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IMATE  作者: 風雅雪夜
前夜編
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LⅩⅤ 前夜編_14

 皇子だって、戦士。

 戦うときは全力で。

 覚悟はいいか? 彼はできてる。


『戦う意志』

 カイ達は王宮の会議室へと集められていた。

 カイを始め、カルラ、キュリア、ラツィオ、アルス帝国の魔導兵長クリスタル、魔導国家モクシュカ・ジャドゥの長リティカ、精霊を率いるフェルゴ、リーゲルト公国からは戦士にして皇子エルバと軍隊長、など魔王復活の阻止を協力してくれる国の主要な面々が集まっていた。これだけ各国の兵長や王が一ヶ所に集められているのは他でもなく、準備が整ったということだ。既に多くの兵士戦士達は自国で出陣の時を今か今かと待っている。


 目的地マガズミには既に密偵を放っており、島の様子もある程度わかってきた。島の地形、侵入経路についてはテイマの記憶も頼りに、ある程度目星はついた。密偵曰く、居住区のそばに建つ巨大な城は闇の道化師のアジトで、まるで居住区を監視するかのようだという。密偵の記憶を魔道具と魔法で他の者にも見て貰った。見た目で判断したが大きく増築されている様子はないようだとテイマは言う。しかし、問題は内部だ。土属性の魔法を使えば下に掘り下げ、新たな部屋を増築できる。内部は大きく変わっているかもしれない。


 魔王というのは地下深くで眠ったと言い伝えられている。既にテイマが島を出たときに魔王は完全に発掘されていた。土のドームというより土の繭の中にいる、という感じだったらしい。それはつまり、いつでも魔王を起動させることができるということ。あまり時間がない。

 近くには居住区に住む渡り者達が大勢暮らしている。彼らが贄になってしまう事態は避けたい。スムーズな避難計画も立てなければならない。


 無属性魔導士をどこの国よりも有するモクシュカ・ジャドゥの魔導士達が渡り者の保護、誘導、移動をかってでてくれた。現段階では、無属性魔導士にしか空間魔法の転移は使えない。

 強い精神的ショックを受ければ誰でも無属性が使えるとガナックは言うが、一人一人にそうしていては時間が足りない。立ち直るのにも使いこなすのにも時間がかかる。よって、モクシュカ・ジャドゥを味方につけたことはとても良かった。モクシュカ・ジャドゥが味方するなら、と他国も一つ二つと手を挙げ協力してくれたからだ。

 もうこの国には足を向けて寝られない。




「いよいよ、ですかな?」



 クリスタル・クルツェルト・ウラーノヴァがメンバーを見て問う。この強襲作戦を指揮する大将であるラツィオは頷いた。



「各国の渡り者達は安全な場所に集めた。必要な魔導具も魔水晶も薬も確保済みだ。諸君、あともう一息だ」



 その言葉に背中がぞわぞわとした。背中から緊張が出て、自分自身を覆うように体にまとわりつく。いよいよ戦いが始まるのだと、興奮してくる。カイ自身は戦闘狂ではない。むしろ平和主義者だ。皆には笑って暮らしてほしいし、犯罪や略奪など事件、事故のない平和な毎日であってほしいと願う。命を大事にしてほしいのだ。




 渡り者となってしまい、この世界にたった一人放り出された彼にとって家族の消失は大きな悲しみだった。知らない土地、知らない文化、知らない人。知らないことだらけの世界で、彼は瞬時に自分が一人で生きていくことができないことを理解してしまった。まだ六歳だったカイにとって、この世界に放り出されたことは、死ねと言われて死に場所に連れてこられたも同然だった。

 しかし、ちょうどそこには希望があった。キュリアとカルラが居てくれた。彼女達を始め、ラツィオやウルガルド王が目をかけてくれて。お陰で彼は生きることができた。命拾いをした。一命を取りとめた。




 つまり、何が言いたいかというと、命の恩人である第二の家族を死なせることなく、彼らが心穏やかに安らかに日々の平和を享受できるような、そんな毎日がほしいのだ。助けてもらった恩返しをもっとして喜ばせてやりたいのだ。

 カイは、命の大切さを知っている。だから争うことを好まないのだ。



「カイ、お前は常にカルラと行動しろ。危険だと判断したらすぐに安全なところへ飛べ。カルラ、頼むぞ」

「承知しました」

「拝命します」



 カイは前線に立たせてもらえる。渡り者だから作戦から外すべきだという声も上がったが、兄を助けるという決意は固く、兄を発見次第すぐに後方へ飛ぶということ、無属性魔導士をつけるという条件で参加を許可された。カイの戦闘スタイルも知っていて、長く一緒にいたカルラにしか、カイに着いていくことはできない。カイからしても、カルラが着いていてくれることは心強いし戦いやすい。何より、背中を預ける絶大な安心感がある。


 前線に立つ魔導士や魔剣士、騎士などは三部隊に分けて島の三方向から上陸し進軍する。アサシン達が先見隊として、行く先々でフォローをしてくれる。

 精霊軍もフェルゴを始めとした前衛と拠点を守る後衛とに分けてサポートをしてくれる。テイマの話によるとマガズミにも火山があるため、フェルゴのエネルギー切れは起こらないだろうということで、とても気合いが入っている。前回の戦いではテイマとカイのコハクのアシストもあって勝利したが、それをずっと悔しがっていた。今回は島にある火山のエネルギーを最大限にいかして、前回の屈辱を倍にして返してやるそうだ。


 フェルゴも守るべきものがたくさんできた。その守るべきもの達が守れないのは、もうたくさんだ。マガズミで彼の炎が大暴れすることになるだろう。



「カイ殿、私も援護します。兄上殿を必ずお助けいたしましょう」



 エルバもィユェージィのガナックの元で何かを掴んできた。新しい力とやらも得たようで、それを実践で役立てたいようだ。

 闇の道化師を制圧し魔王の復活を阻止することは自分の国を守ることに繋がる。彼は戦士にして皇子だ。彼は外側から国を守ろうと、やりたいことをやろうと必死だ。努力してきたことを今見せるときなのだ。


 ここにいる者達には、皆それぞれの理由がある。戦う理由は違えども、勝てば彼らの未来はどんなものであれ守られる。一枚岩ではないけれど、闇の道化師には負けない。覚悟が違うのだから。未来へ向かう意志がある。そこがカイ達に言える共通点だ。



「我々の目的は魔王復活を阻止することだが、魔王の元へ行くためには闇の道化師や島の凶悪な魔物達との戦闘もある。なるべく力は温存してほしいところだが、やつらも強い。手を抜くなよ。それと、魔王について博士から詳細を説明してもらう」



 ラツィオの言葉の後にすっと立ち上がり資料を回すガナック。部屋を暗くすると、お手製の魔道具を媒介にして闇属性の投影魔法を発動させ、図解つきで説明をする。



「魔王とは、生命体ではありません。動物でもなく、精霊でも、イメートでもない。物体です。僕が今使っている魔道具と同じような魔力をエネルギーとして使用する道具なのです。こちらをご覧ください。今ご覧になっている映像は私が以前、大地の記憶を読み取った時のものです」



 全長約10メートル。翼開長は20メートルを越えているだろう。10メートルの全長よりも大きく長い金属の直線的な翼が六枚。鍵のような突起がたくさんついた長い二つの尾は腕のように自由に動いて世界を壊している。羽の付け根には、それぞれを繋ぐ歪な人の形をした胴体。いやに胸部が大きく、手足はすらりと細長い。

 カイは元の世界でこれに似たものを見たことがあった。テレビでやっていたロボットアニメには、このような人型のロボットが出ていた。だからカイはその知識を久しぶりに引っ張りだして、瞬時に大体の構造を推測した。



「中心部にある人型部分にご注目ください。胸部には贄、つまり渡り者がいます。ここに贄を据えて動力源を得ます。これだけの大きな体、そして飛行するための魔法を使うとなれば多くの魔力が普通なら必要です。当時の渡り者の総数は現在よりも遥かに少なかったことでしょう。貴重な渡り者が一人でも、この魔道機械の魔力を長時間に渡って動かす必要があります。恐らく人を閉じ込めるスペースは小さく、その代わりに魔力増幅装置のようなものを搭載しているのかもしれません。長年研究していた私でも、完全に構造を把握することは叶いませんでした」



 ガナックは説明を終えて、投影していた魔道具のスイッチを切る。にわかにざわざわと会議場から声が聞こえ始める。


 あんなに大きな物体にどう立ち向かえばいいのか、あの金属に傷はつくのか、中で贄となった渡り者を素早く救出できるのか、などなど。聞こえる声は全て不安だ。皆ここまで巨大な敵を相手にしたことがない。さらに言えば敵のその力は世界を壊す程の力だ。自分達の国、家族、仲間が一瞬にして消えてしまうだろう。圧倒的な力の前にどう立ち向かえばいいと言うのか。


 ただ一人を除いて、皆不安であった。

 その一人は不安を打ち消すべく声をあげた。



「魔王を起動させる前に島を制圧すればいいだけの話しです。魔王に贄を与えなければ、魔王は動けない。そうでしょう? 博士」

「あぁ、そうだよ。エルバ、君の言うとおりだ。動力源がなければ動かないんだからね」



 にやっと笑ってガナックはエルバを称える。恐らく二人の中で何らかの策があるのだろう。エルバは頷いてから話し始める。



「これを我が祖国リーゲルト公国やウルガルド王国だけでやれ、と言われればほぼ不可能な作戦です。しかし、我々は一人ではありません。ウルガルド王国だけでなく、アルス帝国、モクシュカ・ジャドゥ、ウラグ帝国、精霊達、そしてここにお集まりの将の皆様の軍隊……。我々には多くの仲間がいて、それぞれに特色があります。歯車が噛み合って時計が動くように、我々の力もそれぞれの場所で噛み合えば、時を平和な未来へ進めることができます」



 項垂れていた代表達の顔が上がってきた。もう一押しとばかりにエルバは続ける。



「今逃げても後で逃げても、死は追ってきます。私は軍人ですから戦う以外の選択肢を持っていません。戦わずして確実に訪れる死を待つより、私は戦って生きる可能性が少しでもあるなら、戦う方を選びます。風のように速く相手方を殲滅する。私には、それしかできません。聖剣士ラツィオ、この剣、貴方の采配でいくらでも振るいましょう」



 エルバは双剣を高く掲げた。剣は風の魔力を帯びて爽やかな優しい風を起こし、会議場内を吹き抜けた。

 それを子供の成長を喜ぶ親のような顔で精霊達を率いるフェルゴがすぐにイフリートの腕を掲げる。次にラツィオ以外のカイを含んだウルガルド王国の者、そしてエルバの父。続いてアルス魔導兵団長クリスタルとモクシュカ・ジャドゥの長リティカ。



「若者ばかりにいい格好させては、ウラグ帝国の名が廃る」

「全くですな。老兵には老兵にしかできないことがありますからな」

「どうせです。最後に足掻いてみましょうか」



 協力する諸国からも武器が上がった。

 やがて全ての国が上がり、ラツィオも大剣を掲げた。



「満場一致と見なす。最後の大戦、各々の力を存分に振るってくれ」



 ようやく、世界がまとまった。カイはそんな気がして嬉しくなった。

 この人達と一緒なら、きっと世界を救える。そして兄も救える。心からそう思えた。

 戦うと決めた時から、その時すでに弱さは捨てている。エルバは自ら城を出て軍隊に入ったときからそうだった筈。多分、エルバは誰よりもメンタル強いし覚悟もあるし、あの有名な三大兄貴のグレイトフルな方の名言も似合うのでは、と思います。

 覚悟を行動で示すって勇気がいるけど、それができる人間って実際どれくらいいるのか。



 次回、『(ツルギ)


 サヤ姫と黒い人の回です。サヤ姫と黒衣の人がタッグを組んだらどうなるのか。爆走とはいかないけど、多分厄介なことになるやつ。


 読んでいただきありがとうございました。

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