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IMATE  作者: 風雅雪夜
決戦編
85/88

ⅬⅩⅩⅩⅠ 決戦編_13

「兄弟」

 ヒーローは遅れてやってくる。

 フェルゴが魔力の大部分を消費し、その姿をちっぽけな火の蜥蜴に変えてしまうほどの攻撃を放たれた魔王は確実にダメージを受けていた。

 鋼鉄の魔法を繰り出す羽に包まれてその身を守っていたが、その躯体は赤く光っていたし、何なら末端のトゲトゲした装飾は溶けて角が取れていた。ぼとり、ともドン、とも取れる音がしている。



「ヨモヤ、我丿身を溶かすトハ」



 少し身じろぐだけで、大きな音と共に魔王の外殻は溶け落ちる。魔王を守る羽が一際大きな音を立てて根本から崩れ落ちたのは、その言葉が言い終わった直後だった。



「効いてる」



 誰かが呟いた。

 確実にフェルゴの攻撃は効いていた。もう一度、同じ威力の攻撃をぶつければ勝てるかもしれない。しかし、もうフェルゴは戦線を離脱した。彼ほどの威力のある攻撃を自分達で力を合わせて作らなければならない。



「魔王に体を直されないうちに倒すぞ!」



 ラツィオの声が飛ぶ。それを合図にまた攻撃が再開される。もう魔王は自在に使える羽を無くして二本の腕で魔法を放ったり防いだりしている。文字通り、明らかに手が足りていない。着々とダメージが蓄積されている。



「アイスアロー!」



 地上からではなく上空からも攻撃が襲ってくる。

 氷の塊が鋭利な切先から魔王に向かって突き刺さんとするように落下する。ガラスが割れるような大きな音が絶え間なく続き、魔王は氷塊を真上からもろに食らい膝をつく。

 思えば、膝をつかせたのはこの攻撃が初めてだった。勿論、フェルゴの攻撃があってこそ、魔王に膝をつかせたのだが、果たしてこの大火力で魔法を打ち出せるのは無属性の女傑二人以外にいただろうか。

 上空には青白い魔法陣が展開している。それはとても遠く高くに展開されていると見えて、気配を感じることもなく、一方的な攻撃が可能な場所であった。尚も白い魔法陣は氷を吐き出し続け、魔王を一方的に蹂躙している。



「カイ?」



 カイ、というより彼のイメートのスノウの技はこのように氷塊を相手に放つのだが、威力も速度も桁違いで、キュリアはその攻撃に思い当たるのに時間がかかった。

 白の魔法陣は無属性の魔法を使用するときの色だ。無属性の転移はよく白い光を発する。

 氷塊を転移の魔法陣で受け止め、別の場所からまた落下させ、そのループによる落下のエネルギーで速度と威力を上げたものを魔王に向けて放ったのだ。よく考えたものだ。



「……という攻撃の仕方を創作物で見たのですが、あ、コレぶっちゃけ強いんでない? って思いまして」

「実用できちゃうこの世界も大概強いよね。まぁ、これ、実際強いし」



 サヤ姫とテイマがそんな会話をしている。実際にサヤ姫が見たのは剣を魔法で落下、それをループさせて相手の頭上に最後は落下させるという芸等であったのだが。実際に出来ればとんでもなく殺傷力の高い攻撃になると思ったので覚えていたのだ。

 ただ、彼女の世界でそのような攻撃を実現するのは転移魔法も無く不可能であったが。しかし、魔法のあるこの世界なら話は別で、彼女はこの世界で実現できたことにとても満足していた。



「カイ殿!」

「……どうして、逃げるように命令したはずだ」



 逃した筈なのに、命令をした筈なのに、と呟くエイク。再びテイマに命令を出そうにとする彼に、エルバはそっと教える。



「エイク殿、カイ殿は貴方にまた会うためにここで戦うことを選んだのです。彼はもう貴方の知る幼い子供ではないのです。あの方は多くの人に影響を与え、そして強い。そんなお人ですよ」



 狼狽えるエイクにエルバは笑顔で答える。今までで一番いい顔をしている。カイがいるだけでエルバは自分の力が底上げされたように思う。

 仲間だから?

 自分の理解者だから?


 違う。友人だからだ。

 だから、彼のために戦いたい。彼の邪魔をする悪いものを断ち切りたい。だからこそ、この兄弟の障害となるあの機械との縁を切りたい。


 すぅっ、と息を深く吸い込んで魔力を高めて集中する。吸った息から風を感じて、その風から魔力を身体中へ循環させて、練って練って、練り上げて。

 双剣を見えないくらいの速さで振り抜いた。



「……燕斬(えんき)り」



 空を切る双剣の斬撃が風の魔力を乗せて、ツバメの形をして魔王へ飛んでいく。多くのツバメが魔王にその翼で斬りかかる。

 小さな体では大きな傷をつけることは敵わないが、これはとにかく速い。目で追うことは難しく、どんなに防御しても少しの隙間をも逃さず、そこから懐へ入り込み敵を切り刻む。これは、斬撃の自動追尾弾。エルバが斬撃に乗せた魔力が尽きるまで、この斬撃は止むことはない。

 他の誰でもなく、エルバの素早い剣撃だからこそできる神速の技だ。


 その時、微かな金属音が聞こえた。直後、バタン、と何かの金属片が剥がれ、それが大地に落ちる音が響く。



「……あれは何だ?」



 ヤズメがその異変に目を凝らす。剥がれた部品は何かの蓋のようで、剥がれたそこには人がちょうど一人分が入れるスペースがあって。

 人の代わりにそこには、何かの無数の管がタンクに繋がれていた。管は紅く光り魔王へ繋がっている。赤い光が魔王へと流れているような……。


 その正体にヤズメは気づいた。

 これが、魔王を動かしていたカラクリだ、と。


 この世界の人間とは違う質を持つ魔力。しかも、知ってる質、知らない質を沢山感じた。

 それは、沢山の人の血液が入ったタンク。

 この血液はこの島に囚われていた渡り者達のもので。この作戦の前に行った準備の際に、検査の目的で採られたものだ。

 この血液は魔力の塊だ。しかも多くの渡り者の魔力を詰めたもの。渡り者であれば、その魔力があれば、魔王はなんだっていいのだ。絶対に人間でなくても、その魔力さえあれば、魔王は動くのだから。

 検査のために取られた血を贄の代わりに転用された。



「っ! 下郎共がっ!!」



 ヤズメは吠えた。

 自分の主は闇の道化師により、魔法を使えない体へと改造された。魔法を使用するには補助具を使わなければ魔法が使えないし、魔素に愛されるその身は魔法を常に使用しなければ集まってくる魔素により圧し潰され命を落とす、そんな体に。そして、両親を殺されている。

 主にした非道な仕打ちへの怒り、渡り者の血液を世界の破滅へ使用することへの怒り。



「あのタンクだ! あれが魔王の動力源だ!!」

「お待ち下さい、ヤズメ殿!」



 そう叫ぶなりヤズメは怒りに任せて魔王へ突っ込む。咆哮を上げながら獣のように。

 ヤズメにはもう、周りが見えていなかった。怒りに身を任せ戦場を駆け、動力タンクを破壊するために動いていた。エルバの言葉も届いていない。

 その身を黒い魔力で包みながら姿を

獰猛な獣のような姿の竜へと変えていく。元となった話の竜のようなそんな姿に。



「ヤズメ殿!!」



 落下した氷塊をすり抜け、飛び越え、ヤズメの手がついにタンクへかかる。

 仇を取った、そう確信した。



「出来損ないガ」



 その機械は剛腕を無常にも、ヤズメ目掛けて振ったのだ。

 黒き竜はその機械の前に、あまりにも小さく、軽く。


 その体は軋み、骨は砕け、ひしゃげ、折れ曲がり、全ての思考を止めた。中空を放物線を描いて飛ぶ彼女に、落下までの時間は長く感じた。


 ギリギリの所で管の何本かしか引き抜くことはできなかったが、それで状況は変わってくれただろうか。

 最期は誇り高き竜なのに、感情に身を任せて暴走するなどという、なんて無様な終わり方だろう。

 主の仇を討てなかった。


 そんなことを思いながら、硬い地面が迫るのを何もできずにぼうっと見ていることしかできなかった。体はもう動かないのだから。



爆風斬(バクフウザン)!」



 エルバの声が響いて風が通り過ぎた。直後、風が爆発し、ヤズメの体はふわっとまた宙に浮いて地面から遠ざかった。

 時間稼ぎだとしても、その技は自分を助けるためでなく、隣のカイの兄のために使ってほしかった。その技は自分が助言をして完成した攻撃の技であるのに。

 馬鹿な奴だ。

 それでも笑みがこぼれて、エルバの方へ目を動かす。

 その瞬間、黒い大きな菱形の物体が目に入った。



「止めよ、押し戻せ、風の盾」



 空飛ぶ菱形の生き物に乗った男は手にした剣の柄からその魔法を発動させ、ゆっくりとヤズメをその生き物の上に下ろしたのだった。



「君に勝手に死なれると、僕、魔素で潰れて死んじゃうよ?」



 ここにいない筈のヤズメの主、ガナック・クエストがにっこり笑ってそう言った。ゆっくりと滑るように空飛ぶイメートは動き出して、戦線の後方へ飛んでいく。

 彼は大陸にいる筈、これは夢なのでは、とヤズメは思った。けれど、死の間際の夢でも主に会えたことに満足して、その意識を手放した。






 ヤズメがガナックと合流し戦線を下がった時、ようやくカイはエイクと合流した。

 贄の候補が3人も集まる中、機械はそれよりも、自分の稼働時間が更に縮まったことに焦っていた。ヤズメに引き抜かれた管から魔力の供給が減ったことで出力も低下していたからだ。魔力を多く消費する威力の高い高等の魔法は使用できなくなった。

 チクチクとすばしっこく痛い攻撃をしてきた竜のなり損ないを始末したのは良かったが、最後の最後で牙を剥かれた。そのことに苛立ちを隠せず、早くエイクを取り込みたい、その欲求が高まり、叫ぶ。



「エェェイクゥゥゥッ!!!!」



 それを見て、カイ達は身構える。既に魔力は切れかけて、体力的にも魔力的にも、また、戦える人数も限られていた。それでも、ラツィオを始めとしたキュリア、クリスタル等の大人達、それからカイやエルバ達、若い戦士達が前線へ並び立つ。

 これが最後の闘いだ。



「カイ。大きく、強くなったな」

「急にどうしたの、兄さん?」

「せっかく再会したのに感動する暇がなかった。だから、今、隣りにいるうちに言っておかないと、と思って」

「……終わってからそういうこと言おうよ。これから皆で、勝つんだよ」



 その橙色に近い飴色の目は真っ直ぐ機械を映していた。生きる者の目だ、とエイクは思う。死んでいる目をしていた自分と違う、未来を見つめる目。

 不意に肩を叩かれる。緑の髪が肩口からふわっと揺れて現れる。笑顔の自分のイメートが頷いた。

 その目に押されて前を向いた。



「俺はお前の贄じゃない。だからここでぶっ壊れろ、クソAI野郎」



 最後の号令がかかった。

 とりあえず、兄弟が再会できて良かったです。私は今日、久しぶりに兄弟と会ったのですが、特級呪物の話ができてよかったです。


ーーーーーーーーーーーーーーー


次回、「なんて素晴らしい世界なんでしょうね」

 だからこそ、この世界は守る価値がある。


 ということで、皆さん体調に気をつけつつお過ごしください。

 ここまでで読んでいただき、ありがとうございました。

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