ⅬⅩⅩⅣ 決戦編_6
『作戦開始で鞘を取る』
さぁさぁ、サクッと行っちゃいましょう。
城の裏手より少し離れた岩場の荒れ地にこっそりと移動した潜入組は作戦を開始しようとしていた。
「うっはぁっ♪」
緊張感のない声、というより、ほぼ嬌声のような声を出すテイマ。夜中にそんな声を出さないでほしい。
「やっぱり、ほとんどの奴ら寝てるね。起きてるのはっと……。3、40人だねぇ」
「思ったより起きてるのね」
「う〜ん……。全体数、約150だからねぇ~。それに比べればこの数はこれでも少ない方だと思うよ。もっといても不思議じゃない。この城の面積的にいる人数が少ない気もするし。まぁ、今はそれよりも……」
大地から魔力を流して城の中の様子を確認したテイマは再び大地に魔力を流す。
「3騎、駆動!」
居住区側以外の所へ仕込んでおいた土人形の種が、テイマの魔力を得て巨人となる。これはモクシュカ・ジャドゥでも使った土人形の陽動兵だ。これを合図に陽動の本隊が土人形と共に城へ攻撃を仕掛ける。土人形は今回、たいした戦力にならなくていい。モクシュカ・ジャドゥの時の人形よりも動きは遅い、壊れても土を補給した自己修復もしない。ただモクシュカ・ジャドゥの時より少し大きく、派手に勝手に暴れる一番槍でいい。大きな目眩ましになればそれでいいのだ。
この騒動に目を覚ました闇の道化師らは急いで戦闘配置につく。城が急襲で混乱している最中、テイマは再び大地に魔力を流しトンネルを作る。なるべく静かに大地は円筒形の穴を深く割り開いていく。ちょっとの音は陽動の戦闘音で掻き消されてしまうから問題はない。
「さ、行こう」
照明用の魔道具に明かりを灯す。黄色の光がトンネルを照らす。階段状に整備されたトンネルをカイ達は駆けた。
緩やかに下に向かうトンネルの行き先は、まずはサヤ姫の地下牢前だ。サヤ姫を解放した後、カイの兄・エイクを奪取する。地下牢までは見つからずに行けるが、地下牢から上は土もなく石ばかり。石だと土よりも固く操りづらいので、テイマの力が及び難い。地下牢より上では、テイマはサヤ姫のボディーガード役に徹することになる。
「もうすぐだよ、皆! 速度落として!」
テイマの指示で速度を落とした。やがて行き止まりが見えた。テイマが壁の向こうの様子を探る。この壁の向こうは闇の道化師の城だ。敵がわんさかいる敵の本拠地。なるべく戦闘は少な目で、かつ陽動よりも目立たないように進まなければならない。
「この向こうにはサヤ姫さんだけ。牢のエリアの外側には扉があって、そこに敵さんが一人で立ってるね。うん、大丈夫。開けるよ」
テイマが手から魔力を送り壁に穴を開ける。目の前には牢屋の格子。その中には一人の少女が手と足を拘束され、簡素な寝台の上でこちらを見つめていた。
色白で顔立ちもカイ達とは違う。どちらかというと渡り者の精霊であるハクやセイに近い。オリエンタルな独特な美しさのある顔立ちだ。
「あらあら?」
サヤ姫が眠そうな声を上げた。壁から出てきたカイ達を見て驚きの目をしている。夜中にいきなり壁から人が出てきたら驚くのも無理はないし、そんな登場の仕方はカイ達だってしたこともされたこともない。
「えっと……サヤ姫さん、ですね?」
「えぇ。貴方達は?」
「僕はカイ、こっちはテイマ、カルラ、エルバ。僕達は貴女を助けに来ました」
「あぁ、弟さんですか。へぇ~、貴方が。エイクさんより優しくていい子そうですね」
明るい笑顔を見せる。その手足には拘束具があるのに、こんなにも輝くような明るい笑顔を見せられるのはなぜだろう。こういう状態の時、もっと精神が壊れていそうな気もする。
エルバはサヤ姫に気になることがあるのか顔は険しいままだ。カルラも違和感のある様子で警戒しているが、それでも任務をこなすために頭を切り替える。
彼女を助け出すために一度、空間魔法の転移を使って彼女を牢から出す。簡単にあっさりと、一瞬でいとも簡単に牢から出られたことに彼女は目を丸くして驚いている。
「何ですか今の!?」
「空間魔法の転移です。この世界の人でも使えるのは少数です」
「わぁ! じゃあ、とても貴重なんですね!」
一つ一つに驚き歓声を上げるサヤ姫に悪い気はしない。何も知らずこの牢に閉じ込められていたからこその反応なのだと思うと心が痛い。
カルラはそんな彼女を拘束する枷を魔法で形を作り変えつつ破壊。枷だったものをダガーに変形させてサヤ姫に渡す。
「護身用に」
「わー! ありがとうございますー!」
どんな魔法を見せても面白いと目を輝かせる。
さて、サヤ姫を護衛しつつエイクの元へ急がねば。それにはまず、牢の入り口の敵、及び城内に残る敵を黙らせていかなくては。
テイマとエルバがそれぞれの力で敵の様子を調べている。牢番に一人、それ以外の大部分は外の戦闘、下の魔王のもとへ向かう者達もいる。上へ走る者もいる。エイクの所に一人いるが、それはエイクの味方らしいので、二人でなんとか協力して抵抗していてほしい。
「眠れ眠れ」
扉の向こうでドサリ、と重い音がしたのを確認して扉をなるべく静かにエルバの風と剣技で破壊する。それから消費魔力の少ないカルラの時魔法で扉の時間を戻し扉を修復する。
表の敵を眠らせるのは、闇属性魔法が使えるカイの役目だ。カルラの転移の魔法は魔力を多く消費してしまうため、彼女の魔力はなるべく温存しておきたい。そのため、カイはできる仕事を率先してやる。
その手際の良さにサヤ姫からは、そういう専門の業者なのか、と問われたが、カイ達は決してそういう業者ではないし、そう見られているなら弁明したい。しかし、やることや意識を向けるものが多過ぎてそこまで気を回せない。気になることがある度に話しかけてくるサヤ姫の相手を常にしていられるわけではないのだから、カイとしては、サヤ姫がもう少しおとなしく静かであってほしいなぁ、と思う。サヤ姫も全く知らない人よりは話に聞いているカイの方が親しみもあるし話しかけやすいというのもあるだろうが。
「敵4、来るよ」
テイマが知らせる。
もうサヤ姫が脱走したことがバレたのか。それにしては早すぎる。この先は地下だ。地下へ向かうとしたら魔王の所へ行くのかもしれない。
カイ達は近くの部屋に入りやり過ごすことにした。既に中の人間がいないことはテイマが調べてくれていたので敵に出くわす前に静かに素早く部屋へ退避する。少ししてからドタドタと大きな足音を立てながら人が通過していく。やり過ごせたことに少し安心した。
「サヤ姫さんかな? 魔王かな?」
「うーん……私がいないって気づかれるの、早過ぎません?」
「方向は地下だけど、牢とは別方向だね。魔王のところだと思う」
テイマが石壁に手を置いて今の奴等の場所と、エイクが今どうしているかも一緒に調べる。
相方は外に呼ばれたのか反応が消えてエイクだけが残っていた。相変わらず部屋に立てこもっている。部屋の外の敵を魔法で次々と外すことなく攻撃して、誰も戸口に近づけさせていない。無属性の転移の魔法を使用しなければ彼の元へ辿り着くのは至難の技だ。
エイクは贄となるために魔力を増大させる必要があった。多くの魔力を有していれば、魔王が贄にしたとき、より長く魔王が稼働することに繋がるからだ。
一瞬だけの稼働では意味がない。長時間贄になってもらわなければ闇の道化師の悲願は果たせない。そのために囚われてから魔力を増強するための訓練や生活を余儀なくされてきた。
今、その結果が裏目に出ている。エイクが反旗を翻すことなど想像していなかったのか、誰一人エイクに近づけない。無属性が使える魔導士は外の陽動隊の相手をしている。別動隊の精霊軍も奇襲を開始した。エイクに構っている暇と人はそろそろなくなる。もう少しだ。
ようやく、本番が始まったなぁ、という感じです。あっさりとまず一人目の確保は完了したので次は上にいるエイクさんをサクッと奪還できるといいなぁ、と思います。
次回、『降霊数え歌』
グロ注意なやつです。苦手な人はお気をつけください。
星明さん達が大活躍する話です。