ⅬⅩⅩⅢ 決戦編_5
『だから僕は、私は、そう決意した』
どちらも、助けることを誓った。
それから、4日。同じように少しだけ進軍しながら渡り者を大陸へ移し、作戦の確認を行ってきた。ついに今夜で全ての渡り者は大陸に移る。
今は最後の作戦会議だ。突入のルートはこの場所がいいとか、見張りが少ない、とか。居住区で囚われている渡り者の有志達がまとめてくれた資料も元に判断していく。
突入作戦は午前2時に決行で、夜明けまでにけりをつけるつもりだ。仲間の兵士や精霊軍、無属性達には陽動や闇の道化師の捕縛の役目がそれぞれ与えられているが、カイの役目は兄・エイクとサヤ姫という渡り者の少女の救出だ。ヤズメの報告では渡り者の有志の代表が救出を頼んできたという。
テイマは、サヤ姫がどのような少女であるか知らないため、彼が大陸へ渡ってからサヤ姫が囚われたことになる。エイクからの情報では、光の入らない地下牢に鎖で繋がれて囚われているらしい。何らかの能力を持っており、闇の道化師達からは警戒されているがゆえの措置だという。
一人地下牢に囚われて、そのうえ鎖で繋がれているという扱いをうら若き女性が受けている、この事実にカイは怒りで震えた。カイだけでなく、カルラもキュリアもその話を聞いた誰もが怒った。特に怒ったのはラツィオだ。絶対に助け出す、と息巻いている。
「ラツィオはね、騎士団に入って初めての任務で実験台として買われた奴隷の子供達を助けたのよ。でも、救えたのはその場にまだ生きていた子供達だけ。多くの子供が死んでしまったあとだったの。痛ましい事件だったわ……」
こっそりとキュリアがカイとカルラに教える。ラツィオの初任務時と今回の状況は似ている。だからこそラツィオは人質を助け出すことに燃えるし、サヤ姫の自由を奪い拘束している闇の道化師を許さない。
「だから、絶対に助け出してちょうだい。貴方のお兄さんも、そのサヤ姫ちゃんも」
「勿論ですよ、キュリアさん」
カイの答えに満足そうに微笑んで、カイの肩を軽くトントン、と叩く。
以前、ラツィオの初任務の話を聞いたことがあった。カイがギルドに入って初めての大きな依頼を受け、それにあたる前日だ。仕事に不安があったから、聞いてみたのだ。
ラツィオは人体実験をしていたある男を拘束し、その実験台だった子供達を助け出した話をしてくれた。しかし、既に死んでしまった子もいて、全て助けられなかったことを悔やんでいた。
20年以上経ってもラツィオは月に一回、共同墓地へ埋葬された、その救えなかった子供達の冥福を祈りに行っている。カイも連れていってもらったことがあった。
その子供達とサヤ姫が重なるのだ。今度こそ、人質の命がある内に助けたい、とラツィオは思っているのだ。
「テイマ、そのサヤ姫さんの場所ってどの辺りかわかる?」
「ちょっと待ってね」
テイマにエイクと交信してもらう。更に自身でもどの辺りかを大地を通じて探索する。大地を城の形に隆起させ土で模型を作り、一部を切り取って道筋を示しながらテイマは説明する。
「だいたいこの辺りだよ。でも、一本道だからこの道で行くしかないみたい」
「見張りがいた場合、戦闘は避けられないね」
「うん。あとはどれだけ見張りがいるかだね。厳重に隔離されていたら見張りは一人なんてことはないと思うな。最低でも二人はいると思う」
最低で二人。もしかしたらもっといるかもしれない。奴等との戦闘はなるべく最小限にしたいところだ。遭遇する度に戦闘していては時間も労力もかかる。
「さくっと魔法か物理で眠らせちゃう? それか僕が勝手に内部を貫通させて無理矢理道を作る、とか」
城の多くは石を使って建てられていることが多い。この城も地下の方は元々そこにあった岩盤を掘って利用しているらしいので、テイマの土を操る特性が生かされる。テイマが好きに道を作ってもいいのだが、その時の岩盤が動く音で周りから敵を集めやすいかもしれない。陽動で動く筈の皆の方へ敵が行かないのはだめだ。
「まぁ、認識阻害の魔法か眠らせるとかの手段があれば静かに対処できそうだよね。後は……そうだねぇ。例えば敵から身ぐるみ剥いで中に潜入とかさ」
「テイマ、君はたまに恐ろしいことを言うよね」
敵の装束は黒いローブと道化師の仮面だ。手近な敵から奪い取って潜入すればどうにかなる。道中魔法を使ったり戦闘したりする労力は必要ないかもしれない。敵が使っているものをそっくりそのまま奪えば入れ替わることもできる。喋りさえしなければバレない筈だ。何より、敵と同じ格好なら堂々と歩いていても怪しまれないし問題ない。
「……奪っちゃうか」
「カイ君もだーいぶ僕に毒されてきたよね~」
苦笑しながらも否定しないテイマはいい子だと思う。こうして作戦会議をするのも楽しいし、一緒にいて落ち着くというか、当然、というか。
「あら、護衛の私抜きで作戦会議なんていい度胸してるわね、緑野郎」
「ごめんて、カルラ姉。それと口悪いよ?」
勝手に始めていた作戦会議に出遅れて仲間外れにされた気分のカルラ。口が悪いのは怒っているときだ。カルラはカルラでやらなきゃいけない会議に参加していたのだから遅れても仕方ないのだ。別にあえて仲間外れにしたわけじゃない。
カルラはキュリアやラツィオから、カイを緊急脱出させる際の場所の最終確認をしていたのだから。万が一の大役だ。その話は絶対にしておかなければいけないとこだ。彼女はカイの最強の盾の役目なのだから。
「まぁいいわよ。カイを守るのは私だし」
マウントをとって自尊心を回復させたカルラも作戦会議に加わる。そして、不思議そうな顔で辺りを見回す。
「あら、エルバは?」
「エルバは陽動隊に配属だって」
「まぁ、彼の速度は戦場を引っ掻き回すには最適だからね〜」
一緒に戦ってきた仲間がここで離ればなれになるのは寂しい。しかし、彼の力をいかした役目を与えられたのだから頑張ってほしいし、思う存分その力を振るってほしい。そのためにエルバは速度と威力をあげたのだから。
潜入組が揃ったところで作戦会議を再開する。あれこれ意見や魔法で対処できる問題などを確認していく。
大まかに流れが決まったところでテイマがなにかに気づいた。
「あ、エルバ君だ。こっちに来るねぇ」
笑顔でこちらに向かってくるエルバを発見したテイマが声をあげて首をかしげる。何かいいことでもあったのだろうか?
「皆様、聞いてください! 私も潜入組になれましたよ!」
嬉しい声を押さえきれずに彼は叫ぶように知らせた。
「ええー!?」
「嘘でしょ!? 貴方、だって、陽動は? その為にイメートと融合までしたんじゃないの?」
何だかんだ言いつつもエルバの実力を認めているカルラが一番驚いている。
確かにカイも驚いたが、それ以上に嬉しかった。この四人で一緒に戦えることが一番嬉しかった。一緒に旅をしてきて、食事をして、いろんなものを見て、そして楽しんだ。だから、エルバが来たことでカイの最後のピースが揃った気がした。
「エルバ、ありがとう。また一緒に戦ってくれるね?」
「もちろんですよ、カイ殿」
もう、これで何も心配することはない。そう思えたからカイは最高の笑顔を仲間に見せた。
エルバがラツィオやキュリア等、作戦を指揮する者達の本部テントへ向かったのは、隊を変更してもらうためだ。
イメートと同化し速度と攻撃の威力を上げた。それはこの最終決戦で役立てるためである。しかし、自分は陽動に出てはならないのだ。カイを渡り者の贄になりそうな場合、彼にイメートとの同化を促さなければならないのだ。
ガナック博士から教えられたカイを贄から除外する方法と、万が一贄になっても自分が風となりカイのそばに死んでも張り付くつもりでいることをラツィオを始めとした作戦隊長らに伝えた。カイを護衛しなければならない。その役目は自分でなければならないと。
勿論、将の者達は驚いていたし、キュリアなんかはひどくショックを受けていて宥めるのが大変だった。魔導賢者として、以前からエルバの戦い方に取り返しのつかない危険と隣り合わせである彼の身を案じていた。自らの身体を風に溶かし、完全に人としての生を終え、風となる彼の行為に反対した。
人でなくなるとしても、この身体はイメートと同化した時に、既に人間の体から魔法の一部へと変わった。今更、風になることにも恐怖はない。慣れ親しんだ風だからこそ、人の体を捨ててもいいと思えた。
そう思うほどに、カイの役に立ちたいのだ。
結果として、エルバは陽動隊から潜入隊へと配属を変えることができた。陽動の将は残念がり、キュリアは更に彼の体を心配した。恐れていた事態にならないように願うばかりだ。
ただ二人、エルバの背を押してくれたラツィオとエルバの祖国・リーゲルト公国の将。彼らは大役を果たしてくれと、彼の意志を尊重してくれた。
だから彼は走った。ようやく祖国以外で見つけた、自分の全てを捧げてもいいと思える人の元へ。
「皆様、聞いてください! 私も潜入組になれましたよ!」
キュリアとラツィオの関係は外伝『若き騎士と死にたがり』の方をぜひご一読ください。
次回、『作戦開始で鞘を取る』
いよいよ、最終章らしくなってきました。しかし、あとどれくらいで最終回にいけるのか……。王道の展開、できればUBWのような、そんな展開を目指したい、んですけどね。なるべくハッピーにはしたいなぁ……。




