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IMATE  作者: 風雅雪夜
前夜編
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LⅨ 前夜編_8

『独白と、告白と』


 韻を踏んでるような踏んでいないような、語感は似てるけど意味は似ていない、そんな言葉。

 今回、半分はイメートしか出ません。カイの分身のクロ、カイの兄・エイクの分身のテイマ。ある意味、心と心が今までに秘めていた思いのお話です。

 大地から様々なものが伝わる。それは振動だったり、エネルギーだったり、熱だったり。目に見えない様々なものを教えてくれる。ならば、目に見えないものを感じとり、それを教えてくれるのも土の役目ではないだろうか。



「同調……伸展」



 自分は大地である。大地に接するものは全て自分だ。人も建物も例外なく。



「探索」



 意識を広げろ。



「……七つ半の方向。距離約50」



 キュリアが隣の魔導士に無言で指示を出す。量産されたハンマーを持ってテイマの指示した場所に向かう。少ししてテイマが姿勢を崩した。



「反応、消えたよ」

「お疲れ様」



 テイマに魔力を分けながらカイは労った。ハンマーを持った魔導士も戻ってきた。どれだけ破壊対象の魔方陣からずれていたか、精度はどうかをキュリアに報告している。

 何度か頷いたキュリアはテイマに声をかける。



「かなりいい読みよ。距離はちょっとずれるわね。実際はもうちょっと奥だったわ。どっちかって言うと八時よりだったって報告よ」

「やっぱりダメかぁ。先生の魔導具みたくドンピシャでかっこよく決めたかったんだけどなぁ」



 悔しそうに言う。

 テイマも何か手伝いをしたかったのだ。自分にできることと言えば情報を供給すること、地形を変えること、土から何かを作ることだ。土の力を与えられているのだから自分にも奴らの魔方陣を探知することができるかもしれない、そう考えた彼はキュリアに手伝いを申し出たのだ。だが、そう簡単にはいかず結果は今の通り。


 何度もテストとして試しに探知をさせているが一回も当たらない。微妙にずれてしまう。

 この魔方陣破壊作戦は市街地で行うことも視野に入れているのだが、テイマの探査の制度では足手まといになるかもしれない。それに市街地にはたくさんの人、イメート、それにたくさんの魔法が使われている。テイマが誤って読み取ってしまうかもしれない。



「無理を言ってごめんなさい」

「いいのよ。貴方だってじっとしていられないんでしょ? 何かしたい気持ちはよく伝わったわ。ありがとう」

「……はい」



 カイと同じようにキュリアはテイマの頭を撫でる。結果が出なかったときでもキュリアはこうして頭を撫でてくれる。次はきっと出来る、と。カイもカルラも、そうやってキュリアに支えられてきた。テイマにも、師匠の優しさが伝わるといい。励ましが伝わるといい。


 キュリアは魔導具の成果を報告し改良し、実用化するために研究室へ戻った。城の庭園に移動したカイとテイマは各々の技の使い方を考えていた。

 カイはクロを召喚し共に組手に励んでいる。テイマは大地からの声に耳を傾け魔力を吸収していた。



「僕ね、エイクが渡り者達をまとめてクーデターを起こそうとしているのを知ったから、僕にも何かできたらって思ったんだ」

「兄さんが?」



 クロが組手を止めてテイマの話に耳を傾けている。兄の話はカイだけでなく、クロも気になるのだ。彼からすれば、モデルになった人物だから知りたいと思うのは当然のことなのだろう。



「エイクの耳にも今回の魔方陣のこと入ったみたいでね。彼は自分が贄になるのを条件に他の渡り者には手を出すなっていう契約をしたんだ。それを闇の道化師達は破った」

「僕のように奴らに捕まっていない渡り者を守るため?」

「そうだね。この世界にいるかもしれない君を守るためだね。でも、その契約が破られた今、エイクは今度こそ奴らを見限った。今、島に軟禁されている渡り者を束ねるために渡り者の集団の長に会いに行ってる。どうやら進展があったみたいでいい気分が伝わってくるんだ」



 その気分が自分にも伝わればいいのに、とカイはテイマを羨ましく思う。どうしてテイマにしか伝わらないのか。弟である自分にも伝わればいいのに。



「でも、進展はあっても喜んでばかりいられないみたいでね。まだ交渉は始まったばかりみたい」

「兄さんも、……大変なんだね」

「うん。一番いいのは僕らの作戦開始とエイク達の方のクーデターが同時に起こせればね。そしたら、奴ら大混乱だろうね。一気に制圧できそう」

「そうだね」



 テイマの声がどこか遠く聞こえる。

 あぁ、この気持ちは何だろう。ひどく自分が心の底から望んでいる。これは欲か。とても重く深いところから這い出るような欲だ。


 何故テイマが?

 テイマだけにしか伝わらないの?

 何故、どうして?

 ずるい。

 兄さんと話したいのに、会いたいのに。

 兄さんと繋がるテイマが、ずるい。

 羨ましい。

 憎い。



「カイ」



 その声は静かにカイを現実へ引き戻してくれた。カイの中に沸き上がった負の感情をその声で吹き飛ばしたのはクロだった。

 急に恐ろしくなった。自分にあんな感情があったことが。行きすぎればテイマを攻撃していたかもしれない感情をテイマに抱いたことが、怖かった。

 こわばった顔でクロを見る。彼はいつも通りのすました、表情の乏しい顔をしている。怪訝そうな顔をしていないところを見ると、自分の心の中まではまだ見られていない。



「カイ。喉、渇いた」

「あ、ああ、そうだね」

「俺、厨房を知らない。カイ、頼む」

「わかった。何か飲み物を貰って来るよ」

「ああ」



 クロの助け船に乗ってその場を離れた。それに乗ってなかったらきっと、テイマを攻撃していたかもしれない。ちょっと冷静に、頭を冷やそう。






【side:Kuro】


 カイが居なくなってから俺はテイマの隣に腰を下ろした。



「あれ以上、エイクのことを言えば、俺は、お前を叩き潰すつもりだった」

「……それは、物騒な。穏やかじゃないね」

「俺は、カイの兄に会いたい思いから生まれた。エイクの偽物だ。偽物の前で本物の話をされれば、俺とて容赦はしない」

「……ごめん」



 テイマが謝るが、俺はテイマに謝ってほしいわけではない。

 俺は確かにエイクの偽物だ。生まれたときから知っていた。自分がカイの本当の兄になることはできない。本当にただの代わりで、代替品で、偽物だということが辛かった。

 何故、俺は彼の兄になれないのだろう、と自分を呪った。本物になれない苦しみ、悲しみ、恨み、憎しみ、俺を生んだカイや世界に対する嫌悪、その他言い様のない言葉では表すのが不明な感情に全て押し潰された。この感情を抑え、心を整理するのに時間がかかった。今は気持ちの整理がついて、ようやく彼に対して向き合えるようになった。

 先程のカイの心の中も、俺が過去に経験したものに近い。まだまだ、その負の感情はヒヨコのようで抑えるのには苦労しなかった。


 闇は全てを飲み込む性質をもつ。自分の過去の思いも飲み込んだ。後でカイの感じた思いもそっと飲み込むことにしよう。きっと負の感情を取り去ることなんてエイクにはできないだろう。だから、俺がカイのイメートであってよかった。

 彼のイメートであるという、彼の心だという誰にも侵されることのない、一番近しい存在であることの安心。

 きっと、それはどのイメートも持つ特権であり、どんなときでも主に寄り添える。イメートにとって、これが自慢だと、どのイメートもそう思う筈だ。



「俺は、この世に生まれてきてすぐ、カイを殺そうとした」



 バッ、という音を立てて隣のテイマが俺を見た。

 そりゃ驚くだろう。兄の代わりとして作られた筈のイメートが、主を殺そうとするなんて。



「エイクに会いたいという願い。アイツはエイクに会いたいから、エイクをイメート化して召喚しようとした。なれないものになるようにという願いが込められた俺は絶望した。どうあっても、アイツの願いを叶えることができない。それが、耐えられなかった」



 きっとテイマも覚えがある筈だ。カイを模して作られたイメートであるこいつなら。こいつもカイになりたかったという思いが、願いがきっとどこかにあっただろう。



「それが、カイを殺そうとした理由だ。俺はアイツの兄になれない。だから、殺そうとした。あの頃は俺も小さかったから、キュリアに鎮められたが」



 実はあの直後、気絶しているとカイ達は思っていたが、一時的に思考が飛び、強烈な眠気に襲われ倒れたがまだ意識はあった。その眠り行く意識の中で俺はどうしようもならない思いを受け入れざるを得なかった。

 カイの兄にはなれないが、カイとエイクとの記憶が、兄としての思いを俺に起こさせた。俺はこいつを守らなきゃいけない、兄になれなくとも兄の代わりでいなければいけない、と。兄としての思いは俺を鎮めるのに力を発揮した。



「……そ、それから?」



 テイマが瞳を揺らして問う。あんな過激なことをしたのだ。テイマも気になるのだろう。



「頭を冷やした。ただ、それだけだ。それから、俺は兄になることを諦め、偽物で、カイの兄の代わりになることにした。兄としての思いが俺の中にあるなら、それに従うまで。それでようやく俺は今の俺になることができた」



 ただ、やはり、本物の兄を知るイメートが、その兄の分身が自分の近くにいるのだから気にはなる。ただ、本物の話を聞いていると、自分がいかに偽物であるかを知らされる。偽物でもいいと思った筈の心が闇に堕ちていく気がした。

 存在理由を奪われそうだった。



「僕は」



 テイマが口を開く。



「僕はカイを探すために作られたイメートだから、君とは成り立ちが違うけど。……でも、もし、僕が君と同じようにカイの代わりとしてのイメートだったなら、君と同じようになっていたかもしれない。そう考えると、恐いね。他人事じゃないよ」

「本物だ、偽物だ、等と俺達が言える立場ではない。が、俺はカイのためにあるだけだ。あまり自慢じみたことを言うなよ、小僧。カイの心が曇る」



 それを言われてようやくテイマも気づいたみたいだ。カイの心も僅かながら感知出来るのにその闇に気づかないなんて。

 また、カイの心を曇らせるなら、その時は容赦はしない。



「でも、君って……カイ君居ないときだけ、結構流暢に話すよね」

「兄としての部分が色濃く出て来ようとして、言葉が出ない」

「お兄ちゃん……」

 輪廻転生、という言葉があります。

 仏教では魂は死後に何度も生まれ変わり、再びこの世に戻ってくる、ことを言います。キリスト教はそういう考え方は無いようで、ずっと同じ魂のまま天国と地獄にいる、という考え方なようです。

 たまたま先週、仕事場の方とこういう死後の宗教的考え方について雑談をしました。その時は、宗教ごとに色々な考え方があって面白いね、輪廻転生で違う生き物になってみたい、できることなら地獄で獄卒として働いてみたい、という話で終わりました。でも、今思えば、ちょっとタイムリーといいますか、そういえば次のお話がこんな話だったんですよね。




次回、『精霊に愛されし軍人』


「貴方は死後、輪廻の輪に加わらず、我ら精霊の一つとなるでしょうね」

「……本当のことなのに」


 とある聖霊の言葉より。

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