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IMATE  作者: 風雅雪夜
前夜編
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LⅣ 前夜編_3

 舞台は極東魔族特区マガズミに一度移る。

 カイの兄のエイクは何を思うのか。


『極東魔族特区マガズミの者達』

【side:Eyck】


 暗い。

 それは当たり前だ。

 ここは地下。進む頼りは魔法で灯した小さな炎の灯りのみ。

 階段を下まで降りれば、そこにあるのは巨大な地下室。その扉を開ければ、そこにあるのは機械でできた大きなもの。


 魔王。


 ここの人間達はそう呼んでいる。だが、彼から言わせれば子供の頃、誰もが一度は目にしたことのある巨大なロボットだ。エイクの世界にはアニメやマンガ、更には特撮等でその存在は誰もが知っている。創作の中だけの物だと思っていたが、それが今、この世界に来てから実物を目にするとは思っても見なかった。


 それは微かな闇の魔力を周囲に漂わせている。

 彼が巨大な地下室に入ったことで、気配を感じたのだろう。魔王は目に光を灯した。



「ヨク来タ、贄」

「俺はお前の贄になる気はないし、魔王の核になるつもりもない」



 彼は魔王に言い放つ。

 それを機械は笑った。



闇の道化師(アヤツラ)ハ、オ前ヲ贄ニスルツモリデ、オ前ヲ今マデ育テタトイウノニ。ソレヲ裏切ルノカ?」

「俺を勝手にこの世界へ連れてきて、勝手に贄にさせようとしてるのはあいつらだ。裏切るも何も、俺はあいつらのことを仲間だと思ったことは一度もない。俺の意思を声を聞かない。お陰でいつも軟禁状態だ」

「ダガ、コノ城ノ中デハ自由ニサセテイル。ハテ、コレハ矛盾デハナイカ? 今、オ前ハ拘束サレテオラズ、コノ城ノ中ヲ歩イテモ誰モオ前ヲ咎メナイ。ソレコソ自由。コノ隙ニ、オ前ハ逃ゲテシマエバイイ」

「何度もやったさ。だが、捕まった」

「ソレデ諦メタカ。……ハッ! 笑エルナァ。悪ニナリキレンイイ子ノヨウナ奴ヨノゥ」



 クククと機械が笑う。

 忌々しい、と男は魔王に踵を返す。



「モウ行クノカ。連レナイ奴ダ」

「お前と話すのはどうもイラついてしょうがない。戻る。それに今日のは宣戦布告だ。贄にならんというな」

「ホゥ。……マァヨイ。貴様ガ俺ノヨイ魔力ノ核トナルノヲ心待チニシテイルゾ、エイク」

「……俺はならない」



 エイクは乱暴に扉を閉めた。

 機械の魔王は久々にやって来た魔力の核の候補を見て笑う。純粋すぎても反抗的すぎてもいかん、と。いつ、彼を自分の中に取り込むことができるだろう。その時にこそ、エイクは核として完成していることを楽しみに、夢に見ながら彼は再び眠りについた。


 その足でエイクは別の場所へと向かう。

 贄の仲間のところだ。島の中の特別な居住区で彼らは暮らしている、飼われているにすぎない彼らの中に自分とはまた違った別格の扱いを受けるものがいる。そのものを訪ねるのだ。

 城に監禁されている彼女の元へ。



「珍しいですね。何かございました?」

「……探していた弟が見つかった」

「おや。おめでとうございます。なら、何かお祝いをしないとですね」



 にこにこと返すのは一人の女。少女のような外見を持った自分よりも少しだけ年上の女。サヤ姫、と彼女は呼ばれている。彼女も渡り者で、とある一族の総領候補の一人だった、と以前彼女が教えてくれた。お付きの護衛や侍女らと共にこの世界へ渡ってきたらしく、この城の居住区に仲間と共に囚われているのだという。しかし、彼女は一人で牢に囚われている。他の渡り者は共に来た時の者達で固まって居住区にいるのに、だ。


 彼女はとある能力を持つため、一人別室で隔離されている。その能力は贄の彼も知らない。彼女に聞いても彼女は教えてくれなかったし、彼女の一族もその力について決して口を開かなかった。



「ふむ。ということは、彼もここへ来るということですね」

「カイは贄にさせない!」

「そういうわけにもいかないでしょう。ここの人達は渡り者をとにかくたくさん欲していますから。いくら貴方の弟だからと言われましても、贄に例外はないと思いますよ?」



 彼女はにこやかに言う。

 彼女は最悪な事を言うときでもこの表情だ。嫌いだ。彼女(こいつ)も、魔王(あいつ)も、闇の道化師達(あいつら)も。

 足が反対方向に動いていた。



「あっ、行っちゃうんですかー? せっかくですし、もうちょっとゆっくりしていってくださいよ。寂しいじゃないですかー」



 聞きたくない。






【side:Saya】


「怒らせてしまいましたねぇ」



 特に悲しそうな声を出すでもなく彼女は淡々と言葉を吐き出す。



「でも、仕方ないですよね。彼は気が立っているんですから。せっかく弟さんが見つかっても、自分のようになってしまうんじゃないかって、怯えてらっしゃいますもん。なんとなくあの態度を見てたらわかりますよね」



 渡り者はこの世界の人間とは違い、無属性が使えない。だが、それ以外の魔法は無属性と同じように使える。

 魔王はこの世界の人間が核になろうとしても、その核になれないのだという。無属性の因子が魔王の邪魔になるらしい。渡り者はこの世界の人間ではないから、無属性の因子もない。だから、贄になれる。

 闇の道化師が魔王を復活させて世界のリセットを目論んでいるが、どうしてそこまでしようとするのかは、まだ彼女にはわからない。



「人はよくわかりませんね。だから面白いとも言えますし、嫌いだとも思えるんですけど」



 自分以外誰もいない部屋で彼女はまた考えて、考えて。そうして眠って一日を終える。また、彼が来てくれればいいなぁ、と思いながら。






【side:Teima】


 世界のどこにいても、僕には主の思いが伝わる。しかし、最近もう一つ、別人の思いを感じることが増えた。主の弟の思いだ。

 それはまっすぐで、優しい、言ってみれば光のイメージだ。隣にいる分それがよく伝わる。不安が消えていくようなそんな感じがする。あんなに心配した秘密を話すことだって、彼は自分を受け入れてくれた。あの時、彼が隣にいなかったら今の自分はなかった。まぁ、彼が居なかったなら、秘密を話すことなんてなかったのだが。


 ただ、その光が少しだけ闇を見せた。まだ陰りのレベルだが。

 カイが光なら、主は闇だ。悲しさ、怒り、嘆き、不愉快、憎しみ……。それら負の感情が伝わることが多い。時たま、少しだけ心が暖かくなるようなそんな思いを感じることがある。一瞬だけのその思いがもっと長く続くように、それを願って、自分に与えられた役目を行ってきた。その役目を達成したとき、彼の心が安らいでくれるように。


 もう、あの時出した手紙は彼の元に届いた筈だ。きっと喜んでくれる。いい感情が伝わってきてくれる。そう信じていた。でも、彼の心が喜びで一杯になることはなかった。手紙が届いた頃に伝わってきたのは、喜びよりも悲しみの方が大きかった。これじゃあまるで、見つからない方がよかったみたいじゃないか。


 自分はカイを探すために生まれてきたのに。

 見つけて喜んでほしかったのに。

 生まれてきたその理由を否定しないで!


 隣で笑うカイと、負の感情を常に送りつけてくる主。兄弟なのにこの違いはなんだろうか。本当に自分は彼らの分身なのか。彼にはわからなくなっていた。



『僕は何のために生まれて、何のために生きるのか?』



 答えを誰も持っていないだろう。人は皆、一生をかけてそれを考えるのだ。答えがあるものなんて人に作られたものだけ。自分もかつてはその答えがわかっていた。知っていた。けれど、光と闇の間で、その答えがわからなくなった。

 彼のように光に包まれていれば、その答えに迷うことはなかっただろう。彼のように闇に染まっていれば、考えることもなかっただろう。

 僕は何のために……。



「テイマ、兄さんは今、どうしてるのかな?」



 隣の彼は遠くを見ながら問う。



「元気だよ、今日もね」



 少なくも苦しい思いはしていない筈だ。苦しさは感じない。少々不機嫌らしく、鈍い痛みのように怒りの感情が伝わってくる。でも、それを僕はカイに言ってやらない。

 僕は人型のイメート。人間をモデルにして作られた。だから、嘘をつく。僕の主は君じゃないから、本当の事を言わないよ。



「そっか」



 目を閉じた彼は祈る。



「待ってて、兄さん。必ず、迎えに行くから」



 思う心が伝わった。大切に思う心、希望の心、光の心。これが主にも伝わればいいのに、と僕は思う。でも、そんな僕の思いも、主には届かない。

 僕は寂しくなった。


 僕は孤独だ。


 でも、それを悟られてはいけない。カイに心配させるなんて命令は僕にはないし、心配させたら主に怒られそうだから。僕に課せられた命令はカイを探すこと。でも、その任務は果たされた。本来だったら僕にもう意味はない。

 けれど、僕は人型のイメート。人と同じように生きることができる。人と同じように願いがある。願いのために自ら動ける。自由に役目に縛られずに動くことができる。

 僕は、カイの敵になりたくなかった。消えたくなかった。望みがあった。生きたいと。僕が生きる限りエイクだって行き続けるから。


 僕は自分が生きるために、主を生かすために、戦うことを決めた。生きていたらきっと、魔王を倒すことができたらきっと、エイクやカイと一緒に生きられる。

 生まれた理由をきっと自分でも認められるだろうから。



「二人が会えるように、僕に出来ることをするよ」

「ありがとう、テイマ」



 カイをエイクに生きて会わせる。

 それが僕の存在する理由だ。

 あちらとこちら、向こう側。

 一枚の岩もいつかは一撃で砕け散る。それがエイクやカイ、或いはサヤ姫だといいですね。


次回、『助っ人』


 心強ーい味方がいるっていうのは、それだけで力になったり、心から強くなったような気になります。実際に強くなったかはさておいて。でも、それっていいことですよね。

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