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IMATE  作者: 風雅雪夜
前夜編
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LⅩⅣ 前夜編_13

『暗躍するのも楽じゃない』


 胡散臭い男は困ったさん。

 自由と享楽が大好き。その為なら面倒なことも嬉々としてやる人だよ。更に驚きも大好き!

 もっと困ったことに、なんと自由のために起こされるクーデターなんかもだぁい好き。なんならクーデターの種も蒔いちゃうよ。それで暗躍なんかもしちゃうの。愉快犯って呼ぶ人もいるね。そんなだから仲間からも要注意人物扱いされちゃってるよ!

 道のりが遠くてもそれはそれで燃えちゃうの。自由のために動くのって、たぁーのすぃー!!ってけっこう極っちゃってるよ!

 相棒の大きなカラスのイメート君は胃が痛いし、もう疲れちゃって、どうにでもなーれって投げやりになっちゃってるよ! ……ちょっとかわいそう。




 そんな人が真面目に楽しく暗躍するのがこのお話。

 やべー奴ではあるけれど、そんなに悪い奴ではないのは確かです。

【side:黒衣の男(愉快犯)】


 サヤ姫は魔法を知らない。というより、驚くほど魔法と相性が悪い。彼女のもつ能力に原因があるのか、それとも別の要因なのか。彼女に魔法を教える男も匙を投げ出したくなるほどの惨状だった。これでは状況を引っ掻き回すどころではない。彼の目論見が大きく狂うことになる。



「いや、ね……私も驚きなんですよ?」



 サヤ姫がひきつった笑顔で男に向かって言う。いつもの自然な笑顔でないことから、彼女もこの展開は予想していなかったのだろう。

 サヤ姫に魔法を与えて、クーデターを起こし状況を引っ掻き回す。そんな面白そうな状況になりそうなことを逃すわけにはいかない。愉快犯である男はそれを望んでいる。だから、その目標が叶うように仕込みをしている最中なのだが……。




 彼の見立てでは、サヤ姫の魔力は問題ない。魔法を使うことが十分にできるほど、その身に魔力は宿っているし魔素だって周りに集まる。ただ、発動できる魔法に偏りがあるのがいけない。特に戦うことを想定して作られた魔法とはすこぶる相性が悪い。一度は成功し発動したかに見えてもすぐに消えてしまう。拒絶して消えるような消え方ではなく、蝋燭の炎がフッと消されるように揺らいで消える。攻撃直前になってキャンセルされるような。



「うーん……」



 男は人に魔法を教えることはよくあったが、こんな風に魔法の発動しない、途中でキャンセルされるような状態は初めてだ。

 サヤ姫は戦うことを目的としない簡易的な生活魔法など人を傷つける目的ではない魔法が使えるため、完全に魔法が使えないわけではないのはわかる。二度も言うが本当に問題がないのだ。問題があるとしたら、サヤ姫自体に何か問題があるとしか思えない。戦闘系の魔法と相性が悪い、とかそういう問題が。

 男の目標は思った以上に遠い道のりだったようだ。だが、愉快犯としてここで匙を投げるわけにはいかない。男は何とかして今使える魔法でサヤ姫を仕込まなくてはならない。すべては自分の生きる目標、快楽と享楽のために。



「……こうなりゃ、一つしか方法はないですかねぇ」



 ある一つの方法ならまだなんとかなるかもしれない。それに賭けてみる価値はありそうだ。万が一の保険も、ここで掛けておかなければならないし。



「サヤさん、貴女のイメートを作ってそれに攻撃魔法を教え込みましょう」

「そんなことが可能で?」



 自分が使えないものを自分の分身が使えるのか、という疑問も含まれるその声に頷いて答える。



「貴女が、どんな魔法をも自由自在に使う貴女自身をはっきりと思い浮かべればできないわけじゃない。まぁ、確実にそのイメートが成功するという保障もないですが。まぁ、やってみる価値はあるでしょう」



 彼女そっくりに作ればイメートにサヤ姫の身代わりをさせて本体は逃げ隠れることや囮にもできる。また、彼女の護衛や盾役にもなるだろう。作っておいて損はない筈だ。



「御姫さん、イメートを作りましょう。貴女は魔法の使える自分をしっかりと思い描けばいい。私はイメートに必要な道具の準備をしましょう」



 できることはやっておく。最悪、男自身や敵方で誰か気づけばなんとかなる。特にあの分身体やあの弟が気づけば……。聡い彼らのことだ。心配せずとも気づいてくれるはずだ。

 とはいえ、前途多難の魔法授業。どうなるかは誰にも想像ができない。想像ができないからこそ、男はやる気になる。その方が楽しいからだ。

 自由と享楽を。予想外の驚きを。







【side:Eyck】


 サヤ姫が魔法の特訓を始めたことを知ったのはあの男が教えてきたからだ。ちょっと自慢げに。だが疲れたように。危ない橋を渡るのが好きなやつだ、とエイクは思う。

 初日の成果はあまりよくないらしい。人に攻撃する魔法すべてがキャンセルされるなんて初めて見た、とあの男は言う。サヤ姫と交流のある彼に相談に来たようだが、自分も彼女のことについてはよく知らない。

 しょっちゅう彼女の様子を見ていないのだから何も言えないが、彼女の持つ能力が魔法の阻害をしているとしか思えない。その点については意見が一致した。やはり、と男は言う。

 異界には自分達の世界のように魔法のない世界もあれば、この世界のように魔法のある世界もある。ならば、サヤ姫のように攻撃魔法だけ相性が悪いという異界だってあるはずだ。彼女のように特殊な異能力を持つ異界だってあるはずだ。

 彼女の能力や彼女のいた世界を知らないことには何もできないのでは、とエイクは意見する。



「それもそうですね」



 男は少し考えてあることを決めたみたいだ。



「ちょいと4区に行ってきますかねぇ」



 4区。第4居住区のことだ。たしかそこにはサヤ姫の従者らがいるという話だった。ただし、未だにサヤ姫に会えない従者達に捕まれば男は捕虜とされ、人質とされ、そこから自分達がやろうとしていることを闇の道化師に知られてしまう。それだけは避けたい。



「ま、うまくやりますよ。私を誰だとお思いで? 貴方に魔法を教えたのは私ですよ。もうお忘れですか、エイクさん?」



 自信があるようだ。それが、慢心でないことを祈りたい。

 魔法の扱いも、教えるのも、人を手玉にとるのも、操るのも、洞察も。この男は長けているから、エイクは信じたい。

 彼は明日、第4居住区に行くつもりだ。いい結果を持ってきてくれるのが一番いいが……。

 はたして、好転するのか。






「ハッ!」



 何かを受信したようにテイマが声を上げる。それを聞いたカイは彼に何があったのか問う。



「なんかあっちで事態が動く気配がした!」

「すごいことなんだろうけど、フワッとしすぎて3分の1もわからない!」



 そんな会話が遠い異国の地であったという。






【side:Seimei】


 気配がした。そのまま眠ったふりをしながらその気配を見極める。

 自分に敵が多いことは自覚している。どこからか雇われた刺客だろうか。否。それにしては気配を殺すのが下手すぎる。それでも、あまりいいお客人でもなさそうだ。

 こんな夜更けに人の家を訪ねてくるのは、やはり悪い客人だ。それに変わりはない。



「縛」

「のわっ! ぁいてっ!!」



 ドスン、と人の倒れる音が廊下から聞こえた。ついでに痛みを訴える声も。それを確認して布団から出て武器を取り、障子の前に立つ。廊下からは相変わらずもがく音が聞こえるため、賊がそこにいることを知らせている。



「このような夜更けに人様の家へ押し入るのは何奴だ? 貴様の世界ではそれが日常だというのか? 馬鹿者め。そのような常があってよいものか。恥を知れ!」



 侵入者に非難の言葉を浴びせながら障子を開き、その首を胴体から切りはなそうと刃を下に振り下ろす。しかし、手応えはなかった。空を切り、板張りの廊下に刃が突き刺さる。確かにそこにいる場所に刃を振り下ろしたのだ。

 驚くと同時に周りの気配を探る。常闇の中で鍛えた人一倍敏感な音と肌はすぐにそれを捕らえた。

 刃をその方へ振り抜き、そしてーーー、



「むぅ」



 キンッ! と甲高い金属特有の音を発しながら止められた。



「これには理由がありまして。えっと、貴方がせーめーさん?」

「だったらなんだという。この老いぼれを殺しに来たか。恨まれることはよくやったからな」

「貴方は勘違いをしている。私がここを訪ねたのは御姫さんからの御使いですよ」



 御姫さん、その言葉を聞いて殺気を少し引っ込め武器を下ろした。相対する者も不思議な術で作ったであろう盾を下ろして言葉を続ける。



「サヤ姫が貴方に優しくしてやってくれと言っていましたので。それなら、と私は貴方に色々とお土産を持ってきてあげたんですよ」

「その言葉、証拠はあるか?」

「あー、証拠ぉ。……いやぁ、これは私が勝手に出向いただけですし、あの人もそういったものを持っていないみたいですし。そもそもあの牢で持ち物なんて」

「牢? 姫がいったい何をしたというのだ」



 再び殺気を向ければ相手は逃れるように後ろへ後ずさる。



「お上からは彼女が持つ能力がー、ってことしか聞いてないんですって」



 あの力があれば、と思う。彼女がいれば自分達を筆頭に第4居住区は大反乱を起こせる。この島を掌握することも可能だろう。彼女の中にはそれを可能にするほどの多くの力があるのだから。

 この男、どこまで知っているのか。



「貴様ら、いつまで姫を捕らえておくつもりだ。姫様は女子だ。青春という若芽のほんの僅かな一時をいつまで暗くして彼女の生を奪うのだ。姫様とて好きであのような呪いじみた力を有しておるのではない。彼女はただのか弱き乙女だ。はよう返せ」

「呪い……。やっぱり御姫さんが魔法を使えないのは、そいつのせいなんですねぇ」



 この男はサヤ姫に魔法を教えているのだろうか。ならばこの男はサヤ姫の教育係か牢番なのだろう。こいつを懐柔できればサヤ姫の様子がわかるどころか奪還も夢ではない。この男とは争わず、静かな対談をした方が懸命かもしれない。

 そう考え直し星明は来訪者を客としてもてなすことにした。



「入れ。姫様の様子を聞かせい」

「ええ、是非。彼女からも言伝てがありますから」



 ようやく、こちらに運が向いてきたようだ。


 その日は、第4居住区の代表にして僧兵長・星明(セイメイ)が初めて闇の道化師の幹部と対談した記念すべき夜だった。

 実は愉快犯の黒衣の男、未だに名前が決まっていません。だから本文中は彼、男、黒衣の男、愉快犯などで呼ばれているのです。主要人物で名前が無いって……。そのうちいい名前をつけないと、と思いつつもう何年か……。




次回、『戦う意志』


「聖剣士ラツィオ。この剣、貴方の采配でいくらでも振るいましょう」

―――(とある国の第5皇子にして将校の言葉)


 いよいよ決戦準備完了です。

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