ⅩⅩⅩⅠ 無属性魔導士編_12
ジャーディアンとは、シャーサーカとは。一人の女が怪物になる前に作った、無属性を救うための団体。
少年達は創始者である怪物に問う。その役目は何のために生まれたのかを。
『腹ば探りて食らうは蛇』
「お待ちしておりました」
指定された場所に行くとジャーディアンが一人立っていた。
「シャーサーカ様のところへご案内します」
空間魔法の魔方陣が展開され、前回と同様、部屋の前まで飛んだ。また同じように仕掛けを動かし部屋の扉が開いた。
「ようこそ」
シャーサーカは笑顔で客人であるカイ達を迎えた。
本当に昨夜の襲撃の依頼をしたのは彼女だったのだろうか。今それを感じることはできない。しかし、彼女は悪である。何人もの魔導士の体を奪い、500年も生きてきた。じわりじわりと体を、魂を喰らい、成り代わり。このままにしておけばまた誰かの魂が喰われ、体は奪われる。それは避けなければならない。
「シャーサーカ様、一つお聞きしても?」
カルラが口を開いた。
「ええ。なんでしょう?」
「シャーサーカ様は、何故シャーサーカになったんですか? そして、シャーサーカやジャーディアンとは、なんのためにあるものなのですか?」
「……そうですね。それを語るにはまず、500年前のウルミラのお話から始めましょう」
目を閉じて彼女は語りだした。
「先代達から引き継いだ記憶によれば、初代シャーサーカ・ウルミラはとある王国で生まれた魔導士の娘でした。魔導士は魔導兵となり、国のために働かなければなりませんでした。幼い彼女も例外ではありません。彼女の両親も魔導士でしたから一家揃って国のために戦の最前線に立って敵を魔法で攻撃し、押し戻していました。
「ある日の戦で、遂にウルミラのいる魔導兵は相手の極大魔法を受け半壊してしまいました。彼女は両親が守ってくれたので無事でしたが、両親は瀕死の重症でした。周りには同じような人たちばかりで、彼女は大きくショックを受けました。目の前で消えていく命、その中にある大好きな両親の命。両親だけでも助けたい、自分も死にたくない、と願ったとき、そこに無属性の力が発現したのです。
「それでも、死人は生き返りませんでしたが、死の入り口に入ろうとしていた命は体に戻り、傷は癒えました。時を戻したのです。お陰で魔力切れになった敵国の魔導士を蹴散らし、兵士も倒し、ウルミラ達は勝ったのです。功労者であるウルミラには地位が与えられました。しかし、その平穏は僅かでした。先の戦いのすぐ後に別の国が攻め入り、疲弊しきった兵士は機能せず、国は陥落しました。
「王族も貴族も全てが処刑されることになりました。地位の与えられたウルミラもそれに含まれていました。処刑されるその時、彼女は敵とも云える国の王子に助けられます。当時、無属性は今よりも数が少なく、幻の存在でしたから。うまく国のために働くことができれば彼女の力には使い道がある、そう考えた王子はウルミラを助けました。そして、自分の直属の魔導士達の一人に加えました。彼女は恩義を感じ、王子のもとで働きました。自分ができることを精一杯に、他にない力を使い。
「真面目に働いていた彼女でしたが、やはり、力の万能性、全能性ゆえに事実無根の噂や誹謗中傷が王宮内に広がりました。王子はそれを否定しました。ウルミラは迷惑をかけてはならないと国を出ることにしました。そして、同じ目に遭っている魔導士を救うため旅に出ました。
「近隣の国を回り、一団となった彼女達のもとに王になった王子から知らせが来ました。跡継ぎのいない国を譲り、ウルミラに託すと。ウルミラは国に戻り、正式に国を譲り受けました。そして、法を整え、国を整え。彼女の一団はジャーディアンとなり、国のために奔走し、魔導士が守る魔導士のための国を作り上げました。これがモクシュカ・ジャドゥとジャーディアンの出来たわけです。そして、国を守るジャーディアンの長として、国のために頂点に立ったのは勿論ウルミラ、シャーサーカが誕生しました。そして、私も、魔導士を守り救うために作られたこの国を守るため、シャーサーカになりました」
最初は悪でなかった彼女。救うためのはずが、国を守るためのはずが、なぜ、他人の人生を奪うことになってしまったのだろう。話を黙って聞いていたカイはウルミラの顔を見る。彼女の顔は誇らしさを感じる。
「ウルミラって人、すごい人だね」
テイマが声をあげる。
「誰かのために国を作るってことは簡単なことじゃないよ。というより、国を変えることってのはそう簡単にできることじゃない。戦のあった時代をよく生き抜いたよね。ウルミラもこの国も。すごいや」
テイマの言葉に微笑むウルミラ。テイマの言葉の声音も純粋に感激と称賛のそれだ。
「それにしても、ラトナ様は詳しいね。だって、まるで、自分もそこで見ていたように詳しいんだから」
後半の声は低めで挑発的な声だ。顔は先程と変わらない笑顔なのに。
「僕さ、ここに来る前までにたくさんの国を旅していろいろな噂を聞いているんだ。特に面白そうな噂を聞いたときなんかはとても心が踊って、そこにどうしても行きたくなる。僕がここへ来た理由は、その噂にあるんだよ。その噂っていうのはね、初代シャーサーカが今も生きていて、モクシュカ・ジャドゥを治めているって噂だよ」
テイマの挑発するような笑みがウルミラに向けられている。
「それは噂ですよ。あくまでもね。無属性であるジャーディアンはすべての属性が使えます。建物や物、土地の記憶を読み取る闇属性の魔法だってありますし、シャーサーカには、初代からの記憶を伝える門外不出の魔法だってあります。だから、知っていて当然ですよ」
ギクリとした様子も見せず、ウルミラは返す。
「それでも情報には限度がある。500年経てば、記憶はすり減っていく。すべてを覚えていられるほど、人間の脳はできていない。全てを覚えているなんてないし、その人の思いはその人にしかわからない。ウルミラが無属性に目覚めたとき、状況から助けたいのはわかる。けれど、死ぬのは嫌だ、はわからない。それは、当人しかわからない、その人だけの思い。そうでしょう、ウルミラ」
カルラもウルミラに言葉を投げる。ウルミラ、と呼び掛けられたことで眉が少しピクリと反応した。
「カルラさんまで。無属性の貴女でも、わかることだと思っていました。貴女だって、読めるはずです。この建物の、この国の土地の記憶を読んでみてください。貴女にも伝わるはずです。先代達の記憶が。初代様の記憶が」
訴えるウルミラ。
「……」
黙ったままウルミラの顔を見つめるカルラ。胸に手を当て、冷たい声で言う。
「まだしらを切るなら見せてあげる。あの時、何を見たのか」
胸元が白く光る。魔法の光ではない。この光はイメートの光。
「七首の大蛇。出でよ、ナーガ」
白い光がカルラの胸元のイメートの石から蛇の形をとり現れる。光は大きな蛇になった。ただ一つだけ違うのはその蛇、ナーガが七つの頭を持っているということだ。
「……そ、そのイメート……」
「ナーガ」
カルラがナーガの名を呼ぶ。それだけでナーガはカルラの言葉と指示を理解し、ウルミラをとらえた。
「噛め」
ウルミラに七つの首全てが噛みつく。白い服に血が滲んでいく。
「動かれては困る。それに、ナーガの毒は貴女でも暫く動くことはできない。逃げられませんよ、シャーサーカ様」
「貴女……まさか……アル、ナ?」
その問いに答えず、彼女は昔、自分が見た決定的な瞬間の記憶をカイ達に見せたようにウルミラにも見せた。それを見て、ウルミラの顔は驚愕の表情で固まっていた。見せ終わるとウルミラにカルラは言う。
「貴女のことはシュラさんから聞いた。そして、ずっと貴女がこんなことを繰り返してきたことを、ずっと貴女と戦ってきたことを。人の体を奪うなんて、許されることではない。どんな理由があろうとも!」
「シュラ……まだ……生きていたの、ね……」
途切れ戸切の言葉を紡ぐウルミラ。
「そろそろだな」
エルバが懐中時計を取り出して言う。
「テイマ、お願い」
「はいよー。全騎、駆動!」
ドンと床を踏む。地面が揺れ、地が割れる音がする。外からは隆起の音、ジャーディアン達の悲鳴が聞こえる。
「シュラさん、あちこちに仕込んでくれたね。お陰で陽動しやすい」
「何を、したぁ?」
呻くウルミラにテイマは言う。
「僕の魔力で動く土人形兵をシュラさんに頼んでいろんなところに植え込んでもらったのさ」
「シュラさんもここに来ています。ただし、僕らとは別行動で。彼女が来るまでの間、僕らが相手です。シャーサーカ様。いや、ウルミラ」
カイの剣がウルミラに切っ先を向ける。
その時、部屋に白い魔方陣が展開された。無属性の光の中、誰かの姿が浮かび上がる。
「シャーサーカ様!」
そこに現れたのは青い髪の少女、ニータ・ジャーディアンのミーナだった。
IMATE世界あれそれこれ
登場人物について
◆ウルミラ
世界で初めて魔導士のための国モクシュカ・ジャドゥを作った才女。無属性魔導士。シャーサーカ。
プロフィールは、26部ⅩⅩⅥ 無属性魔導士編_7の後書きのIMATE世界あれそれこれに。
◆ナーガ
カルラのイメート。妖精型・精霊種で破壊と再生、天気を操る力を持つ。極めて珍しい無属性のイメート。性別は男。姿を三種類に変えることができる。普通のコブラの姿の時は、デフォルメされたような姿。攻撃時は、七つの首を持つ大きなコブラの姿。回復時は、蛇の髪を持つ屈強な男性の上半身に下半身は蛇の姿(次回以降に攻撃モードから回復モードへフォルムチェンジする)。
顔立ちはカルラに似ている。カルラの過去を知る者の一人。
国、及びその歴史について
◆モクシュカ・ジャドゥ
500年前にウルミラにより建国された魔導士のための国。無属性魔導士が知識と平穏を求めて世界中から集まる。国の主な産業は魔導具の開発と魔法の研究。
国外から迫害される魔導士を無条件で受け入れることを初代シャーサーカの時代からしている。
◆モクシュカ・ジャドゥ建国とウルミラの歴史
540年前……ある魔導士の家にウルミラ誕生。
530年前……戦争が起こり、ウルミラ一家共々魔法兵として戦争へ。両親が瀕死の重症を負う。それにより無属性の力を覚醒。両親を助け、無属性魔法で敵を蹴散らす。ウルミラにより戦争に勝利。しかし、消耗が激しくそこを別の国にまた襲われる。今度は敗戦。
525年前……国は併合、元王族、及び貴族、大臣は処刑。ウルミラも処刑対象だったが、王子により、その力の有用性にかけてみたいとウルミラは処分を免れる。王子、ウルミラを手元に従者として置く。王宮内で、ウルミラの噂が広がる。王子をたぶらかした、国を乗っ取ろうとしている、無属性魔導士は危険だなどの事実無根の噂。
520年前……ウルミラ国を出ることを決意。自分と同じ境遇にある魔導士達を救おうと近隣の国を旅する。
500年前……魔導士の一団として旅をすると同時に、近隣諸国の人助けを行う中、王子が王になり、後継者問題が起き、跡継ぎの二人の子供が死亡。国をウルミラに託す。
498年前……一国を治めることになったなったウルミラは念願の魔導士の国を作ることに成功し、モクシュカ・ジャドゥが建国される。制度、土地を整備、首都に神殿を作り、自分を統治者として、旅で得た魔導士仲間の一団をジャーディアンとし、国を治める。
モクシュカ・ジャドゥの発展を願う中、老いと死への恐怖を感じるようになる。時を戻して若さを保っていたが、その魔法も効かなくなり、いよいよ狂い出した彼女は不死について研究しだす。新たな体に魂を移すという実験で人形の体に魂を一度移してみたが馴染まず、実験は失敗に終わる。
いよいよ死が近づき、ニータ・ジャーディアンの体を奪うことを決意。シュラの体を奪うことに成功。若い体を手に入れたことでニータ・ジャーディアンになりすまし、シャーサーカとして、再君臨。以降、急激に人格が変わったことを不審に思われないように魂の学習をし続け、ニータ・ジャーディアンを糧として生きる化け物になった。
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遂にカルラが封印していた自身のイメートを出す。
時は来た。500年の歴史を変える時が来た。
少年達と無属性女魔導士と化け物と狂信者、人形と人形師と衛兵。最後に失うのは一体何か?
次回、『衛兵→家畜→騎士→?』
皇女は、決意を胸に立ち上がる。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




