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IMATE  作者: 風雅雪夜
前夜編
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LⅩⅧ 前夜編_17

『真っ黒な過去とただ一つの希望』


 今回は後半が重い話です。

 その夜は、謎の昏睡事件で眠り続けていた最後の一人が目を覚ました夜だった。

 どれだけ調べても原因が見つからず、医者も科学者もお手上げ状態だ。今は彼らも本拠地の城へ戻って似た症例がないか、得たデータと睨み合い中だ。すべてを知っている者は達成感で思わず笑みがこぼれる。



「いやぁ、うまくいきましたねぇ。まさか、こんな単純な手に翻弄されるとは」

「あぁ。お前向きの仕事だったな」

「ええ。最近の任務の中でも特にやる気の入った任務でしたよ。翻弄、混沌、いい響きです」



 心地よい音楽を聴いたように穏やかに、かつ感動を噛み締めるように男は言う。混沌や予測不可能な事態を作り出し、人がどう動いてくれるかを見るのが好きな男だ。そのための努力も労力も出費も痛くない彼にとって、今回のエイクからの仕事は実にやりがいのあるものだった。

 彼が如何にして仕事を遂行したのか。作戦はこうだ。



①サヤ姫の眠り香を量産し、渡り者の居住区にばれないように設置する。

②居住区の全てを眠らせないように一部を眠らせることで、地域や人に差が出るように見せかけ原因の解明を困難にさせる

③眠らせた後は更に眠りの魔法をかけ更に時間を稼ぎ、香の痕跡を消すために風魔法で香を吹き飛ばす。

④以上の手順で順々に各渡り者の居住区を周り、この昏睡事件を起こす。



 気を付けるべき点は居住区に怪しまれないように侵入すること。この作業を誰にも見られてはならないこと。それから眠り香の効果を更に上げるため、眠りの魔法を使うのに闇属性を、それから眠り香の煙を吹き飛ばすための風を起こすために風属性が使える者がいなければならないということ。これらの条件を満たしていなければならない。


 エイクは渡り者で無属性以外の全ての属性が使えるが城から出ることはできない。

 対して悪友は城の外に出ることができる。過去に無理矢理行わされた無属性化プログラムで全ての属性が使えるようにはなっているため今回の作戦を行うことは勿論可能だ。しかし、そんな悪友でも一人で作業を行うのは骨が折れる。


 そこで手が上がったのはサヤ姫の臣下の者達だった。居住区に住み、且つ居住区間を行き来しても目立たない。更に彼らは彼らの世界での魔法を身に付けていた。死霊魔術や法力などというものだ。力の使い方の基礎が出来ていたため、魔法を教えるのに問題はなく、初歩の魔法なんかたった数十分で使いこなしてしまった。



「サヤさんとこの人達、あれを味方にできたのは本当に良かった。彼らがいなかったら、こんな風に大多数を引っ掻き回して混乱させる、なんてできませんでしたよ。いやぁー、愉快愉快」



 今頃、自分の仲間である闇の道化師の医師、科学者が原因の究明を死に物狂いの必死こいてやっているのに、それを滑稽だと笑う。

 原因は医者や科学者が調べても悪いものは出てこない。更に、人が寝静まった真夜中に作戦が行われているため、目撃者もいない。暗闇に乗じて香を撒き、眠らせ、香を風で吹き飛ばす。目撃者がいたとしても眠らせてしまえば夢や寝ぼけた、で処理される。目に見えない気体を操るのだからばれることはない。もし、何かあったら魔物のせいにしてしまえばいい。夜の見回りをしていたサヤの一門がその魔物を退治した、ということにすればすべて収まる。



「完全犯罪過ぎて笑っちゃいます」

「あぁ、お前はよくやったよ。それに、この活躍のお陰で、渡り者の居住区の地図が手に入った。これをカイに渡せれば被害はグッと減るだろうな」



 全ての居住区の地図がそこにあった。この作戦で得たのは混乱だけではない。エイクにとって一番欲しかったのは、渡り者たちの地図だ。これをカイに渡せば無属性の者が渡り者達を遠く離れた別の場所へ移動してくれる。この島の渡り者は自分とサヤ姫だけになる。そうなれば闇の道化師はエイクを使わざるを得ない状況になる。

 しかし、事がこれからもうまくいくとは限らない。特に、この隣の悪友に関しては。



「さて……お前、闇の道化師のお前は、混沌だとか面白さだとかそういうもののために俺に協力してくれただろう。それに礼を言う。だが、奴等はお前の仲間だろ。……いつかこちらを裏切るなんて真似は、しないだろうな?」



 一番の心配に目を向ける。簡単にあちらへこちらへと傾きそうな男だから、完全に信用できなかった。しかし、この男がいなければこの作戦は完遂しなかったのも事実。協力も何か裏がありそうで、裏切りそうで。それを今でも警戒している。計画を全て知る彼が己の欲のために全てを無に帰すとんでもないことをしでかさないか、それだけが今の不安だ。



「それはそれで面白そうですねぇ」

「お前……」

「でも、私は自由に生きたいからこそ、この世界を壊したいんですよ」



 それをどう捉えていいのか、エイクは答えを出すために考える。

 悪友はその様子を見てへらへらと笑う。身構えるエイクとは反対に完全にリラックスしているように力を抜いていた。



「何から話しましょうか。やっぱり、私が何故こんな風になったか、ですかね?」



 少し酒が入って上機嫌なのだろう。勝手に酒を持ってきて独り占めして、祝杯だと言って飲んでいるのだ。もしかしたら、二度とこんな機会はないのかもしれない。それこそ、今日が最後の日になるかもしれない。なら、最後にこの男の話を聞いてみよう。今まで知ることも知ろうとしなかった悪友の話を。



「……聞こう」



 そして、男は壮大な物語を語り始めるかのように一つ咳払いをして半生を語り始めた。




「ある国にそれはそれは酷い圧政を強いていた王様がいましてね。民には重い労働と重税で、自由はなく大変だったんですよ。そのくせ、やれ子供を作れ、やれ子供を働かせよ、全ての国民よ働けーって感じで。まぁ、実は私の故郷の話なんですけどね。……そんな私も国の命令で親に生まされた一人です。物心つく前から子供も労働させられるんです。私は自由を知りませんでしたが、親なんかは自由を知っているようでしたね。友達と外を走り回り、遊び周り、好きなことをしたり、それが自由だと大人は教えてくれました。いつか国王の手から自由を取り戻すのだと大人達は言っていましたよ。それを見て、私も自由に憧れたものでした。


「ある時、クーデターが起こりましてね。王族は皆殺しで。ようやく国民は自由を得たって喜んでましたよ。これから民主主義の共和国になるのだーって大人達は子供のようにはしゃいでいまして。子供ながらに子供か、と大人にツッコミをいれましたよ。でもですね、そこで見たのは意外なものでしたよ。


「実は外の強い国が自分達に雑用をさせていたんですから。王族は私達国民に雑用をさせることで他の国から私達国民を守っていたんです。守ってくれていた王族を排除し、守るものがいなくなった私達の存在は、世界に喜ばれなかった。自由を求めてそれを掴んだのに、掴んだのは残酷でしたよ。頭のない国はすぐに崩壊して、大きなよその国に編入されました。そして今も、まぁ、前よりはいいですが労働区域に指定され労働者の町になってますよ。


「私は本当の自由がほしいと思いましてね。国だけでなく世界に反抗したかったんですよ。そのためには何をすべきか。ろくな教育を受けることもできなかった私は考えましたよ。そうだ、圧政を敷く為政者を殺そう、って。私は暗殺を生業とすることにしました。クーデターの時に虜になったんです。自由を得た嬉しさと国が混乱していたときに生まれた、あの楽しさや熱を。要人を暗殺すればまたそれが得られるのだと思って。ちょうどクーデター時に雇ったコネクションがありましたしね。


「そんなわけで! 暗殺者デビューいたしまして多くの要人を殺してきましたし、その他多くの人間も殺してきました。依頼でしたからね。それから実績による引き抜きがありまして、今はここ、闇の道化師の幹部の一人というわけです。ご清聴、ありがとうございました」




 立ち上がり芝居がかった仕草でお辞儀をする。それをエイクはただ黙って見ていた。


 この世界は自分のいた世界と違い、そのように圧政だとか、生きるために犯罪者になる、ならざるを得なかった人も、また、自分には想像もできない人生を送ってきた人だっている。いや、自分のいた元の世界だってそういったことはあったのだろう。自分が知らないだけで、自分の知らない所で。

 自分の目の前にいる男がたまたまそういう人間だったということではあるが、それでも、この男が自分の目の前にいて、自分と友人関係にあるという現実が身近になったようで。腹の底からゾッとするようなあの冷たい感覚がした。



「自分の弟を探すためこの世界に単身で乗り込み、贄にされて行動を制限されている貴方は、私の過去を思い出す。だからここから解き放たなければならないし、自由をもたらさなくてはならないと思います。今度こそ本当の自由をね」



 自由とは自ら行動せねば得られないものだ。それを彼は知っている。自由のなかった少年時代を過ごした彼が誰よりも自由を愛する心を持っている。



「まぁ、自分の欲のために人を殺してきた私が言うなって話ですが、だからこそなんですよね。私は、貴方に協力するんですよ」



 なんとなくわかった。

 彼が本当に求めているのは、自分を含めた周りの人間も自由に楽しく生きていること、だと。自由と享楽を謳ってはいるが、それを自分だけでなく世界レベルで求めているのだと。

 ただ、ここではその為の方法と手段が求めていたものとは反対だった。多くを殺して、その中で残された少ないもの達を自由にすること、また多くを“生”という概念や肉体といったしがらみから解放するという、自分の願いとは反対の形で叶うような状況に気づいたとき、彼はどれ程絶望して歪んで堕ちて、狂ってしまったか。

 それを少しずつ救い、歪みを矯正し、更正させたのはーーー。



「だからね、エイクさん。私は自分の意思で貴方を裏切れないんですよ」



 この男は世間一般では殺人犯、愉快犯、テロリストなどという救いようのない極悪人の部類に入ることはエイクもわかっている。だが、悪人でもそれぞれに信念がある者が多い。根っからの本質も悪人、というわけでもない。暴君であったとされるある王も英雄という側面を持っていた。必ずしも一つの面だけで生きていたわけでない古代の王も数多いる。

 だから、エイクは思う。この男が、本当の極悪人でなくて良かった。まだ、微かでも善性があって良かった、と。



「このリベリオ、貴方が自由を得るまでは貴方の道具です。必ず、貴方を自由にして差し上げますよ」

「楽しみにしてる」



 固い握手を交わして、それからまた酒を煽る。

 明日からは決戦だ。

IMATE世界あれそれこれ


◆リベリオ

 よく出てきている“黒衣の男”とか“愉快犯”とか呼ばれている闇の道化師の幹部。エイクの味方。幹部の中でも要注意人物扱いされている三十路。しかし、魔法の腕は一流で、エイクに魔法、気配の感知の仕方、イメートの製作法、自分達の目的を教えた。

 囚われて自由のないエイクに出会い、彼や自分の求めていたものと違う方へと進む組織を見て反抗することを決める。自分に与えられた仕事に適度に手を抜きつつ予測不可能な事態を呼び込み、あえて問題を起こさせ、それを楽しむようになる。様々な国を渡り歩き情報を集めるのが仕事。

 求めた世界の形は自由と享楽。

 イメートは大きなカラスの姿をした風属性のイメート・スー。


◆スー

 今回は出てこなかったが、石の姿でリベリオの手元にきっといる。

 リベリオのイメートで主とは違い真面目な性格。しかし、諦めるのも早い。主の自由さに振り回される苦労人ならぬ苦労イメート。

 主を乗せて飛べるほど体長が大きい。リベリオを乗せて空を飛んでいることが多い。その大きな翼から繰り出される強風で敵を攻撃する。

 もうどうにでもなーれ、の精神で毎日頑張って、そして壊れる。胃痛が止まらない。




━━━━━━━━━━━━━━

 前夜編はこれで終わりです。次回からは決戦編がスタートです。このIMATEも決戦編が最終章です。カイ君が無事に兄のエイクと会えるのか、最悪の古代魔道具である魔王が起動してしまうのか、謎のお姫様サヤ姫が何を握っているのか……。

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