LⅩⅠ 前夜編_10
あるお姫様は、ある目的のために異界を訪れ、そして囚われた。彼女の持つ力がある組織の計画を根本から破壊してしまうものだったから。
『サヤ姫一族』
または、愉悦な男とチート姫。
このチートの能力とヒロインさえも食わんとするキャラを与えたことは、本当に反省してる。けど、好きな子なので、活躍させる。
マガズミはいくつかの居住区があり、そこには渡り者が生活している。渡り者は闇の道化師の構成員に発見された後、魔王復活の贄とするためマガズミの居住区へ連れてこられる。城の外に区切られた小さな町のようなその居住区は、様々な文化の建築物がくっつき、積み重なり、ちぐはぐで統一感のない異様な町と化している。
しかし、第4居住区には他の居住区のような異様さは少ない。整備された町人の町が広がり、家々は和の雰囲気で統一感がある。更にどんな宗教を信仰しようが自由。人の出入りは関所によって管理されているが、他所の居住区に住む者も遊びにくることが容易にできる。
閑話休題。
この第4居住区には大きな屋敷がある。木造の装飾が独特なその屋敷は、かつて一人の女を長としていたとある一族の屋敷だ。今、その屋敷の主は不在で、盲目の僧兵が代理を勤めている。
本当の長はこの居住区にいない。彼女は城にいる。
サヤ姫。
それが主の名前だった。
彼女はとある能力を持つため封印されるように城で監禁されている。サヤ姫の持つ能力、サヤ姫に封じられている力が、魔王にとってよくないものなのだ。また、その力を使えば渡り者をまとめ、逆にこの島を掌握し好き放題できる。渡り者達と結託し、島を逆に占領するということさえ容易にできる程の力を持つ。それは使い方によっては易にもなるが、闇の道化師達は毒とした。
今日もサヤ姫は返してもらえなかった。
僧兵は毎日、サヤ姫の返還を求めて城まで出向いているが数年前から門前払いをされてしまい話を聞いてもらえなくなった。
せめて一目だけでも。そして命令を頂ければ、すぐに僧兵は居住区を纏めあげ武装蜂起をする構えだった。
僧兵は何人もの弟子がいた。城へ行っては追い返され、第4居住区を治める傍ら弟子を育てつつ、術を使いサヤ姫になんとか連絡を取ろうと日々を過ごしている。忙しくも、その毎日は徒労で空虚で、結果などはなく、ただ終えるだけの無駄とも思える日々。それをもう10年近く続けている。実になることはない日々をそれだけ続けている。すでに周りも諦めている。しかし、一番の従者である彼は諦めない。諦めることを知らない。
彼女は盲目の僧を人として、大切な戦力として、従者として認めた。すべてにおいて諦めかけた自分に諦めてはならないと言った。今は不毛だとしても、結果がでなくても、諦めてはいけない、と。信じるものは救われる、という言葉があるから、もう少し信じてみよう、と。
敬愛する姫がそう言ったのだ。常に闇にいる彼にとって、彼女は希望の光であった。だから、信じるしかない。一筋の光を追うしかない。
牢屋の明かりが消えきる前に男は来た。
「あら?」
「どーも。ご機嫌如何ですか?」
「日のある内に来たのはいいことだと思いますが、もうすぐ日没ですよ。上の方から怒られません?」
あまり相手を心配していないのだろう。口では心配の言葉を出しているが、声色は相手を心配していない。それでも、男はへらへらと笑って女を怒らない。いつものことだから気にしていないのだろう。
「さっきの質問ですが、今日は退屈しないで済みそうなので、機嫌いいですよ」
「それはよかった」
男が笑う。
相変わらず偽物のような顔でこの男は笑う。まぁ、ないより、表情があって面白いから別にいいのだが。
「で、あの人は何をしようと?」
空気を凍らせるような声はその冷たい温度が感じ取れるようだった。いきなり空気をがらりと変えてしまった声にサヤ姫は大袈裟に反応する。
「まぁ、怖い声」
「ふざけるのも空気を読んだ方がよろしいですよ、姫」
「……エイクさんは闇の道化師に悪意を持ってますよ。だから復讐してやるそうです。方法は考え中みたいでーす」
ガンッ!
「ふざけるのも空気を読めと、言いましたよね」
男は拳を鉄格子に打ち付ける。すごい大きな音がした。手が痛そうだ。けれど、男には手の痛みよりも悪意の方が勝っている。恐らく嫉妬だろう。エイクが彼を頼らずサヤ姫をまず頼り、話をしに来たことが許せないのだろう。
男の嫉妬はなんとやら言ったな、とサヤ姫は思いながら言葉を発する。
「エイクさんは、まだ信用してないみたいです。私も、貴方も。まだ詳細は教えてもらってませんし、方法も手段もまだ本当に考えてないみたいでしたよ。あの人が嘘をつけるような人ですか? この前のは同盟の調印式みたいなものですよ」
「私にとっては貴女も信用するに値しない方ですが、……貴女の人を見る目は確かですからね。その言葉、信じましょう」
「わーい。有難うございます」
男は少し落ち着いたようで鉄格子から手を離した。そして手をさすっていることから、やはり痛かったのだろう。今の自分には何もできないのでそのまま気づかない振りをしてあげよう、と彼女は話題を変える。
「そういえば、うちの一門はどうなってます? エイクさんが接触したそうにしてたんですよね。残念ながら、私はここから出られませんし、状況もわかりませんからね。私としても気になっていたんです」
この男、全く関係ない話題を振ると、それはそれで怒るのでなるべく関連もある話題を振る。全く、この男は面倒くさい人間だ、とサヤ姫は心の内で思う。この男に使われているイメートや部下の人達のことを考えるとかわいそうに思えてくる。大丈夫だろうか。
「あの人、何でしたっけ代表のあの人。ソーリョ、とかいう人でしたっけ?」
「僧侶は職業みたいなものですね。あの人の名前は星明さんですよ。あまり目が見えてないんです。もしかしたら全く見えてないかもしれないです。けど、諦めないで生きることを選択してくれました。だから、優しくしてあげてくださいよ」
へーへい、とやる気のない返事をする男。まぁ、彼が星明に会うことなんてないのだから、優しくすることなんてないだろう。わざわざ彼が会いに行くなんてこともしないだろうし。
「……で、その星明さん、毎日貴女に会わせろって城の入り口まで来てるそうで、門番がいつも返してますね。なかなか、彼も不憫な役回りです」
「まぁ、星明さんとそのやり取りはいつものことですね、きっと。他に何かありません?」
「生憎、第4居住区は平和でしてね。他の居住区のように問題が起こらんで平和ですよ。それもこれも貴女の一族が頑張ってくれてるお陰ですね」
治安維持に務め、力を示し続ける。サヤ姫の家の家訓だ。
サヤ姫の一族は力を求めた。力による統制。サヤ姫が従者を引き連れこの異界へ渡ったのも力を求めてのことだった。新たな力を得るためにこの異界へ渡ってきたのだが、まさかこうして捕まるとは思ってもみなかった。
サヤ姫の一族は中立の位置にある一族だった。力は権力にあるものでも、弱いものにあるのでもなく、その中間、中立にあるもの、としたのがサヤ姫の一族の祖であった。力のあるものはバランスをとらねばならず、世界の均衡を脅かしてはならない、という考えのもと力を求め続け、そして、その力を示し続けてきた。
それは平和のためだ。弱き者は支配と隷属をされず、強き者は支配と隷属をしてはならない。そんな世界で、秩序の中でやることはただ一つ。
調整。
秩序を守るためにその力はある。
サヤ姫もその一族の考えを理解していたし、だからこそこの異界にやって来た。更なる力を得て秩序を守るために。その力を制御する鞘となるために。
「表立って私は動けませんからねぇ。エイクさんの作戦に乗ってやりたいところですが」
「あら、エイクさんみたいに人のイメートを作っちゃえばいいのでは? 出来ないこともないのでしょ? 自分が二人で、もう一人にいろいろやって貰う、とか」
「それじゃあ私が楽しくないじゃないですか。自分でやるのがいいのに。数少ない楽しみをとらないでくださいよ。自分で事態を引っ掻き回す、それが生き甲斐なんですよ。でも、まぁ……そうですねぇ」
少し男は考える。
実はあまり、サヤ姫に接触するのは良くない。エイクに関しては自分が世話役を昔やっていたこともあり、今でも近い位置にいることができるし会うことも許されている。しかし、サヤ姫は別だ。彼女にはただ自分の興味で勝手に近づいただけである。上からはまだ何も言われないが、あまり会いすぎると控えるように言われるだろう。サヤ姫の能力は贄として都合が悪い。だから囚われている。それを自分のような愉快犯の手に渡れば……。そう考えられてしまえば今すぐにでも会うな、という命令が下りそうだ。
サヤ姫と今はこうして問題なく接触できているが、いつ会うなと言われるか。そうなる前に何かしらの意志疎通の手は考えて、そして確立していた方がいい。エイクと同じように魔法を教えてみようか、と考える。
「私に何ができるか知りませんがねぇ。一つ、教えてあげましょう。せいぜいこっそり秘密に使いこなして、うまく状況を引っ掻き回して俺を楽しませてくださいよ?」
「まぁ。それは私が頑張らなきゃいけないやつですね。ご期待に添えればいいですけど」
悪巧みは密かに動き出す。
力のある人は、その力を正しく使う必要がある。権力とか武力とか才能とか。それはわかる。すごいよくわかる。
けれど、力があるから支配するっていう考えはちょっとわからない。支配するっていうのは相手に強制することで、反対や反抗を許さないってことだと思う。やり過ぎて凄惨な事件がよく起こってるから。
強い力を持つってことは自分が強いって証ではあるが、使う人の心とか思想によって善か悪かが変わる。力よりも人の有り様が大事なのでは。
というのを今回の話を書いていて思いました。例えば、イタリアの氷さんとかはどう考えるのか、ちょっと気になりました。
次回、『変わりゆくもの』
「カルラの家族なんて興味しかないじゃない!」(キュリア)
次回のテーマは変化です。




