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IMATE  作者: 風雅雪夜
外伝 その1
38/88

外伝 若き騎士と死にたがり_2

 師匠ズの過去話、ファーストコンタクト編その2です。

 

『攻防』

 目を覚ますと、そこは見たことのない明るい場所で、眩しさにせっかく開いた目をまた閉じてしまう。覚醒した耳に久しぶりに聞く高い声。あの檻の子供達の声だ。なんだか、楽しそう。



「あ! お姉ちゃん起きた!」

「せんせー! 起きたよー!」

「こら、大きな声を出したらダメよ」



 子供達が騒ぐ。それで、すぐに白い服を着た女の人が来た。



「具合はどう? どこか痛いところとかない? もう大丈夫よ。安心してなんでも言いなさい」



 女の人は医者だという。

 体を起こして自分の体を見て驚いた。きれいな服を着て、腕の痛々しかった沢山の注射の痕にはきれいに包帯が巻かれている。他の皆も同じようにきれいな服を着ているし、体を拭かれてさっぱりした清々しい顔をしている。



「温かい粥だよ。ゆっくりお食べなさい。ほら、皆もご飯だから大人しく自分の場所で待ってなさい!」



 医者達がご飯を持って入ってきて、一人一人のベッドに備え付けられたテーブルに置いていく。



「うんま!」

「あ、こら、いただきますだよ!」

「こんなに美味しいの久しぶりだ!」



 笑顔で子供達は粥を食べる。



「おや、食欲がないのかい? 少しでも食べないと元気にならないよ。子供は元気なのが一番だから」



 そう言われて一口食べた。



「……おい、しい」



 ところで、ここは神様のところなのかな?






 ギュンターとラツィオは医者を連れて、子供達の病室を訪れた。



「小さい子供達は元気になりましたが、普通の子供よりも筋力や体力が落ちていますし、まだ体が弱いです。もう少し養生させましょう。問題はあの女の子ですが」



 視線の先には一人別室に入れられていたあの女の子。子供達の甲高い声の中で、一人だけぼんやりと虚ろな目をして空を見上げていた。



「やぁ」

「……」



 ギュンターは少女に話しかける。ゆっくりと少女はギュンターの方を向く。やはり目は虚ろでそこには何も映っていないような感じがする。



「私はギュンター。こっちはラツィオ。初めまして。君と話がしたくて来たんだ。いいかな?」



 ルフの刑を確定させるためにもっと詳しく話を聞きたいのだ。彼女が保護された子供達の中で一番長くルフといる。その惨状も長く、そして多く見ている。



「神様なら、私の話を聞かなくても……」



 少女が言った。呟きのようにその声は小さくて聞き逃してしまいそうだった。女医は子供達を静かにさせてやる。



「神様?」

「そう、神様。私は神様のところへ来たんでしょ? (もや)が私の前に出てきて、待ってて、って。だから私は待った。ここって神様のところでしょ? 神様は全て知ってるはず。なら、私から話を聞かなくても……」



 目の前の少女は何を言っているのだろう。何かを勘違いしているようだ。それを優しく訂正してやる。



「ここは神様のところじゃないよ。君は生きているよ。まだ、君は生きている」



 少女の目が大きく開かれる。驚いている。しかし、それと同時にわなわなと震える。



「……んで……ど……て……」



 きっ、とギュンターを睨みつけて叫んだ。



「どうして私を神様のところへ連れてってくれないの!? どうして!? 私は皆のところへいきたいのに! 先に行った、皆のところへ! どうして逝かせてくれないの! なんで、どうしてよ!?」



 少女はギュンターの服を掴み、何度も力のない細腕でギュンターを叩く。彼女が見てきたものは、体験した苦しさは自分達の想像を越えている。常に死と隣り合わせだった。抗うすべも、反抗する道具さえも持たず、ただ、死を待つのみで。

 もしかしたらこの少女にとって、死こそが救いだったのかもしれない。先に逝った仲間がいるから。



「……すまない」



 幼い子供に死というもの、その考え方をさせてしまったことに。また、早く助けてやれなかったとこに。






 ラツィオにとってあの少女の言葉は衝撃的だった。事情のわからない者からしたら何を言っている、と言われていただろう。彼は知っている。あの少女の闇を。いや、まだほんの一部なのかもしれない。きっと、これからもあの少女は苦しむ。あの少女に救いはあるのか。『死』以外の救いが。



「……あの子は、救われるでしょうか」



 他の子供は救われたが、あの子だけは救われていない。ルフは一人の子供の人格さえ変えてしまった。



「ラツィオ」

「はい」



 ギュンターが歩みを止める。



「俺は無力だ。力があっても、俺は一人の少女を助けてやることさえできなかった」



 弱々しく言うギュンター。いつもの明朗で自信に溢れた姿はない。重く暗い。この人が弱く見える。

 支えなければならない。強い人が折れそうになっている。それを、折れるのを黙って見ている自分ではない。



「……まだ、……まだです」



 ラツィオが言う。言葉が自然に出てきていた。自分でも驚くが、言葉は止まらない。



「まだ、私達は救いきれてないんです。だって、まだ助からないって、決まったわけじゃない。まだ、間に合う。救えます。私達が救ってあげなきゃ、誰が彼女を救うんですか! 副団長が救えなくても、俺が救います! 救って見せます!」



 まだ、救いきれてない。助けられていない。今から助からないというのは決めつけてはいけない。まだ、彼女を光に戻しただけだ。少しずつ、闇を取り除いて救ってやらないと、救えたことにはならない。彼女が笑顔で走り回って、心から命と生を喜ばない限り、救えたことにはならない。

 なにより、諦めたくないのだ。自分達は国を守る騎士団なのだ。国を守るために救うために騎士になった。国を救うのを諦めてはいけない。国を支える人を救うのを諦めてはいけない。



「だから! だから!」

「ラツィオ、ありがとう」



 ギュンターは小さな騎士に敬礼をした。



「お前の言うとおりだ」






 ルフは処刑された。人身売買、非人道的な実験による殺人、監禁など。これだけの罪を犯した彼は即、刑に処させれた。

 あの少女以外の子供達はすぐに元気になり、孤児院へ行くことになった。問題はあの少女、キュリアだ。自身をそう名乗った彼女はまだ死にたがっていた。一人にすれば自殺しかねないと判断されたため、彼女には護衛がつけられた。その護衛がラツィオである。



「おはよう、まだ死んでないな?」

「いつも開口一番はそれね。他に言うことはないの? 嫌われるわ」



 光のこもらない目がじっとりとラツィオを見る。



「お前が死なないように見守り、護衛をするのが俺の仕事だからな」

「ふぅーん。見張る、の間違いじゃなくて?」



 ふと、窓の外を見るキュリア。外では騎士団の仲間達が稽古をしている。



「ごめんなさい。私さえいなければ貴方はあの人達と同じく訓練ができるのに。私のせいでどんどんおいていかれる。そのうち死ぬから上手く見逃してよ」



 まだそんなことを言うのか、とラツィオは思った。



「それは出来ない。俺とギュンター様は、いやここの人達がお前が他の子供と同じように元気に笑い、地をかけるのを楽しみにしてるんだ。死ぬなんて言うな。俺がお前を許さないし、死んだらお前をどんなことをしてでも生き返らせてやる。それで俺が殺してやる」

「酷い脅し文句。人は生き返らないわ。それに殺すって……」



 やれやれ、と彼女は手元の本を読む。



「それは何だ?」

「本」

「いや、それはわかる。そうじゃなくて、何の本か、という意味だ」

「魔法」



 魔法に興味があるのだろうか。



「私が死ななかった理由とか、自殺する方法を探してるの」

「おい」



 本を取り上げる。魔法を学んで自殺されては困る。まったく、と取り上げた本の内容を改める。開いていたページを見るとそこに書いてあるのは無属性についてだ。


 無属性。


 火・水・風・土・光・闇の六属性に加え、時間・空間を操ることができる。世界でこの無属性を持つ者は少ない。一国に百人いれば多い方だ。小さな国にはいないことさえある希少な属性。


 そういえば彼女はルフの実験記録によると、毒を投与されても死ななかったとあった。毒を中和するような光属性か闇属性、または毒を閉じ込め何処かにやってしまう力のある無属性の魔法が発動していたのなら、死ななかった理由に……。



「返してよ。暇なんだから」



 不機嫌な声により思考は遮られた。本を返してやり、機嫌を直してもらおうとラツィオは誘う。



「なら、外にでも行くか? 引きこもってばかりは体によくないからな。行くぞ」



 手を引いてキュリアを外に引きずり出した。






 あの騎士さんがいる限り、私が死ぬことはないらしい。私を守るために上から遣わされて、自由を奪われて可哀想。私がいなくなれば、他の騎士達と同じように剣の練習ができるのに。



「女の好きなものの一つに花があると聞く。どうだ、何か部屋に飾るか」

「別にいいわ。いらない。たおってしまったら可哀想だもの」



 私と同じになってしまう。それをしてしまえば、私は花にとってのルフ。見方を変えれば全ては悪となる。



「帰る」



 返事なんて聞かない。






 何度も何度も、彼は諦めない。町にも連れていってはいろいろなものを見せた。あの子達の孤児院にも連れていかれた。なんとなく察しはつく。私が生きる理由を作らせるためのことだ、と。見えているのよ。



「放っておいてよ。私に構うことなんてないのに」

「お前が生きようという意思を持ち、死を望まなくなるまで、俺はお前から離れるわけにはいかない」

「何それ。新手のプロポーズなの? それで、私が生きようって思えるの? 出直してきなさいな」

「お前……やさぐれて口が悪くなってきたな。誰だ、そんなやさぐれにしたのは」



 貴方よ、とは言ってやらない。目の前の貴方は目に見えてげんなりしている。あぁ、早く私に絶望してくれないかしら。



「全く、お前は……。まぁ、それだけ口が悪くなったのなら少しは元気になったということだろう。それなら、お前にこれを渡せる」



 騎士君が渡してきたのは新品の魔道書だ。しかも、その本は以前、この世界について、魔法について、自分について、何故ルフが不老不死の妙薬を作りたいと願ったのかを知るために借りた本。結局、序盤のところで騎士君に取り上げられてしまった。すぐに返されたけど、本は借り物だったためすぐに返却しなければならなかったし、全部を見ることはできなかった。少し理解できないところもあったから、また読みたいと思っていた。

 借り物なんかじゃない、新品の本が私の目の前にある。出されている。渡されている。



「元気になったら渡そうと思っていた」

「元気になってからが危ないのよ。元気になったフリだとか、いきなり自殺する魔法を使ったりだとか思わないわけ?」

「安心しろ。使えるほどの魔力がないと魔法は使えない。今のところ、お前にはそんな様子ないからな」



 むかつく。絶対死んでやる。






 一日目。

 とりあえず窓から飛び降りをしようとした。もちろん人がいないことを確認してから。なのに、後ろに急に人の気配がして振り向いたら、騎士君がいた。



「何してるんだぁ?」



 後で超怒られた。






 二日目。

 階段から転がり落ちてみようと思った。

 階段に兵が立っていた。先手を打たれて応援まで呼ばれていた。






 三日目。

 絶食を試みた。

 夜中、甘さと水の冷たさが口の中を駆けた。水を飲んでいるような感じがして目を開けてみると、騎士君がいて、口にじょうごが挿されていて、そこから砂糖水を流し込まれてれていた。あの表情のない淡々とした顔は怖かった。






 四日目。

 生活リズムを崩してみた。

 あっちも崩して付き合ってくれていた。嘘だろ騎士君。






 五日目。

 風邪をひいた。騎士君も風邪を引いてて、今だ、と自殺しようと体を動かす。しかし、それはできなくて、なんとか動く首を上げて体を見た。そしたら、ベッドに体を固定されていた。隣からは掠れた声で“ざまぁ”って言う声。ドヤァ、という顔つきで笑ってやがった。






 六日目。

 治ったけれど仮病を使って劇薬が投与されるようにしてみた。医者にバレて怒られた。全てわかっているんですからね、と言った医者の顔は、多分、この医者を見るたびに思い出すだろう。怖かった。笑いながら怒るとか、器用だが反則だ。だって、絶対怒ってるもの。






 七日目。

 騎士君を殺そうとしてみた。でもよくよく考えたら騎士君は強かったからやめた。私の細腕が騎士君の剣よりも細くて、絶望した。






 八日目。

 自分で自分の首を絞めてみた。自分くらいはこの細腕でもいけるかもしれない。でも、気絶しただけで騎士君は“お前の力じゃそれは無理だ。というか俺も、自分で自分の首を絞めても無理だから諦めろ”って。騎士君でもダメなのか。

 いや、騎士君。君、やったことがあるの? どうしたの?






 九日目。

 とにかく悪口を言って騎士君を挑発してみた。“騎士団の皆に比べれば幼稚だキュリアホ”って涙目だった。かわいそうだからやめてあげた。






 どうしたらいいかわからぬまま十日目。暫く諦めてみようかと思う。決定的な手が思い付かない。ネタ切れしたから書店に行ってくる、と逃げるように町へ出てきた。あの初歩的な魔道書もそろそろ読み終わる。新しい本が必要だったからちょうどいい。


 ぎっしりといろんな店が並んでいる街中に本屋はいくつかある。いつもは新しいめの大きな本屋にラツィオが連れていってくれるが、たまには古そうな本屋に行こう。何か掘り出し物があるかもしれないし。

 黙って出てきてしまったが、書き置きは残したから問題ないよね。

 キュリアちゃん、お転婆かな?

 次で外伝は終わりです。

 そしたら、本編に戻ります。


次回、『生きる力』。


 次回もよろしくお願いします。

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