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IMATE  作者: 風雅雪夜
決戦編
80/88

ⅬⅩⅩⅥ 決戦編_8

『それぞれの戦い』

 エイク→リベリオ→フェルゴ→キュリアへ。

 ちょっと群像劇っぽい。ちょっと長いかも。

【side∶Eyck】



 流石に一人で数人を相手どるのも面倒になってきた。相方の裏切り者は奇襲に呼ばれて外へ応戦しに行った。だが、ただ命令どおりに戦う男ではないことをエイクは知っていた。多分、適当なところで裏切って味方である闇の道化師を攻撃するのだ。



『サァーて、いっちょ裏切って来ますかねェエ?』



 なんて声が余裕で脳内再生される。ちなみに本当に言ったのは、『アイヤー、外仕事だなんて……。んじゃ、私はちょっと行ってくるんで籠城戦、頼みますね〜』である。



「言われなくてもやってやるっての!」



 敵に扉を破られてはいけない。破られれば即、取り押さえられてしまうだろう。対等に勝負できるのは魔法のみ。それも、魔王の贄として鍛え上げられた高品質な魔力だ。量も申し分なく、リベリオという悪友の相棒のお陰で無属性以外の魔法は初級から上級まで幅広く使えるようにした。

 扉を破られたり、無属性の転移魔法を使って侵入されない限り頑張れる。耐えれば勝てる。無属性を持つ魔導士達はここの最大戦力だから、外の戦闘に強制参加なので戻ってくることはほぼない。場内に残った魔導士との“どちらが先に倒れるか”、みたいな泥仕合に専念するのみだ。



「風の盾! 氷結(コンジェルティオ)!」



 風の盾で相手を吹き飛ばした直後に扉を風と水の複合魔法で凍らせる。これで自分と奴らの間には扉、氷、風の盾という多層のバリアができた。それが破壊されるまでに魔水晶を食べて魔力を回復させる。幸い、今まで時間のあるときにコツコツと作っていた魔水晶が大量にあるから、暫くは籠城可能だ。

 しかし、このままじゃ埒が明かない。一気に戦闘不能にしないと延々とこの繰り返しだ。

 終わりの見えない戦い程、不毛で退屈で絶望的で心が死んでいくものはない。それでも、戦い続けて明日を見る。カイに会う。そのためならこんな泥仕合でも悪くない。



「いつまでも、俺を支配できると思うなよ」



 そして魔力を体に巡らせ、今発動している魔法を強化した。






【side∶Reberio】


 闇の道化師の最大戦力は3つに分けられて、それぞれがそれぞれの場所で戦っている。気配探知のできる自分は前線へ赴かず司令を出す本部へと固定されているが、実はちょっと戦いたくてウズウズしている。

 あの風の剣士とエイクさんの弟さん。モクシュカ・ジャドゥで交戦したあの二人はどれだけ成長したのか。特に風の剣士の軍人は軍人らしいお行儀のいい剣技をどうしただろう。

 ここから動いていいならちょっと行ってみたいが、生憎そうもいかない。気配探知ができるのはこの戦場において自分だけという状態なのだ。いや、気配探知ができるのは他にもいることにはいる。しかし、精度がぐっと落ちる。誤差が数メートル〜数十メートルなら使えるが、これが数百メートル以上で漠然と敵と味方、強弱のみ、という情報として扱うには心もとなく頼りない精度だ。細かい位置や数、どの程度の強さかも知りたいところ。

 闇の道化師の中でもそれをできるのが自分だけという現状だ。人事から見直した方が良いのでは? 次があれば、の話だが。


 ともあれ、そんな感じなわけで。闇の道化師側をわかりやすく大敗させるわけにはいかないので、こうして本部にいて気配探知で敵の情報を拾っては前線へ伝えたり、助言をしたりと仕事をしているわけだ。


 そんな中、最悪にして最高の愉快犯の女神から囁かれた。



『嘘の情報を与えて劣勢にしちゃいなさい。そして、戦場へ飛び出したら裏切っちゃえ』



 女神はこう言った。言われた気がした。

 やらねば。我が女神からの神託だ。この波に乗らないという選択肢はない。乗るしかない。



「閣下、敵の勢力が少し落ちてきましたね。奴らも疲れが出てきたみたいですな。こちらもかなり消耗していますが、チャンスではありませんか?」



 実際、連合軍も負傷者が出ていて勢いは最初と比べると落ちてはいるが、すぐに回復されるので戦力はまだまだある。しかし、己の信仰する女神の導きに従うには嘘の中にも少しの真実を紛れ込ませる。間違った情報で下される間違った采配は次第に破滅へ向かう。この過程が裏切りの醍醐味だ。リベリオは密かにほくそ笑み、なおも少しだけ間違った情報を与え続ける。


 暗殺者の自分はこういう仕事も平気で行う。バレたときも即座に切り伏せる。拘束して情報を聞き出すとか弁明の余地を与えるなんて優しいことはしてやらない。そんな自分を見抜けないなら、ここの人事は相当無能なのではと思ってしまう。まぁ、来世でいい人事に当たればいいが。そもそも、来世があればの話だが。



「閣下、精霊達の方が厄介ですぞ。人より先に彼らをなんとかすべきでは。彼ら、攻撃も回復も桁違いですからねぇ。自然というのは恐ろしいものです」



 ちょいと意識の誘導をしておいてっと……。やはり、自分はこういう仕事がお似合いだ。


 ところでエイクさんや弟君は……っと。ありゃ、城の中。で、エイクさんの所に張り付いてるのか何人か。……ふむ、防衛はできてますが、弟君たちが来るまでまだ時間が掛かりそうですねぇ。ちょっと、人をこっちに呼んで間引いてやらないといけませんなぁ。



「閣下、城内の魔導士を全て戦場に集め最大火力で押しません? ほら、言うじゃないですか。力こそパゥワァー、って」

「だめだ。城が手薄になるではないか」

「最大火力で叩けば、早く蹴りがつくのでは? 我等が悲願を叶えるための贄様の我儘にかまけているより、こいつ等をぶっ叩いて追い出してやりたいですし、贄様のことは後で如何様にもできましょう」



 指揮官は少し考えてからリベリオの言うことに賛同して、城に指示を出せ、と命令した。

 あぁ、この指揮官がとにかく無能なやつで良かった。無能なやつほど大きな利益を得たい。しかし、リスクのない大きな利益はないし、自分で相手や周りの力を正しく見られない者は破滅するしかない。

 こっそりと周りの魔導士を一瞥、更に戦場の魔導士達の気配を探る。間違った采配で倒れていく奴らには、もう仲間という意識はない。リベリオの味方はエイクただ一人。かつての仲間だった奴らには精々、死ぬその直前まで愚かなことをし続けてほしいものだ。






【side:Fergo】


「やっぱ自然があるってのは、精霊にゃあ都合がいーなぁ!」



 精霊達は風を、水を、海を、雪を、大地を、光を、雷を、炎を、そしてマグマを操り、闇の道化師と交戦していた。

 ここにあるのはフェルゴの言うとおり自然である。海や火山が近い、強風が吹き付ける、強風は嵐を呼び雷を起こす。そして、彼らの力を大きく上げるものがもう一つ。人の信仰心だ。

 自然の力は時として人智や魔法などよりも遥かに威力が桁違いで、それでいて人からの畏怖や信仰を集めやすい。自然による大災害は特に。

 人の思いが自然そのものに力を与え、それが意思を持ち、体を得たのが精霊だ。人間は目に見えないことは基本信じない。だから、こうして精霊が自然の体現者となる。体現者は魔導士の魔法以上の力を操り、自然の力を示し続けなければならない。そうやって思いは循環していくのだ。


 闇の道化師がやろうとしているのは、人を大量に殺すこと、そして自然の破壊だ。世界の再生を謳っているが、人が居なくなれば人の思いで出来ている精霊の大多数が力を失い消えてしまう。自然も破壊し尽くされてしまう。水は汚れ、干上がり、緑は炎に燃えて、後には炭と化したものが残り、恵みの光も、心地よくそよぐ風も消える。

 精霊達は怒り狂った。下手をすれば我を忘れて魔物になりかねないほどに。


 何故、このマガズミにやたら強い魔物が多いのか。魔物の巣窟だの、魔物の住まう国だの言われているその理由がここに来てからわかった。彼らは、かつて魔王によって世界を滅ぼされた怒りと悲しみで消えかけた精霊だったり、ここで魔王と戦った精霊だったりした。だから強かったのだ。

 自分達と同じ、魔王やその手下と戦った戦士だった。この世界で生きていた仲間だった。

 この島へ来て魔物と戦ったとき、かつての同胞の怒りと嘆き、悲しみ、痛みの叫びが伝わってきた。




 自然である自分達を押しのけて自然以上の力が自分達を滅ぼそうとした。これに怒らないでいられる精霊など何処にいようか!!


 なぜ、滅びなくてはならないのか。ただ、自然に生まれ、世界と共に生きる仲間だというのに。何も害をなしていないというのに!


 嫌だ嫌だイヤだイヤだ! まだ死にたくない! 死にたくないのにぃ!!


 例え、この姿形が変わり、精霊を捨てたとしても、人を赦さない。人が憎い。人を排除する! 一人残らず殺してやる!!




 彼らの思いをフェルゴは受け取った。せめて彼らが苦しまず安らかに眠れるように、一撃で焼ききった。

 人間全てが悪ではない。フェルゴはカイやスタメシアで世話になった島の仲間、ウラグフェスタて出会ったパフォーマー達など、優しい人がどれだけ多いかを知っている。

 だが、かつての同胞の思いを否定したくない。人間への恨みも呪いも殺意も全て共に持っていく。そして、世界の敵へとぶつけてやる。その思いは自分の炎の一部となって敵を燃やし尽くそう。

 その怒りを力に変えて、炎に変えて。敵に叩き込み、焼き尽くす。塵芥さえ残してやるものか。



「俺達、精霊を、自然を、この世界を敵に回したこと、ぜってぇーに赦しゃしねぇ!」



 マグマが燃えたぎる。フェルゴの体は怒りで燃えている。命を燃やしている。今を生きてる。この世界で生きている。



「同胞よ! 俺達精霊の怒りを奴らに思い知らせてやろうぜ!!」



 フェルゴがそう精霊たちに呼びかければ、仲間達は鬨の声を上げる。

 そして、四大精霊にして炎の魔神は空に炎の翼を広げ、炎の髪を燃え上がらせ、人間を見下ろした。



「さぁ、踊れよ。焼け死ぬまでな」



 大地に炎が奔り、闇の道化師の多くを一瞬にして飲み込んだ。






【side∶Curia】


「負傷者は3番テントへ!」

「生きて! すぐに治してあげるから!」

「テンポス・レーディ!」

「♪〜♪♪」


 戦場から離れた場所に建てられた救護テントには負傷した同盟軍が運ばれてくる。負傷者を運ぶ魔導士の声、無属性魔導士が呪文を唱える声、聖歌の歌声が止まない。今しがた戦場から負傷した兵をまとめて転送魔法で輸送したキュリアは、ここも戦場だと思った。


 無属性のジャーディアン達の多くは戦闘に不慣れだ。カルラから聞いていたがジャーディアンは無属性を持つ世界各地で迫害されてきた者達の最後の楽園だ。そこは主に魔法や魔道具の研究がメインで戦闘訓練に多く時間を割いてこなかった。魔法の腕前だけが伸び、戦闘の腕前は伸びない。だから、ある程度戦えるものは戦場へ渡り者の星明達の所へ、戦えない者は負傷者を治すために魔法を使う後方支援の仕事を受け持った。

 当代のジャーディアンの長であるシャーサーカのリティカは元々武人であったため、前シャーサーカのウルミラの時より多くの戦闘訓練に力を入れているが……、思うように実力は伸びなかった。戦闘力にはなれずとも、こうして負傷者の治療や後方支援の担当をしてくれるのは十分ありがたいため、彼女らの半分以上が戦えないからといって誰も文句を言うものはいない。彼女達もこの戦場になくてはならない存在だ。



「キュリア様! 居住区の方の敵、全滅との連絡です!」

「渡り者の皆さんを大陸へ移送後、こちらへ参加。誰一人として残しちゃだめよ。それからミーナさんとヤズメ! 星明さんが駄々を捏ねて動こうとしないなら、こちらに連れてきなさい。ここなら許してあげる!」



 伝令用の魔道具で指示を出しつつ、復活した兵士を集める。まだ皆、折れてはいない。まだ戦うという目だ。



「皆、行くわよ! 転移(セレニウム)!」



 再び戦場へ戻り兵士を持ち場へ送る。直後、大きな爆音と炎の玉が上空で弾ける。空からの敵を爆発の魔法で蹴散らしたのはキュリアの師であるクリスタル・クルツェルト・ウラーノヴァだ。



「流石、先生。こうしちゃいられないわね。私も!」



 上空へ魔法で飛び上がりクリスタルめがけ飛んできた魔法を全て反対の属性の魔法で相殺する。かつて学生時代にクリスタルと共に勉強した属性のことを思い出す。ふふっと懐かしさに笑みがこぼれてしまう。



「随分余裕だな、キュリア君」

「不謹慎ですけど、私、今ちょっと楽しいです。久しぶりに先生の魔法を見られるんですから。卒業後はお互い別々でしたし」

「私が国に帰り成功し、君は国に残り成功した。それからはお互い忙しくもなる。だが今回、君の魔法を見られるのは私も嬉しい」

「なら先生、どちらが敵を多く撃墜させるか勝負しません?」

「全く君は巫山戯たことを……。やるに決まっているだろ! 始めっ!!」

「あぁ! 先生ズルい! フライングー!」



 空中の魔法の応酬はハッキリ言うと二人の蹂躙だった。空中で撃墜された敵は地上に落ちてきて味方に当たりそうにもなった。しかし、危ないからやめろとも言えない。

 人外魔境の無属性師弟。キュリアとクリスタルが魔導学園にいた時、こっそりとつけられたあだ名だ。特にキュリアは在学時からウルガルド王国で無属性を使い、更に魔力の多さも、魔法の規模も桁違いで、一般生徒からはとても恐れられていた。その二人が今夜限りの夢のタッグを組み、敵を撃破している。

 過去を知るラツィオは、もうこの二人が組むような戦争が起きないでほしいと切に願った。また、キュリアらを見た他の魔導士達は、この姿を見ていろいろと後悔したり、絶望したり、自分が人間の範疇だと安堵したりと、それぞれが様々な感想を持ったという。




 後の歴史にこの大戦のことが記された際、この二人のことは書物にこう書かれていた。


 『天翔る美しき大災害、無の境地』と。

 キュリアさんの補足。

 キュリアさんは魔導学園でクリスタルさんから無属性の魔法を教えてもらっています。だから、キュリアさんは彼女のことを先生と今でも呼んでいます。いつか、彼女達の学園時代のお話も書いてみたいです。



次回、『助太刀。後、悪天候へ』


「助太刀しましょう。(ツルギ)ちゃん!」

「剣一振り、参る」

(本文中より一部抜粋)


 主人公のカイ君はお兄さんに次こそ会えるのか。乞うご期待ってやつですね。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

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