ⅩLⅢ 秘密編_1
秘密とは?
様々な辞典を見てみた。それらをまとめると、外部に公開されていない情報の事をいうらしい。
それじゃあ、この物語の秘密とは?
秘密編、その1、『石の上にも波乱万丈』。
海に面した東の国。ここは学者の国と呼ばれる民主主義の国・ィユェージィ。学者の国と言われる所以は、世界の権威ある学者がこの国から多く生まれているからだ。
特に魔法というものを体系的に学問的に研究し、まとめたアディータ・クエスト。彼の名前を知らない魔導士はいない。彼がいなければ今日の魔法は未だ危険で、万人ではなく一部の者にしか発動できず、そしてたまに発動に失敗する、いざという時や、ここぞという時なんかで本当に役に立たないものだっただろう。彼が行ったのは初歩の初歩をまとめたこと、そして、万人が魔法を安全に発動できるようにした公式・魔方陣を発明したことだ。そんな当時としては画期的なことを行い、魔法を現在も使えるようにしてくれた魔法学者アディータ・クエスト。その子孫が今もこの国のどこかに住んでいる。
「マスター。おかしなのが国に入った」
「んー? 敵? 味方?」
「……わからない。悪い気は感じない。だだ、切羽詰まってるって感じはする」
「おやおや。もうちょっと落ち着いて遠くを見なきゃ。焦るのは良くないよね。ねぇ、ヤズメ?」
ヤズメと呼ばれた黒い竜人の少女が男の言葉に頷く。顔を再び外に向け、鋭い目付きで遠くを見ていた。白衣を着た髪を高いところで一つに結った若い男は、のんびりとお茶をすすった。
カイ達は町に出て、まず、魔道学園を訪ねた。学園の図書館ならば研究資料を纏めた本があるだろう。それに学園ならば、誰か一人くらい闇の道化師のこと、魔王についてを研究している人がいるだろう。
カイは知りたかった。
異世界人。渡り者。自分達がそう呼ばれている。それが魔王とどう結び付くのか。贄とは何かを。
学園の研究者、研究室、図書館など、聞いて回って情報を探した。しかし、ここには、カイの知りたい情報はほんの一部しか得られなかった。
まず、カイがこの世界に来た時の仮説。
世界のある2つの地点で大きな力の強い魔法が使われたとき、数日間だけ、魔力のバランスが微妙に崩れる。その間の中間地点で召喚魔法や空間魔法を使うと、ごく稀に別の世界と接触してしまい、別の世界のものをこの世界に持ってきてしまうことがある、という仮説。
そして、もう一つ。たった一人で、魔王について研究してる人物の所在だけだった。
ガナック・クエスト。
あの魔法学者アディータ・クエストの子孫。学園に一時期来ていたが、ある時、彼は途中で学園を出てそのまま海の近くの町へと移り住んでいったという。その理由を誰も知らないが、学園の者達は住所を知っていたのでガナックの元に辿り着けそうだ。
「あの偏屈を訪ねるやつなんていませんが、行くのですか?」
「やめた方がいい。我々もあいつのいうことを理解できない。私達でさえ理解できないのだ」
「そもそもやつの研究には現実性がない」
なんだか、さんざんな言われようだ。そんなガナックは、問題児だったのだろうか。
「とにかく、行くしかないわ。手がかりがもうそこしかないのだから」
「うん。行くしかない」
カルラの言葉にカイは頷く。
目的の人物のいる場所へ彼らは向かった。
遠くを見ている黒髪の少女。また、その目に何かを捉えたようだ。
「マスター、あの人達、ここへ来る」
「あー、あの? 目的は僕か、それとも研究か……。どっちだろうねぇ」
のんびりと彼は言う。その手には魚を釣るための仕掛けをしている糸。なにやら大物を大量に釣ろうとしているようだ。
「もし敵なら、構わずアタシの出番だな!」
悪魔のような姿をした露出の高い女のイメートは好戦的に言う。自分に任せてくれ、という視線で男と黒髪の竜人少女を見る。
竜人少女は、まだ姿も見えていないのに獲物に手をかける。その様子を見て彼は笑う。
「そうだね。そのときは頼りにしているからね、ガル、ヤズメ。でも、もう少し様子を見ようよ。それからでも遅くないさ。君達は強いんだから。焦らず焦らず、だよ」
白衣の彼は落ち着けると同時に好戦的な彼女達を応援した。
聞き込みをして、ようやく海へと着いた。
波の音、風の音。
岩が浜辺にごろごろと埋まっている。海といえばスタメシアの美しい海岸を思い出す。が、ここはスタメシアの砂浜とは違い、歩くのには神経を遣う岩場の海岸。
こんなものスノウに乗って移動すればとっても楽なのだが、人数が増えたため、一度に運べない。カルラを先行させる方法もあったが、今、自分達を分断するのは良くない、という判断で歩いて向かっていた。飛行系の風魔法であまり魔力を消費したくもない。船を手配する方法もとれないほど、海の中に岩場が多い。岸から離れないと船は進めず、岩のお陰で波も荒く、海は危険だ。よって、歩いていくのが最適であるという考えに至った。
「おっと。しかし、なんだかすごいところに住んでるんだね」
「足元悪いから気を付けてね、テイマ。ハクさんとセイちゃんも」
「はい」
ごろごろの岩場に住んでいるなんて、なんと不便なところに住んでいるのだろう。物資の移動が大変ではないか。
足元に気を付けながら暫く岩場の海岸を歩く。
「マスター、彼ら、もうすぐ着く」
「あ、ヤバい。でも、今いいとこ! 今きてる! 引いてる!」
「知ってます。大物きてるの」
「待ってマジ待って。これ釣れたらご馳走なの! ご馳走が来るから!」
白衣の青年は釣竿と格闘している。
ヤズメは来訪者の方を見た。家に向かっている。そして、彼女は思い出す。
「ガルに言うの忘れた」
小さく呟いた。
悪魔の門番が、来訪者を迎えようとしている。敵意は見えないが、門番の彼女にはそんなこと関係ない。大惨事になりかねない。
仕方ない、とヤズメは主を手伝うために海に飛び込んだ。
目的の建物であろうものが見えた。小屋のような小さな家が。あれがガナック・クエストの住む家なのだろう。
「ふー、ようやく着いたぁ」
テイマが声をあげる。へなへなとその辺の岩場に腰を下ろす。ここまで、かなり大変だった。途中、まるで登山をしているかのような道もあった。
「なかなか大変でしたね」
「あね様、下ろしてください。これ以上は私が耐えられません。あね様に乗せてもらうだなんて、付き人失格です」
悲しげに言うセイの方を振り向けば、セイは白い大蛇に乗っていた。
「これくらいで悲しまないで、セイ」
一瞬驚いたが、蛇の声はハクだった。
実は移動の時に聞いていたが、ハクは白蛇の精霊でセイは魚の精霊だという。人の姿より、蛇の姿の方がごつごつとした岩場に足をとられることがなくて楽だと考えたようだ。
セイが下りるとハクは人の姿に戻った。
「さて。尋ね人が蛇の姿では失礼ですからね」
それは失礼というより、まず先に驚くだろう。とはいえ、もう目の先、鼻の先だ。自分達の存在に既に気づいているかもしれない。足を一歩近づけた。
「待て」
低い女の声がした。
かなり近いところから聞こえた。しかし、どこにもそれらしい人の姿は見えない。自分達の誰かの声ではない。それは確かだ。でも、その誰かの声の主はどこにもいない。
「うわぁっ!」
テイマが驚き急に飛び退いて腰を抜かした。テイマが腰を抜かしたお陰でそこに彫刻があることを思い出した。
そう、石で出来た彫刻。悪魔の姿をした恐ろしい石彫。脅しか何かかと思い、対して気にかけなかったそれ。
いや、その前提から間違えていた。認識を誤っていた。
見誤っていた。
その彫刻は黒い翼を大きく広げ、その大きな翼を羽ばたかせた。
ゴウッ!
まさにそんな音。強風の音。風の魔法の一つ、風の盾と同等の風圧。
「こっから先に通すわけにはいかねーのよ」
先ほどの低めの女声。
「マスターを守るのがアタシの役目。だから、アンタらは通さない」
踞り、跪いていたその彫像は、立ち上がり、自分達を見下していた。石だったその体から石の部分が消えていく。肌に吸収されていくように。
目はギラギラと光っている。この目は自分達を敵と見なしている。その目には一切の容赦も、話を聞くことも、ない。ないないのないの目。あるのは排除の目。
「ま、待って! 僕らはガナック・クエストを頼ってきたんだ! 彼しか今、頼るところがないんだ! 頼む、助けて!」
カイが必死に乞うも、その目は主張を変えない。
「ハアッ!」
黒く長い、とにかく長い、細い紐のような鞭のような尾が振られる。
「ぐえっ!」
テイマの声。カイ達はしゃがむなり、伏せるなり、飛ぶなりして避けた。が、一番近くにいたテイマは避ける間もなく鞭のような尾の攻撃をもろに受けてしまった。その場で踞り震える。苦しそうな声。かなりいい急所に入ってしまったのだろう。
「テイマ!」
倒れた体は震えながら手を挙げた。握りこぶしに親指を立たせたそのハンドサイン。意識あり、なんとか大丈夫、の意味のそれを確認すると、少し安心した。
カルラが魔法を使おうと手を前に出す。
「させるかよぉっ!」
尾の先端がカルラに向かって伸びる。まるで銛。
迎撃しようとしていたが、発動する魔法を瞬時に変えて空間魔法の結界で防ぐ。
「っぃいったあああああ!!」
止められた尾の先端に相当なダメージがあったらしい。痛みで悶える。しかし、それもすぐに治まり、次の攻撃にくる兆しを見せる。
「カルラ姉、攻撃しちゃダメだよ。攻撃したら、こっちに敵意があるととられちゃう」
「なら、動きを止める。それだけなら攻撃にはならないわ。これは正当防衛よ」
長い尾が振られる。攻撃が、来る。
「そこまで!」
鋭い声が辺りに響いた。振られた尾もピタリと静止している。女の顔は驚愕ではあるが、少し違う。言うなら、いけないことをしているのを言い逃れできない場面で見られてしまってギクッとした、というあれだ。
鋭い声を放ったのは誰か。その人物はびしょ濡れで角のある黒髪の少女を引き連れてやってきた白衣の釣り人だった。
大型でひし形の空飛ぶ白いイメートに乗ってやって来たその人は、見た目で性別がわからなかった。中性的な白衣の釣り人は、イメートを下に泳がせるようにゆっくりと着地させる。そして、カイ達と悪魔型の女の間に立つ。
「双方そこまで。ここで無益な争いは避けられよ」
白衣が風に揺れている。
びしょ濡れの黒髪の少女も降りて隣に並ぶ、その手には身の丈ほどの長い黒い剣を持っている。こちらの出方次第ではその刃を抜く、と目が強く言っている。
「ぼ、僕達は!」
この空気を何とかしなければ、とカイは声を発する。
「僕達はガナック・クエストを訪ねてきました。彼しか頼れるところがないんです! お願いします! 助けてください!」
頭を下げる。
ざざっと岩と履き物が擦れる音がする。ざっ、ざっ、とその音はカイに近づく。足音が目の前で止まる。下を向いたカイの視界に足が入る。
「顔を上げなよ。話なら聞いて上げるから。ささ、小さな我が家へようこそ」
顔を上げると女のような顔をした男が手を家の方へ向けて、笑っていた。
IMATE世界あれそれこれ
国
◆ィユェージィ
海に面した東の国。別名・学者の国と呼ばれる民主主義の国。世界の権威ある学者がこの国から多く生まれている。海産物が美味しい。たくさんの海の幸がとれる。海岸は砂場よりも岩場の方が多い。リアス式多め。海水浴には数少ない砂浜のある海水浴場を使う。
人物
◆アディータ・クエスト
ただの農民だったが、魔素の存在を発見し、魔法を学術的にした科学者。彼自身が高い魔力を有しており、魔素に愛されたものだった。昔の人。教科書にはこの人のことが書いてあるほど。
姓は元々なく、適当につけた結果が探求の意味をもつクエスト。
魔法とは何かを本気で考えた人。当時の科学者も賢者も彼の研究と仮説に注目し、両者の長年の確執は解決された。偉人。
◆ガナック・クエスト
アディータの子孫。周りの学者からは偏屈学者と呼ばれている。
でも、人柄はよく、普段はお調子者の一面も。不思議なこと、難しいことを言うが、先祖譲りの人を引き付ける不思議な魅力があるから、偏屈でも学者達から嫌われない。不思議。
秘密編のキーマン。
持っているイメートはヤズメ、ガル、オニマキ。
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世界は秘密を持っている。だからこそ、人はその秘密に引き寄せられ、その謎を解きたいと研究する。その先にあるのは光か、それとも闇か。
学者の闇は深い。
次回、『この世界のこと』。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




