Ⅶ_エルバ編 3
リーゲルト公国に到着したカイとカルラ。エルバを仲間にと思っていたら、エルバが自分達を仲間と認めないと言い出した。
エルバの態度に怒るカルラはエルバを更正すると彼を追った。ここで問題が起きてはまずい、とカイも二人の後を追う。
エルバは訓練舎で剣を振っていた。
「エルバ様、何故あのようにこれからの仲間を突き放したのですか? 貴方は仲間となる兵にもあのようなことは」
「黙れテスラ。言うな。……私はあの者達を仲間として認めない。誰に何を言われようとも」
また剣を振るう。
彼を補佐し付き従ってきたテスラはエルバのことを誰よりも分かっていた。エレニア公よりも軍の上層部よりも、他の軍人達よりも彼はエルバのことをわかっている。だからこそ、彼らに不安があることを見抜いていた。
「困ります」
「これ以上進むのはどうか」
外が騒がしい。エレニア公だろうか。
「騒がしい。テスラ」
「はい」
見てこい、と言う意味でエルバはテスラの名を呼ぶ。その言葉の意味を理解し、テスラは外に顔を出す。
「何があった」
「テスラ様、実は」
「エルバはどこ?」
カルラがエルバを追ってきたのだ。
「魔導士か」
建物の中からエルバの声が聞こえた。カルラはテスラを力付くで退かすと建物の中に入った。
「探したわ、エルバ」
「何の用だ。剣の邪魔だ。お前達と共に戦う気はない。立ち去」
「勝負しましょう」
エルバの言葉は遮られた。
思わずカルラの顔を見る。
腕を組み、仁王立ちで睨むカルラ。
「何を馬鹿なこ」
「貴方が勝ったら、私達はこの国を去る。貴方の力も借りない」
またも自分の言葉が遮られたことに苛立つが、勝てばメリットはある。
「私が負けたらどうなる?」
「カイに謝れ。そして、共に戦ってもらう」
当初の目的通り旅に出てもらう、ということだ。カイに謝るのは気にくわない。エルバは自分が間違ったことは言っていないし、してもいないと思っている。しかし、勝てばそんなことはしないでいい。それにここで逃げては、やはり最速の剣士も魔導士には勝てない、と相手を思い上がらせてしまう。魔法を唱えるより早くこちらが勝てばいいのだ。
「よかろう」
二人の決闘が開かれる。
「あ、あれー……」
その頃、カイは城内をさ迷っていた。迷子になってしまい、更に元いた応接間さえも分からなくなってしまった。これではカルラとエルバを止めることが出来ない。騒ぎ声も聞こえてこないところを見るとまだ最悪の事態にはなっていない。
落ち着いて、目を閉じ、カイは呪文を唱える。
「吹き抜ける風、自由な風、我が進む道を示したまえ。風の軌跡」
城の外から中を風が吹き抜ける。エントランスから入った風がカイの元へ届くとカイは目を開き、体が感じたその風の足跡を追った。
エントランスにたどり着き、外に出ると、兵士達が皆、同じ方へと走っていく。
「すみません、何かあったんですか?」
目の前を走る兵士達に聞くと一人がカイに来いと合図をした。カイはその男の所まで行くと男は話してくれた。
「エルバ様と女の魔導士が闘技場で決闘だと。女の方から吹っ掛けたらしい。魔導士とエルバ様とのバトルなんて滅多に見られるものじゃねぇから、こうして急いでるんだ」
「何だって!?」
早くしないと大変なことになる。急いでスノウを召喚し、闘技場を目指す。
「闘技場はどっち?」
「あれです。あそこにカルラが」
「急いで、スノウ!」
早く止めないと。
二人は向き合っていた。
「ルールは私か貴方のどちらかが戦闘不能になるか、参ったと言うかで勝敗を決める」
「いいだろう。獲物は?」
「指定はしない。貴方の力を使えばいい。でも、私は一つの属性しか魔法は使わない」
「嘗めたことを。後悔するぞ」
「そっちがね」
テスラに目で合図する。テスラは決闘の開始の合図を出した。
エルバが動いた。素早く動き、相手の喉元に素早く剣を突きつける。それだけで自分の勝利と信じていた。いつも通りの戦法だ。誰もこの自分の動きに着いてこれない。
「(この勝負、もらった!)」
エルバが剣を突きつける。
「何!?」
そこにいたはずのカルラは一瞬にして消えていた。
「ここよ」
エルバの後ろからカルラの声が聞こえた。
「馬鹿な! 速さで私に敵うなど!」
しかし、カルラは一瞬にして自分の背後に回っていた。もう少し自分の速さを上げることにした。
「はぁっ!」
風魔法と光魔法による加速。これで魔導士も避けられない。しかし、またしてもそこにカルラの姿はない。別の場所にいる。
ならば、もっと、と速さを上げて挑むが、カルラの動きを捉えることは出来ない。
「何故だ。私より速いのか。そんな馬鹿なこと」
「教えて上げる。貴方は速い。けれど、いくら速くても貴方は私に傷を付けることも、追い付くことも、姿を捉えることも出来ない」
「黙れ!!」
閃光が縦横無尽に奔る。しかし、エルバがこうして動き回っているということは、カルラを捉えられていないということだ。
戦況を見守る兵士達も、審判のテスラでさえも、この勝負、エルバが負けるのではと、予感していた。
「何故だ。何故あのように、私より速く動ける!」
「貴方は認識を間違えている。確かに私は動いている。けれど、私は現れているだけ。点で動いているの。線で動く貴方には私を負かすことは出来ない」
その言葉の意味を彼は理解した。その言葉を簡潔に言うならば、それはつまり。
「無属性の魔法」
希少属性の魔導士と戦うのはこれが初めてであった。速さで勝負する彼の戦法は時間と空間を操ることが出来るのなら意味を成さない。
「半分正解。答えは」
向かってくるエルバの体が急に止まった。
「なっ!?」
加速し続けていたため、止まったときの衝撃が吐き気が体を襲う。
「い、一体、何が……」
「貴方の体を空間に固定したの。そう、私が使っていたのはずっと空間魔法だったの」
最初からエルバが動いたときにカルラは空間転移を繰り返して攻撃を回避していたのだ。そして今、相手の体を空間に固定し、動きを封じた。
「貴方の負けよ、エルバ」
エルバの戦闘不能でカルラが勝った。
「カイ、スノウ」
上空にいたカイとスノウが降りてくる。
「カルラ姉」
「勝ったわ」
微笑んでカイに言うと、エルバに向き直り約束を果たせ、と言った。
「……私は、自分が間違ったことを言ったと思っていない!」
その言葉にカルラはエルバに殴りかかろうとした。
パシィン!
乾いた音が響いた。
「!……お前何故」
「……カイ、どうしていつも止めるの?」
カイがカルラの拳を止めていた。エルバにはその動きが見えなかった。
「勝負はもう着いたよ、カルラ姉。これ以上何もする必要はないよ」
でも、と食い下がるように言葉を続けようとしたがカルラには続けることが出来なかった。微笑みを浮かべるカイに何も言えなくなってしまった。
「僕は浮かれていたのかもしれない。君にはそう見えたから仲間として認めたくなかった。軍にいると完全に任務を遂行しないといけない。君はそのために、いつも真面目に全力で任務に当たっていた。それはつまり、誰も怪我をしてほしくないからだよね。国や家族や民を守りたかったからだよね」
その言葉にエルバはハッとした。
国を守るため、自分は兄達とは違うやり方で国を守ろうとしていた。同じ道を繰り返しては、守れないと思ったからだ。国を民を仲間を、そして家族を愛していたからこそ守りたかった。
「君は誰よりも優しくて自分に厳しい人で穏やかな生活を送りたかった、って僕は思うんだ」
彼は理解している。さっき会ったばかりの人間なのに、何故、こんなにも、理解しているのか。
自分を理解する人間など現れないと思っていた。家族にも理解されなかったこの考え。誰にも理解されない、そう思っていたのに。
「君は、一体何者だ?」
エルバが問う。その言葉に彼は一言で返した。
「魔剣士のカイです」
カルラは不機嫌だった。
国に滞在し、町を見ていたときは良かった。王都にはない様々な魔道具が見られたし、見たことのない食べ物に出会えた時の顔はとても楽しそうだった。今日はリーゲルト公国を発ち、次は南方の国へ向かう。ということはだ。
「カイ殿、私が貴殿らに本当に着いていってもいいのですか?」
「うん。だって、元々君を迎えに来たんだから、寧ろ来てくれないと困るよ」
原因はこれである。
あの戦い以降、エルバは大人しくなった。丸くなった。そして、カイのあとについて回る。カイを師と仰ぐように。カイに懐くのはいい。しかし、それが少し前まで敵意を見せていた相手だからこそ、彼女はエルバを許せない。
「カルラ姉、怒らないで」
「無理ね。私、エルバが嫌いなの。手のひら返したように心変わりするなんて、そういう奴、大っ嫌い」
「仲間なんだから、ね? 仲良くしようよ?」
しかし、カイを困らせるのも彼女は嫌いだ。
「カイがそう言うのなら、仕方ないわ。一応仲間として見る。でも、次にカイに反抗的な態度を取ったら、燃やしてやる」
ビシッと人差し指をエルバに向けて宣言するカルラ。見送りに来ている公爵一家や部下のテスラや軍人達が皆、複雑そうな顔で苦笑している。カイはその場でごめんなさい、と大声で叫びたかった。
「エルバ、風邪を引かないようにね」
公爵婦人がエルバを抱き締めた。
「はい、母上」
また、エルバを失うことを恐れているその体を優しく包む。
自分はここにいる、生きて帰る。
今、彼は良き理解者と誰よりも強い仲間を得たのだ。そして、心の安らぎを久しぶりに感じた。だからこそ、またこの地に戻ってくる。
「行ってきます」
敬礼したエルバは南の壁門を出た。振り向かず、その足取りはしっかりしていた。
「なーんだ、やっぱりエルバが目的だったんじゃないか」
壁門から出てくる三人を何者かが見ていた。
「南方だっけ? 僕も行かないとね」
その人物は頭からパラパラと崩れた。土でできた体はサラサラと風化し砂と化してまた大地へと戻っていく。何者かがカイ達の後をつける。
それをまだ、カイ達は知らずに旅立つ。
IMATE世界あれそれこれ
魔法編
◆『吹き抜ける風、自由な風、我が進む道を示したまえ。風の軌跡』
風属性の魔法。風が通った道を感じて道を知る魔法。風が届くと風が通った場所イメージも同時に伝わり、使用者にしか見えない痕跡が残るため、迷いにくい。
◆加速魔法
エルバが使用。風属性と光属性の魔法の混合。光の早さと風の早さで自身の速度を上げる。速度を上げて移動すると黄緑の光が軌跡として数秒残る。詠唱不明。
◆転移魔法
カルラが使用。無属性の空間魔法。対象をある地点から別の地点へと移動させる魔法。欠点として自分の見たことのある土地にしか移動することができないため、1度その土地にいかないと使えない。詠唱不明。
◆固定
カルラが使用。無属性の空間魔法。対象を空間に固定し、動きを封じる。詠唱不明。
_________________
ありがとうございました。




