ⅩⅩⅤ 無属性魔導士編_6
少女は一人、目的のために行く。引き裂かれた男女。女は涙を流し、愛する青年の帰りを待つ。取り残された少年達。少女を探し、夜の異国を駆ける。
会わなければならない。
どうして僕らの前から姿を消しちゃったの、カルラ姉?
『アルナと捜索、その二』
「ねぇ、アルナ。貴女は今、向こうで何をしているの?」
シュラがカルラに問う。
「無属性国家魔導士を。キュリアが色々と手続きしてくれて。見つかってもなかなか戻れないような位置に王も置いてくれました。けれど、国家魔導士になったのは実力だから。ずるはしていない」
カルラは言う。勿論、シュラはそんなことわかっている。
「わかってるわよ、ずるなんてしてないことぐらい。なんたって貴女はニータ・ジャーディアンになることを約束されてて、ウルミラにも気に入られるほどの実力者だったんだから。嫌だと思うけど、あの人に気に入られるということは、相当な実力があるということよ。だから、貴女がずるをしたなんて思わないわ」
「まぁ、あの人にはそれなりに感謝はしている。私がカイに会えたのも、新しい生活ができたのも、ううん……生かして、拾ってくれたのは、あの人がいたからだった」
二人の間に沈黙が流れる。主のいない『doll house-Avatara』、キルカの家が余計に夜の黒に包まれた気がした。
村の中のメインストリートは人の匂いで溢れていた。この中からカルラの匂いを探すのは至難の技だろう。
「どう、コハク?」
「……人の匂い多すぎ問題でさぁ。でも、なんとか追えてますよ。微かに酒の匂いが混じってますからねぃ」
「酒?」
カルラが酒を飲むなんて今までなかった。見たこともなかったし、キュリアとカルラの家には酒なんてなかった。
「カイさん、こっちですよぅ。こっちの方から匂いが流れて来やがりますよぅ」
「うん」
夜のメインストリートを少年達は駆ける。目指すのは、メインストリートの先の村の外れ。
部屋の明かりとして灯していたランプの火が少しだけ揺れる。なんとなく心もとない明かりは気分を弱くする。今日は生憎、月は雲に隠れたのか、それとももう沈んだのか、まだ出ていないのか、姿は見えない。少しばかり明るくしなければ、とシュラは言葉を紡いだ。
「さっき、カイって言ってたわね。どんな人?」
「カイは私の弟のようなものです。兄弟弟子ってやつの弟分で、とても優しい男の子です。あの子がいなかったら、今の私はいなかった」
そう言えば12年前より表情は戻っている。というより、優しい顔ができるようになっている。心境に変化があったのだろう。それぐらい、そのカイという人物がカルラにとって特別な存在であることをシュラは感じた。
「特別な子なのね」
「カイは、この世界の誰とも違う。この世界にたった一人の存在で、形は違うけれど、それは私も同じだから。だから、変われたのかもしれないです」
カイも自分も、そして、シュラもウルミラもこの世界の誰とも違う。完全にこの世界から外れているカイ。少しだけ世界とずれて、アルナという存在からカルラになった自分。ただの復讐するために新たな現代魔法を学んだ。けれど、復讐だけが自分の魔法の原動力ではなくなった。カイという、一人の守らなければならない、ただ一人の弟ができたからだ。
「カイはきっと私の光で、閉ざした心を開けた、鍵なんです」
「……それは、恋、かな?」
「多分違う。家族愛に近いと思います。だからこそ、何があっても、ウルミラとの戦いに巻き込みたくない。だから、突き放してきたんです。だって、大切な家族ですから」
ふわりと、またランプの火が揺れた。
「……アルナ、どうも、巻き込んじゃうみたいよ?」
「え?」
シュラが空中の何かを捕まえた。
「さて、君の主を呼んでおいで」
捕まえたそれを離してやると、それは火の玉に姿を変え、そして一匹の狐の姿になった。
「コハク……なんでいるの?」
「ばれちゃいましたよぅ、カイさん」
しゅんとした声を出すコハク。窓からカイの顔が見えた。
「カルラ姉、やっと見つけた」
「……」
「……」
向かい合ったカイとカルラはお互い黙っていた。その様子を見かねたシュラが二人が話せるように助け船を出す。
「で、カイ君。貴方がアルナ、いえ、今はカルラだったわね。どうやってここに来たのかはなんとなく理解したけど、どうしてここに? カルラは、貴方達を振りきってまでここへ来たのよ?」
「……僕はわからないんだ。カルラ姉がどうして僕らの前から消えたのか」
カイの言葉に同調するようにテイマも声を発する。
「そーだそーだ。それに…、あ、僕はテイマね。たまたまこの国に入るときに一緒になったんだ。それに、どーして急にあんな態度になって、あんなことしたわけ? あと、この国に来ることになってからおかしくなったってカイ君から聞いたよ。それもどうして? ちゃんと説明してくれないとひっぱたくよ。エルバが」
「なぜ私が!?」
勝手に指名されるエルバ。テイマにつっかかるエルバ。こらこら、とシュラが二人をなだめる。
「ねぇ、カルラ姉。一体どうしたの? 僕らに話せないことなの?」
カルラはシュラを見る。その視線に気づいたシュラは、小さく頷いた。
「わかったわ。全て見せる」
カルラの魔法が部屋全体を包み、作用し、カイ達の周りから部屋の家具は一切消え、景色の中に立っていた。記憶を空間に映し出して他社に見せる投影の魔法だ。
「まず、私の本当の名前はアルナ。12年前、このモクシュカ・ジャドゥでジャーディアンをしていた。そして、次期ニータ・ジャーディアンの地位を約束されていた」
小さな女の子がいる。それは本物でないが、走ってきた淡い水色の髪の少女をカイは反射的に避けてしまった。
「私はもともと、この国の国民だった。ここは祖国。とある事件により無属性の力が解放された私はジャーディアンに保護された。そして、それから九年間、神殿で魔法の研究とこの国と世界についての勉強をしていた。私がニータ・ジャーディアン候補に選ばれ、その位を約束された時は15歳だった」
景色が赤く染まる。少女が赤を見つめている。
火事だ。
家が燃えている。きっとカルラの家なのだろう。その炎の中から何かが伸びた。
「うわっ……」
「……これは、酷いですねぃ」
思わずテイマもコハクも顔をしかめ、声を漏らす。エルバに至っては吐きそうになっている。口元に手を当て踞っている。それをシュラが優しく背中をさすっている。
『オオオォォォォォ』
『ひっ!』
伸びたのは、燃える腕、続いて顔が頭が胴体が、全てが炎に包まれ、男か女かもわからない。
『あ、……アアアアァァァァァ!!!!』
少女の絶叫が耳に痛く響く。すると、へたりこんだ少女を中心として大きな白い魔方陣が瞬時に展開した。そしてすぐにカッと強い白い光の中に、少女も燃え盛る家も人も、そしてそこにいるカイ達も、その光に飲み込まれた。
光が収まると、そこには何事もなかったかのように家が建っていた。そして、家の中から少女を呼ぶ母親の声がした。
『アルナ、貴女そこで何してるの?』
『お、お母さん? 今、家が! なんともないの? 今、火事が!』
『何言ってるの? 火事なんて一度も起こったことないわよ。さ、早く入りなさい。ご飯の支度を手伝ってちょうだい』
その時、消防の水魔導士や無属性魔導士が近隣住民の通報により駆けつけた。火事などあった様子もなく、家主の母親は知らないと言う。しかし、近隣住民と怯えて震えていたその家の少女の様子でそこにいた無属性魔導士は全てを理解したようだった。
『貴女が、時間を戻したんですね』
それから場面が切り替わり、白い神殿の中で白い服を着た少女があちこち移動し、魔法を学んでいた。やがて、少女はカイ達と同じくらいの背になった。そして、掲示板には彼女が次のニータ・ジャーディアン候補である、と記された書面が掲示されていた。
『アルナを次期ニータ・ジャーディアンの候補とする』
「その頃だった。私は見てしまった。何を見たか? それは、当時のシャーサーカがその当時のニータ・ジャーディアンの体を奪うところをよ」
IMATE世界あれそれこれ
◆アルナ(カルラ)
12年前までのカルラ。モクシュカ・ジャドゥの出身で、元国民。幼い頃、料理中の火事で燃えている家と母親を見て強いショックを受け、無属性を発動する。時間を巻き戻し、家と母親を助ける。その後、ジャーディアンの一員となって魔法を学び、ついにシャーサーカの次の位のニータ・ジャーディアンに指名される。
現在はモクシュカ・ジャドゥから遠く離れた北西の国、ウルガルド王国で無属性国家魔導士をしている。
12年前から現在に至るまでの詳細は次回に。
◆コハク
カイのイメート。幻獣型・妖怪系・妖狐・野干。火を吐く化け狐がモデルのイメート。人語を話し、任意の姿に化け、火を操ることができる。独特な口調で話す。変化して姿を変えて潜入したり、変化したモデルとなった生き物の能力(本物に劣る)をその時に限って身に付けることができる。
嗅覚も犬並なので、今回は警察犬のように匂いでカルラを探した。
◆投影魔法
自分の記憶を空間に映像として映し出し、他者に伝える魔法。闇属性の魔法。術者の力の強さによって、家具が消えたり、その記憶の中に自分が飛ばされてしまったかのような錯覚を覚えたりする。
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カルラ姉さんの年齢は現在19歳となっています。しかし、実年齢はもっと上です。次回で彼女の秘密がわかります。
少女の記憶は少年達に何を見せるのか。そこに見える、少女の復讐すべき相手とは。
次回、『アルナの記憶』
美しくおぞましい女に、復讐をーーー。
今回も読んでいただき、ありがとうございました。




