ⅩLⅠ ウラグフェスタ編_5
先へ進むカイ達の前に現れたものとは。
『炎の本気、魅せてやる』
ウラグ帝国の帝都ウーラソヨルに寄ってウラグの皇帝に謁見した。皇帝にも魔王の依り代奪取と闇の道化師の討伐の協力のお願いに行き、このウラグで特にすることもなくなった。
早々に大陸の果ての国へ行き、援軍の到着を待つため、彼らは足早にウラグ帝国を進んだ。途中、スノウに乗って上空から見ると、あちこちで人が動いている。
「いやー、どこに行ってもすごいねぇー」
テイマが下を見て言う。上からでも人々の顔はうきうきと高揚していた。なんだかわけのわからないものを買って喜んでいる人もいる。
祭りというのはいつもと違う空気で、気が舞っている状態だ。人の心も舞いやすい。祭りの時に普通だったら買わないような屋台の料理とか、お菓子とか、変わった形の容器に入った普通の飲み物とかを買ってしまうのも、そういうことだ。いつもだったらきっと冷静な判断ができて、そんなもの買わないのに。
交渉の時なんかは、こういう時を狙うのがいいのかもしれない。『真剣で冷静な判断ができない時こそがチャンスよ』なんて、師匠キュリアはラツィオやウルガルド王に何かを頼むときは利用していた。
「でも、まさかあの皇帝様があんなことを考えてこの祭りを開いていたなんてねー。僕、ちょっとガッカリ」
「テイマからすればそうだね。でも、皇帝の考えも僕は理解できるよ。きっと、平和のために戦うってことは、裏でそういうことをしておかないといけないんだと思う」
「わからないわけじゃないけど……でもなぁ……」
テイマは複雑な顔をする。
ウラグの皇帝に謁見したときに皇帝は言ったのだ。このウラグフェスタの裏側の目的を。それは、ウラグフェスタの中でパフォーマーやその道に通じた者達を集めスカウトし、自国の兵力に加えて闇の道化師やその魔物達を叩き魔王の復活を阻止する、というものだ。
目的は同じで、共に戦う仲間だ。近年のウラグフェスタで多くの兵力として働いてくれる者達を集めたという。
予言者曰く、この一年以内に勝負を仕掛けなければいけないらしい。もう来年には魔王の依代を使い、魔王を復活させる儀式が行えるほどの魔力が満ちる、と。だから彼らはそうなる前に、最終調整をしてから奴等の本拠地である極東魔族特区に向かう、と。
「テイマ、僕らが世界を救えば君は大好きな旅を平和な世界ですることができるようになるよ。そう考えてくれるのなら、もう少しだけ我慢してね」
「カイ君にそう言われたら、従うしかないなぁ。わかったよ。……あと、お腹すいた! なんか食べようよ」
渋々ではあるが彼はなんとか機嫌を直してくれた。開けた街道に出たところでスノウを着陸させ、石の姿に戻す。時間もいい時間だ。お昼にしよう。
パフォーマーは中央のウーラソヨルに移動している。表彰式があるらしい。だから、街道には誰もいなかった。
そんな静かな街道の端の方に座って昼食をとっている。開けた街道のここからすぐのところにフェルゴが保護されたバリックガル山が見える。薄く煙を吐き出しているその山はサラマンダーがいるらしい。そう言えば、フェルゴの故郷はどこなのだろうか。
ガサガサッ。
前方約15メートルくらいの茂みの一部が不自然に動く。すると、そこから赤いものがでできた。
「あっ」
「あれ?」
目の前にフェルゴがいる。
向こうも気づいたようで声をあげる。
「兄ちゃん達……よかった。こっちだ!」
後ろの方に声をかけるとカイ達の方へ向かってきた。後ろにはハクとセイが続く。何だか後ろを気にしている。
「どうしたの?」
「兄ちゃん達、二人を頼んだ!」
ハクとセイをカイ達の方へと走らせ、自分は街道横の開けた荒れ地に残り、サラマンダーの姿に変わる。その様子からよくないものを感じとる。
「カイ、エルバ! フェルゴの援護に行って! 早く!」
カルラの言葉と同時にカイとエルバは動き出していた。
茂みから黒いものが4つ飛び出した。
「しつこい!」
フェルゴが炎の渦で二人を閉じ込める。
カイとエルバは残りのそれぞれの相手をする。
「闇の道化師が何故ここに!?」
闇の道化師は答えない。
「おおっと!」
テイマの声が上がる。向こうにも現れたらしい。
「テイマ!」
そちらに行かせない、と言うようにカイと交戦してる闇の道化師が剣を向ける。
「盾!」
カルラの魔法でカルラ側は攻撃をしのいだ。
「弾け、盾!」
更に結界に魔法を重ねて敵の攻撃を弾き返す。
「カイ君! こっちは大丈夫!」
テイマも錬金術(もどき)で地形を変形させて敵を翻弄している。向こうは大丈夫そうだ。無属性のカルラと、錬金術(もどき)を使うテイマがいるのだから。相手とのパワーバランスもとれているだろう。しかし、だからといってそのまま任せてはおけない。相手の方が数が上なのだから、こちらの魔力切れを狙ってくるだろう。できれば早いところで加勢に行きたい。
「閉ざせ、繭!」
カイは交戦していた闇の道化師を黒い繭で閉じ込めて封じると、二人を相手していたフェルゴの援護に向かう。
「フェルゴ!」
「俺に構うな! それより、ハクさん達だ! 何だか知らんが、こいつらハクさん達を狙っている!」
四人の闇の道化師がカルラの元へ向かったのは、保護したハク達が狙いだということにようやく気づく。急いで方向転換をし、カルラの方へ加勢に向かう。
「離れろ!」
サイドから風の盾を発動させ、カルラ達から闇の道化師達を押し退け、引き剥がす。
「いよいしょー!」
一塊になったところでテイマが大地から大きな手を出現させ奴等を一気に握り捕らえる。
「よし、上がりぃ!」
テイマが嬉しそうに叫ぶ。が、奴等はすぐに土の手を壊し、再び襲いかかる。
「うっそー!」
「テイマ、魔力切れを起こさせないとダメだ!」
魔力を切らせてしまえば捕獲できる。そうでなくても、奴等を撤退させることさえできればなんとかなる。
「光の千本剣!」
剣の面で円を描く。残像のように光の剣が残り、分身し、周囲に広がる。光の剣が闇の道化師に向かって向かった。奴等も闇属性の穴のような暗黒の盾で光の剣を吸収し無効化する。
「フェルゴ殿!」
エルバの叫び声が聞こえた。フェルゴが膝をついている。炎の渦の勢いも弱くなり、渦から抜けた一人がフェルゴを葬ろうとその剣を振り上げていた。
「打て!」
轟く発砲音と共にテイマの土の砲台の石の弾がフェルゴを襲う剣へと向かい、そして、剣を粉砕し、相手をその反動で弾き飛ばした。
「す、すまねえ。力が……」
苦しそうに言うフェルゴ。
「どうした?」
敵を弾いてフェルゴの元へ駆けつけたエルバはフェルゴを守りながら戦う。
「火が、足りねぇ……」
力のない声で彼は申し訳なさそうに言った。
火山で得た力が毎日のショーをしていたお陰で、ごまかしていた疲れにも火のエネルギー切れにも気づけず、更にはここまでハクとセイを守りながら来たのだ。限界だった。
人の喜ぶ顔が見たかったから、自分で何かをしたかったから。彼は限界を越えても戦っていた。今までの自分を変える、その前向きな思いで今を生きている。それをカイは痛いほどにわかっていた。
「コハク! フェルゴに火を!」
コハクを召喚し、火を吐かせる。コハクの炎でフェルゴに火を分けてやる。火山には足りないだろうが、少しでも彼の助けになればいい。
「えい!」
それを見て、テイマも大地を思い切り殴り付け、叩き割り、その場を陥没させる。するとその衝撃で大地はフェルゴの方にひび割れていき、フェルゴの近くでマグマが沸きだした。慌ててエルバと向かってきた闇の道化師達は距離をとる。
フェルゴの体が火山のマグマと炎に包まれる。火のエネルギーが一気に体に流れ込んだ。フェルゴを包み込んだ炎は瞬く間に彼のものになる。
自分を包み込む炎の球が二つに割れる。それは炎の翼だ。とても大きな、炎の羽が赤く、爛々と輝いた。エネルギーは、既に充分すぎるほど自然から頂いた。
「しゃあ!!」
雄叫びと共に復活したフェルゴは闇の道化師にその力を奮う。
「炎の本気、魅せてやる」
炎を操り、まるでショーのように無駄のない美しい動きで敵を炎で攻め立てる。それは美しく、闘志を高く、強く燃え上がらせる炎だった。
IMATE世界あれそれこれ
魔法
◆盾
無属性。防御の魔法。指定した任意の一方向のみに見えない空間の盾を設置し物理的攻撃や魔法を防ぐ。先に弾けと付けると物理的攻撃や魔法を鏡のように弾き返すことができる。全方向に結界を張らない分魔力の消費が少ないし、物理的にも魔法にも強いのでコスパがいい。
◆閉ざせ、繭
アルス帝国編の3辺りで出た闇属性の魔法。黒い闇の繭の中に対象者を閉じ込める。内部からの攻撃に強いため拘束として使われる。無属性が使えず、闇属性が使える者達にとっては最強の拘束魔法。魔法や魔力、光、空気、熱を通さない。
◆光の千本剣
光属性。剣の面で円を描くと、残像のように光の剣が残り、分身し、周囲に広がる。光の剣を敵に向かって投射する。
◆闇属性の盾 (名称不明)
光だけでなく全てを吸収する穴という盾をだす。吸収されたその先がどうなっているのかは、誰も知らない。
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次回予告。
「異世界人の渡り者か」
「どうして?」
「知らなきゃいけないんだ。僕らがどんな存在なのかを」
反撃開始。
意外なことも判明。
次回、ウラグフェスタ編最終話。
『渡り者の行き先』
今回も読んでいただき、ありがとうございました。