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IMATE  作者: 風雅雪夜
無属性魔導士編
34/88

ⅩⅩⅩⅣ 無属性魔導士編_15

 イメートと合体し、炎が火力を上げてカイ達を襲う。イメートの炎とミーナの炎。掛け合わせれば恐ろしいほどの威力だ。裏で動く人形師と騎士も新たに使いこなした力を手に神殿を飛び回る。

 体を失っても、そこには戦う意志がある。


『まだ戦える、まだ戦う』

 肉の焼ける匂いがした。

 炎で煤けた室内に立っていたカイ達は目の前の光景に目を疑う。



「カルラ姉!」



 右手が焼けただれている。衣服も所々焦げ付いて、カルラに煤がついている。

 右手はカルラ自身を守るために張った結界の手だったはずだ。離れた場所で戦っていたカイ達を守ったのは左手で張った結界。それにより、カイ達は無傷で済んだのに。本人が火傷を負い、焦げ付き、煤がつく、そんな状況にどうしてなったたのか。


 考えられる理由が一つ。あの炎が、カルラの結界で防げる力以上の威力だったなら、カイ達の方に力を多く割かなければ“カイ達が燃えてしまう”としたら。

 全ての攻撃を防ぐ空間魔法の結界も万能ではない。全ての攻撃を防ぐために使われる魔力は結界一つで単属性の高等魔法二つ分の魔力を消費する。常人よりも無属性魔導士の魔力量は多いがその分、使われる無属性の魔法もそれだけ多くのコストがかかる。同時に二つの結界、しかもこの場の魔素はミーナとガルダにほとんど使われている。少ない魔力を結合して、二ヶ所に魔法を使っても、完全に炎を防ぎきるだけの十分な強度が保てない。どちらかを完全に守るためなら、彼女はカイ達を守るためにその魔力を多く使ったのだ。



「とっさの判断で仲間の方に力を多く割いたか。しかし、次の攻撃は耐えきれまい」



 これで終わりだ、と言うようにミーナが杖を構える。

 カルラを助けなければ、と駆け出すカイよりも先にしゅっ、と先にカルラの元へ向かう者がいた。ナーガだった。ナーガがカルラの近くに近づいているのを横目で確認して彼女は痛みを耐えてその蛇を呼んだ。



「ナーガ、破壊と再生の手腕」



 その呼び声にナーガの姿が変化する。

 蛇の姿が徐々に消える。中央の蛇の頭に全ての蛇が集まり、その蛇の体は人間の上半身を形作る。頭部の六匹の蛇は髪の毛のように姿を小さめに変えた。人間と大蛇が混ざったような姿だ。

 焼け爛れた右腕を水平に伸ばすカルラにナーガが近寄り、その腕に手をかざす。すると時間が巻き戻るように焼けたカルラの手が治っていく。

 二、三度、手を握り治り具合を確かめる。思ったように治ったようで、キッとミーナを睨む。



「私はまだ戦える」

「そう来なくては!」



 面白くない、と言う嬉しさと相手を潰す意志を顔に出して、彼女は杖に魔力が集める。



「ナーガ」



 ナーガがカルラの背後に立つ。その手には先程カルラを治したときに吸収した破壊の魔力の痕跡を元に形を作った、破壊の力の槍が握られている。それを投げて放つばかりのその姿勢だ。カルラがもう一度手をミーナに向ける。



「ジャラナ・ガルダ!」

「ナーガ!」



 カルラの声にナーガが破壊の力を秘めた槍を投げた。それと同時にミーナも魔法を放つ。炎と槍がぶつかる。槍は止まりそうになりながらも徐々に進み、炎を割る。



「っくぅ!」



 炎で防ぐことはできないと判断すると、ウルミラを抱えて避けた。槍は自分達がいた場所に突き刺さると、ずぶずぶと床に染み込み、その部分より直径一メートルほどが腐敗したように、風化したように、ボロボロと音を立てて崩れ落ちた。



「闇か? いや、時による加速した未来? いや、それも違う……」



 あの槍の正体はわからないが、食らったら体の一部を失うどころか命を失う。ともかく、ナーガがどんなイメートなのかを分析しないと、ミーナには勝ち目はない。



「ミーナ、ありがとう。私も戦います」

「シャーサーカ様!」



 嬉しそうな声をあげるミーナ。ナーガの毒を解毒し終えたウルミラが復活したのだ。ミーナの隣に立ち上がり、杖を構える。



「さあ、我々の安息の地の、その安寧を取り戻しましょう」



 それはそれは冷たい声だった。



「……カイ、二人を連れて逃げて」



 小さな声でカルラが言った。



「な、何で? カルラ姉だけじゃ」

「僕らが逃げるわけにはいかないよ。カルラ姉さんと無属性二人って、かなり分が悪いよぉ? 勝てるの?」



 カイの言葉を遮ってテイマが問う。

 相手のうち、一人は化け物だ。勝てないことは誰が見ても明らかだ。



「勝てないからこそ、貴方達だけでも逃げるのよ。私達がここで全滅したら、誰が魔王の復活を阻止するの。これは、私の12年の復讐。貴方達を巻き込んだのは私。悪いのは全部私。関係ない貴方達は逃げなさい。今すぐ!」



 ナーガの頭の蛇三匹が申し訳なさそうな顔で威嚇する。お願いだから、逃げてくれ、そう言っているようだ。



「くっ!」



 悔しい。

 本当に僕らには何もできないのだろうか。




『伏せて!』




 突然聞こえた声、これはシュラの声だ。慌ててカイ達は伏せた。

 次の瞬間、部屋の屋根とカイ達の後ろの壁が消し飛んだ。

 外の太陽の光が後ろから当たる。後ろを振り返ると、小さな衛星のような土の球の上に立つ青年と、風を纏わせた剣を持つ女騎士、そして、二人の上に浮かぶシュラの姿があった。



「あ、君は衛兵の」



 風を剣に纏わせた女騎士・リティカがその切っ先をウルミラに向けた。



「バルバラ帝国元第一皇女、リティカ・グレーヴィッチ。この戦いに加勢する!」



 よく通る声で高らかに宣言した。



「リティカ!?」



 突然のことにミーナが狼狽える。しかし、ウルミラは平静を保ったままである。そんなこと、何でもない、というように。彼女にとってはリティカのような一介のジャーディアンよりも、この場で大事なのは、シュラだった。



「ウルミラ、大人しくそこで待っていてくれて嬉しいわ」



 ウルミラの目はシュラに注がれている。



「貴女……まだいたのですね。いつまで私の邪魔を? 貴女はもう死んだも同然の存在。魂だけが未練がましくこの世に残っていないで、在るべき所へ行きなさい」

「それは貴女もよ、ウルミラ」



 ウルミラが上空に飛び上がり、シュラに魔法で攻撃する。シュラも飛び上がり、それを落ち着いて防ぐ。



「貴女を、今度こそ」

「ええ、今度こそ」



 二人が上空で激しい魔法の撃ち合いを始める。大きな魔力がぶつかる。肌がビリビリとするような緊張感が伝わる。



「アルナさん!」



 土玉に乗った二人がカイ達に近づく。土玉を操る男性がキルカだ。



「キルカ、無事? なにもされてない?」

「はい。シュラから全て聞きました。彼女も、他のジャーディアンも」

「私以外の者はショックを受けて暫く動けないのが申し訳ない。だが、私は貴方達に加勢する。これ以上、人の人生を奪ってはならない」



 その言葉に強い意思を感じる。



「リティカ……貴女……」



 絞り出すようなミーナの声。一斉に身構えた。



「ミーナ様、もうお止めください。貴女をあの女の餌にしたくない。今あの女を討たねば、次は貴女が食われる番なのですよ?ご自分を大事にしてください。貴女はニータです。我々を導く存在になる人です!」



 懇願する。

 しかし。



「リティカ、貴女は賊に騙されています」



 その声は冷たいものだった。



「シャーサーカ様は我々無属性魔導士の味方です。そして救世主ですよ。それを裏切るのですか? 貴女だって、初代シャーサーカ様が建国し、その意志を継ぐ今のシャーサーカ様が治めるこの地に助けを求めてやって来たではないですか」

「それでも、人の人生を奪うのはやってはいけない」



 きっぱりとリティカは否定する。



「僕は貴女がそこまで彼女に心酔している理由も経緯も知らない。けど、ウルミラのやり方がいけないのはわかる。それは僕だけじゃない。カルラ姉やエルバ、ここにいる人は皆。本当のことを知ってください。お願いです」



 カイの言葉のすぐ後にカルラが魔法を発動させる。カイ達に見せたのと同じ投影魔法。ウルミラがラトナの体を乗っとるため、中に入ったところを。それを彼女は目を背けることなく、見ていた。

 投影が終わる。彼女の心は変わっただろうか。



「ミーナ様……」

「これでわかったでしょう。貴女が崇拝するモノの正体が」



 俯いて顔が見えない。小刻みに震えている。それでわかってくれただろう。




「フフ……フフフ……ハハハハハハハ!」




 聞こえた甲高い笑い声にカイ達は身を固くする。



「フハハハッ……。そう、そうなのですね、シャーサーカ様。私は、貴女と一つに、シャーサーカ様、貴女のうちの一人になれるのですね!」


「まずいぞ。これ、私達でなんとかできるレベルを越えている」

「王子に一票」



 狂っている。彼女を壊してしまったのか。



「完全に壊れてる。ウルミラに会ったときから、彼女は壊れてしまったのよ、きっと」

「ある意味、ウルミラよりも厄介だね。どうしたら……」



 こんな状態になった人間を見たことがない。対処方法もわからない。



「方法ならある」



 そう言ったのはキルカだ。



「ウルミラに出会ってからの記憶を消す魔法をかけることができれば、彼女は敵でなくなる」

「それができれば苦労しない」



 エルバがキルカの提案を却下する。



「いや、魔力切れを狙ってか」



 リティカの言葉にキルカが頷く。



「魔法には魔法をぶつければいい。相手は一人だ。あれは相当な魔力を消耗するだろう。魔力の消費が尋常じゃない。俺でもわかる。魔力切れは時間の問題だ。そこを狙って、ジャーディアンの記憶をなくした後にあの記憶を見せれば……」



 ミーナは変わってくれる。敵は一人減って、ウルミラからまた一人、解放される。



「やろう。彼女を救うために。そして、この国を救うために」



 カイの言葉に頷き皆は構える。



「アルナさん、貴女はすぐに記憶を入れられるように準備を」

「なら、キルカさんはカルラ姉を守ってください。カルラ姉には準備に集中してほしいから。それで、僕が記憶を消す。リティカさんとエルバとテイマは僕のサポートを」



 この中で闇属性を使えるのは無属性の三人とカイだけだ。見たところ、あの石造りの神殿の屋根を風で粉砕し、吹き飛ばしたのはリティカであろう。剣が風を纏っていた。なら、リティカの力はかなり強い。攻撃に適している。ミーナの気を引くことが出来、かつ、攻撃が当たれば大ダメージを与えることができる。魔力も防ぐのに大きく消費するだろう。後はエルバの小回りをいかして、テイマがサポートする。



「心得た!」



 空気中の水が魔素と結び付き、剣に水を纏わせ、水の大剣を形作る。



「リティカ殿の足を引っ張ってくれるなよ、テイマ」



 エルバの周りに風が吹く。



「僕がそんなことすると思う?」



 足で床を蹴り、音を鳴らすと石でできたいくつもの大砲が彼の前に形成される。



「カイ、頼んだわ」



 ナーガに割いていた魔力を自分に回すためナーガを石に戻すカルラがカイに言う。



「うん、わかってる。スノウ、準備はいい?」

「何時でも」



 カイもルリを石に戻し、スノウに魔力を与える。そのスノウも既に飛び立つ用意はできている。スノウに乗ったカイはミーナをまっすぐに見て叫ぶ。



「行っけー!」



 カイの掛け声でミーナとの戦いが再開された。

IMATE世界あれそれこれ


イメート

◆ナーガ(フォルムチェンジ・回復モード)

 七つの首を持つ大蛇の姿から、中央の頭に髪のように六本の蛇を集め、人の上半身に蛇の下半身を持つ男の姿に変化する。無属性の力で時間を巻き戻して怪我を治すが、その際にその場所を破壊した魔力の痕跡を集め変換し、破壊の力を持つ魔力でできた武器として相手にカウンター攻撃を与える(破壊と再生の手腕)。カウンター攻撃では回避は可能だが防御不可。当たれば最後、破壊される。ナーガでなければ元に戻せない。

__________________


 怪物と人形、狂信者と救う者達。この戦いがこの章の大一番。恐らく何かが欠けても、失うことになってもおかしくないだろう。


 次回、『人形(ニータ)怪物(シャーサーカ)


 その生から解放してやろう。それは一体どちらのことか。


今回も読んでいただき、ありがとうございました。


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