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IMATE  作者: 風雅雪夜
前夜編
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LⅢ 前夜編_2

『影が射す』


 光があるところには必ず影がある。光が強ければ影もまた強くなり、やがては闇となる。

 それは、人の心も同じこと。

【side:Kai】


 上空に浮かぶカイとスノウ。光の千本剣ルーチェ・ミッレ・グラディウスを放ち、カルラが結界から出てくるのを待つ。背後からの攻撃も想定して後ろにはクロを乗せている。クロが全く反応しないので、後ろにカルラは現れていないことがわかる。ということはまだ、結界で頑張っているのだろう。

 地上には連絡訳としてコハクを待機させている。カルラが動いたらコハクの妖術の一つで知らせることになっている。彼女はすぐに動くはずだ。逃げる用意も迎撃の準備もしておかなければならない。



「かなり追い詰めましたね」

「まだだよスノウ。気を抜かないで。カルラ姉はしつこい。僕が相手でも完膚なきまでに叩き潰すよ、きっと。カルラ姉を越えないと、僕らは兄さんを助けられない」



 助けなければ兄に会えないのだ。それどころか世界を破壊される。助け出したとして、一緒に暮らすことも、どこかへ旅をすることも、元の世界に帰ることも出来ない。



「カルラに私達の力、見せましょう。貴方が貴方の願いを叶えるために。……私達は貴方の力ですから」



 カイの思いに反応してスノウ達イメートの顔つきが変わる。魔力を通して、なんとなく心の変化を感じた。



『カイさん! お嬢が!』



 地上で待機しているコハクがカルラの動きを知らせる。その知らせを受けコハクはカイの背を守るように立ち上がる。スノウはいつでも逃げられるように準備をする。



『消えた!』



 コハクが叫ぶように知らせた。


 来る。

 どこだ?

 どこから来る?


 静まり返る空。

 緊張が支配する場にスノウの羽の羽ばたきの音が唯一聞こえる。しかし、耳のいいスノウとクロだけは違う音を拾った。



「「上!」」



 スノウとクロが同時に声をあげた。

 太陽の中に小さな黒い点が見えた。なんだか近づいてきている。

 その黒い点は、ただの点ではなく、落下物だ。何が落下してきたかなんて、そんなの一つしかない。カルラだ。彼女はカイ達のはるか上空に空間転移をして、そこからカイめがけて突っ込んできたのだ。

 スノウが落下してきたカルラから逃れたため、落下攻撃で直撃を受けることはなかった。

 垂直にすごい勢いで落下していくカルラ。空気を切り裂く衝撃がスノウを襲った。ぐらり、と揺れた。落ちないようにしがみついた時、すぐ下で大きな音がした。土煙が立ち上ぼり、元・闘技場の床は大きな亀裂が入り大地を割っていた。



「相変わらず、無茶な攻撃をしますね。カルラは」

「カルラらしい、と言えば、らしい行動」



 そんな会話の直後、彼女は再びすごい勢いで上空へ飛び上がる。結界を使わないのは再び破られることを見越しているからだろう。だから、空中戦で勝負、ということらしい。戦い方のバリエーションは、ないよりあった方がいい。様々な手段で攻撃してくれた方が練習になる。



「固定はされなくなりましたが、こうも動かれるとカイとしては厄介なのでは?」



 確かに厄介ではある。攻撃も狙いが定まらずに当たりにくい。でも、出来ることはある。



「スノウ、アレをやるよ。カルラ姉の動きを止めよう」

()()、ですね? わかりました」



 スノウはカルラの攻撃を避けるために上空を飛び回った。それがただの回避ではなく攻撃準備である、とカルラがいつ気づくだろうか。

 冷たい吐息が空を覆い尽くそうとしていた。






【side:Carla】


 聞こえるのは風の音。

 風を切る音。風を掴む音。風を蹴る音。風をはらんだ音。風を貫く音。風を弾く音。または風を撃ち込む音。

 びゅう、とも、ごうっ、ともとれる音の中に彼女はいた。



「(結界をまた張ったとしても、張ったところでさっきと同じように破られるわね。何か別の手を考えないと……)」



 空間魔法の結界は、物理攻撃に対しては強い。攻撃が届かない。炎も水も風も地割れだって効果はない。結界というのは、指定した地点の周りの空間を魔素の膜で包み込み固定する。固定された魔素は分子の運動さえ止める。そうすることで、空間魔法の結界は成り立っている。だからこそ火や水などの物理攻撃は結界の前では弱い。

 しかし、光と闇は違う。半分は物理で、半分は概念だ。場合によって結界は光と闇属性の魔法を防ぐことができない。概念寄りの魔法だと結界は概念専用の結界を張った方が防御に有効だ。

 だから、張っても破られる結界なら捨ててしまえ、というのがカルラの考えだった。結界の分の魔力を別の魔法に使うことが出来るし、無属性は他の六属性に比べると魔力の消費量や発動するまでの時間が少しだけ長い。強力な力には、それだけの代償(デメリット)が伴うのだ。



「(だとしても、攻め続けるしかない。私には多くの魔力がある)」



 彼女にあるのはとても高い魔力。そして、ウルミラから学んだ多くの魔法と、彼女に復讐するために学んだ魔法。魔法に関してならキュリアにだって負けない。カイの武器が機動力だとするなら、魔法こそが彼女の武器だ。



火力(魔法)なら、私が上よ。風剣の舞ヴェントス・サーベル・ダンス!」



 風による見えない剣がカイに向かって放たれる。気流が乱れては飛べない。飛べず、地に降りてくれば火力で押しきることができるのだが。相手と状況は、なかなか思うようには動いてくれない。

 風を操ってスノウを追う。スノウの速さに風の剣の速さを合わせていく。スノウの目には見えないはずの風の動きが見えているから、自身の速さをいかしたその回避は、意味を為さないかもしれない。けれど、ポイントに誘い込んで攻撃を食らわせることはできる。

 スノウがカルラの真横を抜けた。背に乗るカイと目があった。



「……行くよ!」



 カイは一言だけ叫んだ。

 言葉を返す間もなく、彼は遠ざかって、風がすぐ後をかけた。



「行かせない」



 遅れて言葉を返す。自分だってカイの姉なのだ。奴等のところに行かせてはいけない。カイを守りたいのだから。その思いが彼女の力に変わる。



「それでも、僕は行くよ」

「それでも、カイは行きますよ」



 カイとスノウの声が聞こえた。

 彼らにも退けない理由がある。彼らと彼女、その思いが強いのはどちらだろう。



「「氷霧!」」



 カイとスノウの短い詠唱で空中の温度が一気に下がった。空気中を小さな氷の粒が漂う。

 この技を彼女は知っている。スノウが得意とする氷の技。これは次の攻撃の準備だ。氷の砲弾を無数に生み出すか、対象をぎゅっと凝結させるか。

 とにかく逃げねば。

 今回ばかりは無属性を発動させねばならない。カルラはすぐさま別の場所へ転移する。

 上空は危ない。下に避難するしかない。

 しかし、地上には……。



「百火繚乱」



 転移した先で、存在をほぼ忘れかけていたコハクが炎の全体攻撃技を発動した。下を除いた全方位の攻撃は、結界を張るか盾を魔法で作らない限り防げない。どこからでも攻撃が来ていいように結界を選択して張る。



「氷塊弾!」



 結界を張ったことでその場から動けなくなったときに攻撃が更に加わる。スノウが先程準備した氷霧からの派生技だ。炎に水(或いは氷)は反対の属性の技だから結界が脆くなりやすい。

 前からは炎、後からは氷の塊が迫る。これで概念系の光や闇の属性攻撃が来たら辛い。概念系の結界も重ねがけしておこうと思ったその瞬間に、悪いことというのは、どうして起こるのだろう。



「ニグラフェルム」

光の千本剣ルーチェ・ミッレ・グラディウス!」



 上からは光の剣と黒い斬撃が降ってきた。

 カイのイメート達がカイのために全力で力を使っている。彼らがここまで戦ってくれるのはカイの思いが強いからだ。家族に会いたいというその思いが。



「家族に会いたい、か……」



 その思いが強いかどうか。というより、あったかどうか、の違いかもしれない。自分にはなかったそんな思い。家族に会いたいなんて、思わなかった。


 どうしてだろう。

 そんな大切なことを今まで忘れていた。


 どうして神殿に入ったときも、再び故郷モクシュカ・ジャドゥを訪れたときも、家族の事を思わなかったのだろう。


 家族とは何だ?


 忘れていたことがどんどん頭を支配していく。戦いに集中できない。魔力が弱まっていく。

 乱れた心が結界の強度を落としていった。



「……弱くなったわね、私」



 自嘲気味に笑うカルラは、もうカイを止めることはできないと敗けを認めた。






【side:Kai】


 勝負はカルラの降参でカイの勝ちだったが、カイは本当にこれで良かったのかと疑問を持った。自分の思いを示すことは出来たし、それをカルラも認めてくれた。けれど、カルラの様子が違う。なんだか、どんどん弱くなっているような気がする。


 力が、という訳じゃない。

 心が、だ。


 モクシュカ・ジャドゥで復讐という目的を果たした彼女を支えているのは何だろう。生きる目的を失った彼女は今、何を目的として生きているのだろうか。強い目的を失ってしまった今、彼女にはモクシュカ・ジャドゥの最終決戦で見たあの強さが感じられない。本当の強い思いが見当たらない。

 マガズミで彼女は戦えるだろうか。カイは心配だった。

 それはきっと師匠であるキュリアだって心配している筈だ。ラツィオもクリスタルも。



「彼女も変わろうとしているんだと思うよ。でも、間に合うかどうかは五分五分だけど」



 ガナックは何かを感じているようでカイに話しかけてくれた。魔素がどう動いているとか、魔素の意思とか、自分にはよく分からないが、分かる人には魔素の状態が見えている。その人の今も過去も。きっと未来もガナックは薄くだが見えているのかもしれない。



「カルラ姉は、間に合うよね?」



 確かな答えがほしかった。



「君が望む答えを僕は言えないよ。僕だって、彼女の変化が戦いの前に済むように願うしかないんだから」



 答えは得られなかった。心配は心の湖を細かく揺らしたようだ。さざ波が映る世界の輪郭を簿かしていくように、未来がぼやけた。

IMATE世界あれそれこれ


風剣の舞ヴェントス・サーベル・ダンス

 風属性の魔法。目には見えない風の斬撃をいくつも作り出し対象を攻撃する。連続する風に斬られ体があちらこちらへ動く姿が舞っているように見えたことからこの名がついた。動体視力の高いもの、魔素を見ることが出来る者には動きが見えるため、回避が可能。また無属性の結界ならば、防御可能。


氷霧(ヒョウム)

 スノウの技。発動には事前準備が必要。空気中に自分の魔素を混ぜた吐息を辺り一帯に行き渡らせておく必要がある。その後、氷霧の詠唱で空気中の水分と魔素を結合させ、霧を発生させる。この技から様々な技への派生が可能。


氷塊弾(ヒョウカイダン)

 氷霧からの派生技。氷霧でできた霧から氷の塊をいくつも作り散弾のように発射し、対象を攻撃する。


百火繚乱(ヒャッカリョウラン)

 コハクの技。コハクの周りからドーム状に炎を放射する下を除いた全方位攻撃。遠くから見ると炎の花が咲いたように見える。


◆ニグラフェルム

 クロの技。爪で空間を引っ掻き、闇の斬撃を生み出し攻撃する。本作初のクロの技。


________________

 光から影に移って、闇の方へ。

 向かう場所は闇。

 闇にいる者達の話。


次回、『極東魔族特区マガズミの者達』。


 マガズミには、魔物が住む。だからマガズミという名前。

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