ⅬⅩⅩⅩⅡ 決戦編_14
『なんて素晴らしい世界なんでしょうね』
だからこそ、この世界は守る価値がある。
そう思いません?
【side∶Saya】
兄弟の感動的な再会もできないのは、この超が付くほど大迷惑な魔道具のせいだと思う。
そもそも、こんな機械がなぜ作られたのか。なぜ私達(渡り者)を使わなければ動かないように設計されたのか。その目的と手段は合理的なのか。ちゃんと考えた上でのコレなのか。当時の技術者、及びコレの発案者、そして材料を手配した人に会えるなら、それぞれ一発ずつビンタをかました上で細切れにしてやりたいと思う。
けれど、恐らくコレがこの世界で一番強い武器であることは間違いない。灼熱を耐えきり、数多の攻撃にも現在進行系で耐え続けても尚、一部破壊されてはいるが、その身はまだ形を保ち続けているのだから。
「ま、それでもコレは流石に無いですね」
サヤ姫は小さく吐き捨てるように呟く。
この武器は厄介な代物だ。
意思があるのが厄介。自らの力で屈服させられるがそれでも認識が少し変わるくらいだろう。大して魔王という考え方は変わりはしない。そう有るべきとして、それを目的として作られた存在理由は簡単に変えることはできないから。
動力源がこの世界の者ではなく、この世界以外の生まれの者に限られることが厄介。持って帰ってしまえば、このいと恐ろしい力をその辺の人間を入れるだけで調達できてしまう。
壊れても直せないのが厄介。崩れた城の瓦礫の中に埋まっているのだろう設計図を見て構造は理解できるだろうが、きっと材料が調達できない。灼熱にも、氷にも、また数多くの魔法による物理的ダメージのある攻撃にも耐えられるそんな金属がそう簡単に調達できるとも思えないし、魔法による何か一手間で作られる合金であれば魔法のないサヤ姫の世界では、もうその時点で修理も不可能だ。
もっとも、ここまで破壊されていては回収したとして使うことはないだろうし、彼らはここで完全に破壊すると言っているのだから、自分が回収する必要もない。ここは彼らに協力してコレを鉄屑に戻し、ハッピーエンドでこの場を収めた方が賢明そうだ。
丸く収めて、場を収める。
なればここで出し惜しみをせず、彼らのお国、それからこの世界の明日の命運のために、力を使うべき時だ。
「……“抜刀”」
何年、その言葉を口にしていなかっただろう。力を込めたその言葉は、眠っていたモノを呼び起こした。ようやく自らの役目を思い出して、使われることに歓喜の喜びを体現するかのように、サヤ姫の手からそれらは勢いよく飛び出した。
日本刀、ブロードソード、バスタードソード、ショーテル、斬馬刀……大小も使用された場所も様々な刀剣がサヤ姫の両の手から生まれい出るように姿を現すのだ。
サヤと名付けられたのは、体内に剣を納める鞘の力を持って生まれたためである。鞘の力を持つ者は、自身の世界や異世界を渡り歩き、その身に多くの剣を納め続けること、と一族より課せられた命がある。成人するまでに多くの武器・剣をその身に納めた者が次代の当主となるのだ。
今までに集めた刀剣をここで使うことに迷いはなかった。貴重な物も中にはあるが、それはこの世界の無属性魔道士やドワーフに頼めば、刃こぼれでも折れても修復してくれよう。
なんとも素晴らしい世界だ。修復も破壊も怖くない。普段では武器達にこんな無茶な使い方はできないのだから。
「なんて素晴らしい世界なんでしょうね」
こんな世界を消してしまうくらいなら、喜んで武器を取り、最強の兵器をその刃で破壊しよう。結果、全ての武器が壊れてしまっても、この世界は守る価値がある。
「皆さん、武器が欲しかったら言ってください。いくらでも用意がございますよ」
これが鞘姫だ。
「行こう、鞘」
「えぇ。いっぱい活躍しましょう、剣ちゃん」
【side∶■■■】
時間が無い。
時間が無い、力が欲しい。
時間が無い、力が欲しい、贄が欲しい。
エイクが欲しい。
この際、奴の弟でもいい。自分と質が少し合わないが、それでもエイクの弟だ。全力は出ないが、動くことはできる。だから、殺さないでおく。
女の方はだめだ。アレを贄にすれば逆に自分が喰われる。そんな気がする。本能などというものは無いはずなのにそう結論づけてしまえるのだ。女の腹の中では有象無象の魔力が渦巻いている。あの中に自分も加わる、そう思ったからあの女を贄と見るのは辞めた。
エイク。
愛しくて、哀れで、可愛い贄。
絶望も、怒りも、苦痛も、苦悩も、全て熟した頃合いの、一番美味しく贄として完成された状態。ここまで待ったのだ。
言語も複雑な思考も全て捨て、エイクを取る。魔王として世界を滅ぼす為に。
だから、早ク喰ワセロ。
「ギャァァァオオオオ!!!!」
咆哮を上げたその機械は自らに魔法をかける。橙の土属性の魔法で自分の体を一回り小さく変形させる。その際、胸部の贄を収める場は即席で修復されたが、それでも的はまだ大きい。
フェルゴがしたように最大の魔力を込めた最強の一撃でなければ破壊は難しい。魔力をほとんど使っていないカルラが最大火力を叩き込む、という指示をラツィオとキュリアはすぐに下して、魔王の注意をそらす。遠距離から魔法で攻撃をする贄組はカルラの傍で彼女の護衛にもあたる。
「さぁーて、じゃあ僕も行ってくるね」
「テイマ、貴殿は残ってほしい」
「えー! どうしてさ? 僕だって足止めくらいはできるんだからね!」
エルバがこそこそとテイマに耳打ちをする。それを聞いたテイマの顔が驚きに変わっていく。
エルバがお願いだ、という目でテイマを見る。
「……そういうことなら、僕はここに残らなくちゃいけないね」
「後を頼めるのは貴殿しかいない。主を守るイメートとして、貴殿は最後の砦だ」
「そこまで言われちゃ僕だってその役目引き受けないわけにはいかないからね。しっかり地に足つけて頑張ってやりますよ!」
エルバは満足そうに微笑んで戦場へ駆けていった。
「何があったの?」
「……カイ君、絶対にイメートを一つ、肌身離さず持っていて。僕らイメートは主の危機には絶対、ぜっーたいに、君のことを守るから」
小さな子供に言い聞かせるように言うテイマに違和感を感じながらも、カイは魔王に集中するために前を向かざるを得なかった。とりあえず、言われた通りにイメートの石を一つ、自分の懐にあることを確認した。
テイマはエイクの傍で遠隔で大地を操っていた。エイクが闇の魔法で魔王を拘束するのを手伝うように、足元を大地で飲み込みながら他の仲間が攻撃しやすいようにサポートをしてくれている。エルバの剣もラツィオの剣も、キュリアの魔法も、まだ魔力切れを起こしていない魔導士達、まだ戦える戦士達が果敢に挑んでいる。
それでも、まだ魔王を傷つけるには足りない。そろそろ皆の力は底をついてしまいそうだ。それくらい皆は疲弊しているのに……。フェルゴ並みの力はカルラに任せるしかないこの状態が歯痒い。自分は何もできないのか、と悔しい。
「火は命を燃やし」
カルラが詠唱を始める。
魔力を最大まで高めて練り上げたのだ。
「水は命を潤し、地は命を支え、風は命を歌い、光は命を生み、闇は命を終わらせる」
いつだったか、聞いたことのある詠唱だ。この魔法なら、魔王に効くかもしれない。練り上げられた魔力はあの時と同等の濃さと大きさだ。今のカルラなら、いける。
「何人も抗えぬ世の理に、逆らうものには終焉を」
カルラが魔王に向けて伸ばした手から展開されるのは白い魔法陣。無属性の時間を司るこの魔法は、どんなものも運命・時間には抗えない、それをこの魔法で強制的にその結果を連れてくる。
例え何千年地中に埋まっていても、きっと何万年後にはその体の金属はグズグズに崩れるだろう。それが物体として、この世に形を持ち、質量を持って存在するもの全ての行き着く運命だ。それを今、ここに、強制的に、その終わりを持ってくる。これは500年という長い時間をかけて、たった一人で怪物と戦った魔導士によって作られた最強の魔法。
「強制執行・劣化する運命!」
魔法陣から白く太い魔力が真っすぐに魔王に向かう。魔力が魔王に向かうと戦っていた仲間が一斉に避ける。
全員が魔力の奔流を無事に避けて魔王を見た。確実にその魔法は魔王に当たっていた。
咆哮を上げて魔法に撃たれる魔王は魔法を受け止めようと両手を突き出して魔法を止めている。体を穿つにはまだパワーが少し足りていない。
カルラの渾身の力を振り絞った魔法なのに、本当にもう少しだけ、もう少しだけ魔力があれば……。
魔導士にとって、怪物は大切な人だった。魔導士がまだ年端も行かない少女だった頃、彼女は怪物になる前の魔女に助けられた。少女にとって魔女は母親も同然で、先生で、同じ力を持つ仲間と繋げてくれた大切な人だった。しかし、時が経ち、魔女は死への恐怖と国の行く末を不安視し、次代の後継者の体を乗っ取ることで恐怖と不安から逃れようと怪物になった。大切な人が自分に後を託そうとすることなく信頼してもいなかったことに、怪物になってしまったことに、魔導士となった少女は深く傷つき悲しんだ。
大切な人を止めなければ、その想いの源は幼い時の記憶と与えられてきた愛だった。愛が500年という長い時間をかけてこの魔法を生み出した。
カルラには500年と言う途方も無く強い愛を抱いたことはない。30年程の人生の中、その半分を復讐に費やした。けれど、そこにはカイがいた。キュリアがいた。ラツィオがいた。ウルガルド王がいた。他にも魔導士の同僚がいた。最近はエルバとテイマもいた。沢山の人に愛されて、そして大小の差はあれど、皆を愛していた。復讐のことも少しは忘れていられた。
ーーー何の為にこの魔法を使う?ーーー
誰かの問いかけが聞こえた気がした。
「皆を守るために。それでは、理由として弱すぎますか?」
誰に答えたのかわからないが、小さく答えたそれを相手は拾ってくれたようだ。
ーーーいいえ、ちっとも。それが貴女の愛ならばこの魔法は必ず結果を連れてくる。運命は、貴女の力で引き寄せなさい、カルラ。ーーー
いつ目を閉じていたのだろう。目を開ければ魔王は自分に向かって歩き出していた。自分を止めようとしている。カイが自分を守るように前へ一歩踏み出した。
守らなければならない弟のようなカイ。守らなければならない、ウルミラもきっと国や無属性魔道士のことを愛していたから、暴走し怪物になったのだ。理解したくなかったけど、理解した。全ては愛から始まっていたのだということを。
魔法の威力が急激に跳ね上がった。魔王はザリザリと押し戻されていく。そして、ボロボロと指先がようやく朽ちて崩壊してきた。それを見た仲間達から歓声が上がった。その歓声は勿論カルラの耳にも届いていた。その度に魔法は威力を増して、魔王を破壊する。
魔王の両腕を完全に破壊し、胴体胸部の贄を置く蓋が再び破壊された時、カルラの魔力はそこで尽きた。
「ありがとう、アーシュラ」
古の魔導士に感謝を述べながらその体は大地に倒れ込んだ。それを受け止める緑の子はいつかと同じ台詞を言うのだ。
「ありゃー、魔力がスッカラカン。……お疲れさん。ゆっくり休んでよ」
「えぇ、後は任せたわよ、テイマ」
「りょーかい」
土のベンチを能力でさっと作り上げてカルラをそこへ横たわらせた。ここからはテイマ達、戦士の仕事だ。
突然ですが、あと2話で終わります。実は(これを投稿した日の)先週の6/27の夜に全て書き終わりました。もう少し続くのかなぁって思っていましたが、どうやら、カルラの魔法が終わりを連れてきたようです。
あと2話、どうか最後までお付き合いくださいますよう、改めてよろしくお願いいたします。
さて、次回。『夜明けと祈り』
「さよなら。どうか、次は悪いものにならないで」
「どうか、お元気で」
そして夜が明ける。多くを失った朝が来た。
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今回も読んで頂きありがとうございました。あと2話。次回は話の都合上、いつもより短いかもしれないですが決着です。




