ⅩⅩ 無属性魔導士編_1
アルス帝国に魔王の依代の奪取と闇ギルド・闇の道化師の壊滅のための協力を要請しに外交をして来たカイ達。想像以上の寒さとテロ行為に巻き込まれ大変な外交になってしまった。一度、ウルガルド王達にアルスの返事を持ち帰るため、カイ達は帰国する。手紙を渡されたカルラは結晶の魔女クリスタルからモクシュカ・ジャドゥのことを問われる。
『腐りきっててヘドが出る』
そう答えたカルラはそれ以上言わず、謎を残したままアルス帝国を去った。
次の目的地は、その問題のモクシュカ・ジャドゥ。
カルラはウルガルド王国で最年少で無属性国家魔導士として認められた才女だ。彼女がそれになったのは今から7年前の12才歳の時である。
カイはあの頃のことをよく覚えている。あの頃はこの世界で生きるために、たくさんのことを学んでいた時だった。カルラはいつも静かだった。基本的にいつも家にいた。彼女が使う魔法をあまり見たことがなかった。そう言えば、自分がここに来た時、カルラはキュリアに召喚魔法を教わっていたと言っていた。あの魔法はあまり使われないが、無属性魔法の初歩の魔法だった。そこから、たった3年で上級魔法を習得し、キュリアの国家魔導賢者の次の位、国家魔導士になるのは恐るべき早さだ。
『私は天才でも努力家でもない。見て、覚えて、使っただけ。いくらやっても出来ない者もこの世界にはたくさんいる。ただ、私はその人達を決してバカにしない。私は努力する人こそが最も強い心をもつ魔導士になると信じているから』
魔法がうまく使えない時、カルラは励ましてくれた。あの時は言葉の意味が理解できるほどの余裕も語彙力も持ち合わせていなかったが、その時のカイはとにかく、カルラが自分を励ましてくれている、それだけはわかった。だから、魔法が今は使えるようになったし、魔法が好きになった。
『周りが私のことを不正と言うなら、私の力をいつでも示す。向かってくる者は拒まない。自分の気が済むまで何度でも挑んできたらいい。結果を変えたいなら、変えられるように努力するだけ。私が憎いなら憎んでいい。けれど、その憎しみは正しい方向にだけ向けなさい』
カルラが国家魔導士になり、国家魔導士になれなかった一般魔導士達に罵声を浴びせられた時の言葉だ。
彼女はどんなに攻撃をされても絶対に反撃はせずに、ただ空間魔法で自分と被害がでないように周りを守っていただけだった。
あの時、試験会場にいた監督官や、ウルガルド王、キュリアとラツィオはこの様子を見ていた。その試験を受けた魔導士の中で、誰よりも彼女は大人であり、正しい判断をし、その者達に最善の指導をしていた、とキュリアは何度もカイに嬉しそうに聞かせた。
カルラにその後、挑む者はいれど憎しみを持つものはいない。彼女が本当に自分よりも優れていることを知っているからだ。だから自分の実力を試すため、教えを乞うために挑む。彼らはカルラに負けても逆ギレすることも、逆恨みをすることもない。自分の欠点が見つかり、修業の成果もわかる。彼女はもう師匠となっていた。その力を見込まれ、国内全ての魔導士ギルドからスカウトされた。全ギルドから誘いを受けたが、彼女はどこにも所属したがらなかった。
『キュリアが何をするかわからない』
拒んだ理由はそれだった。
しかし、それを聞いたキュリアに諭され、カイも所属している王城にも家にも近い首都のギルドに入った。ギルドに入っても、彼女の生活はキュリアが中心だ。それに、首都で大事件は起こらない。平和だ。たまに窃盗事件が起こるくらいで、カルラが動くほどの大きな依頼もあまり来ない。
カルラの一日の生活スタイルは、朝と昼と午後と夕方の決まった時間にギルドに顔を出したら、キュリアのところへ戻るというもの。幽霊ギルドメンバー状態だ。それでいいのか、と言われるが、彼女に依頼が来たときには素早く片付ける。無属性の特性をいかした全属性を自由自在に使い分け迅速に解決する。魔法のこと、出勤スタイルの自由さ、これらの理由からか彼女には“自由の魔女”の二つ名がついた。
そして今、彼女には国からの重要な依頼が来ている。
魔王復活の依代の奪取。そして、闇ギルド・闇の道化師の壊滅を依頼されている。弟弟子カイと彼のイメート達と旅立った彼女は旅の途中でリーゲルト公国の将校であり、第五王子エルバを仲間に迎え、更にアルス帝国の北方魔導兵団に協力を要請し、次の国へ旅立つ。
あえて先にネタバレをするのであれば、もう察しのいい人はわかっていることだろう。これはカルラがメインの話になる、と。
ー無属性魔導士編ー
アルス帝国から戻り、クリスタルからの手紙を見て、キュリアは顔をしかめる。そして、心配な顔でカルラを見て言う。
「無理に行かなくていいのよ。誰か別の」
「いや、行く。宿命が私に行けと言っている。私が行かねば意味がない」
キュリアの言葉をぴしゃりと遮る。予想していたことだとしても、キュリアはカルラをモクシュカ・ジャドゥに行かせたくなかった。しかし、じゃあ自分が、ということは簡単にはできない。キュリアという人間を守るための地位がそれを簡単にさせない。だからカルラが行くことになっているのだ。キュリアもラツィオもウルガルド王もカルラのことをよく知っている。彼女がこの国に来た小さいときからずっと。
「心配しないで。ちょっと、国崩ししてくるだけだから」
「……国を焦土にしそうで心配よ、バカルラ」
「うまい具合に略すな、キュリアホ」
「その辺でやめろお前ら」
ラツィオがどうどうと二人をなだめる。いつもよりもやる気のあるように見えるカルラに向かってゆっくりと、確認するように言う。
「いいか、カルラ。今回はあくまでモクシュカ・ジャドゥの視察だ。その事を忘れるな。国崩しじゃないぞ」
「腐りきったあいつをぶっ殺せばいいんでしょ?」
だめだ。言葉を一切聞き入れる気はない。12年あったのに思想は変わっていない。それどころか過激になっている。
いろいろ諦めた目でキュリアの方を見る。
「……キュリアホ、お前、どういう教育をしたんだ」
「ラツィオ!」
ギャンギャン吠えるキュリアの言葉を聞いていないカルラは、クリスタルが送った手紙を読んだ。やることは頭に入った。方法も考えた。
「じゃあ、ちょっと行ってくる。国崩しと、腐りきったあの女を殺しに」
「こら! そんな怖い言葉を使わないの!」
キュリアの言葉をやはり最後まで聞かずに彼女はどこかに消えてしまった。
「まったくもう」
「まあまあ。ただ、今は待っててやろう。俺達にはもう祈ることしかできないんだ」
ラツィオがキュリアに言った。
カルラの無事と、くれぐれもひどい暴走をしないように。それだけを祈ることしかできない。
「モクシュカ・ジャドゥ?」
「そう。無属性魔導士がたくさんいる国」
カルラが簡単に説明する。
約500年前に建国され、代々、無属性魔導士の長が国の統治をしている。魔導士を中心として作られた国だ。魔導具の生産や魔法の研究が盛んで、アルス帝国で世話になったクリスタルも昔、留学していたという。高度で最先端の魔法だけでなく、古代の魔法も学ぶことができる魔導王国だ。
「で、そこにも援軍を依頼しに行くのだな?」
「……それができれば、いいけど、ね」
歯切れ悪く答えるカルラに違和感を感じたが、それが何かははっきりしない。
「カルラ姉?」
「なんでもない。行くよ、カイ」
自分達を置いていくように歩くカルラは、なんだかいつもと違う。
「(怒っている?)」
そんなにエルバに対して気に入らないことがあったのか、それともキュリアさんだろうか。しかし、こんなに怒りを見せることは滅多にない。と言っても、その顔は鉄壁のポーカーフェイスで限界まで表情を消した無表情。長く彼女と接していないとわからないほどのことだ。エルバなんて当然わからない。しばらく様子を見ようとカイはカルラに気を付けた。
なんだか、少し嫌な予感がする。
イメート世界あれそれこれ
◆モクシュカ・ジャドゥ……約500年前に建国され、代々、無属性魔導士の長が国の統治をしている。魔導士を中心として作られた国。本文中にもあるように魔導具の生産や魔法の研究が盛んでアルス帝国の結晶の魔女・クリスタルも昔、留学していた。高度で最先端の魔法だけでなく、古代の魔法も学ぶことができる魔導王国。
より詳しい内容は次回以降に公開。
◆カルラ……魔女。主人公と行動を共にする。キュリアの昔の弟子で主人公の先輩で姉弟子。キュリアと共に暮らし、キュリアの研究の手伝いをしている。国家魔導士の資格を最年少で獲得した。魔導士ギルドに所属しているが、現在は国王直々の極秘任務中。主人公と共に魔王の依代を奪取する命を受け、共に旅立つ。19歳。魔法属性は無属性。どんな属性の魔法でも使え、中でも無属性をメインとし、光、闇、風属性をサブとして使う。自由の魔女と呼ばれている(属性に縛られないという意味)。
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カルラが不穏で物騒です。色々と隠し事の多いカルラさんですが、徐々に謎は解き明かされていきます。カルラさんがどうしてああなったのか、とか。
さぁ、次回から登場人物が増えます。どんな方々が来るのでしょう。楽しみです。
次回、『到着、モクシュカ・ジャドゥ』




