LⅩⅨ 決戦編_1
いよいよ敵の領地に進攻!
マガズミへ乗り込んで、それからじわりじわりと距離を詰め、闇の道化師を叩いていきますよ!
『進攻開始』
ィユェージィの海岸。
荒波が岩場の岸に何度も強く当たり砕ける。何かに立ち向かうようなその姿を見てカイは遠くを見据える。
この荒ぶる海の向こうには極東魔族特区・マガズミがある。その島国には自分の兄がいて、その兄を贄にしようとする闇の道化師達がいる。更には自分や兄と同じ異世界から来た渡り者が大勢いて、彼らのエネルギーを食らって動く巨大な魔道具・魔王がある。
この暗い海の向こうには恐ろしさと、嫌な驚きと、それから自分が今までに経験しなかった負の感情を起こさせるような出来事が待っているのだろう。それを考えただけでカイは眉間に皺を寄せて睨み、拳を固く握りしめる。
「カイ」
隣に立つカルラが声をかける。彼女の方へ顔を向けると顔を手でグニュグニュと揉まれた。
「ちょっ、カリュリャにゅぇっ、にゃにゅにょっ!?」
「緊張しすぎよ。ガッチガチじゃない。そんなんじゃとっさに動けないわよ。まぁ、奇襲されたら私がすぐに守ってあげるけど」
こんな世界を救うレベルの作戦を緊張するなと言われて緊張しない人は果たしてどのくらいいるのだろうか。特にカイは緊張以外にもいろんな思いを持っている。体が強ばるのも仕方ない。
緊張してるからといって人の顔を無断でもにゅもにゅ、グニュグニュ揉んでいいわけでもないから、カルラには即刻やめてほしい。
「そんなに緊張しなくていいのよ。少なくとも、私は緊張しない。ほら、歴戦の将の人達や、ラツィオ、エルバ、キュリアなんかを見てよ」
自分の周りを見渡せば自分達に気づいた兵士達は微笑んでくれる者もいるし、任せろと胸に拳を当てる者もいる。ラツィオを始めたとした各国の武将は背中に太い芯でもあるようにぶれないで立っている。誰も俺を倒すことなどできないぞ、我々は負けないし返り討ちにしてくれる、という雰囲気だ。威風堂々。強い。
自分はこの人に剣を教わったのだ。この人が自分を育て、認めてくれたのだ。自分が負ける筈がない。だって、この人の弟子なんだから。
「ね? カイは私が近くにいれば貴方は奴等に狙われないし、私が守ることで貴方は存分に戦える。貴方に伸びる魔の手は私が全て弾いてあげる。貴方が存分に戦える環境を作ってあげるわ。だから、安心して貴方は剣を振るいなさい」
最後にぺちん、と軽く両頬を叩かれる。
それを合図に固くなっていた顔が柔らかくなった。心も幾分か軽くなった。
「貴方もよ、テイマ。こういうときは率先してムードメーカーしなさいよ。職務怠慢で訴えるわよ」
多分、テイマの仕事はムードメーカーではないし、訴えるにしてもどこへ、そして誰に訴えるのだろう。カルラなりの冗談なのだろうが、ちょっと今のはパンチが足りなかったと思う。
「え、ごめん。何だって? ちょっとエイクと通信してて聞いてなかったんだけど、緊急?」
「……そうよね、仕事してたわよね。何でもないわ」
パンチが足りないどころか聞いてさえもいなかったという不発だった。しかも彼だけにしかできない仕事をしていたのだ。カルラが冗談を言うという気遣いが効いていない。これはカルラのお姉さんとしての面目が丸潰れである。
トントン、と後ろから肩を叩かれる。
振り返るとキュリアがいた。
「そろそろ行くわよ。過度に緊張はしなくていいけど、適度に緊張感を持って。メンツはそこで取り返しましょ」
ウィンクと共に彼女は所定の場所に戻り、魔力を溜め始める。これからキュリアを始めとした無属性魔導士達が所定の場所へカイ達を空間転移で転送させる。
既に転送させる場所に行った密偵達と一部の無属性魔導士、更にはガナック博士が改良した特性の魔方陣を設置済みで、あとはあちらとこちらで魔力を与えて起動させれば皆が同時に移動できる。船を使わずに即上陸ができるので、時間も労力もあっという間に短縮される。予算もあまりかからない。その分、治療用の医薬品や備品、食料、魔力枯渇を起こしたときの魔水晶、魔道具用の魔水晶に割けるお金が多くなり、装備はとても充実していた。
こんな移動術式や道具を用意して更に作戦まで立案に協力してくれたガナック博士には本当に足を向けて寝られない。この戦いが終わったら彼に栄誉を与えるべきだと思う。歴史に名を刻むくらいの凄い称号とか。
ここに集まったのは魔導士、魔剣士、聖剣士、武将、兵士長、兵士達に精霊達、それから後方支援部隊。戦闘も回復も、それ以外のサポートもできる、バランスがいいメンバー達だ。これで負けるなんてほぼあり得ないから安心しろ、と先程カルラは言いたかった。そう考えるとそんな気がしてくる。先にカイの兄・エイクや渡り者を奪取できれば、この勝負は自分達の勝ち。
「大丈夫。できる!」
そう呟いたとき、出発の合図がかかった。
白い光に包まれて上陸した。目を開けると既に戦場だった。
「なるほど。高めた魔力に引かれてぞろぞろとやって来ちゃったみたいね」
すぐに状況を分析し理解したカルラが迎撃に向かう。既にいくつかの魔法を放っており、守ってくれていた無属性魔導士の援護に回っている。カイも少し遅れて援護のため魔法を放つ。
「ファランクス用意!」
盾と槍を持った兵隊がスクラムを組む。彼らの進路上で魔法を放ったり、防御をしていたりした魔導士や戦士達が慌てて道を開ける。
「突撃ぃー!!」
ゆっくりと進みだした。それを見て今まで広範囲に防御結界を張っていた無属性魔導士が結界を解く。障壁が無くなったことで足止めを食っていた魔物達は魔力を得ようと向かってくる。
魔物は魔力を貪り、食らい、自分の力として得ることで魔物は進化をし、さらに強い魔物となる。突然現れた多くの魔力はまさに彼らにとって格好の餌だ。多少、怪我をしても魔力を得れば回復するのを魔物自身はわかっているので構わず突っ込んでくる。
槍に肉が刺さる音がそこかしこからした。盾に当たり跳ね返された音がした。そして、魔物の断末魔も聞こえた。
「うわー、えぐーい」
「君の方がえぐくない?」
テイマが土を操り投石攻撃をしながら言う。ある意味、テイマの投石攻撃もえぐい方だと思う。握りこぶしよりも少し大きめの石を絶え間なく広範囲に、しかも大量に地面から射出し続けているのだ。
素早い魔物や殻のある硬い魔物はその攻撃を避けられるし耐えられる。しかし、そのような能力のない低級の魔物は逃げ切れなかった。倒れても尚、その攻撃は当たり続ける。痛みが終わらないのだ。そのうち潰れてぐちゃぐちゃの肉塊になるだろう。
「僕はまだ良心的だよ。早い奴や硬い奴には効いてないみたいだし。やろうと思えば巨大な矢じり状に加工したものや、それをさらに細かくして徐々に体を粉微塵にすることだってできるんだから。程よく大きくて重いだけ、まだマシだよ」
そう言われてしまえば良心的と言えるかもしれない。向かってくる魔物を問答無用でばっさばっさと切り伏せる自分の方が容赦なくえぐいのでは、とカイは思ってしまう。
「早かったり硬いやつはちょっとは進化してるやつだから、不利だと思えばその内撤退していくよ。進化してる分、ちょっと賢いから。だから、ほっといて大丈夫だと思うな」
ペチンっといい音がした。テイマの頭をカルラが叩いたのだ。テイマの頭がカクッと上下する。何事か、とテイマが振り返ると、ちょっと怒った目をしたカルラが立っていた。
「何言ってるのよ。上級の魔物作ってどうするの。後々、討伐が面倒じゃない。叩くなら徹底的に叩きなさい。でないと裏切り者って叫ぶわよ」
「殺傷力高めの巨大矢じりの投擲、行っきまーす!!」
そう叫ぶように宣言すると、殺傷能力高めの投石が始まった。
カルラの言うことだけはすぐに聞いてくれる。多分、何か弱味を握られているのだろう。カルラは根に持つと長いからテイマには頑張って耐えてほしい。
それぞれが魔物に対処することで、劣勢だとわかった魔物は一目散に逃げ出し始めた。勿論、一匹たりとも逃がしはしないつもりだ。逃げる魔物を追いかけ回す兵士達の姿が恐ろしい。せめてもの冥福を、とカイは魔物に憐れむことと祈ることしかできなかった。
「合掌」
これから徐々に敵の本拠地に向けてじわりじわりと進攻です。カイ君にはお兄さんと無事に再会してほしいですが、果たして━━━。
ここで敵についておさらいです。
◆闇の道化師
敵。犯罪者や危険人物などが所属する闇ギルド。世界各地で破壊工作やテロなど犯罪を引き起こしている。目的は魔王を復活させて世界をリセットしようとしている。その為に魔王を動かす贄となる異世界から来た者・渡り者を集めている。本拠地は島国である極東魔族特区・マガズミにある古城。地下には魔王が安置されている。城の近くには集めた渡り者達の居住区がある。
◆魔王
古代の魔道具。圧倒的な力でかつて世界中を破壊しほぼリセットしたような状態にした意思ある破壊の魔道具。胸部に渡り者を入れてその魔力を得て動く。現在、贄となる渡り者にカイの兄・エイクを希望している。
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次回、『得た力の代償』
「でないと私はこの世界から消えてしまいます」
読んでいただき、ありがとうございました。




