LⅩⅢ 前夜編_12
『不安→決意』
ある少年が変わろうとする不安と向き合い、変わろうとする話。
変わることに良いも悪いもない。いい方に変われば良いことだし、悪い方に変われば悪いことだ。つまり、どう変わっていきたいか、どう変わったか、が大事なのではないだろうか。起源。道のり。到達点。この軌跡が良いか悪いか。
なりたいのは何だろう。
「そこに闇がある限り、同等の光もある」
それを言ったのはカイのイメートのクロだ。
クロは闇属性のイメートだ。闇の彼は自分と反対の光を語る。クロいわく、闇は光を拒絶するが求める性質もあるのだという。確かに光がなければ影となる闇は生まれない。旅の途中、いつ聞いたか忘れたが、確かそんなことを言っていた。
「本当は、闇は光と一心同体。けれど、お互いの役割を果たすために対立している。俺は、……本当は仲良くしたいんだ」
その言葉は普段のクロよりもすらすらと出てきていた。言葉が紡がれていく。なのに、それを語る声はいつもよりも暗く、重く、哀愁を感じさせる。そんな闇の言葉にカイは悲しくなってきた。
「闇は光を呑み込めば、ずっと共にあれると思い光を呑み込もうとする。闇は寂しがりで甘えん坊だ。光は逆に優しく、厳しく、そして強い。自分の役割に忠実で、弱い闇を拒絶する。闇を光に変えようとするし、光と闇をよりはっきりとさせ、闇を強くする。つまり、光ってやつは弱いものを強いものにしたいんだ」
クロは俯きながら語る。そして顔をあげてカイを見る。その目は光と闇がぶつかるように震えていた。彼は何を言いたいのだろう。語りたい言葉が有ると、その目はまっすぐにカイだけを見ている。カイは言葉を待った。
「俺がお前と共に歩むことを許さないか?」
選択を間違えられない、そう思った。きっと、答えを間違えたら、クロがいなくなる。何故かカイはそんなことを思った。本能、と言えばいいのか。
叶わぬ理想と夢を押し付けたそれ。お陰で望んだ姿から離れ、反転してしまった。しかし、生まれ落ちてから時を経た今、変わろうとしている。カイが変わらなくてはいけない、そう思ったから。
カルラが大きく変わったことが、カイに大きな影響を与えた。幼い頃からカルラを見てきたのだ。その急激な変化に彼の心は着いていけていなかった。変わり行く世界で自分も変わらねば、と焦る。その焦りをクロは見抜いて、変わるための場を作った。
「お前達はどう思う。答えろ」
クロの命令とも取れる呼び声にイメート達が姿を表す。2番目のイメート、スノウ。3番目のイメート、コハク。4番目のイメート、ルリ。その中でコハクが口を開く。
「あっしは変化ではなく変化するものですからねぃ。自分の姿形を変えるのはお手のものです。しかし、心を変えるのは未体験で。カイさんが変わりたいってんなら、それはいたずら仲間として楽しみでサァ」
愉快そうに笑うコハク。綺麗好きだが、いたずらもこれは好きだった。子供の頃はよくいたずらをして楽しんでいた。だから遠い異国の伝承から化かす存在としてこの狐を作って、共に遊び、よく楽しませて貰った。よき遊び相手で友と言っても差し支えなかった。
「私は、マスターは今のままでもいいと思います。私たちがしっかりサポートしていけば良いんですもの。そのための私ですからね! 今は変わる世界に置いていかれそうな孤独や焦りを抱えているから不安定なんです。急いで変わるのは負担ですよ。流れる水だって、穏やかな方が気持ちが良いです」
と、笑顔で言うのはルリ。彼女は世話焼きで、よく自分の手伝いをしてくれた。水を操る彼女は自分が変わることを急がなくていいと言う。穏やかな性格で優しい彼女だ。今のままでもいいし、支えるのは自分達の役目だと自信をもって言う彼女は本当にサポートに適している。
「カイ」
最後に口を開くのはスノウだ。母親のように自分を見守るものとして生み出した。思慮深く聡明で一番一緒に過ごしたイメートだ。
「私はカイが変わると言うならそれで構いません。私は雪。雪は水と風が生み出した変化しやすいものです。貴方が変わるなら我々も貴方と共に変わります。それに、人生最大の決断というわけでもありませんから気楽に変わったっていいですよ。今、貴方の心が変化に傾いているからこう言いますが。私は貴方を見守ります。これからもずっと、私が消えるまで、ね」
常に自分の決めたことに優しく従って寄り添って見守った白い雌竜は母親のように優しく目を細めた。いつだって彼女は優しく見守ってきた母親のような存在だった。たくさん彼女に甘えてきた。これからもきっとたくさん甘えることになるだろう。彼女はそれでもいいと受け入れるだろうが、いつまでもそうは言っていられない。母親を安心させるようにならなきゃならない。成長とは強さとはそういうことのはずだ。
「クロ、僕が変わることを選べば、君は消えてしまうの?」
「どうだろうな。ただ、要らないと望めば俺は自分から消えるだろうな」
彼はそう言った。
クロは兄の代わりに、自分を守ってくれる兄のようにと望んで生み出した。兄がこの世界にいることがわかった今、クロは自分の役目が終わった、と思っているのだろう。一番変わる必要のあるものは自分だと、そう思っているのだろう。
兄になれなくても、彼は兄の代わりだった。召喚して顕現させた時間は他のイメートよりも遥かに短い。それでもずっと、彼は兄の代わりであろうと心で決めた。彼はとても優しい。そして、人の心の弱さをよく知っている。だって、元は人型のイメートとして生み出すつもりだったのだから。自分のことを誰よりも理解した存在だったのだから。彼は確かに兄の代わりだったのだから。
「クロ、僕は変わるよ」
その言葉にクロは顔をあげたが、同時に悲しそうな目をしていた。だから、そんな目をずっとさせないように言葉を続ける。
「君はもう一人の兄弟で、僕のことを誰よりも知ってる存在なんだ。君を置いて変われない。君は人の心の闇を一番理解した優しい闇だ。だから連れていく」
「ここに、いていいんだな?」
「いてくれなきゃ困る。君だって僕の一部なんだから。勝手にいなくならないで」
いつの間にか掴んでいたクロの手。それは人に近いが人でない手だ。人間ではあり得ない大きな鋭い爪を生やした手だ。言ってしまえば悪魔や怪物、魔物の手だ。その手に生えた爪を恐ろしい、と感じる人が多い。だが、この手はむやみやたらに相手を傷つける手ではない。自分を守る手だ。自分を脅かす闇を切り裂き、皆を導くための道を作る手だ。
「いつかお前が闇に没するときまで、俺はお前を守る闇であり続けることを約束する。飲み込んだ力はお前の力だ」
満足したような声が聞こえた。
目が覚める。すべては夢だったのだろう。それでもカイは自分の心に暖かいものを感じていた。
自分のベッド横のサイドテーブルにふと目をやると、4つの石が淡く光っている。イメートの休眠時の姿だ。その中の黒い闇色の石が微かに白く光っている。イメートの固有の紋章の部分は白い爪痕が刻まれている。それが、ぼんやりと白く光っていて、彼が少しだけ変化したのがわかった。一度、呼び起こし姿を現してもらう。
「カイ」
見た目で変わったところはない。きっと中身や能力面で変化があったのだろう。すぐに確かめてみたいと思ったが、クロがカイの目をそっと覆った。
「今はまだ寝てろ。朝までまだ時間がある。ゆっくりと休んでくれ。俺はいつだってお前のそばにいるんだから」
そっとベッドに横たえられると再び眠気が襲ってきた。闇属性の催眠魔法を使ったのだ、と眠りの海へ向かいながら思った。その魔法を使ったクロの紫の瞳が優しそうに笑っていた。
「おやすみ。いい夢を」
以下、後書き
私だって変わらなければ、とは思っていますが、カイ君のように変われないです。こんなにはっきり、すっぱりと変われる彼は私の理想です。夢でもあります。多分、私は変われないのでしょう……。彼を見るたびに思います。
だから、しばらく彼のことをじっくり考えてみます。カイ君のことをもっと知って、物語を完結させたいです。
勿論、自分のこれからも考えます。人生のこと、今のままでいいのか悪いのか。変えるならどうするのかを。
次回、『暗躍するのは楽じゃない』
敵の方に視点を変えます。主人公の兄・エイクの悪友で自由と享楽と混沌が大好きな困ったあのうさんくさいような黒い人です。裏で動く彼のとある1日です。
お楽しみに。




