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IMATE  作者: 風雅雪夜
前夜編
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LⅩⅦ 前夜編_16

『最後の準備は嵐を呼ぶ』


 どんな薬でも用法と用量は守らなければなりません。でないと、あの黒衣の男がハッスルしてきます。


 今回はいつもより、ちょっと短いです。

【side:Eyck】


 城内が騒がしいように思う。

 あちらに意識を飛ばせば、大陸の様子がおかしい、と話す声が聞こえた。また別の方へ飛ばせば、帰らない構成員がいる、と話す声。さらにまた別の方は、モクシュカ・ジャドゥが魔水晶を大量に作って各国に納品している、などという情報も聞こえる。


 もう少し隠密に行動をしてほしかったが、この島の闇の道化師の全てを相手取るとなればテイマとその仲間だけでは足りない。大きな国を味方につけなければ一気に叩くことはできないだろう。しかし、よく後ろ楯を得られたものだ。


 偶然にも弟がウルガルド王国の国家魔導賢者に拾われ、ウルガルド王や聖騎士の寵愛を受けていたこと。テイマが偶然にも弟と出会え、行動を共にすることができたこと。とてもいい縁で全てが繋がっていたから、今に至っている。

 テイマを世界に送り出して正解だった。近く戦争が始まるのだろう。そして、テイマだけでなく弟もやってくる。頼もしく心優しい弟が。

 だが、それを素直に喜べない自分がいる。



「ようやく念願の弟さんとの再会なのに、嬉しくないんですか?」



 サヤ姫がエイクに訪ねる。

 もちろん嬉しくないわけがない。弟を探しに世界を越えた。この世界に弟がいるとわかった時点で救われた気がした。すぐに会いに行きたかった。

 しかし、それは魔王、あの機械の餌の候補が増えたということ。


 カイが見つかる前、闇の道化師と取引をした。

 自分が贄になることを条件に他の渡り者達を贄にしないことを約束させた。しかし、奴らは表面上だけその約束を取り付けたにすぎなかった。裏では渡り者を集め贄の数を増やしていた。それを許してなるものか。



「……なら、どうするんです? 私は何もできませんよ。ここから出て、この枷が外されない限りは、ですけど」



 自分には何ができるだろう。そろそろこの島へ来る筈の弟達にしてやれることはないか。



「簡単ですよ。反抗するんです」



 当然のことのように彼女は言う。

 ほんの少しの時間稼ぎぐらいにはなるだろう。ただ、贄の第一候補である自分が使えないなら他の第二候補を贄としてあの機械の中に据える可能性もある。

 闇の道化師(あいつら)はもう、自分と交わした約束を破った。そしてそれを守らないことが証明されている。

 では、どうやって反抗を、時間稼ぎを行うか。



「じゃあ、流行り病でも起こしてみます? それなら贄の使用を先伸ばしにできますよ」



 そんな簡単に言うが、流行り病をどう起こすというのか。ホイホイとその辺に病は落ちていない。



「タッタラ~ン。おクス」

「やめろ」



 食いぎみに止める。聞いたらいけない気がする。危ない感じのするものを出させるわけにはいかない。そもそも、どこに隠し持っていたのか。懐をなにやら探っていたが、いつも身に付けているのか?



「……冗談ですよ。はい、眠り香。安眠には持ってこいのよく眠れるお香です。在庫がちょっとしかありませんから、レシピ付けときますね。量産お願いしまーす」



 また懐から取り出したそれは香炉と、なにやら紙を糸で縫ったように綴じた本だった。香炉なんてかさ張る物をどこに持っていたのか。しまう場所なんて存在していない筈だ。体のどこにそんなスペースがあるのだ。サヤ姫は小柄だし細いからかさ張るものがあったら誰でもわかる筈だ。そんなに大きな服も着ていない。



「どこにしまっていたかは秘密ですが、特別に教えちゃいますね。……なんと、私の体の中に隠していたんですよ」



 いたずらっぽく笑うサヤ姫と渡された香炉と本を交互に見る。



「……食べたのか?」

「違いますよ。もーぅ、エイクさんったら、もしかして天然さんですか?」

「天然か人工かで言えば……どっちだ?」

「あ、天然さんですね。それもベッタベタの。あとそれは考え出すと難しい問題なので、その辺に置いときましょう」



 そーれ、と放り投げる動作をサヤ姫がする。枷と繋がる鎖がガシャガシャと耳障りな音をたてる。

 彼女だけがこうも厳重に拘束されている理由はわからない。前に悪友に訊いてみたが、あの男でさえ詳しく知らないようだった。しかし、彼女が持つ能力が関係しているらしい。その彼女の力を使って、ここから逃げ出すことも可能なのだろうか。

 贄だとか魔王だとか、そんなこと忘れて弟と暮らしたい、そんな願いを叶えることだって、彼女ならできるのではないか、と期待してしまう。



「残念ながら、私の力でここを逃げ出せたとしても、新たに第二、第三の贄が据えられるだけです。あの人達のやることは変わりませんよ。だから、貴方は逃げるべきではないんです」



 サヤ姫はそう言い放つ。矢のように言葉が刺さった。機械や刃物のように冷たい言葉だったように思う。現実へ、絶望へ引き戻す言葉だ。



「でも、貴方はここにいる私なんかよりも、できることがたーくさんありますよ。ほら、あの人、最近よく来るあの黒い人と一緒にこの島へ来る弟さんの手助けをするんです。それは自由に動ける貴方にしかできないことですよ。何もできない私なんかより、ずーっと、いろいろできるじゃあないですか」



 まだ希望はありますよ。なんて言われて、ようやく目が覚めたように思う。

 怖がっている場合ではない。止まっている場合ではない。できることがあるのなら、やらなければならない。



「さ、行って下さい。時間はあまりないですから。私はせめて時間を作ってあげるだけの意見しか言えません。貴方ならできますよ、きっと」



 最後に優しい言葉がついてきた。そして、牢を出てあの男を探した。



「おや、エイクさん」

「喜べ、お前の大好きなことをするぞ!」




 その後、渡り者の居住区で謎の集団昏睡事件が起こる。原因は不明だが、その症状は最低でも三日三晩眠り続けるが、その後何事もなく活動できる、というものだ。まるで、ただ寝ていただけのようで、起きたら皆スッキリした顔をしていた。そのため、闇の道化師や医者達が余計に混乱することになる。新たな疫病なのか、呪いなのか、魔法なのか。

 あちこちでそれは起こり、昏睡事件騒動はしばらく続いた。その間にエイクは悪友の黒衣の男とカイ達のために城や島に仕掛けを施した。彼らが優位に動けるように。

 昏睡事件は彼らの準備が終わり、カイ達が島に乗り込む前日まで続いた。


 時は来た。

 前夜編も残すところあと1話。

 ようやく、あの黒衣の人の名前も決まって、そのバックストーリーもできて……。ようやくあの人の顔ができたって感じで更に愛着がわきました。




 次回、『真っ黒な過去とただ一つの希望』


━━━「だからね、エイクさん。私は自分の意思で貴方を裏切れないんですよ」


 と、彼は言った。━━━

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