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IMATE  作者: 風雅雪夜
外伝 その1
39/88

外伝 若き騎士と死にたがり_3

『生きる力』。


 それすなわち、全てにおいての原動力。

 それすなわち、魔法の発動条件の1つ。

 それすなわち、ある種の愛。

 それすなわち、絆。

 それすなわち、繋がり。


 貴方にとって、生きる力とは何ですか?

 ぎっしりといろんな店が並んでいる街中に本屋はいくつかある。いつもは新しいめの大きな本屋にラツィオが連れていってくれるけれど、たまには古そうな本屋に行こう。何か掘り出し物があるかもしれないし。

 目当ての古そうな本屋に入れば、狭い店内には壁一面に本が天井まで綺麗に棚に並んでいて、老齢な、かなりよぼよぼとした魔法使いが三人いた。



「いらっしゃい」



 本屋の親父はそっけなくそう言って新聞を読んでいる。気にせず奥に入って本を探す。白かったであろう紙がセピア色に変わっている本がたくさん。絶版になった本とかがありそう。面白がって探していると店のお客は私だけになった。親父は相変わらず新聞を読んでいる。


 急に通りが騒しくなった。なんだろう。親父も新聞から顔をあげて外の様子をうかがっている。気になったので私は外に出てみた。そうしたら走ってきた誰かに丁度ぶつかってしまった。弾き飛ばされてしまったが、その人が手を伸ばして倒れ込むのを阻止してくれたので怪我はしなかった。が、首に腕を回されてしまい拘束されてしまった。



「動くな! 動けばこのガキ殺すぞ!」



 なんと、人質になってしまった。






 完全にキュリアにまかれ、彼女が残した書き置きを見て、ラツィオは本屋という本屋を虱潰しで走っていた。



「しかし、元気になったなぁ、あの子」

「元気になったのはいいんですが、ちょっと大人しくしててほしいですよ」



 ギュンターとラツィオ、騎士団の何人かでキュリアの捜索をしていた。いつもの本屋にいないので、町中の本屋を探さなければならなくなった。



「全く」



 この地区の本屋の中で一番古い本屋に向かう。そこが最後だ。そこでいなかったら今度こそ宮廷魔導士の出番だ。あまり借りを作りたくないあいつらの出番。

 途中の鍛冶屋では試作の剣が盗まれたらしく騎士団と警団がたくさんいて、逃げた犯人を探していた。



「ラツィオ、お前何している! 暇なら手伝え!」

「人探し中だ! あの死にたがりが勝手に本屋に行ったもんだからこの先の本屋に探しにいく!」


 同期が声をかけてきたのに答える。こっちは急いでいる。自殺されたらかなわない。



「犯人、この先の本屋で人質とって立てこもってるぞ!」



 誰かが報告した。



「キュリアか!? 人質に女の子はいるか!?」

「本屋の親父と客の10歳くらいの藤色の髪の女の子だ!」



 キュリアだ。

 藤色の髪なんて珍しいやつで本屋にいるということは彼女しかいない。ラツィオは本屋へ走り出す。



「キュリアー!!」






 騎士君の声が聞こえた気がした。



「動くな」



 外を見ようと少し動いただけなのに。



「人質は黙って言うこと聞いてろ」



 偉そうな男。騎士君よりも偉そうな態度。本屋の親父は震えている。だらしがない。



「キュリア!」



 やはり、彼は店の前にいた。



「来るな! 来たらこいつを殺す!」



 首に刃物が突きつけられる。そのまま、店の玄関から私と男が見えるように立つ。手を出させないためのアピールのようだ。



「ぐっ……貴様!」

「ラツィオ!」



 ギュンターさん達が駆けつけてきた。



「キュリア君! おのれっ!」



 剣を抜くが、下手をすれば私の命がないのがわかっているから彼らは近づかない。私の命なんてなくったって、この世界にはなんの問題もないのに。

 そう、ないの。問題なんて、何も。

 ギュンターさんも騎士君も元の生活に戻るだけ。うーん、でも、私がいなくなって、そうなるのは、ちょっと寂しいかな。

 あれ、何でだろ。私が死んだらいいと、思っていたのに。

 なにかが、違う?



「この娘を殺されたくなかったら逃走用の馬を用意しろ! すぐにだ! でなきゃ殺すぞ!」



 考えているのに煩く吠える。邪魔しないでよ。だから、言った。



「殺したいなら殺せばいいじゃない」



 静かにしてよ。うるさいんだから。



「……は?」



 周りが間抜けな顔をしている。上からは間抜けな声がする。静かになった。よかった。



「おい、お前、これがわからねぇのか? 剣だぜ? 凶器。これでお前さんの首を切ればお前さん死ぬんだぞ?」

「それで? 貴方は何がしたいの? さっきから殺すぞばっかりで。殺したいの? 殺したくないの?」

「キュリア! やめろ!」



 騎士君が叫ぶがやめてやらない。



「私はね、死んだって構わない人間なの! 元々奴隷だったし、私の家族は誰もいないの。私がいなくなることでよかったって思う人がいたのよ。だから売られたのよ。騎士君だって、私がいなくなったら元の騎士団の仲間と一緒に仕事ができるし、私の世話をしている人だってそれから解放される。ギュンターさんだって私を気にかける必要はなくなる。ほら! 私なんて死んだっていいのよ! 死んだら死んでいったあの子達が、先に逝った奴隷の皆が待ってるの。だから、殺したいなら殺しなさいよ」



 そうよ。だって、私が死んだらいいと思う人がいるのだから。

 そうよ、元から死んだって、よかったのよ。私なんて。



「……ばか」



 小さな声が聞こえた。



「おい、キュリアホ。お前、それ本気で言ってんのなら、お前はアホだ。大馬鹿者だ」



 なんだか心外だ。



「騎士君だってバカでしょう? 貴方には言われたくないわ」

「お前なぁ! ……お前、自分が死んだ後のことを考えたことがあるのか? お前がいなくなった後の周りのことを、よく考えたことがあるのか?」



 考えたからさっき言ったのに。



「俺は、お前が死ぬのは嫌だ。命令云々(うんぬん)だからじゃない。俺は自分が守れる範囲にあるやつは守りたい。死なせたくないんだよ。それに、お前ぐらい悪口も愚痴も何でもかんでも言い合える騎士団以外の友はいないんだよ。いなくなるんじゃねぇよ。俺が泣く。もしお前が死んだら禁忌の魔法でも何でも使って、お前を生き返らせてやる。誰かに殺されるくらいなら、俺がお前を殺してやる!」



 前にも言っていた。

 この目は、本気だ。



「俺に殺されたくなかったら、生きろ。キュリア」



 何で、なんで、今日に限って。心がおかしい。私は、死にたかったはずなのに。

 心が痛い。

 頭が痛い。

 なんで?

 何で目が熱いの?



「おい、その子と俺を交換しろ。そんな死にたがりより生きたいって思う分、俺は人質としていくらかましだ。簡単に死なないからな」

「ふ、ふざけんな! てめえ騎士団だろ! 交換なんてしねぇぞ! はやく、逃走用の馬を用意しろ!」



 騎士君はゆっくりと一歩ずつ進んでくる。そんなことをしたら、こいつを刺激することくらいわかってるはずなのに。



「キュリア、生きろよ」

「……おい、俺を忘れるなよな。ほんとにこいつを殺してもいいのか? 大事なやつらしいなぁ。それ以上近づけばーーー」



 うるさい。何の音なの。どくんどくんって。

 心も体もおかしい。苦しい。死にたいのに、死にたくないって思い始めてる自分がいるの?死にたくないの?なんで、どうして。



『お前が死んだらどんなことをしてでも生き返らせる。そして、俺がお前を殺してやる』



 ……ラツィオ。


 君との会話は楽しかった。たくさん話せた。いろんな所に連れていってくれた。いつも一緒にいてくれた。私が何をしても、諦めないで、付き合ってくれて。

 だから、一緒に、いたかった。


 そうだ。私はただ、逃げたかったんだ。楽な方へ。

 苦しみから、痛みから。

 本当は、願っていたから。

 無意識に、自分が生きたかったから。

 だから、死ななかった。

 なら答えはーーー



「……生きる」



 首に当たっていた剣が白い光を発してボロボロと崩れていく。



「なっ! 何だ!?」

「……やっぱりか。ようやく謎が解けた」



 私とラツィオ以外の人は驚いて動けないでいた。驚いている男の不意をつき素早くラツィオの後ろへ逃げる。そして、ラツィオが剣を抜き、男に向けた。



「観念しろ」



 男の手には既にボロボロに崩れた剣だったものが握られているだけだった。






 キュリアが死ななかったのは無意識に無属性の魔法を発動させていたからだった。確実に死ぬ毒を投与されても、彼女は、楽になりたい、苦痛を逃避したい、という思いから無属性魔法を使って毒をどこかへ出していたのだ。自分の体の中で起こっていたそんなことを知らずにいたのだ。

 発動条件が自分の楽な方へ逃げる、逃避する、という条件だったのもある。彼女は奴隷だったから、あの極限状態の中だったから、深く考えることができなかったのだろう。無意識な本能的な防衛反応だったのだ。ラツィオに出会って言葉を交わし、考えることをしたお陰で、彼女は自分の中にある力を自覚した。



「それで、どうするんだ、お前?」



 ラツィオがキュリアに問う。



「魔法を学ぶ。それしかないでしょ。無属性魔導士なんてそんなにいないんだから。国も私のことを手元に置いて保護しておきたいだろうし。それに新しい自殺の方法も模索できるだろうし」

「おい」



 それだけはやめてほしい、とラツィオは思う。



「あら、ラツィオ。貴方、私が死んだらどんなことをしてでも生き返らせて、それで殺してくれるのよね? それを期待してのことなんだけど」



 彼女は不器用な笑顔で言った。笑えるようになってきた。



「まぁでも、私は自分で無意識に自分を守っちゃうから死ねないのよね。だから、安心してよ。しばらくは死ねないから。私、自分を殺せる魔法を自分で編み出すまで死なないから」

「おいおい。……全く、まだ初期の暗い死にたがりの方がよかったな。こんな活動的になりやがって」

「貴方がこんな風にしたのだから、責任は貴方がとりなさいな」

「やれやれ」



 騎士は魔導士見習いに大きなため息をついた。






 その後、キュリアは魔法を学び、遂に無属性国家魔導賢者になった。たった12、3年の短い期間でだ。やはり、自分を殺すための魔法の研究が彼女をここまでの地位に押し上げたのだろう。逆にラツィオは未だに夢の騎士団長にはなれていなかったが、団には必要な存在になっていた。そのうち聖騎士になれるだろうと騎士団長からも言われていた。まだ焦ることはないのだ。そう思って日々己の技を磨き続けていた。




 

 人里離れた森の中に自分の家兼工房を持った私の元に一人の少女がやって来た。その子には目標があった。


 “ある人物を殺すこと”。


 復讐の目はぎらりと光っていた。

 あぁ、この子は自分が選ばなかった怒りの感情を持った、かつての自分だ。ならば、この子に生き方を教えよう。これ以上、死に急ぐことはないのだから。自分がこの子よりも先に死ななくてはならないのだから。



「私がこの子の面倒を見る。同じ無属性の魔導士として。死に急ぐ者として」



 そうだ、死にたがりは封印しよう。彼女が楽になれるように。私は私を捨てよう。


 さぁ、師匠キュリア。貴女を始めましょうか。

 大切な私の騎士を、友である王を悲しませないように、復讐にかられた少女を死から少しでも遠ざけるために。演じよう。明るいキュリアを。

 安心してよ、もう死にたがらないから。






 何もできなかった。全て背負わせた。何が安心して、だ。何をゆっくりしていた。もっと修行をしなければ。キュリアを支えなければ。

 何もできない自分に腹が立つ。

 お願いだ。どうか、俺を許さないでくれ。全てお前に背負わせた、ただの騎士を。愚かな男を。

 外伝終了です。正確にいうと外伝第一部、終了です。なんやかんやの紆余曲折を経て、キュリアはカルラの師匠になって、カイの師匠になるわけですが。

 実は、この後の魔法学校時代も色々やらかして、先生方に多大なる迷惑をかけて無属性国家魔導賢者になったのですが、それはまた別のお話で。


 これがあれになるっていうのは、誰が想像できたのかしら。


次回、本編に行く予定でしたが、童話、『騎士王の革命物語』をお送りします。

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