ⅩⅩⅩⅦ ウラグフェスタ編_1
ウラグフェスタ。それは秋のある一ヶ月をかけて行われる巨大な文化祭。そこにいたのはあいつで。
緑の少年と魔導士は夜に話をする。
『疑惑の少年と炎』
モクシュカ・ジャドゥの新しいシャーサーカとして就任したリティカ。彼女は今頃たくさんの書類やら国の会議、その他視察など様々な仕事に追われているだろう。その頃、カイ達は大陸の東部の方へ近づいていた。
東へ向かって旅をして、新たな仲間を得て、次の国へ。そうやって進んできたカイ達。今、次の国へ向かっている最中だ。
ウラグ帝国。
芸術の国とも言われる大帝国だ。
「へー、次の国って芸術の国なんだぁ」
「いや、何度も説明したでしょ。貴方ってたまに人の話を聞かないところあるわよね。どこかのお父さんみたいでほんと、いらっとくるわ」
じろりとカルラがテイマを睨む。不機嫌さを全面に表した表情だ。今までにこんな不機嫌そうな顔をカルラがしたことがあっただろうか。
「嫌だなぁカルラ姐さん。僕は自分にやる気と、本気で興味がないと覚えないんだよ」
「なおのこと悪いわ」
既にこの二人は何だかんだで毒を吐き、毒を吐かれる、まあいいコンビになっていた。
「なんだろ、色々我慢したりとか、隠してたりした分の反動かな」
「まぁ、いい意味で言い合える奴が出来てよかったのでは」
「それについては僕もそう思うよ」
二人には何か分かりあえるところがあるのかもしれない。それが何かはわからないが。テイマも気づいたらスッと馴染んでいた。まるで、ずっと昔から一緒にいたかのように。旅人は皆、こういう風にフレンドリーなのだろうか。
……ぱちり、……ぱちり。
炎が小さくはぜたような音を立てながら燃えている。明るく温かい小さな光。それを消さないようにテイマは適度に拾ってきた小枝や薪なんかをくべている。カイとエルバはもう眠ってしまっていて、テントの中で気持ち良さそうな寝息を立てている。
「それで、貴方が何者なのか聞かせてもらえる約束だったはずよ。今度は誤魔化さないで」
夜、野宿の見張りの時に二人は話していた。カルラの言葉は炎の温かさをも消してしまうように冷たく感じる。
「……前にも言ったけど、僕は旅人だよ」
「貴方、ずっとそれで通していけると思ってるの?」
カルラの言葉は鋭い。まるで鋭いナイフのようだ。
「……」
その言葉にテイマは暫く黙った。
「いい? どこかで必ず貴方は私達に正体を明かさなきゃいけない時が来るの。この前が私だったように。次は貴方よ。……貴方、本当に人間なの?」
バチッ、と薪が音を立てる。
「……やだなぁ。それじゃあ僕はなんだっていうんだい?」
「魔物、とか?」
「違うよ。僕は魔物じゃない」
その言葉を素早くはっきりと否定する。即座に否定する彼に、カルラは更に畳み掛けるように問う。
「じゃあ、あの私達に見せた貴方の力、あれは何なの? あれは精霊の魔法でもなければ、その辺の低級な魔物のそれでもない。錬金術って言っていたけど、でも、どちらかというと貴方の力は」
「駄目だ」
カルラの言葉を食いぎみに鋭く遮る。それ以上踏み込むな、という意思を見せて。
「そこから先は駄目だよ。僕の正体に気づいていたとしても、僕はまだ、正体を明かしちゃいけない。まだ、見極めないと。これは、そのための旅なんだから」
小さくなった火に薪をくべる。そして、彼は独り言のように、懺悔のように、願うように言う。
「僕はさ、救ってほしいんだよ。この世界をさ」
青リンゴのような黄緑色の瞳は憂えているようだった。
カルラはその顔に強く言う気をなくした。そして、落ち着いた声で彼に言う。
「……それでも、いつかはわかることよ。貴方が人でないことくらいすぐに」
ばちり。薪の節だろうか。
炎がはぜた。
「……待っててくれないかな。本当にカイ君が僕の探している人だったら、その時はちゃんと話すからさ」
「カイに何かすればその時は」
「大丈夫だよ。だから、心配しないでよ。僕はカイ君が僕の探している人かを確かめないといけないから。危害は加えないよ。安心してよ、カルラ姐さん」
暫くカルラは無表情でテイマを見ていた。
テイマは反対に子供のような無邪気な笑顔でカルラを見ている。その顔に何を言っても無駄だと感じた彼女はくるりとテントの方に振り返り、歩き出す。
「……そろそろ交替よ。エルバの野郎を起こすから、うまくやってちょうだい」
「んん? それってどっちの意味? ブラックな方じゃないよね?」
「任せるわ」
そう言って、すたすたとテントへ行ってしまった。
「ええ~……」
数分後、とても不機嫌でげんなりした様子のエルバが起きてきた。相当ひどい起こされ方をしたのではないだろうか。彼が可哀想になってくる。
「あ、お疲れさーん」
「あぁ。……魔導士のやつ、私への扱いが……」
涙目になるエルバに焼いていたマシュマロを渡す。いい香りのする優しい秘密のお菓子だ。気持ちの沈んだ彼の元気が出るといい。そう思う。
「焼きマシュマロ、食べる?」
「うん」
夜は過ぎていく。
芸術の国へ来たはずだったが、道を間違えたのだろうか。今、四人の目の前には言葉を失う光景が広がっている。
「なに? これ……」
「……道、間違えたかしら」
「というか、ここはどこ?」
「……」
「いや、せめて何か言って、エルバ。僕達じゃツッコミきれないから」
賑やかな音楽。カラフルな大きなテント。そして、たくさんの人、人、人。
「いらっしゃいませ! 芸術の国ウラグへようこそ!」
露出度の高い服を着た女性がカイ達を入り口で出迎えた。
残念ながら、道は間違えていなかった。
「え、えっと……ここが、ウラグ?」
「はい! そうですよ!」
元気があって大変よろしい。
「すっごい賑やかだね!」
テイマが負けじと元気に言う。
「はい! 今、ウラグフェスタでいつもよりもスッゴク賑わってるんです!」
「ウラグフェスタ?」
「はい! ウラグフェスタのある一ヶ月間、この国に世界各国から芸術を追求する人が集まり、展示会をしたり、ショーをしたり、いろんなところでお祭りをするんです。芸術家がそこにいれば、貴方こそが作品だ! というキャッチコピーで。国中を歩けば都市も農村も山も川も畑も、全てが全て芸術です!」
すごい勢いで説明する。熱意が伝わってくる。前にもこんな熱を感じた。あの炎の舞踏士を思い出す。彼もここにいるだろうか。元気にしてるだろうか。というより、居そうだ。いや、居るだろう。絶対。奴ならいる。だってあいつはそういう奴だから。
「へー、なんか面白そう! 東に行くための通り道なんだし、せっかくだから見ていこうよ!」
「テイマ、お前っていうやつは本当に興味で動くのね。……まぁ、そうね。通り道だから、見ながら行きましょう。いいわね、二人とも?」
カルラの言葉にカイとエルバも賛成する。どちらにせよこの国を通らなければならないのなら、見ながら行ってもバチは当たらないだろう。
「入国手続きをお願いします」
「はーい!」
いよいよ、この喧騒の中へ入っていく。
思ったよりも入国手続きは簡単に終わった。厳しく検査をしていては芸術家達が国に入れないという理由で他の国よりもかなり緩いものだった。エルバはこの緩さに心配した。
「そんな危険な人も、ここに来ればあら不思議。この国の芸術に心打たれ洗われて、戦意は喪失、悪意消失。それこそがウラグ最大にして最強の魔法、ですよ」
確かに。この来る者の度肝を抜くような鮮やかな門の色使いやデザイン、人の喧騒に情熱は、戦意を削がれる。
アーティスティックな門から国に入れば、ごちゃごちゃの、しっちゃかめっちゃかの、どんちゃん騒ぎのお祭りであった。
「うわぁ」
「あ、ピエロだ!」
サーカスの客引きのため、派手な格好をしたピエロがビラを配っている。相棒には同じ派手な衣装を着て玉乗りの曲芸を見せる犬が人の目を引いている。
「おお、なかなかいい絵だ」
エルバが通りの方に目を向ければ、敷物を敷いただけの簡素な露店があった。敷物の上にイーゼルを置いて、そこにかかる絵は人の心に訴えてくるようだ。
「母上が気に入りそうだ」
「買う?」
「どうしようか……」
そういえば、エルバの優しい母親は元気にしているだろうか。
「送るくらいならしてあげるわ」
カルラが言う。珍しい。いつもならこんなことは言わないのに。色々と吹っ切れたからだろうか。
「買うなら買いなさい。私の気が変わらないうちに。送ってあげるから」
カルラが少し優しいうちにエルバは絵画を購入し、手紙を添えて空間魔法で送ることにした。
「明日、吹雪で大荒れするかな」
すすすっとカイに忍び寄って、こそっとテイマは言った。確かに。明日カルラは今日の行動を振り替えって大荒れするかもしれない。吹雪というより、火山の噴火を思わせるほど、荒れるかもしれない。覚悟をしておこう。
「おお!」
向こうの広場で歓声が上がる。かなり広く場所を取っている。路上のパフォーマンスもあちこちで盛り上がっているが、今、歓声の上がったところが一番観客も多く賑わっている。どんなものをやっているのだろう。
「お、なんかあっちすごそうだね! カイ君、ちょっと見に行ってみようよ!」
「うん。カルラ姉、ちょっとあっち見てくるけどいい?」
「いいわ。エルバが手紙書くまで私もここにいるから。気をつけて」
「はーい」
「はーい、姐さん」
二人で人だかりに行く。人だかりの中だからか、あったかい。というより、暑い。
その時、ゴォー!っと上に向けて炎が上がった。天に伸びる赤い火柱。観客の歓声と共に拍手の音が辺りを埋めた。どうやらパフォーマンスが終わってしまったらしい。
「終わっちゃったみたいだね」
「ちぇー、もっと早くに来ればよかったなぁー」
テイマが不貞腐れた。
観客がお金を空き缶の中に投げ入れている。カン、コン、という金属の雨音がしている。
「ありがとうございましたー!」
元気で観客にお礼を言う声がする。とても、聞き覚えのある声だ。さっきのパフォーマンスの終わり方も何だか見たことがある気がする。もしかしたら。
人の波を掻き分けてパフォーマーの姿を見る。
「やっぱり! フェルゴ!」
赤く燃える炎のような髪の青年のフェルゴは笑顔で観客にお礼を言っていた。
IMATEあれそれこれ
◆ウラグ帝国
芸術、食、武術等の文化が発達した国。皇帝がウラグの文化を世界に広めようと毎年、ある一ヶ月を使ってウラグフェスタを開催している。この国の最大にして最強の魔法は、芸術を使い、無意識に敵の戦意を喪失させることができること。
日本以外の東アジアがごっちゃまぜだが主成分は中国。蛙とか蛇とかワニとか虫とか何でも食べるという食文化をお持ちの国。
◆ウラグフェスタ
皇帝がウラグの文化を世界に向けて発信するために毎年、一ヶ月間という長い期間で開催される芸術祭。絵画や骨董品、などの芸術品だけでなく、いろんな国の食文化も集まる。路上パフォーマーも集まり、国中がお祭り騒ぎとなる。遠くの国から来る者もいる。
◆フェルゴ
スタメシアにいたあいつ。あのキメ顔がうざくて、サラマンダーで炎のジンのイフリートのあいつ。ダンサーしてたが、スタメシアの島から大陸に渡った。詳しくはスタメシア編で。
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テイマ君は実は人間でも魔物でもありません。そして、精霊でもないんです。彼の正体は一体なんなのでしょう。カルラは気づいているみたいですが。
あと、私はエルバとフェルゴに恨みはないです。扱いが雑でも、彼らのことは好きです。真剣でおっきなお兄さんのフェルゴと、かわいそうなエルバが結構好きなだけです。
次回、『フェルゴといっしょ』
まぁ、なんとも楽しそうなタイトルですね!




