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IMATE  作者: 風雅雪夜
決戦編
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ⅬⅩⅩⅦ 決戦編_9

『助太刀。後、悪天候へ』


急転直下、とも言える後半。

多分、新年一発目に投稿していいものじゃない気がする。もう少し、明るい内容だったら良かったのになぁ……。

 テイマの導きにより上階へと走り続けてきた。闇の道化師との数遇する回数も増えてきた。その度に交戦してはさくっと眠らせたり、闇の繭に閉じ込めたりしている。



「テイマ、兄さんまでまだかかりそう?」

「そんなにだよ。あと3階先。エイクも頑張ってるから僕らも頑張ろう。もう少しだよ」

「ありがとう。頑張る!」



 目の前の闇の道化師を剣劇と魔法で気絶させ階段を駆け上がる。階段上に立ちふさがる敵は踊り場だろうが階段の途中だろうが構わず倒す。階段から転げ落ちて痛いだろうがそんなのを気にしてやれない。敵に情けをかける必要はない。自分達はただ進むのみだ。


 なかなか強めの敵に変わってきて、イメートも駆使してくる。テイマも顔をしかめつつも攻撃に加わり、城の内装に使われている石を引っぺがし、それを武器に投擲で降らせる。カイとエルバ主体で攻撃をしていたのだが、後方でサヤ姫を守るテイマも攻撃に参加するほどなのは状況的にまずいかもしれない。

 カルラも攻撃に参加したいところだが、彼女の魔法で脱出する際に必要な魔力をキープしておかなければならない。魔力は多いほうがより遠くへと移動させられるから、彼女には極力魔法を使ってほしくない。それでも彼女が参加してくれた方が状況が遥かに楽になるのは確実なのだが……。



「もしかして、これってだいぶマズイ感じだったりします?」



 サヤ姫が心配そうにカルラを覗き込んで声をかける。ここでピンチと答えては彼女を不安にさせる。大丈夫でなくても問題ない、と答えなくてはならない。なのに、何故か言葉が出ない。黒く大きな丸い瞳が“本当に?”と問いかけてくる。

 サヤ姫はその沈黙を肯定と捉えて懐に手を伸ばし敵と戦うカイ達の方へ向く。



「助太刀しましょう。(ツルギ)ちゃん!」



 その言葉と共に魔水晶を空中へ放る。

 光りながら空中で形が作られていくそれは、赤と橙の光球へ。そこから一本の棒が伸びて、そのまま敵を袈裟がけに切り伏せる。次いで横なぎに刃が一閃。火花を散らしながらそのイメート・剣ちゃんの姿が顕になる。



「剣一振り、参る」



 サヤ姫そっくりのイメートは刀を構え直し敵へと向かう。闇の道化師のイメート達を手にした刀で一体ずつ凄まじい勢いで切伏せていく。

 突然の加勢にカイ達は驚くが、今は目の前の敵に集中することを優先し、魔法を使いつつ敵を撃破していく。お陰で進む速度が早くなる。テイマは後方で援護のみの作業になりつつあり、その分、気配探知の方にも力を裂けるようになった。



「一人加わるってだけで気持ちに余裕が出るねぇ」

「一振り、ですよ。剣ちゃんは武器ですから」

「は、はぁ……」



 イメートの認識は人によって異なる。一人、一体、一匹、と認識する人がほとんどだ。サヤ姫のようにはっきり武器と認識するのは稀なケースだ。剣はサヤ姫そっくりのイメートで、人間と同じ姿をしている。テイマ自身も人間と同じ姿をしたイメートだが、武器と呼ばれるのは少し嫌だと思う。


 これには多分、作られたときの制作者の思いやイメートへの願いによるものなのだろう。この疑問はガナック博士のお土産になりそうだ。そう思えば、テイマは絶対にエイクを助け出して生きて帰らなければ、という思いを強くする。



「後は部屋の前の敵だけだよ! そのまま突っ込めぇ!!」



 テイマが吠える。

 二人と一振りが風のように敵の元へ滑り込む。

 同時に鈍い音が三つ。少し遅れて敵が迎撃用に用意していた魔法が止まり静寂。倒れる音が三つ。カイ達の元へ辿り着いたテイマ、カルラ、サヤ姫はその光景を見て笑みを浮かべた。障害はなくなった。

 これで、エイクを救出できる。



「エイク! 僕だよ、テイマだ! 君のイメートのテイマだよ!」

「兄さん! そこにいるんだね!?」



 風と氷に覆われた扉の無効に呼びかければ、風がやんで声が聞こえた。



「テイマか? そこにいるのは、カイ、なのか?」



 恐る恐る、確かめるように問われた声にカイは答える。



「そうだよ、兄さん。やっと会えるね」



 カイは炎の魔法で氷を溶かす。この分厚い氷の壁か早く溶けないかと焦ってしまう。エルバとカルラも氷の壁を溶かすのに少しだけ手を貸す。ついに氷は溶け、カイは扉に手をかける。



「兄さん!!」



 扉を開くと同時に声を上げる。



「駄目だっ! カイ! 入るな!!」



 扉は開かれた。

 同時に絶望がその場に口を開けて待っていた。




 エイクが落ちていく。

 床も部屋の調度品も、全てが崩れ、下へと落ちていくその瞬間だった。すべてがスローモーションのようにゆっくりと虚無の穴へと落下していく、その最中。

 何が起こっているのか理解できなかった。

 ただ、手を伸ばしてエイクを助けなければならないと思った。手を伸ばしても届かないことなど忘れて手を伸ばしていた。



「カイ殿!!」



 不用意に手を伸ばして穴に飲み込まれる寸前のカイを扉へ引き戻した声の主は、カイの代わりを務めるようにエイクが落ちていく穴へ飛び込んだ。



「エルバアアアァァァ!!!!」



 カルラの絶叫が耳元で響いた。







【side∶Reberio】


 城全体が紫の光で包まれた。

 自分はこの魔力の反応に驚愕した。そして何故こんなことになっているのか、状況を理解できないでいた。



「これは?!」



 遅れて痛みが背中から胸を貫通した。温かさと寒さが同時にやってきて、その感覚には覚えがあって震える。


 “死”だ。


 自分をその獲物で貫いたのは、先程まで馬鹿にし、無能だと思っていた、現場の指揮を執っている指揮官だった。獲物を引き抜かれた背と胸からは血が流出していく。

 立つことさえできなくなった体は、大地に沈むように倒れ伏す。それを歪んだ笑みを浮かべながらその指揮官が自分を見下ろしていた。



「クハハハッ! バカめ! 私が貴様の裏切りを読めぬとでも思ったか!?」



 ……あぁ、そうだ。

 闇の道化師の構成員は、無属性を呼び起こすために、入団時に命の危機に陥るような、トラウマ級の出来事を経験させられる。使いこなせるかは別として全ての構成員が無属性の魔法を使えるようになっているのだ。


 無属性の魔法は時間と空間。その属性は、ここ数年で目覚めて完璧に使いこなせる魔法ではない。使いこなすまでにとても時間がかかるため、それを主として使う者は最近その属性に目覚めた者の中ではそう居ない。経験不足や扱いの難しさにより失敗することも多いので、それを使う者は少ないからだ。


 しかし、稀にいるのだ。無属性のある一つの側面の魔法を使いこなせる者というのが。




 無属性、時間の魔法・予知。




 空間の障壁や転移、物の状態の時間を変える魔法なんかは目に見えやすい。しかし、予知は自分だけが知覚できるもので、固有の超能力や魔法に近い。

 予知をしたからと言ってそれが全て本当になるわけではないが、毎日続けることで確実に自分の力になっていく。目には見えないが、それは後に目に見える現象や運命、必然、という形で自らの目の前に表れてくる。


 この指揮官は日々、この予知を行い自分を現在へと導いてきた実力者だ。自分が勝利し栄光を掴み取ることだけを夢に見て、それに向かってやってきたのだ。その鍛え上げられた予知の精度はかなり高い。


 その予知で、この男は自分が裏切る未来を見た。だから今、こうして自分は地べたに倒れ伏しているのだ。


 血で染まる大地が戦火の光と下卑た笑いを浮かべる奴らの顔をてらてらと照らしている。ここに自分を助けてくれる者はいない。裏切り者の自分にはすぐに追撃されて死ぬか、世界の破滅と共に死ぬか、それすらも見ずに力尽きて死ぬか。

 どちらにせよ死ぬことに変わりはない。


 いい死に方はできないだろうと思っていたが……。しかし、何故だか、まだ笑える。笑えてしまうのは、最後まで自由と享楽の中にいるからだろうか。


 否、それは少し違う。


 ここに来て、この場面になってまで、自分の名前(リベリオ)が最後までリベリオでいろと言うのだ。なんて名前をつけてくれたのだ、両親は。こんな事態を想定していたなら、愉快じゃないか。



「何がおかしい?」



 何が?

 そんなのーーー



「……私が、反抗者(リベリオン)だから、ですよ」



 最後の力を振り絞り上体を起こした。相棒の黒い大きな烏を呼び出す。

 血溜まりから沸き立つように翼を広げた相棒。大きな翼の羽ばたきで周りの物を吹き飛ばし、私はその背に瀕死の自分を乗せて飛び上がる。


 指揮官が我に返り部下に撃墜を命令する。しかし、カラスの方が早く攻撃を仕掛ける。大きな翼からこれまた大きな羽根を飛ばし敵を牽制する。その間に魔法が届きにくい上空へ浮上し逃げる。そして事前に自分が指定していた場所へ向かって飛び去って行くのだった。

 新年早々、重かったかなぁ………。

 吹雪のように荒れてきました。私の地域は雪がばか降り、冬は大荒れする地域ですので雪で埋まらないように気をつけたいです。


 さて、みんながピンチの中でハッピーエンドを迎えられるのかが気になるところです。




次回、『助太刀。後、悪天候の別視点』

 数え唄の真相と、焦りと絶望がその裏ではあったのだった。




 今回も読んでいただきありがとうございました。

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