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IMATE  作者: 風雅雪夜
決戦編
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ⅬⅩⅩⅡ 決戦編_4

「盲目は目が効かん代わりに耳がいいのだ」

 と星明は言った。



『竜の目は色々見えて、人は色々感じ取る』



 竜の子モデルのイメートと異世界から来た盲目の僧が出会うとどうなるか。

【side:Yazume】


 一方その頃、渡り者の居住区近くで待機していたヤズメは居住区から何者かが出てくるのを発見した。


 竜の子供をモデルとしたヤズメは対象との距離がかなり離れていても、その目で姿を捉えることができる。また、魔力も見ることができるので生物でなくても魔法の痕跡なんかも探すことができる。

 そんなサポートに適した目を活かすために、渡り者を保護する役目の無属性の魔導士と行動を共にしているのだ。


 そして問題の居住区から出てきた人物。居住区から来るということは、連絡で聞いていた例の内通者だろうか。無属性魔導士隊の代表である女に声をかけて知らせる。



「人が来た」

「例の渡り者でしょうか」



 その問いの答えを確かなものにするべく、ヤズメは遠くから近づくその人物を眺める。

 背はあまり高くない。頭髪のない頭。格好は、確か僧侶と呼ばれる大陸の東側にある聖職者に近い服装をしている。腰は少々曲がりかけている。杖をついているから足腰が悪いのだろうか。歩く速度はかなりゆっくりめだ。こちらから行った方が彼の負担が減りそうだから、こちらから向かうべきだろう。



「テイマは何と言っていた?」

「変わった服装をした盲目の男だと」

「盲目? ……杖はそれか。なら、あの人で合っているだろう」



 人のサポートをするイメートとして、ここでじっとしているのは性に合わない。彼の元へ向かうことにして、愛用の長刀を掴みヤズメは大きく跳躍した。



「ヤズメ殿!?」



 一緒にいた無属性のジャーディアンも後を追う。

 向かってくる男も音に気づき顔を上げる。目に巻かれた黒いはちまきのような物の奥にある瞳は世界を映さない。しかし、こちらを確実に見ているようだ。姿が見えないため警戒しているようで動きは先程より慎重になっている。

 そして、両者がそれぞれ近づき、ついに対面した。だが、ヤズメは男に近づくに連れて、彼の異様さに驚く。



「(何だこの男。なぜ生きているのに死霊が近くにまとわりついているんだ? それにこの香りは一体……?)」



 ヤズメの目には男の周りを漂う死霊の姿が映っていた。一体や二体ならまぁまだわかる。浮遊霊だとか守護霊だとかそういう感じのがいる者はヤズメが暮らしているィユェージィではそれなりにあることだ。

 だが、10体いるのはおかしい。この数は異常だ。祟ったり呪ったりしているわけではなく、ただ周りにいるだけという様子だ。こちらに危害を加えようとする動きは無いので、しばらくは放っておいてもいいだろう。攻撃してくるなら斬るが。


 ヤズメは目がいいイメートだから、死霊の姿がわかる。隣の無属性魔導士は騒ぐ様子がない。きっと見えていないのだろう。後でそれとなく訊いてみるとして、今はこの男のことだ。

 僧侶のような格好の初老の男。盲目だからか目は布で目隠しをされている。着ているものは丈夫そうで清潔なので身分のいい人間なのは確かだ。なんとなく雰囲気から人の上で指揮や指導をするような人間のような感じがする。



「儂は第4居住区を仕切っている星明(セイメイ)という。儂は目が見えん。貴殿らは何者か?」

「我々はこの島より遠い異国の地から参りました。モクシュカ・ジャドゥという国の魔導士です。私はミーナ。こちらは護衛のヤズメです」



 星明と名乗った盲目の僧は不思議そうな顔をしながら見えない目でヤズメの方を見る。恐らくヤズメが人間ではないことを感じたからだろう。目は見えないが、目では見えない何かは感じている、そんな感じだ。

 彼もなにか特別な方法で世界を見ている一人かもしれない。何か特別な力があるのだ。そうでなければ、この男の周りの死霊がこんなに多いわけがない。



「これはイメートか。畜生だけでなく人の姿もあるのだな」



 興味深そうに呟く。誰かからイメートを見せてもらったことがあるのだろうか。意思ある魔法、霊とは違う、などとぶつぶつ言っている。


 ヤズメの主のガナックは魔法だけでなくイメートについても研究している。その最中に、イメートのように自らの分身を魔法として召喚するという方法はこの世界特有のものである、と聞いたことを思い出す。

 他の世界では精霊や動物、或いは神と契約する所もあるのだという。この男は、周りに漂う死霊たちと契約しているのだろうか。霊の話は怖がる人が多いのであまり、隣のミーナに話を振らないほうがいいかもしれない。



「すまない。我々の世界にはイメートが無いのでな」



 イメートという存在はやはり気になるようだ。しかし、総領としてやるべきことをするために顔をミーナの方へ向けた。



「貴殿らにこれを渡せば他の地区の渡り者を島の外に逃がすことかできると内通者に言われた。これがその区域の地図だ」

「お預かりします」



 ミーナが丁重に折り畳まれた紙を受け取った。これを基に渡り者達の移送を開始していく。なるべく城から遠い区域から移送していく予定だ。城の奴らの目の届きにくい場所からこっそりと、静かに。



「城の中に儂らの姫が囚われている。姫様も頼む。姫様は、もう何年も奴らに囚われたままだ」



 星明は言う。

 ヤズメは城の方を睨む。ヤズメは睨むことで隠された様子を知ることができる力も有する。欠点としてはその際、少々気性が荒くなるが。


 閑話休題。

 城に他の人間と違う魔力が三つある。

 一つはとても巨大な魔力だ。地下だがそんなに深い位置ではない場所。これがきっと魔王という魔道具だ。ガナックの推定よりも随分と浅い位置にある。想定よりも浅い。これはすぐに報告するべき案件だ。

 次に上部と下部の方にも人の大きさの魔力がある。この世界の人間とは違う質の魔力だ。このどちらかが姫で、もう一方がカイの兄だ。


 ある程度の場所の目星はついた。キュリアの元にいるテイマに案内を頼んだ方がいいだろう。

 そして、やる仕事がもう一つ増えた。その姫様も救出しなければならない。さらに情報を集めるためヤズメはもっと睨む。


 問題が次から次へと、面倒な。


 と、ヤズメは思った。

 ヤズメの顔は険しくなる。

 だが、居住区のみならずカイの兄を含めた渡り者を魔王の贄にしないように、全ての渡り者をこの島から遠く離れた大陸へと移さなければならない。それは決定事項だ。そして、絶対に守らねばならない(ガナック)から下された命の一つだ。彼から作られたイメートとして逆らうことはできない。



「ヤズメ殿、いかがでしょう?」



 ミーナがヤズメに声をかける。

 見た結果を星明の耳に入らないよう注意しながらミーナに耳打ちして伝える。

 ミーナはすぐに本部のキュリアらに伝える、と待機させていた部隊の方へ戻る。報告や指示は後で聞くとして、この結果をこの目の前の男に伝えるべきだろうか。



「どちらが姫様だ?」

「……聞こえていたんだな」

「盲目は目が効かん代わりに耳がいいのだ」



 目で見えない分の状況を音で判断するしかない星明にとっては、どんな微かな音も耳に入るようになってしまっている。そういう生き方を彼はしてきた。

 これから彼に対する悪口を言うことはないだろうが、どんなに小さな声でも言葉は全て彼に聞こえている。滅多なことを言うものではない、とヤズメは誓う。



「それで?」



 星明が答えを催促する。こういう場合、本当のことを言って安心して自分達に大人しく救助を頼んでくるタイプか、取り戻すために勝手な行動を起こし計画を阻害するタイプかで答え方が変わる。


 ヤズメは星明が後者のタイプに近い気がした。彼らはこの作戦の前座に協力してくれた力ある者達だ。力ある者達は自分達に力があるなら、と独断で動きかねない。特に彼らの場合は人質がいるのだ。動かざるを得ないだろう。

 下手に答えたら城に乗り込んで姫だけを救助しそうだ。今回は渡り者全てをこの島から脱出させなければならない。一人も残してはならない。勝手な行動をとられては困るため、うまく言葉を濁すようにして伝える。



「どちらが尋ね人かはわからない。地下の化け物の魔力が大きすぎて二つの魔力の正確な形が歪む。もっと慎重に調べなければ、貴殿方の姫も渡り者の餌にされかねない状況になるかもしれない。わかったら連絡するから、今はじっと待ってほしい」



 カイの兄・エイクが贄の第一候補だと報告で聞いている。その姫のことについては報告は受けていない。闇の道化師がエイクの他にも用意した贄なのか、テイマの情報が古いか間違っているだけなのか。


 少し脅すような物言いになったが、彼らの動きを牽制しなければ、渡り者全てを大陸へ移せない。彼らだけでなく、彼らの姫も、エイクも、この島に集められている渡り者全てが。

 星明は小さく、むぅ……というような少し考えるような声を漏らす。そして頷き、ヤズメの言葉を受け入れた。とにかく今はまだ動かない。それさえ守ってもらえればこちらが動きやすい。


 ヤズメの仕事は終わった。星明と別れ、その姿を見送りながら彼女はうっかり声に出さぬように注意しながら心の中で思う。口には気を付けなければならない邂逅だった、と。

 そういえば、星明から香っていたあの芳しい、なんとも言えないいい香りは何だったのだろう。お香だったのだろうか。色々謎の多い男だった。

 まぁ、それはともかく、今日はどっと疲れたような気がする。たくさん睨んだのもあるだろう。早く戻り、目を閉じ、眠り、目を休め、明日に備えよう。

 ヤズメは拠点へ急いだ。






【side∶Eyck】


 空は夜の色をしていた。月は昇ったばかりで青白く大地を照らしていた。今日から数日の間、月は一晩中夜を照らす動きをとるらしい。これだけ明るければちょっとやそっとの炎や魔法の光なんかは見過ごされてしまうだろう。実際、遠くを見てもそのような明かりは見えない。



「エイクさん、星明さんが無事に地図を渡したそうですよ」

「そうか。なら今日のうちに少し減るか」



 城から遠い居住区は滅多に城の人間が行かないため、居なくなってもすぐにはバレない。今夜から渡り者達が大陸の方へと少しずつ移動されていく。



「あぁ、今、一区画居なくなりましたね」



 リベリオが言う。

 彼もエイクも魔力の気配探知の方法を身に付けているため人が居なくなったという反応を感じとることができた。

 移動が始まっている。今夜中に全体の5分の1が大陸に渡る。これが多いか少ないか、で言うと微妙なところだ。どのみち全ての渡り者を大陸に移すことを考えるとこれが妥当な数であるような気はする。そもそも、渡り者自体がそんなに多いわけではない。居住区も四区だけ。千人もいないのだから5分の1どころか4分の1居なくなったところでわかりゃしないだろう。



「一番遠い4区は星明さん達がいますからね。あの一門は最後にして、最後の最後に予備戦力として投入しても問題ないでしょう。あの人達、有能ですし」

「サヤ姫のためなら動くだろうな。それまで抑えておけるかが問題だが」

「そこはあちらさんのネゴシエーターの手腕の見せ所ですよ。こちらから指示を出すまでは、あちらさんの方に従うようには言っておいたんで」



 星明、という盲目の僧がどのような思想を持ち、どのような人柄なのかをエイクは知らない。ただ、この城にいる闇の道化師を潰すために力を貸してくれるなら、今はそれでいい。

 贄を誰一人として奴等に渡さない。それができるなら誰とでも手を結ぶ覚悟がある。



「おっ、あちらでおっきな魔力が」



 居住区とは違い平原の方に急に沸いた魔力の反応に思わず目を向ける。テイマの報告によるとカルラという女性がカイを溺愛しているという。風の魔力はきっと彼女なのかもしれない。カイのことになると過激になるようで魔力がよくはね上がる、と聞いている。

 思ったよりも近い位置にいると思うと会えることが嬉しくて、それでもここに来てほしくなくて、相反する二つの感情がぶつかり合う。



「こりゃ、噂のカルラ姐さんって人が弟さん絡みでなんかやってますね。いやぁ~元気でよろしいですねぇ」

「呑気か。下手をしたらこちらから強襲をかけられかるかもしれないんだが。……大丈夫か、そのカルラ姐さんとやらは」



 苦言を呈してしまうのも、弟に確実に会うための作戦が無事に完遂されるまで気が気でないからだ。カイにも会いたい、カイを支えた友や師匠、仲間にも会いたい。この世界を旅してみたいし、元の世界にも帰りたい。




 もっと“生きたい”。




 どうにも欲張ってしまう。

 そのために闇の道化師を早く潰さなければならないし、奴等に自分達の動きを気取られてはいけない。テイマに、魔力の上げすぎには気を付けろ、とこっそり指示を送った。






「もー! エイクから超心配されてますけどー! カルラ姐さんは自重してよ! 向こうにバレちゃうでしょ!?」



 エイクからの心配を伝えるテイマの言葉はごもっともで、反論できなかったカルラはおとなしくテイマのお小言を聞くしかなかった。いつも通り反論していれば保護者(キュリア)が止めに入ることは確定だし、何らかのペナルティを本当に課せられそうで耐えるしかなかったのもあるが。



「(テイマ……この戦いが終わったらシメル)」



 流石に、絞める頃には忘れているだろうし、忙しさやら、なんやらでそんなことができる状況にないだろうが……。

 カルラにそれができたかどうかは、物語が終わったらわかることだろう。

IMATE世界あれそれこれ

星明(セイメイ)……異世界からきた渡り者の一人。第4居住区の長の代理(真の長はサヤ姫という考え)をしている。盲目の僧で目を黒い布で巻いている。耳がとても良いため小さな音でも拾い周りの情報を得ている。ヤズメによると彼の周りには霊が10体浮遊し、とてもいい香りがしている。現段階ではまだ明かすことのできない情報有り。


◆ヤズメ……ガナック博士のイメート。モデルは異世界から渡り者とともに伝わってきた伝説。龍が生んだ九匹の子供のうちの一匹がモデル。しかし、伝承が歪んだり尾鰭がついたりして設定が盛られすぎて大渋滞を起こし、結果、何でもできるハイスペックなイメートになっている。それもこれも、作者が設定を勘違いして間違えたせい。

______________




「ラツィオはね、騎士団に入って初めての任務で実験台として買われた奴隷の子供達を助けたのよ。でも、救えたのはその場にまだ生きていた子供達だけ。……だから、絶対に助け出してちょうだい。貴方のお兄さんも、そのサヤ姫ちゃんも」(キュリア)



 次回、『だから僕は、私は、そう決意した』



 次回は外伝で書いたキュリアとラツィオの過去にちょっとだけ触れます。

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