ⅩⅩⅩⅨ ウラグフェスタ編_3
ウラグフェスタでダンサーは炎と踊る。
炎に意思があるのかと思うほど、それは自由に、楽しく、それでいて激しく、荒々しく、美しく、繊細に。青年は炎の友人のように、兄弟のように、恋人のように、伴侶のように、炎と手を取り合い踊っていた。
『炎の躍りは人を集める』
フェルゴのショーはかなり磨きがかかっていた。
大胆に、繊細に、情熱を強く、そして洗練された美しさをあわせて。それは観客を引き寄せた。他のパフォーマー達もフェルゴのショーに思わず見とれてしまう。
広場の視線は全てフェルゴに集まっていた。それに気づいてフェルゴはいつもよりも炎を大きく、高く燃え上がらせて遠くの人にも見えるようにショーを続けた。
多くの目も恐れないその炎は、このウラグフェスタにかけたフェルゴの思いそのものだろう。
彼は人を、他人からされるかもしれない攻撃を恐れない。
攻撃のきっかけとなってしまうかもしれない自分の力を恐れない。
サラマンダーであり、イフリートでもあるそんな半端者の異形である自分を恐れない。
炎を恐れない。どんな姿であれ、自分は炎だ、フェルゴだ。フェルゴという存在なのだ。それに理由はいらない。もう何も恐れないその炎は、ここにいるパフォーマーなんか目じゃない。誰よりも輝き、燃えていた。
スタメシアで見せた炎よりもその炎は赤く、濃く、暖かく、光っていた。カイはその炎に見とれていた。炎から目が離せなくて、フェルゴ達から目を離すことができなくて。
ショーが終わると、やはり広場中の人が見ていた。地響きのように迫ってくる拍手の音がフェルゴに向けられた。あまりの音の大きさと震動の滝に体がぐらりと揺れそうになる。腹の底から振動しているみたいだ。
投げ銭が雨霰のように投げられる。中にはすごい額を渡してくる人もいた。流石にそんな大金をフェルゴは受け取れなかったので、ほとんどを返していた。
それで集まったショーの観覧料はすごいことになっていた。
「ヤバイね」
「これ、どれくらいあるの?」
「多分、質素に暮らせば一年は軽くもつわね。貴方、小さな火山島ぐらい買えるかもしれないわ」
「マジすか!? すげえ!」
「いや、これ、どうやって持ち運ぶんだ?」
海賊が宝箱にしまっておくくらいの量のお金が目の前に山積みだ。どうにかしてこのコインの山をなんとか片付けたい。とりあえず、テイマが持っていた無属性の時空間袋の一つを貸してもらい、その中にコインを詰め込むことにした。
「こんなに大金を見たのは初めてだ。いや、王族とか抜きにしても。ヤバイな、ウラグフェスタ」
「意外だね、王子。あと語彙力どこに忘れたの? でも、ヤバイね、ウラグフェスタ」
王子のエルバもこの量を間近で見たことがないらしい。感動とも驚きともとれる声だ。そして、その言葉も王室の丁寧な言葉ではなく、語彙力のかなり欠如した言葉になっている。テイマはそんな王子の言葉につっこむ。
少しずつ少なくなっているコインの山。しかし、かなりの量のため、なかなか終わりが見えてこない。
なんとかあと少し、というところで二人の女性が近づいてきた。
「とても素晴らしい演舞でしたね」
声をかけてきたのは、おっとりとした背の高いすらっとした白い女性。その後ろに、背の低い、きれいな青の服を着た少女が無表情でカイ達を見ている。
「ありがとうございます。あの、貴女は?」
「わたくしはハクと申します。歌を歌っている旅の者です。この子はセイ。私の歌に合わせて楽器を弾いている者です」
見た目通りの落ち着いた声が出てくる。
「ハクさんにセイさん、だな。俺はフェルゴ。あんた達の言い方を借りると……そうだな。火に愛され、炎と生きる者、ってことかな」
「まあ」
ハクは笑う。しかし、セイの方は相変わらず無表情だ。対照的な二人だ。
「フェルゴー。コイン、全部しまい終わったよ」
「おう、サンキューな」
テイマから袋を受け取ったフェルゴはお腹がすいたからと皆でご飯を食べながら話そうと提案した。そして、大人数でも大丈夫そうな定食屋へ入った。
「大人数で食べるのは久しぶりね、セイ」
嬉しそうに話すハクにゆっくりとセイは頷いた。やはり無表情である。
「親父ー、とにかくこのコース料理頼むー!」
「へいよー!」
大人数なのでたくさんの料理が来るようなコース料理をフェルゴが注文する。
「あのさあのさ! 俺、兄ちゃん達が見てるって思うと、いつものショーよりも緊張しちまったよ。お陰で気合い入りまくりの集中力マックス! こんなにショーで疲れたのいつ以来だろ」
「ふふっ。お疲れ様。たんとお食べよ」
「フェルゴさんは仲間の方からとても優しくされているのですね」
フェルゴとカイの様子を見てハクは微笑む。
「僕達は友達なんです。えっと、カルラ姉、エルバ、テイマが僕の旅の仲間で、フェルゴは旅の途中にあるところで出会って。一回別れたんですけど、またここであったんです」
「兄ちゃんは俺にとって友というより、命の恩人に近いな。兄ちゃんがいたから今の俺があるんだ。今日のショーがあんなに喜ばれたのも兄ちゃんのお陰だぜ」
二人の姿は実に眩しく温かい。そんな様子にハクは目を細める。
「とても羨ましいです。別の場所で出会った者同士、また出会い、再会を喜び会える、こんな関係が」
「ハクさんとセイちゃんは、ずっと二人で旅を?」
テイマがハクに問う。
「ええ。もう、何年も前に私は旅に出たのです。ちょっと不幸があって、一人になりたくて。でも、セイったら暇を与えたのに着いてくるんですもの」
「あね様……」
ここに来てセイが初めて喋った。恥ずかしいからその話をしないで、と言うような表情もしている。出会ってからはじめてアクションを起こしてくれた。
「あ、喋った」
「悪いか、緑の」
「君もなの!?」
その毒舌と呼ばれ方に既視感を覚える。
「私達は歌と音楽で、傷ついたものを癒す旅をしてきたのです。私の歌には癒しの力があるので、それで誰かを癒したかったのです」
「聖歌ね。呪歌の一種だけど、人を癒すのは光属性の聖歌に分類されるわ。訓練で力を身に付けるけれど、中には生まれつき強い力を持っている人もいるの」
カルラが説明する。その説明に頷いてハクは続ける。
「ええ。私の力で人や生き物を癒すことができるなら、私もいつか自分を癒すことができるかもしれない。そう思い、歌うたいとして旅をしているのです。自分のための旅かもしれない、いえ、きっと自分のためなんです。でも、歌を聞いた者が穏やかな顔になって、笑顔になる。それについては、とても心が温かくなっているんです。癒えた生き物を見ると、よかったって思えるんです」
柔らかい笑顔で彼女は語る。
本人もきっと癒されている。それに気づけていないだけで。
「あんたは、きっと自分を癒すってこと、できると思うぜ。近いうちに絶対。俺も兄ちゃん達に出会って、俺は生き方を変えることができた。生きたいって思えた。そんな俺が今、救われてんだ。そのうちあんたもきっとそうなるさ。救われるし、癒せる」
フェルゴの言葉にハクは笑顔で頷いた。
カイは温かい炎のような安心感と、これからの彼に希望の光を感じた。
IMATE世界あれそれこれ
◆ハク・プーカ
歌うたいとしてウラグフェスタに来ていた女性。彼女が歌えば、蕾は花開き、精霊が躍る。また癒しの力もある。落ち着いた大人の女性。
蛙やイモリを焼いたもの、鶏肉が好き。
聖歌を歌い、生き物を癒す旅をしている。
◆セイ・ショウ
ハクの付き人で元はハクの下女。ハクのことをあね様と慕う青と緑のきれいな着物を着た少女。身体能力が高い。ハクの付き人なだけあって、ハクに何かを言えば、あね様に生意気だ、と返す。
魚が食べられない。
聖歌を歌うハクの歌に音楽を奏でる。使う楽器は二胡。
ワード・アイテム
◆時空間袋
無属性の魔法を付与した魔道具。入れる物体の容積は付与した無属性魔導士によって変化する。食材を入れると時間を止めることができるため、旅の食料保存に便利。入れたものは時間の止まった異空間に保管されている。結構高価なもの。
◆聖歌と呪歌
呪歌は生物の状態を変える歌。状態異常、呪い、破壊など闇属性の系統。しかし、その中でも聖歌は生物を癒す光属性の歌。教会や神殿などでよく歌われている。聖歌は訓練で身につけたり、生まれつきその力を持つ者もいる。
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謎の二人が出てきましたが、どうやら歌うたいのようです。どんな歌を歌うのでしょう。癒すなら、きっと優しい歌です。優しい音楽と優しい歌はどんな生き物も心から癒してくれるはずです。
次回、『夜に』
今回も読んでいただき、ありがとうございました。
(20/1/28、ワード・アイテムの解説を追加しました。)




