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IMATE  作者: 風雅雪夜
リーゲルト公国のエルバ編
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Ⅵ_エルバ編2

 リーゲルト公国、到着。エルバ、登場。


 魔王を復活させようとする闇の道化師達の野望を阻止するため旅に出たカイとカルラ。魔王の依り代を奪うことを第一に、闇ギルドの討伐を二に掲げ、仲間を集めるために旅に出た。

 いよいよ西国のリーゲルト公国へ到着する。テイマの言っていた噂が気になるが、エルバとはどんな人なのだろうか。


 後書きに補足あります。

 そろそろリーゲルト公国が近くに見えてくるはずだ。まだ見ぬその国の姿にカイは楽しみにしていた。



「カルラ姉、目的はわかっているんだ。けど僕は今、リーゲルト公国が楽しみで仕方ないよ」

「いいことだと思う。否定しない。カイの初めての外国なんだから」

「ありがとう」



 目の前の山を越えた。すると、高い城壁に囲まれた大きな街が見えた。



「うわぁ」

「これがリーゲルト公国の首都。西を守護する自然要塞。軍事国家の要、ルーパ・シンリプラ」



 自然要塞と言われる所以は国の周りにそびえる高い山脈があるからだ。未だにここを越えて襲いかかってきた国はない。

 首都、ルーパ・シンリプラを厳重に取り囲む高さのある高い壁、中央に建つ城、その周りにある街、その外側には平原や畑などの農村が広がる。まるで、ここだけでも都市国家として成立しそうだ。



「カイ、スノウ、東の壁門が見える? あそこから首都に入るの」



 スノウを壁門の前に着地させ、門番にウルガルド王からの親書と通行許可証を見せる。更に厳選な入国審査をして、ようやく入国できた。



「ウルガルド王国の使者、カルラ様とカイ様とお見受けします。私はエレインと申します。どうぞ、お車へ。城までご案内します」



 優しそうな金髪の青年、エレインに車に乗せられ二人は城へ向かった。車の乗り心地はとてもいい。この車は地を滑るようにして走っている。風魔法を利用し、車への衝撃を大幅に緩和しているのだ。



「この車すごいね。全然揺れないし衝撃もないや。快適だね」

「ウルガルド王国は道がよく整備されていると聞きます。我が国はよく馬や戦車が通るので整備しても道がすぐにゴロゴロとしてしまいます。なので風魔法走行車が開発されたのです」



 親切に説明をするエレイン。



「軍事国家だから、そういう事情があるのね」



 農村部を抜け、街を抜けて、城がもう目の前に建っていた。そのまま車で入り、エントランスで下ろされた。



「カルラ姉、ウルガルド城と作りがずいぶん違うんだね」

「国や文化、習慣が違えば、物の作りは変わってくるわ」

「そっか」



 辺りを見回すカイ。カルラはその様子を黙って見ている。

 扉が開き、城の中へ入ると応接間に通された。そこには椅子に座る壮年の男性とその後ろに若い青年が立っていた。あの青年がエルバなんだ、とカイは思った。



「長旅、ご苦労様でした。私はシュトーレン・エレニア。この国の王です」

「魔剣士のカイです。お初にお目にかかります」

「御機嫌よう、エレニア公。魔導士カルラです。ウルガルド王からの親書をお持ちしました。どうぞ、ご覧ください」



 親書を渡すと椅子に座るように言われ、従う。親書を読み、最近の詳しい状況をエレニア公は頭に入れた。



「確かに。エルバ」

「はい」



 その声は二人の後ろから聞こえた。目の前にいる青年ではなく、エレインが答えたのだ。



「エレイン、貴方がエルバだったの。どんな者か見ておきたかった、ということ?」

「そうだ」



 エルバがエレニア公の隣に立ち、カイ達の方を向いた。



「私がエルバ・エレニアだ」



 エレインに感じた優しさは消えていた。そこには冷たい視線を向けるエルバの姿しかなかった。



「エレニア公、私はこの者を入国したときから監視していました。……魔導士、貴女は自分の手下に何も思わないのか。魔剣士、お前は浮かれている。観光ではないのだ。任務を全うすることに集中しろ。よそ見をするな。注意力に欠ける者も注意をしない者も、私と世界を救う仲間として認めない」



 はっきりと彼は言った。



「取り消せ。カイは手下ではない」



 エルバの言葉を否定する声には怒りが含まれている。カルラはカイが大切だ。弟のような存在であるから、否定され、手下に見られたのが許せないようだ。

 カイはこのまま二人がここで戦うことになったら、と恐れていた。



「エルバ、カイは初めての外国だから落ち着きがないように見えた。でも、私が外の国の様子を色々なものを見ろと教えた。私を悪く言うのはいい。カイを悪く言うのはたとえ誰でも許さない」



 一触即発とはこういうことを言うのだろう。エルバの次の言葉がカルラの逆鱗に触れたらこの部屋は戦場になる。固唾を飲み込むカイ。



「エルバ、止めなさい」



 エレニア公がエルバをたしなめる。すると、彼はフンッと鼻を鳴らして部屋を出ていってしまった。助かったようだ。



「アイツ、一部隊を任される隊長としてどうなの。あの若造め。カイを悪く言うのは許せない。謝りもしないで」



 公爵の前だよ、とカイはカルラを小突く。



「すまないね。カルラ殿、カイ殿。貴方達には悪いことをしてしまった」



 エレニア公は怒らず謝ってきた。



「こちらこそ申し訳ありません。僕の行動が彼を怒らせて、このようなことに。落ち着きがなかったかもしれないです」



 謝るカイにエレニア公は顔を上げるように言った。



「いえ、カイ殿、君は本当に素直でいい子だ。エルバにもその素直さと優しさを分けてほしいものだ」



 エレニア公は寂しそうに笑っていた。



「エルバは、私と妻の間に生まれた五番目の子供で、三番目の末息子です」



 エルバについてエレニア公は語り出した。






 かつて西の大帝国・パルタ帝国のリーゲルト公爵が治めていたこの土地が独立してできたのがこのリーゲルト公国。王はその名残で公爵と呼ばれる。王位は先に生まれた子供から継承権があり、五番目に継承権があるエルバも万が一のために政治学や帝王学といった学習をしていたが、ある時、城から忽然と姿を消してしまう。誘拐の可能性もあり極秘に捜索したが見つからず数年が経った。

 その頃、軍で活躍する青年が将校になるため、就任式の準備で彼に会ったときに初めてエルバが軍にいることが分かったのだ。しかし、彼は城に戻らず軍にいることを選び、それでも連れ戻されないように軍人全員の署名を集め王に提出し、今も軍に在籍しているという。



「呆れた。なんて奴なの。親を心配させて居なくなって、それで軍に入って、連れ戻されないように署名を集めて…我が儘にも限度があるわ」



 すっかりカルラはエルバのことを嫌いになってしまったようだ。



「私達がエルバのことをちゃんと見て構ってやれれば、こんなことにはならなかったのでしょう」



 そう呟くエレニア公にカルラは言った。



「運命なんてなるようになるものよ。今更、ああなるはずだった、こんなことにはならなかった、とか言ったってもう遅いの。なるようにして今の彼になった。でも、過去は変えられなくても、この先は今から変えられる。だから、行ってくる」



 カルラが席を立った。



「どこ行くの?」

「クソガキを更正しに」



 怒りに満ちた声で言われた。エレニア公の前だけど!?



「ハッハッハ! 彼女は頼もしい魔導士だ」



 エレニア公はカルラに全てを委ねたように穏やかであった。それでいいのか、公爵様。そう思ったカイはとにかく今できること、カルラとエルバを止めるために走り出した。



「ごめんなさい。僕、止めてきます!」

IMATE世界あれそれこれ


◆リーゲルト公国……大陸の西に位置している国。旧パルタ帝国の公爵の一人、リーゲルト公爵が治めていた土地が独立してできた。国の大きさはあまり大きくないが、戦に強い。国境はとても高い山脈で越えるのは困難。北、東、南を高い山脈が囲っているので、未だに敵に攻められたことがない。更に首都、ルーパ・シンリプラを高い城壁に囲まれている。まるで都市国家のようでもある。


◆風魔法走行車……馬や戦車が通り道がすぐにごろごろとして道が悪くなるため、快適に道を走るために風魔法を使って移動することを考案した結果生まれた。魔力を車に送ることで風魔法が発動し、風圧で車が地面から浮き、風の推進力で走る。魔力を強く込めれば、空を飛ぶことも、早く進むこともできる。風魔法を使えないものでも動かせる。


◆エルバ・エレニア……リーゲルト公国のエレニア公爵の五番目の子供で、第五王位継承者。軍に属し、神速のエルバの異名を持つ。素早い剣さばきが由来。エレインという偽名を使ってカイ達と接触し、どんな人間かを観察していた。かなり真面目な性格。風属性。


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 読んでいただきありがとうございました。

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