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IMATE  作者: 風雅雪夜
スタメシア編
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Ⅷ_スタメシア編

 リーゲルト公国の第五王子で公国軍最年少将校のエルバを仲間に加えたカイとカルラ。

 次の仲間にしたい人物フェルゴがいる南の海にある島国・スタメシア共和国を目指し旅を続ける。しかし、旅の進度が予定よりも少し遅れていた。それは、ある理由が原因で……。

 大陸のおおよそ中央に位置するウルガルド王国から旅をして1ヶ月。西のリーゲルト公国からエルバを仲間に加えて次は更に南へと仲間を迎えに行く。



「でも、どうして南なの? 北方の方が近いんじゃない?」

「北方は連合から外れているから、連絡を取れていないの」



 だから、先に南を目指すらしい。

 スタメシア共和国。南の海にある島国。そこにいるフェルゴという青年を仲間に加えようと向かっている最中だ。



「で、エルバ、少しは慣れたかしら?」



 後ろにいるエルバに顔を向けるカルラ。スノウにしがみつき、震えながらこくこくと頷くエルバ。意外なことにエルバは高いところが苦手だった。



「怖いもの無さそうなイメージだったのに、まさか高いところが苦手だなんて」

「私はこんなに高いところに来たことはない! 城もこれ程高くなかった!」



 叫ぶエルバ。

 お決まりのスノウに乗っての移動である。

 エルバは自分でも高いところが苦手だと言うことが分かっていなかった。その為、実際に飛んでみてようやく分かったことが二つあった。



「軍人は高いところで戦うことはない。……いつもは平地か山地の大地を踏んでいる状態だ」



 高いところが苦手。そして、意外とメンタルが弱かった。エルバのイメージがガラガラと崩れる音が止まない。本当にエルバなのか。間違えたのではないかと思ったが、地上に下ろしてやると元気になり、いつも通りのキリッとした軍人の顔になる。決して間違ってはいなかった。現実だった。



「……カイ、これ以上は流石に落ちます」



 ギリギリの速度で低空飛行しているスノウから静かな悲鳴が聞こえる。

 カイはもうやむを得ないと、前々から考えていた作戦を実行することにした。



「エルバごめん!」



 自分の後ろに、スノウに張り付くようにしがみつくエルバの首元に剣を鞘ごと振り下ろした。そのまま気絶したエルバをしっかりとカルラと二人で落ちないように支え、自分達もしっかりとスノウにしがみつき、スノウに叫ぶ。



「スノウ、もう我慢しなくていい! 僕らが死なない程度に全速力で飛んで!」

「カイ、ありがとう」



 久しぶりにスノウは気分よく自分の好きな速さで飛んだ。風を切り、何もかもを追い越して上空の空気を思い切り吸い込んで、飛ぶことの楽しさを全身で感じていた。その内に今まで遅れていた分を取り戻し、更に追い越してしまい、海沿いの町にまで来てしまった。



「カイ! カイ! あれを」



 スノウが速度を緩めてカイに前方を見るように促した。



「わぁ!」



 目の前に広がるキラキラと光る青。ちらほらと色とりどりの帆が点々と浮いている。



「海だ!」



 初めて見た海にカイとスノウ、そしてカルラは見とれていた。



「二人とも、降りてみない?」

「うん!」

「降りましょう」



 カルラの提案にのり、砂浜に着地しようとした。



「うっ」

「どうしたのスノウ」

「いえ、砂がただ熱かっただけです」



 雪を操るドラゴンのスノウには太陽に熱せられた砂浜はとても熱かった。足が火傷するかもしれない。木陰の森の中で一旦着地し、お荷物を一名、その他の荷物も下ろした。



「皆、すごいよ。見て!」



 カイはイメート達を召喚した。

 水色の雫模様の青い石からルリが、白い爪の模様に黒い石からクロが、赤い炎の模様の琥珀色の石からコハクが出てきた。



「カイさん、久しぶりですねぃ。ぜんっぜん呼ばれないものですから、忘れられたのかと思ってましたよぅ」



 独特の口調で足元に擦り寄るコハク。そう言われてみればしばらく呼んでいなかった。最近はスノウに頼りきりだったから、彼ら他のイメート達を呼ぶこともなかった。



「ごめんね、皆」

「冗談ですよぅ。カイさんが私らを忘れるわけはないことくらい、カイさんのイメートである私らは分かってますよぅ」

「そうですよ、マスター。マスターがいつもお元気なんだなってことが呼ばれないことから分かるので私は幸せです!」

「俺、これくらい、待てる。もっと待てる。カイ、謝ることない」



 ご無沙汰なイメート全員にフォローされた。こんな優しい子達に育ってくれて本当に嬉しい。思わずカイは泣いた。



「ありがとう皆。さ、海に行っておいで!」



 イメート達は海へ向かった。水がキラキラと白い光の粒を生み出し光らせる。



「カルラ姉は行かないの?」

「うん。荷物を見ておかないと。これは信用できないから」



 確かに、気絶したエルバに荷物を見ておくことは無理だ。



「カイ、行ってきていいよ」

「ありがとう、カルラ姉」



 カイが海でイメート達に混ざって、楽しそうに遊ぶ様子を眺める。それと同時に背後の怪しい気配を探る。



「何かいるな」



 いつの間にか意識を取り戻していたエルバは小声で言った。体は起こさなかった。



「そのままでいるのはいい判断ね。……さて、なんだと思う?」

「野党ではないか? それか、この近くの村の民」



 カイがカルラ達の方に向かって手を振る。カルラは返事として手を振った。その内、スノウがこちらに戻ってきた。



「やはり、暑いですね」



 そう言って、森の方に顔を向けるようにして、横になった。



「どうスノウ?」

「南の民ではないです」



 彼女は暑いから戻ってきたわけではない。カルラ達の後方に不審な人影を多数見たから戻ってきたのだ。カルラにも報告するために、そして守るために。



「カイ殿にも知らせた方がいい」

「そうね。でも、急にカイ達が戻ってきたら怪しまれる。正体が分からないまま逃げられるわ」



 今回上手く逃げられたとしても相手はまた自分達を追ってきたとき、対策が取れない。ここは耐えて観察し、見極め、逃げることがいいだろう。



「私が起きたことにすればカイ殿は自然に戻ってくるだろうな、魔導士?」

「ええ。後は私と貴方、そして、スノウが上手く話を合わせる、でいい?」



 二人が了承した。そして、エルバは今、起きた、と言わんばかりの演技を開始した。



「あ、エルバ!」



 予想通り、カイはエルバの元へ走ってきた。



「さっきはごめんね、あんなことして」



 涙目になりながら謝ってきた。そう言えば、そんなことがあって、こうなったんだと、怒りの炎が一瞬付いたが、それは後にしなければ。今は後方の不審集団の観察をしなければ。



「カイ、そんなに早口は駄目。エルバは今起きたばかりだから、頭がまだ働いていない」

「そっか。ごめん」



 しゅんとするカイ。何故か罪悪感を覚える。しかし、今は我慢だ。後でちゃんと謝ることを心に誓うカルラとエルバ。今は耐えよ、と自分に言い聞かせる。



「エルバ、もう少し横になっていた方がよいと思います。痛みはありますか? 冷やして差し上げます」

「スノウ殿、ありがとう。後頭部が少し痛いな」



 スノウはカイの荷物から器用にタオルを出し、息を吹き掛け、それをエルバの頭の下に敷いて寝かせた。



「少し横になればじきに良くなるでしょう」

「これはいい。ひんやりとして心地いい」

「いいなぁ」

「カイにもやってあげますよ」

「本当?」



 嬉しそうな顔をしているカイを見るのが段々辛くなってきた。無垢な少年を騙しているというこの心がそろそろ悲鳴を上げそうだ。



「(ふーん。そういうことねぇ)」



 何か二人の様子がおかしいと感じていたコハクは後方の不審集団の観察のためにこんなことをしている、と理解した。チラリと横を見る。隣のクロはチラチラと森の方を見ている。彼も気がついているのだろう。しかし、彼は動かない。



「(わっちがちょっと偵察に行ってきますか)」



 カルラにこそこそと伝えると、頼むと一言。コハクは適当な茂みに入り変化をした。虫に化けて小さな羽音を鳴らしながら飛び立った。幸いカイは気づいていない。クロとスノウは何となく察していて、とても、小さく頷いたのをコハクは見逃さなかった。



「(あいつらね)」



 奴らの後方に回って姿を見る。

 黒いローブ、白い仮面を皆一様に身に付けている。明らかに南国の人の格好ではない。人数は二十人弱、といったところだ。強くなければカイ達で倒せる人数だ。



「(これが闇の道化師ですかぁ。とにかく、戻らないと)」



 来たときと同じくそっと皆の元へ戻るため引き返す。

 しかし、ガサッと何かが、いや、奴らが動く音がした。いち早くその音を聞きつけ、臨戦態勢をとったスノウとクロを見て、カルラはまず、コハクを空間魔法で自分の所へと移動させた。



「来たか」



 ガバッと起き上がったエルバは剣を構える。



「止めよ、押し戻せ。風の盾」



 カイが落ち着いた声で呪文を唱えると、向かってきた黒い集団の何人かは突然吹いた突風の盾に阻まれ、押し戻されたり、倒されたりした。



「っ! カイ、殿……」



 大丈夫、というようにエルバの肩を叩いて、向かってくる何人かにゆっくりと向かっていく。



「やっぱり、闇の道化師」



 カルラは呟いた。



「ここには沢山、無くならない水があるね。それを使おうか。ルリ、スノウ、援護して。クロはエルバを守って。カルラ姉とコハクもフォローお願い」



 皆に指示を飛ばすとカイは向かってくる闇の道化師達に切り込んでいく。金属のぶつかり合う音が辺りに響く。エルバも戦おうとするが、クロに止められる。



「カイは、お前を守れって、俺に言った。だから、素直に、守られろ」



 そう言って向かってくる闇の道化師達を裁き始めた。自分の身一つで五、六人を相手取るクロの動きはまだ荒い部分はあるが、自分の体の使い方をよく心得た動きで敵を片付けていく。

 クロが大きく跳躍し、木に飛び乗ると、突然大量の水が地面の上に意思を持った大蛇のようにして滑り込んできた。



「水!?」

「海水ですよぅ、エルバの旦那ァ」



 ルリが海水を操り、闇の道化師達を捕らえた。そのまま、カイの方に向かい、カイと戦う闇の道化師達を飲み込む。



「僕はね、もう大抵のことには驚かないんだよ。いきなり奇襲を仕掛けても僕は動揺しない。もう慣れたんだ。残念だけど、僕は師匠に鍛えられたからね」



 スノウに合図をして、海水ごと闇の道化師達を氷付けにした。



「エルバ、カルラ姉、コハク、大丈夫?」

「うん。問題なし。クロが守ってくれたから」



 クロが木から降りてくる。怪我はないようだ。



「クロ、スノウ、ルリ、お疲れ様」



 カルラ達のところまで戻ってくる。そして、さて、と言葉を発した。



「僕に言うこと、何かあるんじゃないかな?」



 笑顔でカイは聞いてきた。



「……そうね」



 カイには全て分かっていたのだろう。自分達の芝居も考えも。観念した、とカルラは話した。






「どうしますか?」



 スノウが訊いてきた。



「そうだねぇ……」



 と言いながら、カイは隣のカルラの顔を見る。カルラに委ねよう、ということだ。



「情報を引き出す。それで、警団に引き渡そう」

「一応、犯罪組織の一員だものね」



 カルラが氷に手を翳し、全員の記憶を一度に読み取る。各国に散らばる彼らの拠点を掴めるかもしれない。



「……はぁ」

「どうだった?」



 読み取りが終わったようなので聞いた。



「一つだけ、重大な情報が。闇の道化師の本部は極東魔族特区に今後移るみたい」

「魔族特区!?」



 いつかテイマが行ってみたいと行っていた魔物の巣窟。そこに本部を移すということは。



「相当強い魔導士しかそこに行けない」

「つまり、敵はそこの魔物を簡単に倒せるほど強いってことか」



 相手の強さが伺えた。今戦った下っ端達なんか、比べ物にならないだろう。



「カイ、弱気になっちゃダメ。私達は最低でも魔王の依代を奪えばいい。全部を倒すことはない。無駄な戦闘は避けながら任務を遂行しよう」

「カイ殿。私はカイ殿に及ばないかもしれないが、それでも、カイ殿のお力になりたい。カイ殿は一人ではない。我々がついている」

「二人とも……ありがとう」



 弱気になっていては任務は遂行できない。そして、世界は滅んでしまう。



「魔族特区。そこに行けば、きっと依代を奪える」



 二人は頷く。



「僕らはまだ強くならないと」



 海の先にいる次の仲間に思いを馳せながら、海の方を見つめていた。

IMATE世界あれそれこれ


◆スタメシア共和国……南の海にある島国。南国のリゾート。フェルゴという青年がいる。


イメート

◆コハク……イメート。幻獣型・妖怪系・妖狐・野干。火を吐く化け狐。人語を話し、任意の姿に化けることができる。よく、偵察に行く。妖怪モデルのため、人を手玉にとるのはお手のもの。きれい好き。性別は特に決めていないが女の姿に化けることを好むので雌なのかもしれない。琥珀色の宝石で中央に赤い炎を模した模様がある石の姿をとる。


魔法

◆『止めよ、押し戻せ。風の盾』

 風属性の魔法。術者の正面に風の層を作り、敵の攻撃(物理攻撃と火・水・土の簡単な魔法と一部の風・闇・光魔法)を防ぐ。敵に向かって強風が吹くので、攻撃は跳ね返される。


組織

◆闇の道化師……闇属性を主に使う闇ギルド。ギルドを追放された者、何らかの理由でギルドを抜けた者が行き着いた。破壊、テロ、殺人、窃盗など、様々な犯罪を犯して世界中で指名手配されているが、検挙率は低く、多くの構成員は捕まっていない。全国に支部があり、チームとして行動するときには必ず闇属性を使うものが最低でも一人いる。闇属性を使うものだから、闇属性を使う善人が白い目で見られるという弊害が出ている。

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