LⅤ 前夜編_4
『助っ人』
困ったときに助けてくれる人。ピンチの大小に関わらず助けがあるのはありがたい。そう、助っ人というのは助けてくれることも大事だが、ありがたい存在であることも大切だ。
どういう人に助けられたいか。
どういう人を助けるか。
どんな人になりたいか。
すべてが決戦に向けて動き出し、各国は兵力を増強している。ここウルガルド王国では軍議が行われた。各国の兵の強みをいかして作戦や配置を考える騎士長や兵長、軍師が数日前から集まっている。あれこれ意見が出ているが、問題が起こり続けているため会議が進まない。ちょっとも進まない会議にラツィオは苛立っていた。
「わからんわけではないが、今は何が大事か考えろ!」
彼はさっきまで行われていた軍議の席でそう叫んだ。
各国の兵力を把握し、作戦を練る最初の段階で渋る国がたくさんあるのだ。兵力の隙をついて他国に攻撃される可能性があるから、兵力を教えたくない。それは自国を守るため、余計な争いを避けるためである。
ラツィオもそれはわかっている。わかっていても、世界が終わればそんなもの隠したって全て無くなるのだ。隠している意味さえ跡形もなく消える。ならば、開示して世界を守ることに使った方がいい。しかし、それができれば苦労しないし、そもそも軍事力など、この世界には必要ないだろう。
「……はぁ」
ラツィオは自らを落ち着ける為、一つ深呼吸をする。
他にも問題は山積みで、更に新しく問題が起こる。
先日、無属性の集まる国、モクシュカ・ジャドゥの全域で闇の道化師による同時多発テロ事件があった。幸いにもかの国の無属性魔導士達のお陰で被害は最小限で抑えられ、復興にも時間はかからなかった。あまり大きな被害が出なかったのは、国の若き主であるリティカ・グレーヴィッチの迅速な判断と擁している無属性魔導士達の行動力があったからだ。
訓練された魔導士、或いは魔法戦士、兵士や武器、道具が十分にあれば何も心配はない。だが、すべての国がモクシュカ・ジャドゥのように無属性魔導士を十分に有しているわけではないし、兵の数も十分にない。
だから、このテロ事件があってから自国の防衛に力を多く割きたい、という国も出てきた。そういう力の弱い国は本作戦に乗り気ではなくなってしまった。いつ自国でテロを起こされるか、そしてそのテロに立ち向かう力を十分に持っていないため、国を守ることができないのでは、と。
それに兵力を他国に開示するというのはその国の弱点も見えてしまう。誰だって自分の弱点は曝したくないし、弱味を握られたくない。
そういう考えの者もいるのも勿論わかっている。それぞれが様々な理由で足並みが揃わない。
解ってる。解ってはいるが世界を守ることができない。平和を脅かされるのは戦好きの戦闘狂でない限り誰だって嫌だ。
わかってはいるのだ。心が許さないだけで、頭ではわかっているのだ。
「おーおー。荒れてるなぁ、アンタ」
「誰だ!?」
突然の自分以外の声に驚いたラツィオは剣を抜き、声の方へと突きつける。突きつけられた人物は驚き大きな目を更に大きく開いて驚いていた。そしてすぐに両手を開いて顔の横へ上げて敵意はないという姿勢をすぐに見せた。
それを一瞥した後、ゆっくりと剣を鞘に納めた。
ラツィオに声をかけたのは赤い髪の青年だった。いつからそこにいたのだろう。そもそも、この青年はどこから来たのだろうか。
ここはウルガルド城で、ラツィオに与えられた部屋だ。ラツィオの執務室に挨拶も無しに入る者はいない。カイやカルラは勿論当然だが、あのほぼ無遠慮、暴風、災害とも言えるキュリアでさえ、入室時にはノックをして入室の許可を取るのだ。
ならば、本当にこの赤髪の青年は一体誰だ。いつ入室したのだろう。
「何者だ?」
「オレは流離いのフレイムダンサー、フェルゴ。只今参上っ! カイの兄ちゃんには世話になったから、兄ちゃんの師匠であるアンタには挨拶しておくべきだと思ってな」
フレイムダンサー・フェルゴ。
彼は自信に満ちた声で叫ぶように名乗った。
フェルゴのことはカイから聞いていた。先月に確かウラグ帝国で別れたと。それで彼は1ヶ月の間に精霊の仲間に協力を仰ぎに各地を回って、仲間を連れてくる、と。彼がここにいるということは戦ってくれる精霊が集まった、ということなのだろうか。
そうであるなら嬉しいが、反対だったら精霊と言えどぶん殴りたい。それくらい今のラツィオには余裕がない。ちょっとの刺激で大暴れしそうである。
「力が足りないってんなら、俺達の力も是非使ってくれよ。今のとこ、安くしとくぜ?」
「精霊の力、というやつか」
「本物の精霊だぜ。俺みたくごちゃ混ぜの紛い物なんかじゃない純粋なやつだ。威力は保証するぜ。絶対アンタの力になる」
「その純粋な力の精霊を集め一纏めにしてくれる時点で、お前は紛い物じゃない。本物の力を持った最高の炎の化身だ」
認める言葉にフェルゴは気を良くしてにっこりと笑った。本当に炎のように温かく笑う奴だ。
この際、精霊でもただの動物でも、奥地に隠れすむという幻獣や獣人でもいい。協力してくれる力がほしかった。全てを動かすのなら、その力があるなら、良い方へと動かしてくれるのなら。
ラツィオは彼らを受け入れた。それには願いや希望、果てには世界の命運がかけられているのだから。
「てなわけで、俺、参上だぜ! 久しぶりだな! 待たせたぜ!」
「相変わらず超元気だね」
カイがフェルゴに会ったのは、フェルゴがラツィオの元に現れた翌朝だった。決めポーズという自称かっこいいポーズで、そのまま微動だにせず会話する彼。その後ろでは無表情で目を細めた、彼が世界中から集めた精霊達が立っている。
フェルゴは変な目で見られていることに恐らく気づいていない。あまり彼の評判を落とすのはよくない。それにせっかく世界のために集まってきてくれたのに離反してしまう。カイはフェルゴの名誉のため、世界の未来のために、彼の自称かっこいいポーズをやめさせた。
それを見た精霊達はカイの方が話がわかりそうだと注目した。カイはその視線に気づき、自己紹介をし、フェルゴの連れてきた仲間を紹介してもらうことにした。
「それで、フェルゴ。いろんな精霊を集めてきたって聞いたけど、具体的にどういう能力か聞いていい?」
「おう! まず、サラマンダー、ノーム、エルフ、ウンディーネの四大精霊だろ。これはもう基本中の基本だな。それから海の向こうに行くって聞いたから海のやつ、セイレーン。なんか飼ってる海獣ももれなく付いてくるらしいぜ。頼もしいな! 武器系にドワーフ。手入れとか武器の量産とかできるぜ。あとは氷系に、お手伝い妖精も。とにかく力のありそうなやつとか、使えそうなやつ借りてきた」
精霊達がそれぞれお辞儀をする。それぞれの種で礼の仕方が違うのも面白い。
きっと武器も常に手入れが必要になるのは確実だろうから鍛冶に強いドワーフが居てくれるとありがたい。それに怪我をしたもの達を癒すには魔力が高いウンディーネやエルフ、身の回りの世話や調理場、掃除などを引き受けてくれるブラウニーがいるのもいい。
攻撃だけじゃなく後方支援にまで手が届くのはとてもありがたかった。フェルゴにしては人選がいい。
「これで一つ、準備ができたろ?」
「うん」
集まった精霊達の顔を見る。順々に、一体ずつ。最後に得意気な顔になっているフェルゴを。やっぱり、フェルゴの顔は見ていると心の底から元気がわいてくる。それに安心した。
戦に必要なパーツが一つ埋まった。それだけでもきっと世界を動かす一手になるはずだ。足並みの揃わない同盟国もこれをきっかけに動いてほしい。
まだ必要なものはたくさんある。それでも、ウルガルドが動いたとなれば他の国も動く筈だ。今のうちに準備を進めておきたい。
ウルガルドが先に行って他国を導く。後からきっと他国はついてくる。そう信じて先に進むことにした。
進む強さ。それはどこにあるのだろうか。
次回、『彼女の自分探し』
今からだって、遅くはないでしょ?
自分を知らなきゃ、なんにもできないんだから。
自分を見つけて変わるのよ。




