ⅩⅩⅦ 無属性魔導士編_8
カイ達がカルラの記憶を見て、共にウルミラを倒すことを決める。その少し前、ウルミラのいる神殿には動きがあった。
『神殿の人』
神殿の奥深く。そこは外のことなど届かない、外部とは一切遮断された、魔法すらも届かない特別な部屋。いや、牢獄と言う方が正しいのかもしれない。しかし、それをはっきりと断言できないのには理由があった。
白い空間。壁も床も天井も、白だった。差し色なんてものはない。ただ、かろうじて扉や食事の出てくる場所は凹凸があるので影ができる。そこの影の色、そして、自分がここに連行されたときの服の色しか、今ここに色はない。
おそらく時間を感じさせないようにしているのだろう。
無属性の魔法の光が白いのは、全ての魔法の先、根源にあるのが無属性で、全ての属性の光の色を合わせると白になるからだ。そして、全てが調和されると時間は世界に作用し、空間を歪ませ、操ることができる、とシュラが教えてくれた。何を言っているのかその時は理解できなかった。しかし、今ならなんとなくわかる。この白は、自分のいる空間を時間から切り離し、歪ませるものだ、と。
一体あれからどれだけの時間が経ったのだろう。カマラはどうしているだろう。あの時、怪我をした父は。そして彼女、師であり、友であるシュラは今……。
力を抑えられていなければこんなところからすぐに出られるのに、と一人の若者は顔を歪ませる。今、自分にできることは何か、彼は考える。
「ウルミラを倒したら、この国はどうなるんでしょうか?」
カイがシュラに問う。
「それはこの国の国民が考えることよ。と言いたいところだけど、ウルミラを倒しただけじゃキルカは帰ってこないのよね。誰かがシャーサーカになって、この国の制度を変えるのが一番穏便に済むんだけど。例えば、アルナとかね」
その言葉にカルラはあからさまに嫌そうな顔をする。それを冗談よ、と笑うシュラ。
「うーん……それ以前に国崩しの時点で穏便じゃないですよ、シュラさん」
二人の会話を聞いていたテイマがふと呟く。
「穏便って、なんだっけ?」
「ぅ、うーん……」
何とも言えない表情でエルバが頭を抱えた。
神殿の大礼拝堂には神殿のジャーディアン達が集められていた。国境警備の者は転送魔道具による遠距離通信での参加だ。
「皆さん、静まりなさい」
凛と響く、高く張りつめたような声。それは現在のニータ・ジャーディアンのミーナだ。その一声により、ざわざわとしていた礼拝堂は静かになった。それを確認してミーナは祭壇の前にシャーサーカを通す。
礼拝堂のステンドグラスから光が注いでいる。祭壇の前に注がれた色付きの光のスポットライトを浴びるようにシャーサーカ、ラトナが立つ。
皆が彼女に注目する。彼女はよくとおる声で語りかけた。
「我々ジャーディアンは、魔法の研究と世界から迫害された魔導士の保護を使命としていることは皆さんもご存知ですね」
耳を傾けるジャーディアン達。真剣な目だ。
「私はそんな魔導士を守るため、この国を作り上げた初代シャーサーカ、ウルミラ様の意志を尊重し、守り、この意志を多くの者に伝えることが使命であると考えています。貴方達、今、世界で何が起こっているか知っている者は恐らくいないでしょう。私は先日、とある国の使者より、これから世界で起ころうとする災厄を知らされました」
ざわざわとジャーディアン達が小声で囁く。心配な声があちこちで聞こえる。ミーナがそのざわめきに静かにするように声をあげると、すぐに静かになった。それを見てまた言葉を発する。
「その災厄は今はまだ眠っていますが、近い未来にそれは起き、この世界を飲み込むことでしょう。その中には貴方達の家族、友人、故郷もその災厄に沈みます。そして、その災厄がここにもやって来て、この国も無事では済まないでしょう」
その災厄がどのようなものかわからないが、もしそんなことになれば、やっと得た自分達の居場所が無くなるのは目に見えている。ジャーディアン達は狼狽えた。
「その災厄の芽を摘み取る協力を要請されました。私は正直、世界がどうなろうと知ったことではありません。愚かな非魔導士が災厄に巻き込まれようと何も思いません。しかし、魔導士達が巻き込まれるのはいい気分ではありません。許せません。よって、私は他国のこの要請に協力しようと思います。しかし、私だけでは力に限界があります。貴方達ジャーディアンの力も貸していただきたいのです。強制はしません。ただ、多くの者が協力してくれると、その災厄の芽を早く完全に摘み取ることができるでしょう」
壇上を降りるラトナ・シャーサーカ。後をミーナに任せ、自室に戻った。
「腕に自信のあるものは私のところへ来なさい。明日の日没まで待つ。解散」
緊張の糸が切れたように礼拝堂内は一気にざわざわと騒々しくなる。耳障りな音に顔をしかめるミーナ。明日までに一体この中の何人が来てくれるだろう。そう思うと自然に表情は険しくなる。
そんな険しい顔をしている彼女に話しかける者はますますいなくなる。結果、礼拝堂の祭壇の前に立って待っていたが、誰も来なかった。
「ジャーディアンなら、シャーサーカ様に全てを捧げるべきなのに」
傾き橙色に色づく光の射す礼拝堂で呟いても、誰もその声は聞いていないし聞こえていない。そもそも、彼女の声と思いは、いつもそうだが届きにくい。
その日の夜の事だった。多くの者が昼の勉強や仕事を終えて少し経った頃、ミーナのもとを訪ねた者がいた。
「ミーナ様」
ミーナに声をかけたのは、現在は国境の衛兵をしている騎士のリティカ・グレーヴィッチだ。その意味は勿論、例のことだ。そうでなければ、彼女は現在の仕事場である国境からここに来る意味はない。
鎧兜を脱ぎ、脇に抱え、ミーナの前に跪く。
「この身を世界のために」
元々、騎士であった彼女はその力で自国の危機を救い、守ったことでここに来ることになった。人を守ることを使命とする彼女には、この話は無視できないものだった。
「貴女のような志高い魔導士の協力に感謝します」
リティカが署名をすると、自分が一番乗りであった。あれからいくらが時間が経ったというのに。しかし、まだ時間はある。
「まだ、時間はあります。皆、今までは自分の身を守るだけで精一杯でした。その範囲が大きくなるのが不安なのでしょう。皆、平和を望んでいます。ただ、今は戦う覚悟を決めている時なのです。だから、どうか、暫しお待ちを」
自分だって初陣の時は覚悟を決めるのに時間がかかった。きっと皆、同じだ。命の取り合いになるかもしれない、そんな大きな話だ。皆、即決できないのだろう。
「そうですね。貴女は本当に人を信じています。その清い心が貴女の強さの源でしょう。貴女はどうかそのままでいてください」
その言葉に頷いたリティカはミーナの前から去った。
IMATE世界あれそれこれ
◆ミーナ
現在のニータ・ジャーディアンを勤める18歳の少女。8年で出世した才女。妄信的でシャーサーカが全て。恩を抱いている。青い髪と瞳は冷たさを感じる。シャーサーカのためなら一国をも滅ぼす覚悟で、冷酷になる。カルラと似ているような気がするが関係は不明。
◆転送魔道具……光属性、無属性をメインにして、遠くにいる者に声と映像を届ける道具。私たちの世界でいう、テレビ電話とか中継とか、そういうもの。
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囚われの青年。怪物。怪物に盲信する才女。神殿の内部も動き出す。
次回、『人形師と衛兵』
今回も読んでいただきありがとうございました。




