ⅩⅩⅣ 無属性魔導士編_5
カイ達と一方的に別れたカルラが向かったのはとある村の『doll house-Avatara』という人形専門店。その店にいる生きた人形のシュラを訪ねる。カイ達はカルラを探すため、国中を探す。
『アルナと捜索、その二』
店の奥でカルラはシュラと話していた。
「久しぶりに会ったのに、ゆっくりも話していられないなんてね。……あぁ、もう。何てことなのかしら。やっぱり、赦せないわ」
落ち着きがない。
「シュラさん、私がいない間にいったい何が?」
カルラの前に置かれた紅茶はミルクで濁っている。まるで混乱した今のシュラのようだ。カルラはそんな彼女に問うた。
「……キルカが連れていかれた」
「キルカが!? なんで、だってあの子は」
「無属性の力が解放された」
その言葉だけでカルラには何が起こったのか十分に想像ができた。それ以上の言葉もいらない、その状況に。
「シラナは、連れていかれるキルカを引き留めようとして怪我をしたの。彼は今病院よ。で、カマラちゃんは……」
事態が深刻なことになっていた。
「カマラは今どうしてるんですか?」
「ずっと泣いて、今はもう涙さえでなくなってしまった。無理に笑ってお店に出てる。もうすぐね、あの二人、結婚する予定だったのよ」
幸せになるはずだった二人の未来を引き裂いたのは、あいつらだ。
「アルナ。私だって助けに行きたいわ。だからこそ、貴女を待ってたの。一緒に行ってくれるかしら?」
その言葉にカルラが否定するはずない。黙って頷いた。
「私は何をすれば?」
「まず魔力を蓄えましょう。でないと、ウルミラには勝てないわ」
窓の外を見て彼女は言う。空にはこの地では珍しい、炎を体の先に纏わせた赤茶けた鱗のドラゴンが飛んでいた。
「皆、どうだった?」
一日目の調査を終えて皆が集合した。多くが首を振る中、コハクただ一人が口を開く。
「ちょっとだけ、お嬢の匂いがあった地域がありましてね。そこをもっと重点的に探したいと思うんですが、いかがでしょうかねぇ」
これは大きな収穫だ。ならば、その意見を尊重しない手はない。
「行こう。その場所へ」
僕達は聞かなければならない。どうして自分達の前から消えたのか。どうして急にあんなことをしたのか。どうして、ここに来ることになってから態度が急変したのか。そして、何を考えているのか。
「なんとしても見つけよう。カルラ姉を。そして、その裏の何かを」
夜、村の酒場に一人の女が訪ねてきた。この辺りでは見かけないその女は店の隅のカウンターに座り果実酒を少しずつ飲んでいた。服装からなんとなく旅の魔導士だろうと店の者も客も思い、特に気にも止めなかった。
静かなので彼女のことを気にかけるのはカウンターのマスターのみだった。
「お! カマラちゃん! 今日も別嬪さんだねぇ!」
忙しい時間帯にたくさんの酒の入ったジョッキを持って店の奥から出てきたのは蓮の香りを纏った桃色の髪の女だった。化粧で隠してはいるがあまり顔色がよくない。疲れたような顔をしている。ほろ酔いの客達はそんなことに気づかない。彼女が自分の近くに来る度に茶々をいれる。
「(長くもたないな…)」
本当は今の状態で接客させるのは精神を追い詰めさせそうだ。本当ならそっとしておいた方がいいのだろうが……。忙しい時間帯には、やはり人手がほしいため店の主である彼女の父親はジョッキを奥から運ぶだけの仕事だけでほとんどは裏にいるように言っていた。しかし、今日は珍しく女性の客がいる。同じ女性同士なら、心が少し軽くなるかもしれない。そう思い、親父は娘を呼んだ。
「カマラ、お前カウンターにおいで」
「えー、おやじそれはないよー!」
「そーだそーだ!」
客からのブーイングにうるせえ! と答えるとカルラの相手をさせた。
「あそこのお嬢さんの相手しな。あんま無理すんじゃねえぞ。そら、たまには女同士で飲んでこいや」
「ありがと、父さん」
こそこそと父親と話し、カルラの前に来た。カウンターからガタリと音がした。椅子に座ったのだろう。
「お一人なんですか?」
「……本当はシュラさんも連れてきたかったけど。……大きくなったね、カマラ」
「え?」
「私は12年前、シュラさんに救われたアルナ。覚えてない?」
カルラをまじまじと見てようやく思い出したようだ。
「絶対にキルカを助け出す。だから、今は待ってて。シュラさんと私で必ず助けて、それで、この国のジャーディアンなんてものも、国の制度なんてものも、貴女達を引き離す全てのものをぶっ壊すから。忘れないで。開けない夜はない。夜明けが来れば、花は咲く」
立ち上がり代金を置くカルラ。その手にカマラは自分の手を乗せた。
「お願いします。キルカを……返して……」
「大丈夫。五日待ってて。きっと返す。必ず」
やんわりと手を抜き、カルラは店を出た。その場に残されたカマラはカルラのお代を握りしめてうつむき、小刻みに震えていた。それに気づいたのは彼女の父親で、そっと彼女を奥に戻した。客は誰一人気付かなかった。
スノウもスンスンと鼻を鳴らして匂いをかいだ。
「間違いなくカルラです。この村に来ています」
とある村の上空を旋回しながらスノウは言う。
村にしてはなんでもある大きめの村だ。お店の明かりが通りを照らしていて、夜の遅めの時間だが、人通りがまだ多い。この村のどこかにカルラはいる。
目立たない林に降りると、この村の宿屋を片っ端から当たった。しかし、三件しかない宿屋にはカルラらしい人物は宿泊していないと言われ、カイは落ち込んだ。
「大丈夫だって。もしかしたら、どこかで野宿とか、誰かの家で世話になってるよ。だから、泣かないで」
「そうですカイ殿! きっとどこかの魔導士と意気投合しているのかもしれません!ね、どこかで飲んでいるんですよ!」
テイマとエルバが励ます。
「ふんふん……ふんふん……」
「ちょっと、オキツネさんも何か言ってよ」
コハクはテイマの言葉に耳を貸さず、辺りの匂いを嗅いでいる。
「ちょっと、どうしたのさ?」
鼻を地面から離し、空中の匂いを嗅ぐとカッと目を開いた。
「こっちでさぁ! まだ、諦めるのは早ぇですよ、カイさん」
その言葉にカイは顔をあげる。
「行きやすよ」
走り出すコハク。三人は後に続く。この先にカルラがいてくれることを信じて。
IMATE世界あれそれこれ
◆キルカ
『doll house-Avatara』の主の青年。人形師という人形を作る仕事をしていた。カルラ達がモクシュカ・ジャドゥを訪れる少し前に、突然無属性の力に目覚め、抵抗したが、ジャーディアンに神殿へ連行された。
『doll house-Avatara』には父親のシラナと生きた人形のシュラと住んでいた。村の酒屋の娘、カマラとは近々結婚する予定だった。
◆カマラ
村の酒屋の看板娘。シュラのこと、カルラのことを知っている。蓮の香りを纏った桃色の髪の女。優しい雰囲気の美しく若い女性。
近々、キルカと結婚する予定だったが、キルカがジャーディアンに連行されてしまい、以来、泣いて過ごしていた。カルラとシュラがキルカを連れ戻してくれるのを願っている。
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新しい人が出てきました。キルカさんとカマラさん。二人が出てこないと、この後この章が進みません。キルカさんが戻ってこないという感じでしたが、彼は再び戻ってきてカマラさんと無事に結婚できるのでしょうか。
カイ君達はカルラ姉さんに近づいてきてます。会ってちゃんと話ができればいいんですが。
次回、『アルナとカルラ』
彼女の記憶は……。
今回も読んでいただきありがとうございました。




