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IMATE  作者: 風雅雪夜
前夜編
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LⅩⅥ 前夜編_15

 化学反応を起こせ。

 楽しいイベントの準備は、楽しく準備していかなきゃ。でなきゃ結果は得られない。つまらなく準備をしたら、適当にしてしまったら、結果は楽しめるのだろうか?

 刃を研いで、磨いて、準備をしよう。


(ツルギ)

 ほぅ、と声を漏らした。それは安心でもあるし感嘆でもある。



「わー、これが私ですか?」

「ええ。上出来ですよ。そっくりじゃないですか」



 姿の同じ瓜二つな少女達。一人はサヤ姫、もう一人はサヤ姫が生み出した自身の分身体(イメート)である。どちらが本物かさえ、見ただけではわからなかった。魔力もそのまま同じで、これなら入れ替わったとしても気づかれないだろう。

 しかし、彼女を唆した男として気になるのは彼女のイメートが魔法を使えるかどうかだ。



「サヤさん、貴女のイメートは魔法が使えるようにはしてあるんですよね?」

「魔法を使う私をイメージしましたから使えるはずなんですけど、ちょっと簡単なやつを試してみましょうか。(ツルギ)ちゃん、お願いしまーす」



 剣と呼ばれたイメートは動かず、首を傾げた。ただ頼まれただけでは何をしていいかわからないらしい。

 その様子を見かねた黒衣の男はサヤに耳打ちをする。



「サヤさん、具体的な指示を与えないと。まだ生まれたばかりなんですから」

「あわわっ、そうでした。ごめんね、剣ちゃん。では、改めて……。剣ちゃん、貴女は私の武器です。魔法を使う武器です。私に代わり、魔法を行使し、武器として戦ってください」



 やることを思い出したようにその瞳は大きく開かれ、やがて彼女の外見は変化した。体が光に包まれ、すぐに弾ける。そこには槍が突き刺さっていた。



「え」



 何故そこに槍が刺さっているのか、その意味がわからず男は思わず声を漏らす。一方、サヤ姫は意味がわかったようで、ほうほう、と頷き感心している。



「なるほどー。槍や薙刀は、銃などの飛び道具を含まなければ最強と言われていますからね。私もあの形は好きですよ」

「いや、そうじゃなくてですね、何で武器に変化するんですか?」



 魔法を使うサヤ姫をイメージして作られた筈なのになぜ武器という形に変化することになったのかがわからない、と男は言いたい。


 魔力を操り、魔法に近いことをやってのけることもできるから、イメートというのは戦闘において先手を取れるのが強みだ。そのイメートの中でも、形を変化させるイメートというのは珍しいものではない。形態変化を経て、更に力を得るものや、全く別の力を行使できるようになるもの、などメリットもある。

 しかし、形態変化というのは先手を取れないというデメリットがある。例えば、カルラのイメート・ナーガのように形態変化で攻撃と防御において使える力が違うものや今の剣の場合だ。戦闘面で使える戦法が増えるのはいいことだが、初速が出ない。形態変化という行程を必ず経なければならないため、どうしても後手に回ってしまう。これが大多数の形態変化型イメートの宿命だ。



「私は攻撃する魔法が使えないんです。でも、攻撃ができない訳じゃない。つまりですね、基本的に魔法で戦うのは剣ちゃんです。私は、武器さえあれば戦えますから、魔法は剣ちゃんに任せるんです。私には私の戦い方がありますから」

「サヤ強い。ワタシは補助具。サヤの力、今ここで出せないだけ」

「こーら。剣ちゃん、まだ私の能力のことは内緒なんですから、言っちゃダメですよ~」



 槍が喋る姿はなかなか不思議である意味ホラーな絵面だ。

 うりうり、と床に突き刺さった槍を小突くサヤ姫。ガシャガシャと拘束している鎖が鳴る。

 サヤ姫が雰囲気を明るくしているものだから忘れがちではあるが、ここは地下牢だ。希望の光すらない牢屋。それでも、イメート・剣ちゃんの誕生とサヤ姫の隠された能力が合わされば……なんて、男は希望を持ってしまう。



「サヤさん、そろそろ私にも貴女の力、教えてくれませんかね?」

「えー、どーしましょ~。教えたら教えたで貴方が面白がりそうな力ですしー、悪用されそうですねー。だから、内緒でーす」

「えぇー? 魔法指導の指導料として、その情報くださいよ。その言い方、ますます興味がわきましたよ。聞きたくて仕方ないですねぇ」



 ニコニコとニヤニヤがぶつかる。どちらも譲る気はない。

 人型に戻った剣は二人を見て、似た者同士で仲がいい、と呑気に思っていた。反りが合う、否、うまが合う、だろうか。生まれてすぐ仲のいい悪友関係を見せつけられる剣の教育上、良いのか悪いのかは、誰がジャッジしてくれるのだろうか。



「ふぁーあ」



 ともかく、剣はあくびを一つかまして勝手にサヤ姫の寝台に上がり込み、眠りに身を任せようと意識の闇へゆっくりと沈んでいく。気づいたサヤ姫や黒衣の男が何か言って剣を石に戻そうとする。

 道具の仕事は使われることだ。出番以外は使われるまで眠る。

 剣は道具だ。戦うための道具、すなわち武器だから普段はあまり必要ない。剣は鞘に納められて普段は眠るのだ。



「おやすみ、剣ちゃん」



 優しく声をかけたサヤの声だけははっきりと聞こえたようで剣は石に戻る直前になんとか表情筋を動かして笑顔を作った後、石に戻った。

 剣を石に戻してからサヤ姫は男に言う。



「今はまだ話せません。けど、最終決戦の時には呼んでください。魔王なんて私が全て、まぁるく納めてあげますから」



 いやに言葉が引っかかる。しかし、彼女の力はきっとそういうものなのだろう。上が極秘にしているのだから、魔王と呼ばれるあの機械を破壊でもしてくれる程の力を持っている筈だ。それほどの力は世界を程よく面白く破壊するのにきっと使える。

 だから男は考え直した。今すぐ知らなくてもいいと。きっとそのうち、それこそ最終決戦の時には見せてくれると言うのだから気長に待っておこう、と。



「デザートは最後に食べたいですものねぇ」

「? 何の話です?」

「そのうち、見せてくれるのでしょ? 貴女の力ってやつを。私の夢を更に輝かせてくれるでしょうから、楽しみにその時を待つということですよ」



 その為に今為すべきことをして準備をしなければならない。どんな物事にも準備は必要だから。求めるのは自由と享楽の世界、そのためなら準備すらも愛しい。

 男はそれまで動き回る。





「……というわけでして、サヤさんはイメートという、魔法でできた自分の分身と言いますか、生物と言いますか、まぁ手足ができました。名を剣というんですがね」



 星明(セイメイ)に語る男。最近、こうして夜中に星明を訪ねてはサヤ姫の話をするようになっていた。それをじっと黙って聞く星明。

 サヤ姫は彼に対して相づちや質問など会話をしてくれる。サヤ姫は牢の中でも明るい。なのにこの星明は、彼女とは違い牢で拘束されているわけでもなく外にいるのに暗い。

 この男の名前の意味は星の光だとサヤ姫から聞いた。暗闇でも行き先を照らす星となるように。それが彼の名の由来だと。ならばもう少し明るい性格であってほしい。名は体を表す、というのだから。



「姫様は恐らく、剣を介して魔法を行使するのだろう。魔法は弾丸、剣は銃、姫様は銃の使用者。その例えならお前もわかるだろう」



 武器を介して魔法を繰り出すならそういう魔法の使い方もあるし、魔力の伝導率のいい武器も存在する。後者はとても高価だが、入手できないわけではない。その辺りのことも事前に教えるべきだったかもしれない、と男は後悔した。



「姫様は魔法とやらと相性が悪いのであろう? しかし、あの方は武器との相性はすこぶるいい。それは我が一団の皆が知っている。あの方は常に武器に触れてきた。武器を使うなら誰にも負けん。どんな武器を掴んだとしても、なまくらであっても、姫様は武器を使った勝負で負けたことなどない」

「常勝の姫ですか。こりゃあ縁起がいい」



 クーデター計画が捗りそうなラッキーガールを手に入れたことで男は高揚する。星明はそんな男に話はまだ終わっていない、と落ち着くように説く。



「つまり、姫様は自分とも、魔法とも相性のいい武器を間に置くことで魔法がようやく行使できるとお考えなのだ。特殊な力を宿す武器もあの方はこれまでにたくさん見てきた。魔力もその特殊な力と似たものがあるのだろう。姫様は賢い。この世界に来てすぐに武器と魔法の関係についてお考えになったはずだ」



 彼のお姫様が拘束される前からそれを考えていたのだとすれば、本当にあの人は油断ならない存在である。ますますサヤ姫がどんな存在なのか男は知りたくなってくる。サヤ姫の重大な秘密、あの隠されている能力がイメート・剣を生み出したことに関係しているようだが、現段階では全く検討もつかない。男にとって未知の能力なのだろうか。



「まぁ、見ておれ。姫様がどのような戦い方をするのか、いずれわかる」

「それまでお預けで? クーデター起こすのにちょっとは知っておきたいんですよね。作戦を練らなきゃなので」

「それでも、儂からは何も言えん。他の者にも言えん。そういう力が働いている」



 それ以上、星明は何も語らなかった。思ったよりも収穫がなかったが、それでも前進はした。男は次に悪友の元へ訪ねてみるつもりだ。彼のイメートから何か聞き出せたら。きっと聞き出せないだろうが、あっちが動きやすいように誘導するくらいはできるだろう。

 破壊する、という行為は悪である。が、悪を破壊し、引っ掻き回し、それに快楽を覚える辺り、自分もまた悪である。流石にこれを善、とは言えない。言い切れない。それでも彼は自由のために生きる。

 自分のやりたいように生きようとする意思は彼に幸運を運んでくるのか。まだ誰にもわからない。

 彼にも、彼の大烏のイメート・スーにも。



「スー、私、この戦いが終わったら本を書きたいんですがね」

「本を?」

「ええ。そうですね……まずは、モクシュカ・ジャドゥのクーデター。タイトルは……『騎士王の革命物語』なんてどうです? 売れると思うんですよね。そんな予感がしてならないんですよ、これ」



 死亡フラグを立てても、この男はなんだかんだで生き残りそうである。

IMATE世界あれそれこれ


(ツルギ)ちゃん

 サヤ姫が自分そっくりに作り出した人型のイメート。魔法を使うサヤ姫をイメージして作られたが、ここで黒衣の男とサヤ姫に認識の齟齬が生じ、剣が形態変化をすることになった。

 人型のイメートではあるが形態変化するイメート。サヤ姫が扱えるように武器の形に瞬時に変化できる。槍や薙刀などの長物の形を好む(サヤ姫が好んでいるため)が、銃や弓、盾などにも変化可能であり自身を媒介して、サヤ姫が発動できない攻撃系の魔法をも発射できるため、サヤ姫の攻撃魔法が使用できない欠点を補えるようになっている。

 ちなみに黒衣の男はサヤ姫そっくりの剣が魔法を普通の人間と同じようにバンバン使う姿を思い描いていた。サヤ姫は星明など一族と家臣らが杖や札などの道具を使っていたのでそれを使って術を行使する自分を思い浮かべていた。


━━━━━━━━━━━━━━


次回、『最後の準備は嵐を呼ぶ』


 薬の用法、用量は守らないといけません。

 そして、自由を掴むための戦いが始まるまであと━━━

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