ⅩⅩⅩⅤ 無属性魔導士編_16
そこに多くの言葉はいらない。もう何回も、500年も、彼女達は繰り返してきたのだから。どうか、これが最後になるように。最後の戦いになってくれるように。
どうか、また繰り返すことがないように。
『人形 対 怪物』
魔法がぶつかっては弾けを繰り返している。しかし、その魔力は未だ尽きない。強力な魔法がたった二人によって湯水のごとく繰り出されぶつかる。流石はシャーサーカと初代ニータ・ジャーディアンだ。
「12年前に現れなかったから、死んだものと思っていましたが、まさかまだこの世に存在していたとは」
「ラトナには悪かったけど、これも今日この日のための最後の犠牲。助けられなかったけど、でも、今日で貴女を終わらせる」
激しい魔法の撃ち合いと反対に二人の言葉のトーンはとても落ち着いている。先に心を乱した方が負ける、それを二人はわかっているからだ。
「作り物の泥でできたその脆い体では、イメートを作ることができない。貴女はその分、戦力を得ることもできない。そんな体で私に歯向かいますか」
「ええ、貴女を止めるまで何度でも。貴女を止めて、あの世へ送るのは私の役目だもの。それに、戦力がないのは貴女も同じよ。今の貴女の体ではラトナのイメートも言うことを聞かない。ましてや12年経っているんですもの。貴女の呼び声には反応しない。貴女はその体の本当の魂の持ち主ではないから。ラトナを喰らって同化しても、貴女はラトナではないし、ラトナにはなれない」
その言葉に間違いはない。周囲にばれないように少しずつ魂を取り込み、喰らい、同化してきた。それにより、ラトナの頃に作られたイメートは、今のラトナに成り代わったウルミラの声に答えない。魂と血の持ち主が違う、あべこべだからだ。
「イメートの鍵は魂と血、その二つが揃って初めてイメートは呼び出される。ええ、わかっていますとも。貴女の体を頂いた時にそれを知りましたよ」
自嘲気味に言う。
「500年経っても、どうしても改善できなかったものね。貴女が体を乗っ取ってから、イメートを使うのを見たことがなかったもの。イメートによる戦力なんて、そんなハッタリは通用しない。500年、私は貴女をずっと見てきたのだから」
500年前、自分の体を与えられ、魂が人形の体に馴染んだその日から、一日も欠かしたことはない。神殿へ行き、その日の記憶を読み取ることを。体は奪われたが、その分、体に縛られることはなくなった。睡眠も食事も不要な体になった。しかし、人の熱を感じず、硬く脆い体はその体には作られていない心を痛めた。もう体に無い心臓が、心臓のあったところが痛んだ。
「だから貴女を終わらせる! もう、貴女がいなくてもこの国は歩いていける。新たな世界に私達はいらない。舞台を降りるべきなのよ!」
「私は救いの国を作った救済の魔女。私には無属性魔導士を救うという義務がある! 私は救い続けなければならない。この国を、民を魔導士を見守り、助け、救い続ける。それが私に課せられた使命!」
声を荒げて魔法を撃つ。シュラはそれを同質量を持つ反対の属性の魔法で相殺する。
「救済の魔女? いいえ。貴女はもうその二つ名を名乗る資格はない。私の体を奪ったときから。私から人としての未来を奪った。いえ、私だけじゃない、貴女に飲み込まれたニータ達は人としての人生を奪われた。喜びも悲しみも未来も全て。貴女はもう救済の魔女なんかじゃない」
「多くのための尊い犠牲。それに彼らは今、私の中で生きている。彼らは貴女と同じように人の体を、縛りを捨てることで、人の体から解放され、永遠を生きることができる。それこそ、不死からの救済。私の中の彼らは結果として救われている! それがわからないのか!」
声を張り上げるウルミラ。彼女自信も、今まで取り込まれたニータ・ジャーディアン達も不死として救われた、と叫ぶその様子にシュラは目を伏せた。
それはある意味では救いかもしれない。だが、やはり間違っている。一人の人間として生きられない。人の一生と個人の思い、それから、その人であるという個を奪っている。死ぬとわかった寿命があったとしても、その人という個があった方が絶対に幸せだ。滅びる体だとしても、劣化する身体だとしても、その方が、ないよりある方がずっとずっといい。
「……そう。わかったわ、ウルミラ」
静かな声で彼女は続ける。
「貴女を、もう私は理解できない。狂ってる。もう人とは思わない。そんな悲しい生き物になってしまった貴女を、それを生んだこの国も終わらせる。貴女の死をもって!」
シュラの周りに光の粒子が集まる。赤、青、緑、黄、橙、紫、そして白。七つの属性の光。
「……シュラ、貴女を生という、この世の呪縛から、イマ、解放シテヤロウ……」
次の魔法のため、魔力を高め、魔法を放つ準備をする。
この魔法で決着を。
炎は水とぶつかり、砕けては蒸気になる。ガルダの炎に唯一対抗しているリティカの水の剣。彼女だけがミーナと同等に渡り合える実力をもった最強の攻撃手段だった。
「悔しいが、我々では全く歯が立たない」
「ぜーんぶ焼きつくされちゃぁねー」
攻撃が届かないエルバとテイマはそれでも攻撃をしていた。それだけでも相手の気をカイから反らすだけのことはできる。
「……スノウ後は」
「ええ。行きなさい」
スノウに乗ったカイが風で飛び、スノウから離れる。そして、ミーナの死角へ回る。それを見てカルラは準備をする。
「ペーデ・メモリア・ジャーディアン!」
カイの詠唱と共に空中に展開された魔方陣からは闇色の握り拳ほどの大きさの光球が出てくる。それはミーナに向かってまっすぐに飛んだ。
「記憶消去の魔法だと? そんなもの防いでくれる!」
しかし、空間魔法は満足に使えないほど魔力は枯渇していた。
「ちっ! 空間で弾かなくとも、ガルダで弾いてくれる!」
攻撃を押し返し防ごうとすると、一瞬の隙をついた光鎖により四肢の自由は奪われていた。
「悪いが動きを止めた! カイ殿! 魔導士殿!」
エルバの光鎖で身動きができなくなったミーナは更に舌打ちをし、顔を歪ませる。ガルダの炎で魔の手を防ぐ。炎と闇が音を立ててぶつかる。水も土も光も全てが炎の壁にぶつかる。
「ガルダー!!」
「うおっ!?」
「何て力だ」
ありったけのすべての力で魔法を攻撃を術者ごと弾き返す。爆発のように、そのエネルギーは大きい。全ての力を使い果たしたミーナからガルダが分離する。大きく肩で息をする彼女をガルダは支えるように飛ぶ。
「ペーデ・メモリア・ジャーディアン!」
体勢を立て直し、再び魔法を発動させる。カイの魔法がミーナに向かう。闇色の光球は素早くミーナに向かう。もう避けることも、防ぐことも彼女はしなかった。光球はミーナの体へ吸い込まれた。受け入れるように、全てを諦めたように、その瞳は虚ろだった。
「……投影」
カルラの魔法がミーナの周りの空間に映し出される。その光景をミーナはどんな思いで見ていたのだろう。
「カルラ姉」
「カイも皆もよくやったわ」
カルラのもとに降り立つカイ達遊撃部隊に労いの言葉をかけるカルラ。そして、ジャーディアンのことを忘れた状態で投影魔法を発動させ記憶を見せることができた。これでミーナがウルミラの危険性をわかってくれれば敵は一人減り、最後の戦いへと向かえる。
「信じてくれるかな?」
テイマが言う。
「さぁ。でも、彼女、魔力が切れてるから暫く何もできないわ。信じてくれようがくれまいが、彼女には何もできない。暫くはね」
そう言うカルラの顔は上を向いていた。上ではウルミラとシュラが戦っている。それを皆が見上げる。さらに大きく、ぶつかりそうになる二つの魔力の根源を。
激しく魔法を撃ち合っても、二人の魔力は底をつく様子がない。もう魔力が枯渇してもおかしくないほど、魔力を大量に消費する古式魔法を何度も撃った。もうどちらが倒れてもおかしくないというのに。
次に使う魔法が、周囲の魔素を大きく収拾してを増幅させる。これが最後の魔法だ。
「火は命を燃やし、水は命を潤し、地は命を支え、風は命を歌い、光は命を生み、闇は命を終わらせる。何人も抗えぬ世の理に、逆らうものには終焉を。強制執行・劣化する運命!」
「汝、我を害するもの。即ち悪意。その刃も呪いも無に帰して、我が敵全て、如何なるものをも防ぎきれ。最強の盾!」
完全詠唱。呪文を全てを詠唱し、魔法を唱えることから、二人の本気度がどれだけのものかが伝わる。シュラの持つ残りの魔力をほとんど使ったその魔法と、ウルミラの最強の守りの魔法がぶつかる。
「……シュラさん」
カルラは祈るように呟いた。
白い光は激しくぶつかった。どちらも押し合い、どちらも同等の力で、どちらが勝ってもおかしくない。
「シュラさん!」
「シュラ……」
勝ってくれ、と皆が祈り、見守る。
「……負けられない。……負けて、たまるかぁー!!」
シュラの眼帯が燃える。その下には魔法の力を増強する結晶の石、魔水晶の目が燃えるように光を放っている。
「運命など、変えてくれる!!」
大きく、大きく、その二つの白い光は膨らみ、そして、
轟音と閃光を放ち、爆発した。
「……っう……」
カイ達が気づいて目を開けたのは、その爆発からどれくらいたった後だろう。間一髪、カルラの空間魔法の結界がなければ、皆、爆風で吹き飛ばされたり、死んでいたかもしれない。
「……カルラ、姉……あっ!?」
ジャーディアンの神殿はカイ達がいた塔を含め、全壊していた。他のジャーディアン達はと言えば、ほとんどが空間魔法の重ねがけで衝撃を耐えていたが、叫び声も聞こえる。建物の下敷きになってしまった者もいるようだ。町の方は少し距離があったお陰か近くの建物が一部壊れただけのようだ。建物に大きな亀裂が入っているのが見える。人々は大丈夫だろうか。
ゆっくりと結界が下降していく。結界が地面に着いた時、シャボン玉が割れるようにぱっとそれは解かれた。
「カルラ姉、ありが」
カルラの体は傾いて地面に向かって倒れかけていた。
体に力が入らない。受け止めたいのに、体が言うことをきかない。精々、手を伸ばすぐらいしか出来ない。が、届かない。
「おっとっと」
気の抜けたような明るい声がカルラを受け止めた。テイマだ。倒れるカルラを受け止めてくれた。
「ありゃー、魔力がスッカラカン。補助の丸薬全部使ってるわー」
足元に落ちている空のガラス瓶を見てテイマが言った。
「テイマ」
カイの声にテイマは安心させるように笑顔で答える。
「だいじょーぶだよ。そんな心配な顔しないで。カルラ姉さんが僕らを守ってくれたんだよ。まぁ、あれだけの爆発だったからねー。丸薬に溜めた魔力を全部、瞬時に使わないと僕ら死んでたかもね。お疲れさん。ゆっくり休んでよ」
カルラを抱え直して優しく労う。カルラは力を使い果たして眠っているだけだ。その様子にカイは安心した。
「おい、ウルミラはどうなった?」
「シュラさんは?」
リティカとエルバが問う。上を見上げる。
青空が見える。爆風で雲が吹き飛んだため、雲は一つもない。それが不気味に見える。大きくぽっかりと開いたその青い円の中に人の姿が見える。
「どっちだ?」
目が霞んでよく見えない。ただ、青い空から何かが落ちてくるのが見えた。
「なんだ?」
「…………あっ!」
それが何かわかったとき、それは横でガシャン、と無機質な音を立てた。
「……シュラ、さん?」
上半身の左側、そして左腕は肘までを残したその体。体のほとんどはなくなっていた。変わり果てた姿だった。
(追記:後半途中から話が消えていたので追加しました。今まで気づかなくて申し訳ありませんでした。最初に掲載したものと魔法の内容が違っていると思います。当サイトに載せるときに変更したのでデータは残っていません。当初書いた元のデータでお送りします。一番の山場が消えてるってどういうこと?一体いつから?)
IMATE世界あれそれこれ
魔法
◆ペーデ・メモリア・ジャーディアン……闇属性魔法。記憶を消去する魔法で、最後には記憶から消去したいものを言う。ペーデ・メモリア・◯◯のように使う。完全に記憶を消すことができる。他には記憶を封印するスィニャトゥム・メモリア・◯◯があるが、何かの拍子に記憶を思い出すことがある。
◆古式魔法……いつの頃からあったかもわからない、それくらい古くからあり、長く形を変えず、太古の昔から使われてきた魔法。しかし、魔法の技術の簡易化や発達により、今ではあまり使われていない。発動には膨大な魔力を要するが、威力や効果は現代魔法を遥かに越える。魔法の原型にして完成形。ちなみに現代魔法は古式魔法を分解して、多くの魔導士が扱いやすいよう改良されたもの。古式魔法に比べて魔力の消費も少なく、ある程度の威力は出せるため、普段の生活や旅、魔物退治には何ら支障はない。古式魔法は、現代魔法とは違う言語で発動するが、その言語の意味は未だに解明されていない。言語も地方によって異なる。
◆最強の盾……古式魔法。無属性。対象からのいかなる攻撃をも無効にするという空間魔法の結界。最強とついているため、どんな魔法も攻撃も防ぐ。ナーガのカウンター攻撃もこの魔法の前では防がれてしまう。対象の相手が悪意や敵意、殺気をもって攻撃しなかった時に限り、盾は発動してもその役割をなさず外傷のみを防ぐだけになる。
◆強制執行・劣化する運命……無属性・時間の魔法。ウルミラを倒すためシュラが作った魔法。死という運命を呼び寄せ、対象をその運命に強制的に誘わせる魔法。ウルミラに取り込まれてしまった歴代のニータ達の魂を救い、ウルミラと共に旅立つために作った魔法。自身もこの魔法の反動で砕けてしまった。
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人形が砕けた。怪物はどうなったのか。これからどうなるのだろうか。
あぁ、人形よ。再び眼を開けてくれ。いかないでくれ。
次回、『始まりの終わりの始まりの二人』
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




