ⅩⅩⅩ 無属性魔導士編_11
明日の午後三時に神殿へ行き、クーデターを決行する。そんな大事な日の前夜に招かれざる客が一人。
闇の道化師がやって来た。彼の目的とは?
『明日の行方』
「どうもこんばんは、闇の道化師です」
そいつはにっこりと笑った。
なぜこんなところにこいつらが現れたのか、どうやってここにいることを突き止めたのか。
「まぁ、貴方達の言いたいことはわかりますが、そこはグッと堪えていただいて。これから私はウルガルドの使者と戦わなければなりません。ここもこんなにしてしまいましたし、続きは外で致しましょう」
男の声はねちっこく絡むような嫌な声だ。
「出ましょう。皆」
これ以上店の被害を大きくしてはならない。カルラの言葉に従い、外に出る。
「アルナ。私がこの家を守るわ。貴女の気の済むまでやりなさい」
シュラの声は怒っていた。その言葉にカルラは頷き、目の前にいる黒衣の魔導士に対峙する。風か怒りか、水色の髪が揺れている。
「さぁて、お仕事ですよ、スー。ちょいと暴れましょう」
「主、ほんとにやるんですか? 気が進みません。仕事、バックレたいです」
「一応仕事しとかないと。依頼なんですから」
大鴉のイメートを諭す闇の道化師。仕事、依頼。この襲撃は依頼だと言うのか。一体誰が。
「まぁ、なんとなくだけど、頼むのって、一人しかいなくない?」
「そうね。恐らく間違いないわよ、テイマ。あの人、こいつらとも繋がってるって噂があるって、クリスタルさんから聞いていたわ」
「まじで? 当たって嬉しいけど、これはかなりヤバイ状況ってことだね」
やはり、ウルミラが闇の道化師に依頼したと見ていいらしい。
「ええ。だから、ふざけるのも止めて。気が散る。邪魔」
「ひどいなぁ。……けど、黙るよ。命の取り合いだからね」
真剣な顔をしてテイマも戦う構えをとる。
「無属性1に風属性の魔剣士が2、非魔導士が1ですよ。主、本当に大丈夫ですか?」
「スー、依頼の内容、覚えてますか? 邪魔者を消しに“行く”、ですよ」
「……主、まさか」
にんまりと唇が弧を描く。その笑顔で黒い大鴉のイメート、スーはすべてを理解した。そして、ため息をついた。
「さぁ、行きますよ、スー」
「……はー。はい、主」
大きな黒い翼を広げた。
「来るっ!」
羽ばたいただけで、強風が起こる。スーと共に魔導士は空へ飛んだ。
「空中戦か。フウ!」
「スノウ!」
二人はイメートを召喚し、エルバはフウの力を借り、カイはスノウに乗って空に飛び上がる。
「僕らは?」
「援護射撃。カイに当てたら……」
「イエス、マァム!」
そう叫ぶとしゃがみ、大地に手を付く。大地が割れ、土の砲台がいくつも現れた。
「全砲台、装填完了。いつでも撃てるよ」
「少し待って」
テイマに指示を出すカルラの顔は常に上を見ていた。カイとエルバの繰り出す攻撃は全て防がれ、いなされている。
「すごいね。戦い慣れてる、あの人」
テイマの言うとおり、その動きはかなりの慣れにより防がれていると言える。カイとエルバも十分に剣も魔法も使えているのだが、闇の道化師には劣っていた。攻撃をひらりひらりとかわし、短刀で攻撃をいなす。
「いやぁ、これはこれは、油断したら負けてしまいますねぇ」
「そのわりには、随分余裕だなっ!」
「おっと。焦ったらただじゃすまないのを知ってますからねぇ」
「てぇい!」
エルバとカイが切り込むがなかなか地面に引きずり下ろすことが出来ない。またもや弾かれてしまった。
「君達は若い、それでいて実直で素直で汚れを知らない。だからこそ、そのレベルなんですよ」
「何っ!?」
「そこの風の剣士は軍人ですね? いかにも卑怯が嫌いそうな。しかし、時には卑怯にならないと、私みたいなやつは倒せない」
エルバの弱点をつく闇の道化師。リーゲルトの剣術はきれいで無駄がない。しかし、エルバの軍人としての、皇子としてのプライドが卑怯を許さない。だからこそ、一歩足りない。
「黙れっ!」
キィン! と高い音が響く。
「だから、甘い。綺麗事だけで生きていけないんですよっと」
弾かれたエルバは地面に着地した。
「エルバ!」
「大丈夫です、カイ殿」
怪我はない。しかし、エルバの攻撃はもう届かない。
「テイマ!」
「はい!」
道化師からカイとエルバが一時的に離れたこの時を狙っていたカルラがテイマに砲撃の合図を送る。土の砲台からは石のつぶてが矢のように飛ぶ。
「っ! これはっ」
闇の道化師もこれには焦ってつぶてを弾くが、彼のイメートのスーの羽をつぶてがいくつか貫通した。負傷し、声を上げ落下するスー。
「スー、戻りなさい」
イメートを石に戻し、闇の道化師は地に降りた。
「いやぁ、酷い酷い。しかし」
彼はカイ達を一度眺める。
「なかなか楽しめました。撤退しましょう」
「逃げる気?」
「ええ。そうですよ、お嬢さん。私の仕事はこれで終わりです。ここまでやるとは正直思いませんでしたからねぇ」
笑う道化師。
「んー、貴方には聞きたいことがあるから逃がすわけにはいかないんだけどなぁ。というか、それで逃げられると思ってるのかなぁ?」
テイマの力で道化師の足は地面に少しずつ呑まれている。
「これはこれは。魔方陣なしにこれを行うなんて。……はぁ、そうですかそうですか。どうやら君が特別な存在のようですねぇ……面白い」
テイマを見て何かを考える。
「土の少年、君に免じてこの国から我々闇の道化師は完全撤収します。君がここにいるとなれば、私も上に報告をしなければ……。まぁ、なにより、あの化け物と貴殿方の戦いを見たくなりました。だから、よいしょっと」
土から無理矢理に足を引っ張りあげて闇の道化師は地面の上に立つ。
「あっ!」
「逃げますね。それじゃあ」
イメートを復活させて彼は飛び立った。
「追いましょう」
「いや、いいよ」
跳ねを広げたスノウをテイマは止めた。
「……大丈夫だよ、多分。あの人、変な人だけど自分で決めたことは守る人だと思うよ」
テイマが言う。
「まるであいつを知ってるような言い方ね」
カルラの目はテイマを突き刺しているようだ。
「あの人も僕も面白いことが大好きなんだよ。あの人と僕は似た者同士だから、わかるよ。なんか、同類っていう感じの同じ匂いがした」
道化師はもうあんなに遠くまで飛んでいってしまった。スノウなら追い付けるだろう。しかし、それを追わず興味をなくした、と言うようにテイマはシュラに問う。
「それより、シュラさん。お店は?」
「今直してる。安全になったから」
振り返ると、お店はかなり修復されていた。最後の瓦礫が元の場所に戻り、修復が完了した。前と同じ、そのままのお店だ。
「さてと、皆はもう休んで。明日は長い戦いになるわ。明日で、この国を変えるのよ」
シュラの言葉に皆が頷く。皆が家に入っていく。
「テイマ」
「ん?」
カルラがテイマを呼び止める。
「貴方が何者なのかは、明日のことが終わったらたっぷりと聞かせてもらうわ。だから、途中で消えないでよ。今だけは、仲間として見てあげる。けど、私は貴方を完全に信用したわけじゃないから」
「別にいいよ、それで。僕は楽しく旅ができなくなる世界になるなんて嫌だし。自分の楽しみを奪う世界になりそうなら阻止したいもん。なら、君達に協力する。君達と旅するのも楽しそうだし。それに、ここまで知っちゃったら野放しにしておくわけにはいかないんじゃない? だから、僕はこの戦いが終わっても逃げるつもりないし、むしろこっちからついていく気だしね」
笑顔でそう言うテイマ。
「さ、早く寝ようよ、カルラ姉さん」
いろいろと心配だが、カルラは今は考えないようにし、明日に備えた。
明日の午後三時。ウルミラの神殿へ行くことになっている。その時が戦いの始まりだ。
いよいよ人の形をした怪物退治。人形師を取り戻し、国の未来を変えるため、少年達は行く。
次回、『腹ば探りて食らうは蛇』
今回も読んでいただきありがとうございました。




