L 秘密編_8
秘密を打ち明けて、全てが大団円とはいかないものだ。
時にその秘密の開示は非難され、仲の良かった仲間を分断してしまうこともある。
ほら、ここにも。
『亀裂と魔女』
「僕は、闇の道化師の贄の第一候補、エイクのイメートなんだ」
テイマは皆の前で自身の正体を明かした。やはり、皆の顔は驚いていたし、エルバは剣を抜き、カルラに至っては攻撃しようとしていた。カイがテイマの盾として彼を守ったことで、二人の攻撃は不発で済んだが。攻撃を止めたと言っても、未だに安全とは言えない。
「カイ、さすがに私でも、これは無理」
「カイ殿、彼は我々の敵の一味です。苦しいですが、倒さねばならない敵の一部です」
二人の言葉は確かにそうだ。もっともな言葉。だからテイマをここで捕らえ、尋問し、闇の道化師、贄、魔王についての情報を引き出させる。渡り者であるカイ、ハク、セイら贄を守らなければならない。勿論、一緒にいて不安もある。
「ねぇ」
一際低い声を上げたのはガナックだった。
「喧嘩なら外でやれ。家が壊れる」
主の怒りに動かされたヤズメが鞘に入ったままの刀をカイ達とカルラ達の間に差し込ませて牽制している。これ以上ここで暴れたら切る、と目が言っている。
「外に出よう。話はそれから」
テイマを守りながらカイは外へ出た。カイが自らの身を盾としてテイマを守っている内ならカルラもエルバも手が出せない。カルラの空間魔法を用いてテイマだけに攻撃する、もしくはテイマを空間の結界で囲いカイと分断するという方法もある。しかし、前者では被害がカイに及ぶ可能性が大だし、後者ではカイとテイマがどれだけ体が近づいているかでカイが安全かそうでないかが別れる。
どちらにせよ、二人はカイを傷つけることはできない。それをカイは知っているから、テイマを守る。自分を盾として。
「酷い子ね」
ぼそりとカルラが言う。攻撃手段を封じられて何もできない現在、何ができるか、カルラはうまく二人を引き剥がす方法を考える。
「カイ殿、テイマをこちらへ渡して頂きたい。我々も手荒な真似はしたくない」
「渡したとして、テイマをどうするの?」
「決まってるわ。尋問よ。奴等の情報を引き出す。闇の道化師のところに居たのなら、その情報を引き出して有効活用する」
尋問が拷問になりそうだ。そんなカルラに渡すのは危険だ。カイ以外に厳しい彼女のことだ。きっと拷問になるだろう。
エルバだったら、まだましだろう。彼は軍人だからカルラのように感情で動く危険性は少ない。だが、今はカルラ側に立っている。カルラと連携してカイを追い詰めることもできる。
「カルラ姉、エルバ、聞いて。テイマは僕の兄さんのイメートなんだ。兄さんは奴等に囚われているんだよ。テイマはそんな兄さんを助けようとして僕らを探してたんだよ。敵じゃないんだ!」
「二人が僕に危害を加えないこと、エイクを助け出すこと、魔王を何とかすることさえ約束してくれれば、情報を渡すよ。おとなしく素直に協力する。嘘も偽りもなく」
テイマがカイの言葉に続けて言う。テイマが捕虜として出来ることには協力しようと言っている。自分の身の安全が交換だが、そんなこと、奴等の情報に比べれば安いことだ。
エルバとしては、その条件に異論はない。彼は頷いた。
しかし。
「信じられると思ってるの?」
ただ一人、カルラがテイマを敵と見なしていた。
「カルラ姉、テイマは僕に言ったんだよ。敵になりなくない、こんなことのために生まれてきたくなかったって」
「嘘かもしれないわ。というより、イメートならそういう設定で産み出すこともできる。或いは多重人格なのかも。そういう設定もありそうね」
「そんな!」
カルラは冷たい。テイマのことを信じようとしない。その様子を見てテイマが前に出る。
「記憶でも考えでも、何でも読んでいい。僕は嘘をつかないことを約束する」
記憶を読ませれば彼女に敵意がないことを伝えることができるだろう。長々と言い合うよりも簡単に早く結論を出すことができる。心配そうな顔をするカイを見たテイマは笑う。
「大丈夫だって。カルラ姐さんも、そんな酷いことはしないさ。大丈夫だよ」
それでも、カイは心配だった。カルラは時に残酷で非道な手段を選ぶことがある。今回の旅で攻撃的な手段に出ようとしたことは多々ある。特にカイに少しでも冷たくしたり、ちょっときついことを言ったりしただけで攻撃の対象にするくらいだ。
闇の道化師から崇めたてられるようにエイク様と呼ばれていた兄・エイク。テイマは、そのイメート。今までの思い出を無視して、敵方のイメートとして彼女はテイマを見ている。攻撃的なカルラがテイマに酷いことをする、その可能性が十分にある。
大丈夫、とテイマが言っても心配だ。
だって、カルラが恐いから。
「魔導士殿、テイマ殿が協力してくれるのですから、拷問は無しですよ。カイ殿もテイマ殿の身の安全を保証してくれない限り、彼を渡してくれません」
カルラはエルバを睨む。今ここで、分裂してしまうのはよくないことだとわかっている。わかってはいるが、目の前に敵の一味がいる状況を許すわけにはいかない。たとえ向こうに攻撃の意思がなくとも。
「魔導士殿」
睨みに負けずもう一度、エルバがカルラを呼ぶ。カイやテイマの言うとおりにしろ、と彼は言いたいのだ。少ない力で大きな成果を上げた方が効率がいい。軍人の考え方として、損失は避けたい。
「……お前に色々と聞きたいことがあるわ。でも、それはこれからたっぷり記憶を読んで聞いてやる。私がお前に求めることはただ一つよ。カイに危害を加えるな」
カルラがエルバの言葉を聞き入れた。カルラの出した条件にテイマは力強く答える。
「勿論。カイ君はもう一人の僕みたいなものなんだから、危害なんて加えられないよ」
それだけ聞ければ充分だと、カルラは殺気を治めた。テイマに近づきテイマの頭に触れた。
「メモリード」
紫の魔方陣が浮かび上がり、カルラはテイマの記憶を読み始めた。
争いが静まったと見えて、ようやく彼らを自分の家に入れるガナック。ちょっとばかりカルラは不機嫌に見える。カイとテイマは困り顔で顔を見合わせていて、エルバはどうしたものか、と思案顔だ。
「あれ? 解決したんじゃないの?」
「うーん、それが……」
テイマがガナックにこそこそと耳打ちで教えた。
テイマの記憶を読んでカルラは羨ましい気持ちになったようだ。テイマの主であるエイクを酷いやつだと思っていたらしいが、記憶の中ではずっと弟を思っていた。自分の知らないカイまで知っていて、それをテイマによく語って聞かせていた。その情報を元にエイクと似たような魔力を大陸に渡ったときに感知したテイマはずっとそれを追っていた。
初めて出会ったあの巨大樹の林でカイと出会い、それから追跡の旅を開始。モクシュカ・ジャドゥで先回りをしてカイ達の仲間になった、というのが彼の記憶だ。
そして、ここからがカルラの怒りを買った。自分のいないときに、かなり頼れる存在になっていて、カイから短期間で信頼されていて、友達になっていたのも許せないらしい。さっきのじゃれあいも相当羨ましく、また、カイを泣かせたことも彼女は許せないらしい。許せないこと尽くしでご機嫌斜めという状態だ。
それを聞いてガナックは天を仰いだ。
「これは、どうしたものか……」
「ゆがみねぇカルラ姐さんだから仕方ないと思うよ、先生」
「一応、解決はしたんだよね?」
「しました」
カイからの即答を受けて頷いた。
学者でもどうにもできないことがこの世にはまだある。というより、あまり近寄らんでおこう、とガナックは思った。
「テイマ殿、そう言えばなんだが、どうやって大陸に渡ったのだ?」
「あー、あの時はね、島に物資のやり取りをする船の中に隠れてきたよ。で、ばれないようにこっそり船から降りた」
「海底を隆起させて、そこを渡ってきたのではないのだな。それくらいできそうだが」
「いやぁ、僕でもできないことはあるよ。海がね、深かったんだ。やってみたけど、歩くには高さが足りなかったし、距離が長かった」
土の力を持つイメートでもそこまでの大規模なことはできなかったようだ。
「船って楽だけどさ、僕は土を通してエイクの魔力を供給されているから、あまり土から離れると魔力が得られないんだ。下手をすれば消えちゃう可能性もある。それを防ぐために、エイクの魔力が込められた魔水晶を食べて何とか凌いだよ。船で一週間くらいだね。見つからないように。神経を遣ってきつかったな」
笑顔で言うが、そんな易しい旅ではなかったはずだ。見つかってしまえば、ただでは済まなかったはず。勿論彼の主のエイクだって。
その旅は、自分だけじゃなくて世界の未来にも関わることだから、その小さな体で大きな世界と未来を背負っていて。ただ一言、偉いとか、よく頑張ったとか、それで片付けられそうにもない。安っぽくなってしまう。もっと重くて、深くて、それでいて崇高で、なんだかいろんなものを積み重ねた、そんな言葉をカイはかけてやりたかった。
「なんとなく言いたいことはわかるよ、カイ君。君とエイクは兄弟だから。なんとなく近くにいると思いが伝わるんだ。不思議だね」
テイマに頭をぽんぽんと撫でられた。
新しい物事を始めるときは、必ず何かが終わった時です。
始まりと終わりというのは表裏一体。だからこそ、人は今の終わりと新たな始まりに向けて進んでいく。きっともう戻ることはないのでしょう。戻らないなら、進むしかないですよね。
止まることは、この状況では……でき無さそうですね。
次回、『進む』。
きっと、もう戻れない。




