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IMATE  作者: 風雅雪夜
秘密編
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LⅠ 秘密編_9

 やった、ということには必ず結果が付き物です。得た失ったなど良し悪しに関わらず。

 だってもう、前に戻ることはないのだから。

 戻らないし、戻れないのです。

 ただ、進むだけなのです。

 終わりの始まりに向けて。

 始まりの終わりに向けて。


『進む』

【side:Elba】


 カルラのテイマに対する尋問はカイが付き添う形で滞りなく平和的に行われていた。エルバも見守って必要な情報を一緒に聞いていた。たまにカイの情報を求める度にカルラが尋問に向いていない、と思う。公私混同をしてはいけない。

 そんな尋問の休憩時間にエルバはイメートと共に自分の速さを上げて斬撃を一太刀でも多く繰り出せるように練習をしていた。



「精が出るねぇ」



 疲労回復のジュースをエルバとイメートの分も持ってガナックが家から出てきた。



「ええ。今のままではだめだと思って」

「ほう。何がだめに思えるんだい?」

「まだ遅いんです。斬撃も少ないし軽い。これでは世界やカイ殿を守れない」



 海の向こうを見ながらテイマは言う。

 一度だけ、全く刃が立たない、完全に押し負けたやつがいた。モクシュカ・ジャドゥの黒衣の男。カイと二人がかりで挑んでも、その攻撃は届かなかった。切り傷さえ与えることもできなかった。やつは始終余裕だった。

 シルフ型のイメートのフウは主の悔しさが伝わって顔をしかめた。



「もっと、速くなりたいの?」



 ガナックが問う。

 その言葉にエルバはガナックの顔をまっすぐ見て言う。



「もっと、風のように、光のように速くなれるのだとしたら、その速さが欲しい」



 その言葉を聞いて学者は笑みを浮かべた。そして、彼の力になりそうな方法を彼に教えた。



「イメートの鎧、或いはイメートと同化するか、だね」



 イメートの鎧。それをかつて、モクシュカ・ジャドゥで見た。ミーナと彼女のイメートのガルダが合体した姿。炎の鳥人の鎧を着たあの姿。恐ろしいまでに強大な力でカルラが負傷した。

 だが、あれにはデメリットがある。長くその状態を維持できない。イメートを召喚し、それを分解し自分に纏わせ、それを固定させる。そして、魔法を使う。イメートを鎧として維持する力と、そのための魔力の扱いが大変難しい。そんなことをしているうちに、すぐに魔力が底をついてしまうため、鎧の時間は短い。

 無属性の彼女があれだけの時間しか鎧を纏うことが出来なかったのだ。無属性ではない自分では魔力が足りず、鎧を着るだけで精一杯だろう。

 鎧は駄目だ。なら、もう一つ言っていたイメートの同化とはなんだろう。



「先生、イメートとの同化とは?」



 にんまりと笑ったその顔は、まるでどこかの悪い学者ようだ。不味いことを訊いたのかもしれない。後悔したが、もう遅い。その口は開いていた。



「君がイメートもどきの人間になる。そうすればノーモーションでイメートの能力が使えるし、魔力は鎧の時より消費しないよ。鎧は形を作ること、自身を傷つけないように調節することで、無駄な魔力を消費するからね」



 余計な魔力を使わなければ、その分の魔力切れに悩むことはない。だが、それなのに何故、あの女はガルダの炎の鎧を纏って戦ったのか。自分の力に過信したのか。



「あまり知られてはいないけど、ちょっと前から研究されてきたんだよ。イメートの力を人に持たせるってこと。鎧は力が大きいのに時間が短い短期決戦型じゃん。なら、長期決戦に向いた強化方法もあるはずだってね」



 頷きながらその説明を聞く。



「イメートはその人が持つ属性の力を付与できる。例えば、君がちょっとしか風属性の魔法を使えないとする。そよ風を起こす程度の力しか風魔法の素質がなかった場合ね。それでも、イメートにちょっとだけしか使えない属性の力を付与できるし、大幅に強化される。これなら、風魔法に暗くても苦手な属性のフォローができるでしょ?」



 その方法でイメートを作って、自分の弱点をフォローする者を今まで見てきた。軍にもそういう人間がいたから、その理屈はわかる。戦力も増えるのでいいことだと思う。だからこそイメートはimagination mateの略でIMATE(イメート)と呼ばれている。想像した善き友、または想像された相棒とも。



「でも、イメートは自分とは別の体だ。自分でその属性の魔法を使いたくても、いちいち召喚して、指示を出してからでないと使えない。それじゃあその分の時間が勿体ない。エルバ君、戦場では判断力や機動力の速さが求められるんだろ? ならば、それじゃあ遅いと思わないかい?」



 その理屈もわかるから頷いた。自分は速さを求めた。そして、偶然にも自分の明るい属性が風魔法だった。だから、もっと速く。人よりも速く。風のように速く。風魔法で自分の体を押して、少しでも自分の体重が軽くなるように風に自分を溶かしていた。少しだけ同化していた。



「さっきの見てるとそうだね。君はイメートの力で風と一部同化した。第一段階が既にできているよ。だから、イメートとの同化の儀式をやっても拒否反応も出ないだろうし。君なら一発で成功してイメートと同化できるよ」

「速く、なれるのか?」

「なれるよ」



 エルバは身を震わせた。速くなりたいという思いが、体を駆ける。



「おい、学者。主に危険はないのだろうな?」



 フウがガナックを睨んで問う。あったらただじゃおかないぞ、という目だ。



「ないよ。エルバ君にはね。ただ、君は二度と姿を現せない。失敗なんてするはずがないだろうけど、その場合はエルバ君の体の中に封じられるだけ。でも、君の意思はエルバ君の中で生き続けるから死んだわけじゃない。まぁ、体を二人で共有するってこと。そんなに悪いことはないよ。フウ君の風魔法はノーモーションで使えるし」

「……わかった」



 主に危険がないと判断したフウは石の姿に戻る。エルバの手に黄緑色の石が握られる。



「さ、それを飲み込むんだ。イメートの石を体に同化させる。それが同化の儀式だよ」



 まるで禁断の儀式を行うようだ。いつも隣にいた相棒が自分の中で生き続け、自分と同化して一体化する。二度と姿を見ることはできないが、自分の心のそばにいる。今生の別れではないのに、寂しさで心がざわつく。


 風の音が聴こえる。

 波の音を上書きしていく風の音に混じってフウの声が聴こえる気がする。これは、フウと共に戦った戦場の思い出だ。確認するように思い出が駆けて行く。

 大切なものを守るために、風の力を使うことに迷いはない。フウと共に風になることにも迷うことはない。

 大切な家族と世界を守るために、迷いはない。



「駆けろ。我を導け、フウ!」



 エルバが石を飲み込んだ。

 自分の中で風が吹いたのを感じた。黄緑色の光る風がどこからか吹いてきてエルバを包んだ。たくさんの光景が目に浮かんでは消えていくを繰り返した。

 風が止んだとき、左手の甲に黄緑の結晶が埋め込まれたように顔を出している。体が軽くなったように感じる。だが、それ以外に変化は見られない。装備も外見もそのままだし、本当に同化したのだろうか。



「試しにさ、剣を振ってごらん。例えば、あの岩を風を使って切るってイメージでさ」



 風で覆われた剣を抜く。五メートル先の岩。剣ではなく風の刃で切る、そうイメージして剣を振るうと、その風はスパッと岩を切り落とした。



「あっ」

「うん、成功だ! おめでとう」



 科学者は手を叩いた。






【side:Kai】


「それで、君はどうするか。心は決まったのかい?」



 行くか、行かないか。未だに心は決まらない。自分がどうしたいだけじゃなくて、他の人、周りの人のことも考えて決めないといけない問題だ。



「結局さ、人間って奴は強くないと一人で決められないものだよね。人の意見を聞かなきゃってのは、自分が弱いから聞くんだし」



 隣でガナックが何か言っている。人が悩んでいるときにあまり横でごちゃごちゃ言わないでほしい。集中させてくれよ先生。



「ごめんごめん。じゃあさ、カイ君はお兄さんに会いたいか会いたくないかで言ったら?」



 その問いに勿論会いたい、と答える。ようやく家族に会えるのだ。10年経ったから姿も性格も声も変わってしまっただろう。でも、会いたい。たくさん、今までの体験の話をしたい。



「なら、行ったらいいさ。自分がしたいことをするのが一番だよ。多くの人間はそれをできないけど、自分のしたいことをするのが一番自分にとっていいことなんだから」



 ガナックは言った。



「君は強い。君ならお兄さんに会えるだけの力を持ってる。大丈夫だよ」



 そう言ってもらえて、心が軽くなった。

 行ける。

 立ち上がったカイは、しっかり前を向いていた。






【side:Eyck】


 ある男は闇に身を任せて、眠ろうとしていた。

 だが、大地を通じて足から伝わった気配によって眠ることは後回しにしなければならない。土のある場所へ、一人静かに歩き出した。

 約束の大地と自分達は呼んでいたが、実際には城の外のただの土の上だ。なんの変哲もないただの土。苔やら雑草やらが生えているだけの。

 誰にも見つからないように外へと抜け出た彼はその足元に意識を集中させる。



「ここだ」



 それを呼んだ。

 地面が水面のように波打つ。土なのに液体のような波紋が足元から一メートル先に現れる。ごぼり、ごぼり、と土にはあるまじき音が鳴る。その音の発生源から沸き上がるようにして現れたのはレンガのような妙に四角い石。

 それが沸き上がるようにして現れると、大地は先程の現象などなかったように硬く、静止していた。

 男はそれに手を置き、自分の魔力を込める。それはザリッと音をたてて鍵を開けた。

 それは箱だ。石の箱。箱の中には一枚の紙切れ。紙切れにも魔力を通すと白紙のそれに文字が浮かび上がる。



「……居たのか、ここに」



 自身の分身が送った手紙。それは嬉しい知らせでもあったが、悲しい知らせでもある。



「カイ」



 弟の名前を呼ぶその声は震えていた。

次回、『大事な家族とモンスターシスター、再び』


 次回より、新章の前夜編スタートです。


 敵の本拠地マガズミ(旧・極東魔族特区)へ乗り込むまでのカイと仲間たちの記録。一部カイの兄エイクの視点もあり。バトルシーンもあり。マガズミや闇の道化師側の話も増えます。


 それでは。

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