ⅬⅩⅩⅩ 決戦編_12
『立ち向かう、と決めたなら』
戦うということは、勝つ、って決めたこと。
結論を出したならその時、既に結果の片鱗や縁を掴んだということで。
【side:Kai】
「あわわわ! ……あら?」
カルラの転移魔法でカイ達は城の外へ逃げ出していた。とにかく外へ逃げるために空間を跳んだため、味方の陣地でも敵の陣地でもない、さりとて戦場にもなっていない場所へ逃げ込めたのは幸いだったとも言える。
「あぁ! お城がぁ!!」
サヤ姫の叫び声に目を向ける。サヤ姫が目を向けて叫ぶ先には崩壊していく城と、その城の内部から卵の殻でも割って孵化するかのように、その金属の塊が地上へと這い出してくる、まさにその瞬間であった。
轟音と共に崩れる城。そこにいたはずの二人はどうなっただろうか。テイマがまだ消えていないことから生きているのは確かだが。その姿を捉えることができない。
「あそこ!」
瓦礫が巻き上げる土煙の嵐の中に風の渦を見つけた。エルバの風魔法だ。その位置は魔王が手を伸ばせば届く範囲だ。エルバだけではエイクを守りながら戦うのは無茶だ。
その金属の躯体は黒光りして、今、瓦礫の中から出てきたというのに傷や凹みの一つも見られない。そんな頑丈な躯体を持った魔王にエルバ単騎で戦えぱ結果は明らかだ。誰かが彼に加勢しに行かなければ。
そう思い、立ち上がるカイを止める者がいた。その腕を取って引き止めたのは、やはりテイマだった。
イメートは創造主である主に逆らえない。特に“命令”と明確に命じられてしまえば。 テイマも先程はエイクからの命令に自らの意思に反して体が動いた。カイを遠くへ逃がすためにカイを抱えようとしていたのだから。今もその“命令”が効いていて、遠くへ逃がすために動いているのだ。こればかりは話し合いでどうにかなるものでもない。エイクに命令を解除してもらうか、一度命令を遂行させない限り“命令”の効果は切れない。
カルラにどうするか意見を求めようと顔を向ければ、既に白い魔法陣が展開されていた。テイマとエイクの関係性や二人で対話する時の性格的なもの、そういうのも加味して命令を遂行させる方が楽だ、と判断したのだ。遂げてしまえば効果が切れる。その後でどう動こうが、命令が終わってしまったあとなのだから、そこまで効果が働くことはない。
「じゃあ、一度遠くへ行きましょう。それから、援軍は多いほうがいいでしょ?」
カルラの考えにカイとテイマの顔が明るくなる。これで助けに行ける。行程はちょっと踏むがそんなのどうってことない。転移魔法の使えるカルラならそんな行程もすぐに終わる。だから、その白い魔法陣に先を争うかのように二人は飛び込んだ。
【side:Warriors】
この異常事態で作戦に参加していた精霊達も兵士達もその災厄の権化から身の安全の確保のために距離をとった。あれが話に聞いていた魔王という魔道具であるということは理解した。ただ、魔王が起動し動き出すのは魔王に贄が魔王に据えられたとき。つまり、あの中には贄となった人物がいるということ。現在、城には贄の候補となる人物が3人いるのだ。そのうちの誰かが贄になったのでは、と誰もが最悪を想像した。
しかし、風が巻き上がり灰塵を吹き飛ばす不自然な風の流れを見つけた者がその渦を凝視すると、魔王が一番欲していた贄の青年と神速のエルバの姿が見えたのだ。その風が仲間のもので、彼らが戦っているとわかると、彼らを少しでも後退させてやるため、あの場から逃げる隙きを作るために攻撃を仕掛け始める。
真っ先に攻撃を仕掛けるのはカイを慕う炎の精霊・フェルゴ。
土から生まれた金属でさえ、炎の熱さには敵わずドロドロに溶けてしまう。そして全ては大地の中に炎となって還っていく。それを知っていたフェルゴはありったけの集中力と魔力、大地の中で蠢くマグマを操り魔王に肉迫する。
「炎に還れ、鉄屑がぁっ!」
続いて攻撃を仕掛けるのはガナックのイメートのヤズメ。
彼女はその目で睨んだ。睨みをきかせ、見た。贄を据える魔王の口とも言える動力を得る場所を。そこに人の反応はなく、何か別の魔道具が据えられて魔王のエネルギーが供給されているのを。
人はそこに居なかった。だから、遠慮も手加減もなく、全力で攻撃できることに安堵した。
「そこだぁっ!!」
竜の脚力で跳躍。長刀はその柄から分化し、二振りの刀に分かれる。形状の違う二振りを操り胸部を破壊しにかかる。
この中に人は居ないことは既に睨んでわかっているし、この中にある別の魔道具さえ破壊できればこの巨体は止まる。人が乗っていないなら思う存分に破壊しても問題はないので全力で破壊しつくすつもりで斬りつける。硬い蓋の隙間を狙い、斬りつけ、刺して、少しずつ蓋を削っていく。とても硬く傷はなかなか付かないが、なんとしてもこの大災害を殺す、という意地にも似た意志で食らいつく。
竜の子供の中でも気性の荒い、争いを好む最強の戦士で、一度でも恨みを抱けば受けた恨みを必ず晴らす。元になった竜の子供はそういうものだったらしい。その強さにあやかるために武器にもよくその意匠が使われていたという話だ。その謂れと最強とも称される力を持ってしても竜にはなれなかったが、それでも人はその強さを求めた。
ヤズメの主・ガナックはその強さを求めた。自分を守る為にその目を、強さを、荒い気性の中にある食らいつく意志を、恨みを必ず晴らすその伝承を。
この世界におけるイメートは創造主の分身体でもあるが、元となった生物のレプリカでもある。本物ではないがそれに迫る実力がある。主との暮らしを害する恐れのある恨みをこの魔道具に抱いたのなら、世界を守ることが主を守ることに繋がるなら。ヤズメはその力で刀を振るう。
「二人に続け!」
誰かが叫んだ。その声を合図に多くの魔法が魔王へと向かう。鋼鉄の躯体に通じているかどうかはわからないが、それでも、あの災害の足元にいる二人の青年を遠ざける隙ができれば。そんな思いで魔力を込めて魔法を放つ。
「……ムゥン」
繰り出される多くの魔法にそれは微かな声を漏らす。それを聞きつけた接近戦をしている精霊とイメートは更に攻撃の手数を増やす。
少なくとも効いていないわけではない。うっとおしく思っているか、攻撃を痛いと感じていなければ声は出ないはずだ。この攻撃を無視し続けることはできない、ということを教える微かな声。贄のエイクと彼を護衛しているエルバよりも攻撃されているということに意識が向いているなら、彼らが逃げられる隙ができ始めたということだ。
このまま手を止めることなく攻撃を続ければ……。
『ヤレ、羽虫ガ』
鋼鉄の躯体から延びる黒い昆虫の足のような翼が一つ大きく動く。緑の光が収束し羽を形作ると、それをゆっくりとだが羽ばたかせた。
ゴウッ!
そんな轟音が地上を襲って、敵も味方も関係なくその風に巻き上げられる。人が、それこそ紙切れや落ち葉のように一瞬にして空高く舞ったのだから、誰も彼もが何をされたのか理解できなかった。
一部は風に飛ばされず耐えきったが、翼が起こした風の軌道上にいた者達はきれいさっぱり上空に舞っていて、既に落ち始めていた。とっさに動いた無属性の魔導士や風属性の魔導士は周りや仲間を無事に下ろすために魔法を行使するが、どうしてもその手からこぼれ落ちる者もいて、闇の道化師陣営の半数は犠牲になった。
恐ろしい。恐ろしく強い。
こんな人智を超えた力に勝てるわけがない。
その場は恐怖に支配されていた。逃げ出す兵士達や闇の道化師達の戦線崩壊があちこちで起こり、恐怖で敵も味方も入り混じっていた。
その様子を満足そうに眺めている魔王はエイクに向けて語りかける。
「ドウダ、エイク。我トオ前、ソの力を一ツにすレバ、コンなこトモ簡単ダ。思い通リの力、何ガ不満だとイうノダ?」
不満、それよりも恐ろしいの方が勝っている。不満をしいてあげるとすれば、何故その大きな力を破壊のためだけにしか使えないのか、というところだ。
命を奪うことになんら躊躇もなく、邪魔だから殺したと言うように、虫を殺すかのように簡単に敵も味方も関係なく命を奪った。どうしてそれを簡単にできるのか。
「……あの中にはお前の味方もいた。お前を復活させるために尽力した者が大勢いたんだぞ。なぜ、その人達まで……」
「異ナ事を。死ンダ大半はオ前の敵ではナイか。残りは我ヲ殺ソウと足掻く者、ソレも我の敵だ。つまり、ココにはお前と我の敵しかオラヌ。だから全テ殺ス。敵ダカラ殺ス、ソレは普通のコトぞ? 生きるタメなら殺ス、自然界トハそういうトコロではないか」
きっと、その考えは間違いではないのだろう。敵だから戦ったり殺したり。そこに虫がいたから殺した、それときっと同じ感覚なのだ。ルールというか習慣のような。魔王にとっては、考える時間や価値すら湧かない当たり前のことなのだ。
こういうのにはきっと何を言っても届かない。もう魔王はそういうもので、他者の言葉や思想を受け付けない、もう悪として生まれるべくして生まれた悪そのものだ。そういうものと認識しなければならない。話せるからこちらの考えが通じるだろう、ということはないのだ。きっと。
破壊し尽くさないと。この世にこれが放たれれば世界が終わる。戦わねばならない。勝たねばならない。明日の勝利の為に。今ここで止めなければならない。
怖い、なんて言っていられない。自分が止めなければとエイクは魔力を練り上げていく。怒りの黒さ、殺すという意志の黒さ、そしてカイを始めとした仲間達の未来へ繋げる光の意志を、魔力に織り交ぜる。
エイクの高まる魔力を感じた魔王は、やっと一緒になる気になったか、とエイクに手を伸ばす。
「触れるな!」
キィンッ!!
そんな甲高い音をさせて魔王の指先を打ち払った戦士がいた。魔王とエイクの間に立って風を纏う双剣を構える。
それを合図に二人の戦士が攻撃を再開する。
「燃えろ! 焼けろ! マグマに沈め! 星に還れ、鉄屑ゥ!!」
「その羽、斬るッ!」
人も精霊もイメートも、悪そのものと立ち向かう。戦線崩壊していた味方の軍勢の一部が彼らを援護するために再び魔法を放つ。
「逃げるな! アレを島の外へ出してみろ! 故郷どころか家族、この世の全てが消えると思え!」
「皆! 絶対にここで止めるのよ!」
ラツィオもキュリアも指示を飛ばす。
「錆びてしまえば!」
「海よ! 風よっ!」
精霊も魔法攻撃を繰り出す羽を落とすために、腐食させる攻撃に転じる。
「アダマンタイト! ミスリル! 魔水晶! おまちぃ!!」
「武器なんていくらでも直してやらァ!」
「声が枯れるまで歌って! 治して!」
「とにかく治して! すぐに!」
「死んでなければここへ! 死んでなければいくらでも治してあげるから!」
「闇の道化師達も! 死なたくなかったらアレと戦いなさい! 怪我しても治すから!」
再び戦場が活気づいた。
敵の一部も戦いに加わり、自らが呼び起こした災害を討つために協力する。また、別の場所では逃げようとする学者風の闇の道化師を捕縛した精霊達もいて、本部へと移送しているなど情報が飛び交う。
「ムゥん……」
何故、圧倒的な力の前に反抗するのだろう、とでもいうような声を出し、首を傾げる魔王にエイクは言い放つ。
「どんなにお前が凶悪で凶暴で、それでいてその強さが人智の及ばないものであったとしても、人間は諦めないんだ。お前の大きな力は世界を変えるが、破壊なんてものを俺は望まない。俺が望むのはカイと生きていく世界だ。そこに破壊はいらない。だからお前はここで死ね。この極悪クソAI」
「……エイクよ、ソレがお前のコタエか」
絞り出すように機械は言う。
ここまで強く魔王を拒絶したのは初めてだ、とエイクは思った。人の生きる世界にこの過ぎた凶器はいらないのだから、存在ごとその全てを否定してもよかったのではないか、とさえ思う。
しかし今は、さて問題は、コレをどのように破壊して世界を明日に繋ぐか、である。
「アッハッハハハはハっ!! よク言ったぞ、エイクぅ!」
轟く笑い声に戦場の動きが止まる。
一体何だというのか。
「強き否定ノ言葉、拒絶の言葉。その負の感情こソ、我がお前に求めテいたもの! それデコそ、我が贄よ! やはリお前は我の贄とシて最良のモノ。今までノどの贄より、お前が我ヲ最高の破壊神に至ラしめてクレるッ!」
「俺はお前の贄になど絶対にならない!」
「ナらば抗え。気の済ムまで抵抗しロ。そして、最後に我の贄とナり絶望に堕ちろ」
両者、同時に攻撃を仕掛ける。エイクは闇属性の魔法を展開し、他の者が攻撃をしやすいように何本もの闇の鎖で幾重にも拘束する。魔王は強風を起こしエイクの魔法を妨害しようと魔法を展開する。それにいち早く反応したエルバが自らの攻撃でその風を相殺する。
他の魔導士達が攻撃魔法を魔王に浴びせる中、鋼鉄の羽を引きちぎろうと負けじと鎖を操り攻撃手段を破壊するためエイクは更に魔法に力を込める。
魔法の応酬が激しく周囲は昼のように明るい。夜を照らす魔法の光がこの場の戦闘の激しさを物語っている。
それぞれにそれぞれの目的や主張、意地や矜持があって、どちらもただ大人しくやられてやるわけにはいかない。もう既に何人もがこの戦いで命を落とした。上司であったり、部下であったり、同僚であったり、友であったり、家族であったり、恋人であったり、昨日まで楽しく会話していた今まで話したことのない仲間であったり、ここで初めて出会った仲間であったり……。
「(あの悲劇を繰り返しちゃえけねぇ。同胞が次々に殺されたあんな悲劇を)」
サラマンダーだったフェルゴはそんな決意を胸に炎と踊るように戦っていた。この一年で彼には大事な出会いが多かった。だから、自分を変えたカイの兄が戦うのを見て、最悪の事態になるかもしれないそんな未来を、自分の過去に重ね合わせてしまった。
もう、理不尽で誰かが死なないように、憤怒も、慟哭も、守ると決めた誓いも、色んな思いを炎に混ぜて彼はーーー。
「イン……フェルノォ!!!」
焔が渦巻いた。
燃え盛る灼熱地獄のような、辺り一帯の環境を変えるほどの強烈な一撃は、轟音と共にバクンッ、と魔王を捕食した。
フェルゴ魔力が続く限り、その大技の焔は燃えた。魔力を使い果たして彼が倒れると同時に、大技・インフェルノはドロドロと溶けるマグマのように魔王から剥がれ落ちる。
「……ッハァ……ハァ……、あと……ハァ……頼んだ、ぜ……」
小さなトカゲの姿、サラマンダーとしての姿で弱々しく燃える彼をそっと拾い上げた人物は、彼の言葉に頷いて前線を下がる。小さく異界の歌を歌いながら治療の無属性魔道士の元へゆっくり向かった。
ゆりかごのような温かな手の中で、フェルゴはその優しい歌声に導かれるままに、その瞳を閉じた。
自然は強かったんです。
フェルゴさん、お疲れさまでした。ゆっくり休んでください。
モンスターも部位破壊をすると攻撃が通りやすくなる仕様のやついますよね? つまり、勝ちが見えてくるんですよね。
次回、『兄弟』
「あ、コレぶっちゃけ強いんでない? って思いまして」(とあるお姫様の言葉)
___________
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




