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IMATE  作者: 風雅雪夜
スタメシア編
13/88

ⅩⅢ_スタメシア編 6

前回のあらすじ

 精霊なのか、化け物なのか。いや、自分は化け物だ。フェルゴは自分を否定していた。それをエルバは心配し、かける言葉を探すが見つからずに悩む。

 カイはフェルゴに故郷を見てから考えることを勧めた。自分はいつ元の世界に戻れるかわからない。このま戻れないのかもしれない。この世界にあるのなら、戻れなくなる前に見ておくべきだ。

 フェルゴが出した答は____。

「それで、彼はなんて?」

「答えなかったよ。ずっと黙ってた。ゆっくり考える時間が必要なんだよ」



 スタメシアを発とうとする彼らは結局フェルゴの答を聞くことはできなかった。



「でも、これからどこかで生きていてくれるなら僕はそれだけで十分だな。生きていれば、いつか故郷にも行けるし」

「そうね」



 その言葉にカルラとエルバが頷く。

 最後にフェルゴに会ってから行こう、とフェルゴの部屋のドアを開けた。



「フェルゴ、僕らは次へ行く……フェルゴ?」



 そこにフェルゴの姿はなく代わりに焦げ目のついた紙が一枚だけあった。



『もし、この手紙に気づいたなら、日没直後にショーをした島の浜辺に来い。フェルゴ』



 焦げ目にはこう書かれていた。日没はもうすぐだ。



「行かないと。カルラ姉、エルバ、行こう浜辺へ」






 カルラの魔法ですぐに浜辺に移動すると、そこは既にたくさんの人で溢れかえっている。一体なんの騒ぎかは、なんとなく見当がつく。

 夕陽が沈んでいく。夕日を背にしてステージの上に立つのはフェルゴだ。徐々に沈み、闇が迫る。完全に日が沈み、辺りが薄暗くなったとき、彼は大衆に言った。



「これが最後だぜ、皆」



 右手を素早く水平に伸ばすと、ステージの後方右側に炎が走り、燃え上がる。同じように左手を伸ばせば、同じように左側から火が燃え上がる。



「今日は本当に最後だ。最後だから俺を全部見せる。全部見せてから俺は旅に出る。だから、最後を見ててくれ、皆」



 観衆から歓声が上がる。最後のショーを惜しむ声、悲しむ声、応援の声、様々な色の声が混じり、炎にくべられていくようだ。

 炎は更に燃え上がり、踊り出す。炎を操るように踊るフェルゴの様子はいつもと違って、とても熱くて、悲しそうで、激しくて、辛そうで、でも、何か大事なことを伝えようと精一杯躍る誠意と熱意が伝わる。いつもと違う様子に観客は何かを感じ取ったようで、食い入るように、真剣に目をそらさず、中には涙を流しながら見る者もいた。


 そろそろフィナーレなのだろう。海と炎の水蒸気の霧がフェルゴの背後から漂いだした。そして、フェルゴの足元を覆う。

 炎を自分の近くに寄せると、霧が橙の光を放つ。その光がフェルゴを取り囲むと、一気に炎が立ち上ぼり、鳥籠のようにフェルゴを包み隠してしまった。炎の卵のようで、それを突き破るように、蝶の羽化のように、サラマンダーの姿のフェルゴが姿を現した。



「あいつ!」



 エルバが飛び出そうとするのをカイは引き止める。魔法を使おうとしたカルラにも同じように牽制する。



「全てを捨てる覚悟なんだ。最後なんだよ。皆が逃げても僕らは最後まで見ててあげなくちゃ」



 彼なりに色々考えたのだろう。その結果なのだ。惜しまれるよりも迫害された方がダンサーとしての、この島への未練も無くなる。それで、前に進める。そういうことなのだろう。しかし。



「僕だって認めたくはないさ」



 誰にも聞こえないように呟いた。



「でも、様子が変」



 今、気付いた。静かだ。叫び声も聞こえない。目の前のフェルゴの姿があんなにも変化してしまったというのに。周りの人達は皆、ステージに釘付けだ。

 その目は畏怖も偏見もない。うっとりとしたように、慈愛に満ちた瞳だ。その目に少々フェルゴも驚いている。が、そのまま最後まで躍り、炎を操り、花火を打ち上げてショーは終わった。

 暗闇に包まれると、拍手があちこちから聞こえた。それは次第に大きくなり、会場を包み込んだ。



「……なんで……だって、俺は……」



 暗闇の中でフェルゴが狼狽える。



「フェルゴ」



 ステージのすぐ前には育ての親となったフェルゴの島の大人達がいた。



「儂らは知っていたさ。お前が人間ではないものだということをの。しかし、お前はこれだけの多くの人々を笑顔にする。それが悪いやつとは思えんでな。ようやっと、儂らに全てを見せてくれたの。どんな姿であろうとも、お前はフェルゴじゃ。儂らのかわいい子供じゃ」



 長老らしい老人が言うと、周りの大人達も皆が頷いた。溶岩が溢れるように、心の中から何かが吹き出す。目から火の粉が流れ、フェルゴは声を上げて泣いた。






 翌日、島の人に見送られ、フェルゴは海辺に立っていた。



「遅かったな」



 その目には強い黄色の光が灯っている。覚悟を決めたのだ。その顔を見るとカルラはフェルゴの手をとる。



「行こう、皆。大陸へ戻る」

「うん」



 全員が頷いた。透明な球体に包まれるとフェルゴは小さな声でさよなら、と言った。その言葉が言い終わったとき、そこに島はなく、大陸の港町にいた。



「これから、どうするの?」

「アンタが言ったように故郷へ行くさ。でないと、アンタ怒りそうだからな」



 その言葉にカイは苦笑する。



「それからは自分で考える。アンタ達は目的のため頑張れよ。スタメシアを皆を苦しめるわけにはいかねぇ」



 フェルゴを異形の化け物で精霊であることを認め、受け入れてくれた彼らを守らなければ。そのために魔王の復活を阻止しなければ。



「うん。わかってる」

「頼んだぜ、兄ちゃん達」



 フェルゴは歩き出す。故郷へ。

 そして、これからの未来のため。



「僕らも行かないとね」

「ええ」

「次はどこへ行くのだ?」

「北のアルス帝国。極寒の地。そして、流刑の地と噂されている。その前にウルガルド王国へ一回戻るわ。色々報告しておかないと。あと、資金調達ね」



 距離をカットする作戦らしい。しかし、久しぶりに皆に会えると思うと嬉しかった。



「行こう、エルバ。僕とカルラ姉の国へ」

 スタメシア編、これにて完です。次は一度スタート地点に戻って近況報告と資金の調達と休憩です。

 テコ入れ? いいえ、ちゃんとキュリア師匠を出したかったからです。

 ではまた次回で。

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