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見えない壁

作者: 早田将也
掲載日:2016/10/29

「あなたの傍にはいられないの。ごめんなさい」

女はそういって男から離れていった。

「クソッ。まだダメか」

男は手にかかえた花束を握りつぶした。

男は30代前半。

引き締まった身体つきをしており健康には問題なかった。

バスケットボールを日頃からしているおかげだ。

頭の回転は速い方で、人並み以上に勉強はできた。

強い劣等感は感じたことはない。

顔は鼻立ちが高く、キリッとした目は涼しげで太い眉毛は意思の強さを感じさせた。

一般的にハンサムなルックスで女性からは熱い眼差しを向けられることもしばしばだった。

「また、フラれた……」

しかし、男は1度も彼女というものが出来たことがなかった。

優しさを持ち合わせて無いのか?

いや、男は誰にでも親切に振る舞い、いつも笑顔でいるように心がけていた。

クソ真面目でまったく面白みがないという訳でもない。

ユーモラスな一面もあり時には軽口もたたくこともある。

では、自分から女性に進んでアプローチができない、いわゆる草食系男子なのだろうか?

それも違う。女性に対して消極的な性格ではなかった。

また、チャラくもなければ、ナルシストでもない。

進んで声もかけるし、時には冗談も言う。

頭もルックスも人並み以上、性格も良い。

」他には何があるだろうか?…….清潔感も完璧。

もちろん、彼は毎日お風呂に入るし、毎日違う服を着ている。

彼は臭くない。

しかし、何故か彼の周り半径1メートル以内に近づく者がいなかった。

まるで、彼が汚物であるかのように、人々は彼に近づかない。

「人のぬくもりを感じたい」

男は切実に願った。


事の始まりは10歳の誕生日

少年時代の男は母親と街中を歩いていた。

誕生日プレゼントを買ってあげると言われた。

テストで連続100点をとったご褒美だったと記憶している。

喜んで付いて行ったのだが、彼が欲しかったゲームはその日どのお店にも置いていなかった。

当時の小学生の間では、絶大な人気を誇るゲームだったので他の子供達もクリスマスプレゼントにそのゲームを買ってもらったのだろう。

しかし彼は、どうしても諦めきれず母親に無理言って街中を探し周っていた。

路地に入り込み、あるリサイクルショップを見つけた。

お店の前には、洋服や洗濯機、冷蔵庫、変なぬいぐるみなどが立ち並び、生活に必要な物物や何の用途があるのか分からない物まで様々な物があった。

彼は、藁をもすがる思いでリサイクルショップに入店した。

リサイクルショップの中は、大量の商品が雑然と置かれていた。

しかし、対照的に人影はなかった。

異国の民芸品や不気味な人形など、少し怪しげな物まで売っている。

いったい何に使うのか、少年にはいささか理解できないようなものまで、陳列されている。

少年だった彼は、そんな商品には目もくれずリサイクルショップのゲームコーナーを探した。

大人気のゲームでも、中にはすぐ飽きて売ってしまう奴がいるのではないか?と期待を膨らまし、はやる気持ちを抑えきれず店内を走り出した。

膨らみ過ぎた期待は、彼の理性を取り払っていた。

店の奥にゲームコーナーが見えた。

すると、ガラス張りの商品ケースの中に目的のゲームのような物が見えるではないか!!

「あ、アレかもしれない!お母さん早く来て!」

そもそも他の客はいないので、取られる心配はなかった。

したがって母親を急かす必要はない。

冷静さを失った彼は母親の手を引っ張るために、先ほど通った通路を駆け戻った。

駆け出した瞬間、右手に何か当たった。

バキッっと斜め後ろの方で何か壊れた音が聞こえたような気もしたが、今はそれどころではない。

母親の手を取り、ゲームコーナーに向かう。

さっき音がした場所の床を確認するが、床にはおかしな顔の悪魔の像が転がっているだけだ。

汚いし、価値もないのだろう。

壊れていたって店員も気づかないだろう。

そう勝手に判断した少年は気にも留めない。

「あれ?これじゃない……」

商品ケースに近づくと、お目当てのゲームっと思っていた物は、パッケージが似ているだけで実際は全然違う商品だった。

少年の期待は儚くも崩れ去った。

あまりの意気消沈の様子に母親は「今度買ってあげるから」と優しく語りかけた。

少年はだんだん腹が立ってきた。

何故、こんなに探し周っても見つからないのだ。

母親は“今度”と言ってはいるが、今度じゃダメだ。

僕は今すぐ欲しいのだ。しかし、現場は変わらない。

どうしょうもない感情のはけ口は目の前にあった“木彫りのゾウの像”に向かった。

少年は像を掴むと力一杯投げた。

別に何か狙って投げつけた訳でもない。

母親に怒られることは百も承知だったが、この感情は止められない。

ゾウの像は派手な音を周囲に響かせながら、砕けた。

派手な破壊音と同時に母親の叱咤が頭上から飛んできた。

店員も駆けつけ、事の成り行きを母親が説明する。

ゾウの像は壊れ、母親がお店に弁償する形で事態は収まった。

しかし、それが悲劇の始まりでもあった。

壊した物は、悪魔の像と異国の神様の像も含まれていたことを……


その晩、変な夢を見た。

昼間、壊した像にそっくりな悪魔と人間と動物の象を合わせたような気味の悪い神様が自分の写真を見て、色々話し合っている。

何か怒っているみたいだった。

「あんたも、あのガキにやられたんだって??」

悪魔がゾウの神きく。

「首をへし折られた」

ゾウの神が答える。

「まさか、神と悪魔の魂がこもった像があるお店に揃うことも驚きだが、もっと驚いたのは同じ日に同じ場所でこんなケツの青い人間のガキに壊されるなんてな。魔界も天界も面目丸つぶれだぜ」

悪魔は心底怒っているみたいだ。

どうやら、僕は悪魔と神の像を壊したみたいだ。

「あの少年には、何かしらの処置を施さなければな」

象の神はいったいどんな罰を与えようとするつもりだろう。

「で、どうするよ??事故に見せかけて一気に殺すか?それともタチの悪い病気にしてジワジワ殺すか?」

悪魔は、ニヤニヤしながら神を見る。

言うことも悪魔らしい。

少年は怖くなった。

まだ死にたく無い。

「いや、そう簡単に殺すなど言ってはいけない。人間は愚かな生き物だ。時には過ちもおかすものだ。」

さすが神様!

「……しかし、今回はちょっとわしも許せないな。小僧には孤独に苦しみながら生きてもらおう」

あれ?

あなた神様ですよね?

戸惑いながらもそこで夢は終わった。

朝が来たのだ。

変な夢を見たなと思いながら、いつものように朝食を食べるためにキッチンへ向かう。

母親が毎朝、朝食を作ってくれる。

いつものように席に着くと、父親と母親が少年の向かいに着席した。

硝煙は違和感を覚える。

普段の席の座り方と違う。

それに両親が机から少し離れて座っている。

それでは食べにくいのではないのだろうか?

それ以上に変だったのが、少年が、両親に近づこうとすると、両親は少年が近づいた分だけ後ろに下がり、一定の距離を確保していた。

昨日のこともあったから僕のことを怒っているのかな?と疑問に思って様子を伺ったが、両親ともにこやかに話しかける。

しかし、一定の距離は縮まらない。

まるで、両親との間に分厚いガラスの壁に阻まれている感覚だった。

驚きはこれだけでは無い。

学校へ他の生徒と集団登校している時も、少年の側には誰も近づいてこない。

普通に会話はしているのだが、物理的に距離があるのだ。

しかし、相手は距離を意識しているようにも見えない。

ほかの友人とは肩を組みながら歩いているくせに、少年とは距離が空いている。

「もしかして、これは夢で話していた罰……?」

少年は1人呟いた。

すると後方から声が聞こえた。

少年も振り返ると、後ろから自転車に乗った青年が猛スピードで登校中の小学生の脇を通り過ぎて行く姿が見える。

危ないでしょ!と後ろから保護者が叫ぶ声が聞こえたが自転車に乗った青年は我が物顏で平然と通過している。

歩道は幅が1メートルほどしか無い。

この歩道に自転車と歩行者が通過するには狭い。

スピードを維持したまま少年の側に来た。

すると少年の傍に来た途端、自転車は急に少年に弾き飛ばされるかのように車道に飛び出した。

猛スピードで車道に飛び出した自転車に乗った青年は、バランスを崩し車道の真ん中で転んだ。

青年は訳が分からないという顔をしていた。

どうやら、この距離間は見知らぬ人にも効力があるみたいだ。

青年は急いで立ち上がろうとした瞬間、クラクションが鳴り響き、大型トラックによって青年は跳ね飛ばされてしまった。

自転車の残骸と血があたりに散らばる。

周囲は騒然となった。

少年は怖くなった。

事実上、自分が道路に突き飛ばしたようなものだったからだ。

少年は学校まで全力で駆け出した。


教室の中では、先ほどの事故のことでもちきりだった。

しかし、少年は話に入る気がしなかった。

なんと話していいのか分からなかったせいでもある。

この真相は心に秘めることを誓っていた。

その日を境に、目まぐるしく変化が起こり、少年はパニックを起こしていた。

友達、担任の先生、隣の席の好きな女の子との関係性がガラリと変わってしまった。

好きな女の子に近づきたくとも、相手から距離を置かれる悲しさは体験した者にしか分からない辛さだ。

少年は10歳にして、この痛みを感じる経験をした。


それから月日は流れたが、一向にこの現象は改善してくれない。

今までこの現象で、自転車の青年のように犠牲になった周りの人間は両手では足りない。

ある意味、死神にでもなった気分だ。

また、女性に告白しても、「あなたは素敵だけど、なんとなく上手くいかない気がするの」とみんな口を揃えてそう答えた。


しかし、いいこともあった。

まず、事故は無い。自分の身にだが……。

そして、夜道を歩いて襲われることもない。

通勤ラッシュの満員電車でも彼の周り1メートル以内には誰も入ってこない。

仕事はプロのバスケットボールプレイヤー。

最早、世界一の選手といっても良かった。

なんせ、彼にボールが渡ったら最後、誰も近づくことが出来ない。

ゴールを阻む者はいない。

技術的には高校、大学生レベルだが、それでも彼を止める人間はいなかった。

年棒は申し分ないほどもらっている。

最近、孤独にも慣れてきた。

こんな能力を与えてくれた悪魔と神にお礼を言いたいくらいだ。

この能力があれば、まだ人類が挑戦したことないことでも達成することができるのではないか?男は刺激を求めていた。

そうだ!触れられる心配が無いのであれば、格闘家やラグビー選手、力士でもいいな!

なんでこんなこと考えなかったのだろう。

こうして彼は、マルチに活躍する異例のスポーツ選手となった。


「あ、この男あの時私たちの化身の像を壊した男ですよ。なんか楽しそうにやっていますね」

頬づえをつき悪魔はつまらなそうに神に話しかけた。

「ふむ、懲らしめるためにやったつもりが、かえって喜ばせているな。それに周りの犠牲がひどい」

神は渋い顔つきになった。

「あの能力無くすか」

そう言って神は男にかけている呪いを解いた。


ある晩、男はコンビニで買った缶ビールをぶら下げ夜道を歩いていた。

この辺は、夜になると人通りが少ない。

はるか前方に女性が1人歩いているだけで他に人影はない。

一本道を歩いていると、後ろから車のライトが男を照らす。

すごいスピードで車が男の脇を通り過ぎた。

ワゴンタイプの車で車の窓はスモークが貼ってある。

男は車が衝突する心配はしていなかったので特に注意はしていなかった。

思った通り車は男の傍を猛スピードで通り過ぎていった。

しかし、ギリギリの距離で車が通過したので少し驚いた。

つぎの瞬間目の前でもっと驚くべきことが起こった。

前方を歩いていた女性が突如、車の中に引きずり込まれた。

一瞬、女性が知り合いの車に乗ったのかとも思ったが、体を後ろ向きにして、乗車するのも靴が片方脱げた状態で地面に転がっていることも不自然だ。

「さらわれた……」

男はすぐに車の後を追いかけた。

おそらく、さらった女性を暴行するつもりだろう。

それならば人目のつかない場所行うはずだ。

頭を働かせ、車が向かった方向から、犯行が行われるだろう場所を推定した。

全力で走りすぐに問題の車を見つけることができた。

中から女性が叫ぶ声が漏れている。

男はすぐさま駆けつけ、車のドアを開けようと手をかけたが、鍵が閉まっている。

いくら力を入れようと無駄だと分かり、強硬策に出ることにした。

持っていた缶ビールが入ったビニール袋をブンブン振り回し、車の窓に思いっきり叩き付けた。

車窓ガラスは割れ、割れた窓の向こうにチンピラ風の男が数人と着衣が乱れた女性が見える。

全員驚いた顔でこちらを見ている。

「なんだてめー。ぶっ殺す。」

リーダー核のチンピラが叫んだかと思うと、4人のチンピラが一斉に車から降りてきた。

みんな同じ顔に見える。

男に恐怖はなかった。チンピラは近づけないと思っていたからだ。

しかし、今日は何やら様子が違っていた。

チンピラがどんどん距離を縮めてきて男に手の届くところまで近寄ってきたからだ。

チンピラ1が男めがけ拳をふるう。

もはや完全に不思議な力は働いていないことを確信した。

男は内心焦りながらもバスケットや格闘技で鍛えた動体視力と運動神経でよけ、チンピラ1に一撃をくらわすことができた。

格闘技などの試合は能力に頼っていたが、練習はちゃんとしていた。

チンピラ1はその場に崩れ落ちた。

続いてチンピラ2とチンピラ3が同時に襲ってきた。

二人のチンピラは同時に拳をふりだした。

よけることが不可能だと思い、手よりリーチの長い足を使い、二人同時にドロップキックで蹴り飛ばす。

蹴った反動で自分も後ろへ吹っ飛び、お尻を地面にしたたか打ち付けた。

サンドバック相手に練習はしていたが、実際に人と喧嘩したのは初めてだったのでイメージ通りにはいかない。

お尻の痛さを我慢しながらも残りのチンピラの姿を確認する。

リーダー風のチンピラ4は手にナイフを握っている。

女性を脅すために用意していたものだろう。

困ったことになったと思いながらもチンピラ4の動きを注意深く観察した。

チンピラ4はナイフをもっている構えが隙だらけだ。

ナイフを持っているという心に余裕があるのだろう。

まず男はナイフを持っている手を蹴り飛ばし、ナイフを手放させた。

続いてその勢いのままチンピラ4の顔面に回し蹴りを決めた。

チンピラ4を完全にノックアウトした。


チンピラたちを倒した後、女性に駆け寄り無事を確認する。

「ご無事で何より」

「おかげさまで助かりました。あなたが駆けつけなければ今頃大変な目に合っていたことでしょう……あっ!」

女性がいきなり驚いた声を出した。

その瞬間背中に強烈な痛みが走った。

チンピラ2が拾ったナイフで男の背中を刺したのだ。

男はあまりの痛みにその場に膝をついた。

チンピラ2は男の背中からナイフを抜き、もう一度男に突き刺そうと手を振りかぶった。

もうダメだ。

死を感じた。

男は強く目をつぶる。

しかし、いつまでたっても次の一撃が来ない。

不思議に思い、恐る恐る振り返るとその場にチンピラ2が伸びている。

一体何が起こったのか分からず、キョロキョロする。

どうしたことか、先ほどの女性がいない。

その代わりに神々しい光を放った象が二足歩行で立っている。

象の牙は一本欠けている。

「これは……一体?」

「驚かせてすまない。私は神だ」

神と名乗る象は今までの経緯を男に聞かせた。

「今日はお前の不思議な能力を取り上げにお前の近くを歩いていたのだが、運悪く、そこのチンピラどもに攫われてしまった」

神様がチンピラに攫われる?

そんな話聞いたことがない。

「神といえど、地上に降りてきたときは原則、仮の姿で現れないといけなくてな……今回は欲求不満のお前に合わせて可愛らしい女性の姿になっていたのだが……裏目に出てしまった。このことは他の神には言うんじゃないぞ」

神は恥ずかしそうにそう言うと、消えてしまった。

その後、警察が駆けつけチンピラたちを連行していった。

警察の話だとチンピラたちは悪魔だと名乗る奴にそそのかされて犯行に及んだと供実しているということだ。

本来は男をさらいボコボコにするつもりが、チンピラの人違いで象の神をさらってしまったみたいだ。

悪魔は神が能力を取り上げるタイミングで、男を拉致する気だったらしい。

危ないところだった。

普通の人間に戻った男。

男は怪我を理由にスポーツ界を電撃引退の表明し、今は自由気ままに過ごしている。

もちろん普通の人同様、普通に恋愛し結婚して子供も生まれた。

男によく似た男の子だ。

月日が流れ、ある日、自分の子供との間に距離を感じた。

何故か最愛の息子なのに、近づけない。

いや、無意識に自分が避けているのだろうか?

よくよく話を聞いてみると、今日はリサイクルショップである神様の像を壊したらしい……。


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