。こんなものを見せられてはね」
「それは良かったです。貴方が頑固者でなくて助かりました」
「お褒めに預かり光栄だよ」
何だか疲れてしまった。ここは大人しく話を聞こう。
俺は白い世界に座り込み、胡坐をかいてフローリアの話を聞いた。
「貴方のいた元の世界。本来の名前ではないのですが、分かりやすく地球と呼称しましょう。その地球とはまったく別の世界。そうですね、アナザーワールドとでも言いますか。そこの世界に、ユウトはいると思われます。ですので、貴方にはその世界で再度、生まれ直してもらいます」
地球は分かるが、アナザーワールドってなんだよ。別にそこを言い換えなくても、名前があるなら普通に言えばいいもじゃないか。
「って、えぇ? つまり、転生しろってこと!?」
「有体に言えば、そういうことですね」
「有体って、そうとしか聞こえないんだが?」
神様の次は転生って、どこのファンタジー小説なんだ。これ以上、俺の脳に負荷をかけないでくれよ。毎日の労働で脳がとろけているんだ。
そんな俺の心境とは裏腹に、フローリアは続けてこう言った。
「アナザーワールドは貴方の世界にある物語で書かれる"剣と魔法の世界"です。なので、貴方には特別な力を与えます。そうしなければ、おそらく転生初日で死んでしまうでしょうから」
剣? 魔法? 特別な力?
ヤバイ、おっさんの脳にはキツイわ。今年で30を超えて、脳年齢も衰えているんだ。今どきとかワカラン。
けど、フローリアが言いたいことは何となくわかる。
『聞いたことあるでしょう?』
と、言いたいのだろう。
まぁ、確かに聞いたことはありますけど……詳しくは知らないですよ。
「特別な力とは?」
「それは……ご自分で試した方が、説明するよりも早そうですね。では、力の出し方をお教えします。実際にやってみましょう」
「まさか、ここで?」
「当り前です。転生すれば、絶対安全な場所で試すことなど出来ないのですから、今が絶好の機会です」
などと言い、女神が俺の両手を取って何か良く分からない言葉を話し始めた。
強行策に出たというか、説明が面倒になったのか? この女神、良く分からないことが多過ぎる。
なんて思っていると、突然体の中心が熱くなってきた。熱が沸々と湧き上がってくるような感覚。
それが、フローリアに握られている両手から伝わっているものだと分かった。
な、なんなんだ。この、今なら何でも出来そうな気がする、という気持ちは!
「いや、落ち着け俺! フローリアさん、これ、何ですか?」
「感じ取れたようですね。それは、いわゆる『魔力』と呼ばれるものです。私は魔力を直未さんに送っただけですので、心配しなくても大丈夫ですよ」
「魔力ですか。それで、その魔力とやらを送られた俺は何をすれば?」
「ただ、イメージをしてもらえれば構いません。貴方の詳しく知っている、今、とてもほしい物。今すぐここに現れてほしい物を」
なんとアバウトな指示だろうか。今すぐほしい物を想像しろとは、難しいことではないが……うーん、なんだろう。休み?
冗談はさて置き、そうだなぁ。やっぱり地球よりも命のやり取りが盛んそうな世界に行くらしいから、武器がほしいかな。
長いと取り回しが大変だから短く、刀身は太目。短剣×サーベル、のような剣がほしい。
あ、ついでにお守り的な物もほし――あれ? 何んか眩しいような。
いつの間にか想像力を働かせすぎて目を瞑っていたようだ。だが、瞼の裏からでも分かる輝きに、俺はそっと目を開けた。
「え、これって……」
「おめでとうございます。成功ですね」
「でも、何で?」
「それが貴方の力。想像した物を創造する能力。言うなれば、想造魔法、ですね」
だ、ダジャレかよ。
そう思いながら俺は手元に再び視線を戻す。そこには、さっきまで想像していた剣があった。
刀身が鉛色に輝き、その腹には『守』の字が書いてある。イメージ通りの剣に、お守り効果も付いているらしい。なんと便利な剣だ。
「はい、無事に能力も発動することができたようですし、もう大丈夫そうですね」
「……へ?」
「それでは、行ってらっしゃい。ちゃんと探して来て下さいね~」
「え、うわぁぁぁぁ」
フローリアが『行ってらっしゃい』と言った瞬間、俺は真下に落ちた。さっきまで座っていたはずだったのだが、何故か重力に引っ張られるようにして落ちてしまったのだ。
最後に見たのは、フローリアとか言う女神の微笑みだった。
何も嬉しくないし、結局使われる側なのが腹立たしい。社畜はそう簡単にやめられないのか。